盲目のラスボス令嬢に転生しましたが幼馴染のヤンデレに溺愛されてるので幸せです

斎藤樹

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ローナ 13歳編

四面楚歌

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「イーサンも迂闊だったわね」


 石畳の段差にぶつかる車輪の音を聞きながら風景を想像して窓の外に顔を向けていた私に、向かいに座る母が悪戯っぽく笑って言った。


「兄さんを悪く言わないでくださいな。そもそも、気を遣わせてしまった私に問題があったのです」
「あらぁ。それを言うなら、貴方とセシルくんが側にいて引き合わない筈がないと知っていたにも関わらず、それを阻止せずに受け入れたあの子に非があるとも言えるわ」
「でも、あれは予想外のことでした」
「そうかしら?王城は言うなれば、敵の根城そのもの。やっぱり、そんな所に罠が張られている可能性を考えなかったイーサンが迂闊だったのよ」


 うふふ、と少女めいた笑い声を上げて楽しそうにしている母はどうしても兄さんに罪を被せたいらしい。
 ……いや。兄さんを責めているフリをして、私を揶揄って遊んでいる。

 窓の外を向いていた顔を正面に合わせ、白い視界の奥でニヤニヤと笑っているだろう母を見据えた。


「お母様、お戯れはおよしになってください」
「だってぇ、あの子がミスをするなんて珍しくって。それも妹の事で!うふふ、面白い」
「…………」
「ローナが生まれた時はあんなに無関心だったくせに……人って変わるのねえ」


 それは、確かにそうだけど。

 三年前までの、存在すら認識していたか怪しかった完全無欠の完璧な兄さんが、妹を気遣ってした行動が誤りだったというのは、親にとってはなかなかの笑い話かもしれないけど。


 でもやっぱり、今回のことは私が迂闊だったのだ。



 今から二週間前の舞踏会のあの日ーーセシルと別れた後に突如として音もなく現れた王太子殿下は『ローナが他の人と踊れるだなんて、吃驚したよ』と、それはそれは楽しそうに言った。


 事件の後に、実はずっと側に控えていた警備兵が白状するには、セシルとのダンス途中から王太子殿下が現れたのだが、存在を知らせないでほしいと命じられていたのだとか。
 それから私が一人になるのを見計らって話しかけてきたあたり、王太子殿下は本当にいい性格をしている。


『それにしても本当に驚いたなあ……僕も君をダンスに誘おうと思っていたから、踊れないと知った時はとてもガッカリしたんだ。なのに、ローナが嘘をついていただなんて。君は清廉潔白のリーヴェの生まれに恥じない行いを心掛けていると思ったのに』


 深いため息で落胆の度合いを伝えてくるこの人の本心が見えない。

 "私が嘘をつかない"?そんな人間、この世にただの一人としていない事など、その立場なら嫌というほどに理解しているはずだ。

 それなのに態々失望してみせている王太子殿下の目的は、何だろう。


『王太子殿下のご期待を損なう行いを致しましたこと、深く反省を……』
『ローナが嘘をつかなければならない・・・・・・・・・・のは、彼のせい?』
『えっ?』


 失望や落胆をわかりやすく滲ませていた声色が一変し、一切の感情を削ぎ落とした声が淡々と言葉を紡いだ。


 ……彼が誰を指しているのかは、わかる。
 セシルだ。

 つかなければならない、って何?それじゃあまるで、私がダンスを踊れないと無理に嘘をついたみたいな。


 違和感を感じる不思議な言い回しが気持ち悪い。不吉な予感に鳥肌が立つ。

 何を考えているの?


『セシル・フントが、そうしたのかな』
『いいえ、違います。家族の総意によるものでした』
『いいや違わない。セシル・フント、踊れないはずだった君に嘘をつかせたんだ、そうだろう?』
『!!』


 この話の持ち運び方はマズい。
 私に非があるような切り出しだったのに、標的がセシルに移った。

 確かに、最初に王太子殿下が"嘘"と言っていたのは私が踊れるか否かの問題についてだった。


『いいえ、私が我儘を言いました!二人で踊りたいと言ったのは私でした!』
『駄目だよローナ。嘘に嘘を重ねては。だって僕はーーこの城の従者は皆見ていたのだから。彼が自ら、君が出て行った後ろ姿を追いかけたところを』
『っ……それは……』
『会場を抜け出した彼は君の婚約者でもないのに、踊れないと言った筈の君を誘って、"無理矢理"踊らせた。君は本当は踊れることを、隠さねばならなかったのに』


 それなのにーー今話している"嘘"はいつの間にか、セシルとのダンスが同意であった事を指している。


 違う!
 そう叫びたいのに、状況証拠を握っているのは私ではなく、王太子殿下側だ。

 無理矢理踊ったなんて、ありえない。
 でもそれを証言できるのは私以外に、控えていたエルマー・リッターしかいない。

 これではこちら側が不利なだけだ。
 どんなに私が白だと証言しても、王太子殿下が黒だと言えば目撃者たちは皆、黒に賛同するのだから。


『可哀想なローナ。踊れないと子息らに言ったのは、君が盲目であることから色々な事情が察せられるのに。彼は態々そんな君を追いかけて強制したんだ。淑女への無理強いは暴行と同義だと思わない?』
『…………』


 肯定も否定もできない。
 否定することは倫理的判断に欠けているとなるし、肯定することはセシルへの淑女暴行罪の重い罰につながる。

 無言で間を繋ぐのだって、いつまでもつか。


『僕としてはフント侯爵には大変お世話になっているから、今回の事を見逃すのは吝かではないのだけれど』


 ……ああ、そうか。

 これは脅しだ。

 この人に屈することへの抵抗など、セシルのためならば。


『……私は何をすれば良いでしょうか』



 ーーそういう訳で。

 私は母を供に、王城へ向かっている。


 にこやかに手渡しされた王妃殿下主催のお茶会の招待状を、膝の上に乗せて。


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