盲目のラスボス令嬢に転生しましたが幼馴染のヤンデレに溺愛されてるので幸せです

斎藤樹

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ローナ 10歳編

例えるなら、狼とチワワのような

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 私に言われたのではないと頭では理解しつつも、しかし恐怖で震え上がるには十分すぎるほどの声色。

 まるで鋭利な刃物を心臓のすぐ近くに突きつけられたかのような心地さえして、背筋に冷たいものが走った。


 ましてや、向けられた張本人となると。


 どうしてそこまで怒っているのかいまいちわからないけれどーー例え嫉妬だったとしても、仲睦まじくしていた訳でもなければ、そもそも私たちの間には距離があったーーセシルの殺意にも似た怒気をどうにかしなければ。

 せっかくエンゲルが貴族の全てが恐ろしいのではないとわかってきた頃だったというのに、これでは前に逆戻りしてしまう。


 落ち着いて、セシル。彼は今話題の画家の息子さんなのよ。
 大丈夫よ、エンゲル。彼は偶々気が立っているだけで、普段は優しいのよ。


 どっちから先に伝えるのが良いだろうかと考えて、まずはヤバそうな気配を漂わせているセシルからにしようと至る。


「あのねセシル、落ち着いてーー」
「おれがお嬢様の何だったら、あんたは納得するわけ?」
「エッ」


 え、エンゲルさん……?


「たとえば"友人だ"っておれが言ったとして、そしたらあんたは納得するの?」
「随分と知ったような口を利くんだな」
「今の一瞬を見ただけでも、あんたはわかりやすい人だなって思ったけど?」


 数日前の私に怯えていた彼はどこへやら。何故だか一触即発の雰囲気でセシルに噛み付いて舌戦を繰り広げている。


 ど、どうした?何で急にこんな展開に?

 前にもこんな事があったと思い至るのは、王太子殿下が見舞いに訪れていた所にセシルが乱入した時のことで。


 というか、どうして今出会ったばかりだろう二人がこんなにも仲悪くなってるの?
 私が見えないだけで、セシルかエンゲルのどちらかが挑発するポーズでもとってたとか?


 ゲームにおける二人の仲はローナの時と同様に、そもそもセシルとエンゲルに関わりが無く、エピソードもこれといって特に無かった筈だ。
 強いて挙げるなら、パッケージと公式ホームページで並んで描かれていたあたりか。


 生理的に無理とか、性格的に合わないとか。
 それにしたって、この雰囲気はあまりにも険悪過ぎる。


「おれは父さんの付き合いで滞在させてもらってる客だからここにいるだけだし、お嬢様が相手してくれるからお嬢様と仲良くなっただけ。その事であんたから文句を言われる筋合いは無いと思うけど」

「君の大体の事情は察したが……まず断ってこう。ローナが君の相手をしたのは、ローナが優しいからだ。思い上がっている所を突き落とすようで悪いが、ローナは君と友人になる為に相手したのではなく、君が"可哀想な素振りをしたから"相手したんだ。違うか?」

「婚約者サマだか何だか知らないけど、お嬢様の交友関係に口出しするのはどうかと思うよ。お嬢様だって友達くらい好きにつくりたいんじゃないの?あんたがそうやって何もかも縛るようじゃ、いつか愛想尽かされちゃうかもね」

「随分と良い思いが出来て図に乗っているようだが、君は庶民だろう。貴族の娘、それも侯爵家の令嬢と親しくなれるのはさぞ新鮮で面白く、優越感に浸れたのだろうが、それはいずれ終わりがくる仮初の立場であるということを自覚すべきではないだろうか」


 私を挟んで豪速球のラリーが続く。
 ちなみにこのラリー、どちらもがサーブではなくスマッシュで撃ち続けるという攻撃特化の試合である。

 決着がつく様子はなく、止めようにも横槍を入れようがない。


 どう考えても当事者は私なのに、なんで毎回真っ先に置いていかれるのだろうか。

 あと私からの反論を心の中で呟かせていただくと、エンゲルの事を可哀想だとは思ったけど同情で近づいた訳ではないし、セシルに愛想尽かすのはチョコレートを使わないブラウニーくらいあり得ない。

 それとついでに、エンゲルはそこまで思い上がってないと思う。


 せめて抱きしめられているこの状況からどうにかしたくてーー興奮がおさまってさすがに恥ずかしくなってきたーー先程からセシルの背中を軽く叩いて「離してほしい」の合図を送っているのだが、一向に聞き入れられる気配がない。


「離してあげなよ。嫌がってる」
「"嫌がってる"?ハッ、君は随分とローナを知っているようだ。まさか耳を赤く染めているのが、嫌がってのものだったとはな」


 なんで口論は止められないのにそういうところは見てるの?やめて?私に飛び火した。


 使用人の誰かが助けてくれないだろうかと周りの音に耳を傾けると、何やら興奮気味に「ロマンス小説で読んだわ!」と騒いでいる侍女たちの声が聞こえた。
 雇い主の娘の不幸を面白がるんじゃありません。

 ならばお母様直々の使命を勝ち取った有能を体現している執事はどうだと、その声を集中して探したがーーあんちくしょうはふふと小さく笑っていやがったのでもう当てにしません。
 兄さんに言いつけてやるからな。


 どうすればこの事態に終止符を打てるのだろうか。
 もういっそ大声で「わっ!」とでも叫んで無理矢理注目を浴びてみようか。でもそれは令嬢としてどうなんだと思うし、セシルの前でそんな奇行に走りたくない。

 王太子殿下の時はセシルがお父様を連れて現れたから収束したが、その頼みの綱はここ最近は家にいたのに、今日に限って隣国だ。


 誰にも頼れないのなら、私自身で動くのみ。

 ええい、ままよ!と私は思い切って、頭に思い浮かんだ言葉を特に考えもせずに声を上げたーー。



「アフタヌーンティーが途中だったのだけれど、セシルも一緒にいかがかしら!!」



 ーー言い切る前に失敗だと気がついたが、思い切りを得てしまった私の口は止められなかった。

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