盲目のラスボス令嬢に転生しましたが幼馴染のヤンデレに溺愛されてるので幸せです

斎藤樹

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ローナ 13歳編

思わぬ再会

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 車椅子が進むのに柔らかで毛足の長い絨毯の上は、かなり相性が悪い。
 毛並みに車輪が埋もれて重いし、真っ直ぐ進むのが非常に難しい。

 だがそんなのは知らない。必死に車椅子を押してくれているアンには悪いが、意地でも降りない。歩かない。


 王城を一人で歩くことさえ儘ならないですよ!!
 でも車椅子が動かしにくいからといって、私のために絨毯を剥がす事はできませんでしょう?

 私は、"盲目"なんですよ!!!

 ワァ~国母ナンテ到底無理デスネェ~。
 王太子殿下ノ婚約者ナンテ絶対ニアリ得マセンネ~。


 ……というアピールを無駄に見せつけるためである。


「進みにくいっ……いえ、何のこれしき!!」


 ごめん、アン。



    *      *      *



 王妃様主催のお茶会。
 王妃殿下のお好きな花からとって「ブラウエ・ブルーメの会」と通称される、老若男女様々に招かれた貴族たちで、世間話を交えつつ情報交換やクロイツ王国の未来を思って議論する場である。

 ……本来ならば。


「アルブレヒト様はどちらのお菓子がお好きなのですか?……まあ!私たち、気が合いますわね!私もこちらの方がより上品で美味かつ、見た目も華やかで素敵だと思っていたところですわ!」

「殿下、哲学者ハインリヒの書はもうお読みになられましたか?あれはとても素晴らしい思想の持ち主で、大変興味深いものでしたので、是非ともお勧めしたく存じます」

「アルブレヒト殿下、実はこちらの紅茶は私の家で取り寄せたものを採用していただいたのですが……お口に合いましたでしょうか?」

「王太子殿下、以前軍の寄宿舎に自ら赴かれて剣の練習をなされたそうですね。実は私も剣術を習っておりまして、腕前に関しては師事してくださっている先生からのお墨付きを頂いておりますので、是非そのお話を」


 王宮の従者、いわばプロの中のプロが淹れただろう紅茶が渋いような気がして、私は何とも言えない顔をしながら紅茶を静かに啜った。


 「ブラウエ・ブルーメの会」が最近ではすっかり「王太子殿下争奪戦・激戦区」として名を馳せてしまっているというのはーーどうやら本当のことらしい。


 婚約者のいない王太子殿下の隣を狙う年の近いご令嬢らが、ご学友として側に侍る事を許されるために年の近いご令息らが、我先にと言い募って誰よりも目立とうと必死になっている。

 醜い争いとみるか、家に忠実であるとみるかは、人それぞれである。


 私は家に忠実でありたいけれど、王家に媚を売るのは国王夫妻分だけで良いと考えている方なので。

 その通りに、母が王妃殿下と仲良く話しているそばに控えて、時々話を振られれば返事を返しながら、その名の通りに紅茶を楽しむ時間を過ごしていた。


「相変わらず、今回もご子息は素晴らしい人気ですわねえ。でも、少し困っていらっしゃるのではなくて?」
「この時間はもっと有益なものにしたいのだけれど……あの子が色々とあやふやにしているのがそもそもの原因だから、放っておくことにしたの」
「あらあ、まあ」


 誰にも聴こえていないからといって、王妃殿下とお母様は先程から、王太子殿下争奪戦に対して言いたい放題である。

 まあ、毎回こうでは、主催者の王妃殿下も文句を言いたくなる気持ちはわからなくもない。

 それじゃあ邪な考えの持ち主たちに招待状を送らなければいい、とも思うのだが……。


「それにしてもあの方……確か、ベーゼヴィヒト侯爵のところのご令嬢……あの方は随分と酷い癇癪持ちのようだから招待状を送るのはやめたはずなのだけれど……毎回いるのよね……」
「まあ、ベーゼヴィヒトですか」


 そういうことらしい。

 というか今王妃殿下、ベーゼヴィヒト侯爵のご令嬢って言わなかった?


「ちょっと、そこのあなた!殿下に馴れ馴れしくってよ!」


 成る程、度々聞こえていた清々しいまでの三下セリフの発信主の正体がわかった。
 絶対に近寄らないでおこう。


「そういえば、ずっと気になっていたのですけれど……ローナ、今日はどうして来てくれたの?」


 母と楽しく話していた王妃殿下が、ついに私に話しかけてきた。

 いつか聞かれるだろうとは思っていたが……どう答えるべきか決めかねる。

 正直に言うべきか誤魔化すべきか、と悩んでいた私に何を思ったのか、王妃殿下は慌てたように言葉を続けた。


「言い方が悪かったわ。来てはいけないという訳ではないのよ。ほんの数年前まで、貴方は私の教え子のようなものだったのですから。そうではなくてね……その、アルブレヒトがほら、色々と、ね?やっぱり今回も何か……あの子が手回ししたのかしら、と」


 王妃教育では大変お世話になったので、王妃殿下との仲は決して悪いものではない。
 だから「どうして来たの?」の言葉に別の意味を考えることはしていなかったのだが、気を遣わせてしまったらしい。

 そして私が今日ここへ来なければならなかった理由は王妃殿下の予想通り、なのだけれど。


「王妃殿下がご心配なされるようなことは、何も」
「そうなの?それなら良いのだけれど」


 王妃殿下はセシルとの婚約届けを議会へ提出したことを知っているので、一連の流れを話してしまってもいいのだが。

 でも王太子殿下に半ば脅されるように来ました、というのは告げ口のようで良い心地がしないし、無理矢理来ている事を主催者に伝えるのもあまり良い判断とは思えない。

 今回の一回だけ我慢すればいいのだから、ここは微笑んで曖昧に返すに留めておく。


「なら良かった、あの子のせいで貴方が渋々来てるのだったら、無遠慮に話しかけるのは嫌かしらと心配していたのよ。本当は久しぶりに、ローナとたくさんお話がしたかったの」


 少女めいた笑みを溢してそう言った王妃殿下は、本当に可愛らしいお方だと思う。
 きっと素敵な笑顔を携えているだろうからーーそれが見えないのは誠に残念だ。


「私で良ければ、いくらでも」


 王太子殿下がさっさと婚約者と学友を決めてくれたら、いくらでも「ブラウエ・ブルーメの会」に参加するのに。



 王妃殿下と母、そして私を交えた会話はあらゆる方向に弾み、紅茶の話をしていたかと思えば流行のドレスの話に移ったり、そういえば最近ちょっと太ったのよね、なんて話したり。

 親と子の年齢差だというのに、二人とも子供っぽいところがあるからか特に齟齬が生まれるようなこともなく、私たち三人だけが切り取られたかのように、他とは別空間を作り上げてお茶会を楽しんでいた。


 普段の二人もこうしているのかしら、なんて思っていたところにーー外側から訪問者がやって来た。


「ご歓談中大変申し訳御座いません。あの……少々、よろしいでしょうか」


 緊張して震えた声でやって来たその人は私のすぐ前にいるらしい。目の前に広がる白い視界に、一人分の人影ができた。

 ……この声、どこかで聞き覚えがあるような。


 誰に用があるのかはわからないが、この場で最も位の高い王妃殿下が代表して許可の言葉を述べられた。



「ありがとうございます。俺……あ、いや、私はリスティヒ伯爵家の次男、ロルフ・リスティヒと申します」


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