妾に恋をした

はなまる

文字の大きさ
32 / 44

32侯爵家に着きました

しおりを挟む

 ガストン侯爵家には夕方前に着いた。思ったより早かった。

 大奥様が出迎えて下さる。

 「大奥様、お久しぶりでございます。今日は無理を言って申し訳ありません」

 「いいえ、それよりあなたは大丈夫なの。ずいぶん顔色が悪いように見えるわ。とにかく中に入りましょう」

 「あの侯爵様は?」

 「まだ帰っていないわ。今日は早めに戻るとは言ってたから、それまでゆっくりするといいわ。さあ」

 私はリビングルームに通された。

 カティがお茶を運んでくれた。

 「カティ、久しぶり。元気にしてた?」

 「はい。ミーシャ様お元気そうで何よりです。お母様の事お悔やみ申し上げます。みんな心配していたんです。でも、ネイト様から妾の話はなかったことになったと伺って…まあ、その方が良かったんですけど‥それで今日は?あっ、すみません余計なことを…気にしないで下さい。あの、ジロ芋も茶豆も大きくなってもう収穫できそうなんです。良かったら後で一緒に収穫しませんか?」

 「まあ、そうだったわ。カティが世話をしてくれたの?」

 「いえ、みんなで…料理長も楽しみにしていてジロ芋で何を作ろうかと考えてます」

 「まあ、私ったらあれっきりになってすっかり忘れてたわ。ありがとうカティ、収穫楽しみだわ」

 「ええ、それと…ミーシャ様が来られと言うので荷物を少し片づけるように言われて…これはどうしたらいいかと」

 カティが持っていたのは私は刺繍をしたハンカチだった。ネイト様のイニシャル入りのハンカチ。

 「まあ、これは…ありがとう。私が引き取るわ。ネイト様にお礼がしたくて。でもあの後母が危篤の知らせが来たからそのままになってたんだわ。もう、恥ずかしい。早く捨てておけばよかった…」

 そんな言葉が零れた。

 「あの…捨てるなら良ければそのハンカチ頂いてもいいですか?」

 「カティが?どうするの?」

 「私が使います」

 「そう、じゃあ使ってちょうだい」

 「ありがとうございます」

 カティはそのハンカチを受け取るとすぐにポケットにしまった。

 「では、後程。荷物もミーシャ様に見て頂いて荷造りしますので…では失礼します」

 カティは部屋を出て行った。きっと妾はいらなくなったとみんな知っているのだろう。

 それにしてもここにきてジロ豆や茶豆の事を言われるとはとおかしくなった。


 しばらくして入って来たのは若奥様メリンダだった。

 「あなた一体何の用があっていらしたの?」

 苛立たし気に挨拶もなしにそう聞かれた。

 まあ、要件はこちらに伺ってと書いたのは私で、何の話かと思われているから仕方のない事かも知れないが…それにしても子供っぽい人。まあ、年下だし嫉妬されても仕方がないかも知れないが…)

 「申し訳ありません。お話は侯爵様とすることになっておりますので」

 「また、もったいぶって。一体何の話?妾に戻りたいって話なの?いい、ネイトは私の夫なの。あなたはもう用済みなのよ。だって私妊娠したの。もちろん彼の子供よ。今2か月に入ったところ。ネイトも喜んでいるわ。毎日心配してくれるんだから」

 若奥様が妊娠…言葉も出なかった。


 (どうすればいいの?私も妊娠していますって言ったら若奥様は…ううん、ネイト様はどうするのかしら?でも、お腹の子は侯爵家の子供、秘密にすることはとても出来ないし契約違反にもなるわよね)

 私はなるべく落ち着いたように取り繕う。

 「それはおめでとうございます。それでは若奥様、どうか私など相手になさらずどうかお休み下さい。私は決して妾に戻りたいなどとは思っておりません。ただ、報告があってここに来たのです。どうかお身体を大切になさって元気な赤ちゃんを産んで下さい」

 「まあ、そう。ありがとう。話が終わったらすぐに帰って頂戴。では、失礼」

 彼女は言いたいことは言ったと部屋を後にした。

 私はお辞儀をして若奥様を見送った。

 (ネイト様の言った事は本当だったんだわ。あれから夫婦の中が良くなって奥様と…潔癖だって聞いてたけど奥様も思うと所があったのね。だとしたら私の妊娠は迷惑になる。どうすればいいの。でも、なかったことになど出来る訳もないんだもの。侯爵に話をして決めてもらうしかない)


 「まあ、メリンダ何してるの。あなたは自分の部屋に戻っていなさい」

 廊下で大奥様の声が聞こえた。メリンダがこの部屋から出たのが見えたのだろう。


 「ミーシャ、メリンダが何か失礼な事を言わなかった?あの子妊娠中で少し不安定になってるみたいなの。ネイトも困っていて構えば嫌がるし、放っておくとヒステリーを起こすのよ。ほんとに困ってるの。でも、やっとできた赤ちゃんだから今はあまり口うるさく言わないようにしてるの」

