盲目のラスボス令嬢に転生しましたが幼馴染のヤンデレに溺愛されてるので幸せです

斎藤樹

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ローナ 10歳編

可愛い妹 ーイーサン視点ー

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 自分が十の歳になる頃、母は娘を産んだ。
 つまりは「妹」にあたる存在なのだが、自分でも驚くほどに、何の関心も抱かなかった。


 妹は「ローナ」と名付けられ、両親から溢れんばかりの愛を受けて、蝶よ花よと育てられていた。

 両親や使用人らが語る妹像は嘘のように完璧で、まさに貴族の娘らしい"持つ者"として、過分な程の見目や才能、愛想に運と、並べればキリがないほどのものをその幼い身に得ていた。


 ーー哀れだとは思う。

 まだ幼い身ながら、あんなにも当然のように与えられ持ち合わせていたら、一つでも失った時にどうなってしまうのかと。

 だからといって、何をするわけでもなかったが。


 妹が与えられたものの中で最も価値のある、どれよりも重みのあるものは、王太子殿下との婚約だった。

 何物にも変え難い、この世でたった一つの称号。
 貴族の女子にとって、最も名誉ある立場。


 元より王太子殿下誕生に合わせて妹は生まれたのだろうと思っていたが、こうも上手くいくものかと感心したのを覚えている。

 与えられていないものが何かを探す方が大変になった妹は、いついかなる時に見かけても、幸せそうに微笑んでいた。



 母の友人の息子であるフントの令息の不手際によってローナが失明したと聞いた時は、手元にあったティーカップがズリ落ちそうになる程度には驚いた。


 よもや失明とは。

 失明と簡単に一言で言っても、妹からあらゆるものを奪うのには十分すぎる事象である。


 ついに"持つ者"から"持たざる者"へと転落した妹がどう出るのか、面倒な可能性ばかりが頭をよぎる。


 どうやら妹はアルブレヒト殿下に恋慕していたようなので、荒れるだろうと思った。

 父に無茶な要求をして、原因となったフント令息に難題を言いつけて。

 だがそれらはすべて、妹を溺愛し甘やかしすぎたツケがきたに過ぎない。


 関わらないが吉だ。
 元より「妹」という記号でしか認識していなかったのだから、今までと何ら変わらない。

 向こうとて、そうだろうから。



   *      *      *



 なぜ自分でも声をかけたのかわからなかった。

 気まぐれを起こすような性格ならばもっと早くに起こしていただろうし、気に障ったとしたらもっと違う言葉をかけていたに違いない。


 だがーー侍女の制止を振り切ってでも車椅子を扱う妹に興味が惹かれたのは確かだった。


 車椅子を自分で操縦するのは、万が一に備えてだと妹は語った。

 成る程。確かにその通りだろうと、妙に納得したと同時に、ひどく驚いた。


 これが本当に、"持つ者"から"持たざる者"に転落した人間なのか?


 失ったものは妹が持つ中で最も強大で価値のあるものだった。
 それだけではない。盲目となったことで、私には想像さえできない多くの事柄を失った筈だ。


 にも関わらず妹はーーローナは、ひたすらに前を向いているのか。

 そこに立ち止まり、かつての栄光を取り戻そうと自棄になるのではなく、残ったものに縋るでもなく。

 今の自分に出来る最高を求めて、努力している。



「ローナは、良い子だな」



 まさか自分がこんな事を誰かに、それも関わることはないだろうと考えていた妹に言うとは思いもしなかった。

 口は自然と言葉を紡ぎ、ローナに近づこうと己の足は歩みを進める。


 私の発した言葉を侍女が否定して、ローナは"とても可愛い良い子"なのだと訂正した。

 侍女が私に否定したことに驚いたが、そうまでして伝えたかったことの内容にはさらに驚いた。


 そういえば妹の顔さえじっくりと見たことがないと気付いて、私はその顔を改めて見つめる。

 同じ色彩に同じような形をしているというのに、確かに侍女の言う通り、ローナは随分と可愛いようだ。


 私に可愛いと言われたローナは、言われ慣れているだろうに、わざわざ頬を赤く染めて睫毛を揺らした。

 予想外の初心な反応に首を傾げたが、もしやこれは"私が言った"ということに起因しているのだろうか。


 ……可愛い。

 妹は、ローナはこんなにも可愛かったのか。


 今まで知っていると思い込んできた「妹」というのは、私が作り上げた記号に過ぎなくて。

 本物の「ローナ」は、こんなにも素晴らしかったというのに。


 妹に対して思っていたことの全てを後悔した。
 面倒だ、関わらない方が良いなどと、勝手に思い込んだ偶像をもとに判断して。


 まさしく、愚の骨頂。


 相手に対する決めつけや固定観念は、外交官として他国と交流していく中で致命的なミスになりうると、父から念を押されてきたというのに。

 それなのに私は、無意識にも妹に対してそれを行ってきていたというのだ。


 その全てを読まれた訳ではないだろうがーーしかし妹はある程度を察知して、私を"兄"とは呼び難いようだ。

 当然だ。これまでを思えば、むしろ片言でも兄と呼んでくれたのは奇跡というもの。


 無理をしなくていい。これから私は、ローナに兄として認めてもらえるように努力するつもりだから。


 それなのにローナは、兄として拒否するはおろか、私のことを"大好き"だなどと言うではないか。


 心臓が鷲掴みにされたように締め付けられ、くらりと頭が揺れた。
 こんなにも甘くて柔らかい、可愛らしいのに美しくもあるものは何だろうか。何だというのか。

 「兄さん」と嬉しそうに呼ぶローナを、抱きしめ潰してしまいそうになる。


 その時私は、愛おしいとはこのことを言うのかと、生まれて初めて理解した。


 腕の中で私とのこれからを予定して心底楽しそうに微笑むローナを見ていたら、私は堪らなくなってその小さな額にキスをした。

 ぬいぐるみにキスを贈る女性の心理が分かったような気がする。



「やっぱりローナは、とても可愛い良い子だ」



 可愛い可愛い、私の妹のローナ。
 今までの失態を反省して、その分ローナを大切にすると誓おう。


 この腕の中の愛おしい温もりが、もう二度と涙を流すことがないように。

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