妾に恋をした

はなまる

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32侯爵家に着きました

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 ガストン侯爵家には夕方前に着いた。思ったより早かった。

 大奥様が出迎えて下さる。

 「大奥様、お久しぶりでございます。今日は無理を言って申し訳ありません」

 「いいえ、それよりあなたは大丈夫なの。ずいぶん顔色が悪いように見えるわ。とにかく中に入りましょう」

 「あの侯爵様は?」

 「まだ帰っていないわ。今日は早めに戻るとは言ってたから、それまでゆっくりするといいわ。さあ」

 私はリビングルームに通された。

 カティがお茶を運んでくれた。

 「カティ、久しぶり。元気にしてた?」

 「はい。ミーシャ様お元気そうで何よりです。お母様の事お悔やみ申し上げます。みんな心配していたんです。でも、ネイト様から妾の話はなかったことになったと伺って…まあ、その方が良かったんですけど‥それで今日は?あっ、すみません余計なことを…気にしないで下さい。あの、ジロ芋も茶豆も大きくなってもう収穫できそうなんです。良かったら後で一緒に収穫しませんか?」

 「まあ、そうだったわ。カティが世話をしてくれたの?」

 「いえ、みんなで…料理長も楽しみにしていてジロ芋で何を作ろうかと考えてます」

 「まあ、私ったらあれっきりになってすっかり忘れてたわ。ありがとうカティ、収穫楽しみだわ」

 「ええ、それと…ミーシャ様が来られと言うので荷物を少し片づけるように言われて…これはどうしたらいいかと」

 カティが持っていたのは私は刺繍をしたハンカチだった。ネイト様のイニシャル入りのハンカチ。

 「まあ、これは…ありがとう。私が引き取るわ。ネイト様にお礼がしたくて。でもあの後母が危篤の知らせが来たからそのままになってたんだわ。もう、恥ずかしい。早く捨てておけばよかった…」

 そんな言葉が零れた。

 「あの…捨てるなら良ければそのハンカチ頂いてもいいですか?」

 「カティが?どうするの?」

 「私が使います」

 「そう、じゃあ使ってちょうだい」

 「ありがとうございます」

 カティはそのハンカチを受け取るとすぐにポケットにしまった。

 「では、後程。荷物もミーシャ様に見て頂いて荷造りしますので…では失礼します」

 カティは部屋を出て行った。きっと妾はいらなくなったとみんな知っているのだろう。

 それにしてもここにきてジロ豆や茶豆の事を言われるとはとおかしくなった。


 しばらくして入って来たのは若奥様メリンダだった。

 「あなた一体何の用があっていらしたの?」

 苛立たし気に挨拶もなしにそう聞かれた。

 まあ、要件はこちらに伺ってと書いたのは私で、何の話かと思われているから仕方のない事かも知れないが…それにしても子供っぽい人。まあ、年下だし嫉妬されても仕方がないかも知れないが…)

 「申し訳ありません。お話は侯爵様とすることになっておりますので」

 「また、もったいぶって。一体何の話?妾に戻りたいって話なの?いい、ネイトは私の夫なの。あなたはもう用済みなのよ。だって私妊娠したの。もちろん彼の子供よ。今2か月に入ったところ。ネイトも喜んでいるわ。毎日心配してくれるんだから」

 若奥様が妊娠…言葉も出なかった。


 (どうすればいいの?私も妊娠していますって言ったら若奥様は…ううん、ネイト様はどうするのかしら?でも、お腹の子は侯爵家の子供、秘密にすることはとても出来ないし契約違反にもなるわよね)

 私はなるべく落ち着いたように取り繕う。

 「それはおめでとうございます。それでは若奥様、どうか私など相手になさらずどうかお休み下さい。私は決して妾に戻りたいなどとは思っておりません。ただ、報告があってここに来たのです。どうかお身体を大切になさって元気な赤ちゃんを産んで下さい」

 「まあ、そう。ありがとう。話が終わったらすぐに帰って頂戴。では、失礼」

 彼女は言いたいことは言ったと部屋を後にした。

 私はお辞儀をして若奥様を見送った。

 (ネイト様の言った事は本当だったんだわ。あれから夫婦の中が良くなって奥様と…潔癖だって聞いてたけど奥様も思うと所があったのね。だとしたら私の妊娠は迷惑になる。どうすればいいの。でも、なかったことになど出来る訳もないんだもの。侯爵に話をして決めてもらうしかない)


 「まあ、メリンダ何してるの。あなたは自分の部屋に戻っていなさい」

 廊下で大奥様の声が聞こえた。メリンダがこの部屋から出たのが見えたのだろう。


 「ミーシャ、メリンダが何か失礼な事を言わなかった?あの子妊娠中で少し不安定になってるみたいなの。ネイトも困っていて構えば嫌がるし、放っておくとヒステリーを起こすのよ。ほんとに困ってるの。でも、やっとできた赤ちゃんだから今はあまり口うるさく言わないようにしてるの」

 「おめでとうございます」

 「ありがとう。あなたには悪かったと思ってるのよ。こんな話を頼んでおきながら‥」

 その時使用人が声をかけた。

 「大奥様。旦那様がお戻りになりました」

 「帰って来たみたい。すぐにここに連れて来るから、待ってて」

 「はい」


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