 「おめでとうございます」

 「ありがとう。あなたには悪かったと思ってるのよ。こんな話を頼んでおきながら‥」

 その時使用人が声をかけた。

 「大奥様。旦那様がお戻りになりました」

 「帰って来たみたい。すぐにここに連れて来るから、待ってて」

 「はい」


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

この幻が消えるまで

豆狸
恋愛
「君は自分が周りにどう見られているのかわかっているのかい? 幻に悋気を妬く頭のおかしい公爵令嬢だよ?」 なろう様でも公開中です。

骸骨と呼ばれ、生贄になった王妃のカタの付け方

ウサギテイマーTK
恋愛
骸骨娘と揶揄され、家で酷い扱いを受けていたマリーヌは、国王の正妃として嫁いだ。だが結婚後、国王に愛されることなく、ここでも幽閉に近い扱いを受ける。側妃はマリーヌの義姉で、公式行事も側妃が請け負っている。マリーヌに与えられた最後の役割は、海の神への生贄だった。 注意:地震や津波の描写があります。ご注意を。やや残酷な描写もあります。

誰にも言えないあなたへ

天海月
恋愛
子爵令嬢のクリスティーナは心に決めた思い人がいたが、彼が平民だという理由で結ばれることを諦め、彼女の事を見初めたという騎士で伯爵のマリオンと婚姻を結ぶ。 マリオンは家格も高いうえに、優しく美しい男であったが、常に他人と一線を引き、妻であるクリスティーナにさえ、どこか壁があるようだった。 年齢が離れている彼にとって自分は子供にしか見えないのかもしれない、と落ち込む彼女だったが・・・マリオンには誰にも言えない秘密があって・・・。

麗しのラシェール

真弓りの
恋愛
「僕の麗しのラシェール、君は今日も綺麗だ」 わたくしの旦那様は今日も愛の言葉を投げかける。でも、その言葉は美しい姉に捧げられるものだと知っているの。 ねえ、わたくし、貴方の子供を授かったの。……喜んで、くれる? これは、誤解が元ですれ違った夫婦のお話です。 ………………………………………………………………………………………… 短いお話ですが、珍しく冒頭鬱展開ですので、読む方はお気をつけて。

お飾りな妻は何を思う

湖月もか
恋愛
リーリアには二歳歳上の婚約者がいる。 彼は突然父が連れてきた少年で、幼い頃から美しい人だったが歳を重ねるにつれてより美しさが際立つ顔つきに。 次第に婚約者へ惹かれていくリーリア。しかし彼にとっては世間体のための結婚だった。 そんなお飾り妻リーリアとその夫の話。

彼は亡国の令嬢を愛せない

黒猫子猫
恋愛
セシリアの祖国が滅んだ。もはや妻としておく価値もないと、夫から離縁を言い渡されたセシリアは、五年ぶりに祖国の地を踏もうとしている。その先に待つのは、敵国による処刑だ。夫に愛されることも、子を産むことも、祖国で生きることもできなかったセシリアの願いはたった一つ。長年傍に仕えてくれていた人々を守る事だ。その願いは、一人の男の手によって叶えられた。 ただ、男が見返りに求めてきたものは、セシリアの想像をはるかに超えるものだった。 ※同一世界観の関連作がありますが、これのみで読めます。本シリーズ初の長編作品です。 ※ヒーローはスパダリ時々ポンコツです。口も悪いです。 ※新作です。アルファポリス様が先行します。

その愛情の行方は

ミカン♬
恋愛
セアラには6歳年上の婚約者エリアスがいる。幼い自分には全く興味のない婚約者と親しくなりたいセアラはエリアスが唯一興味を示した〈騎士〉の話題作りの為に剣の訓練を始めた。 従兄のアヴェルはそんなセアラをいつも見守り応援してくれる優しい幼馴染。 エリアスとの仲も順調で16歳になれば婚姻出来ると待ちわびるセアラだが、エリアスがユリエラ王女の護衛騎士になってしまってからは不穏な噂に晒され、婚約の解消も囁かれだした。 そしてついに大好きなエリアス様と婚約解消⁈  どうやら夜会でセアラは王太子殿下に見初められてしまったようだ。 セアラ、エリアス、アヴェルの愛情の行方を追っていきます。 後半に残酷な殺害の場面もあるので苦手な方はご注意ください。 ふんわり設定でサクっと終わります。ヒマつぶしに読んで頂けると嬉しいです。なろう様他サイトにも投稿。 2024/06/08後日談を追加。

【完結】結婚式前~婚約者の王太子に「最愛の女が別にいるので、お前を愛することはない」と言われました~

黒塔真実
恋愛
挙式が迫るなか婚約者の王太子に「結婚しても俺の最愛の女は別にいる。お前を愛することはない」とはっきり言い切られた公爵令嬢アデル。しかしどんなに婚約者としてないがしろにされても女性としての誇りを傷つけられても彼女は平気だった。なぜなら大切な「心の拠り所」があるから……。しかし、王立学園の卒業ダンスパーティーの夜、アデルはかつてない、世にも酷い仕打ちを受けるのだった―― ※神視点。■なろうにも別タイトルで重複投稿←【ジャンル日間4位】。

処理中です...