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31私、身ごもりました
しおりを挟む私は馬車に乗り込むとガストン侯爵家を目指していた。
ずっと調子が悪かった。
あの日ネイト様が尋ねて来た時もだった。
突然の母の不幸。
危篤の知らせを聞いて私が屋敷に駆け戻った時には母はもう亡くなっていた。
突然の別れにしばらく何も考えれなかった。
弟や妹も悲しみにくれた。
それでも父は気丈に仕事をこなし日々の事をこなして行った。
弟のライアンや妹のメリーのためにもいつまでもこのままではいけないと思い父の仕事を手伝い始めた。
それを見て弟たちも安心して学園に帰って行った。
いつの間にか1か月ほどが過ぎていた。
そこにいきなりのネイト様の訪問。
奥様とうまくいっていると言われた。私はもう用なしだと言われた。
もちろん夫婦が子を成し育てる、それが一番良い事だ。
妾が産んだ子供を妻が子供として育てるのはやはりおかしな話だろう。
それに私だって生まれた子供と離れ離れになるのはきっとわが身を引き裂かれる思いだろう。
ずっと子供の事を考え心配して生きて行かなくてはならないだろう。
ネイト様が言われた事は一番の解決策で一番いい方法だ。
でも、私の心は拒絶の嵐の中にいた。
でも、私はあなたが好きだから…
少しずつ落ち着いて何とかそれを受け入れようとした。
でもずっとネイト様の事が好きな気持ちは変わらない。
この気持ちだけは心の奥に閉まったまま生きて行こうと思っていた。
なのに…身ごもった。
私がずっと不調だったのは悪阻のせいだと気づいたのは数日前の事だった。
侍女に月のものが来ないと相談したことがきっかけだった。
母の事があり心労があったから遅れているだけだと思っていた。
でも、一度診察を受けたほうがいいからと言われて医者に行った。
「おめでたですよ。2カ月の終わりもうすぐ3か月に入りますよ」
「おめでた?もうすぐ3か月…」
「体調が悪いのは悪阻のせいでしょう。食べられるものを食べて気を付けてください。まだ初期ですからくれぐれも気を付けるように」
「はい、わかりました」
医者の話は上の空だった。
私は妊娠。ネイト様の子供を…
一番にうれしいと思った。
でも、すぐに妾ではなくなった事を思い出した。
どうしよう。
でも、一応契約はあったのだからと父に相談する。
「ミーシャ間違いなくそう言う関係があったんだな?」
「はい、一度だけ」
「一度でも十分だ。あちらは奥様とやり直したいとおっしゃったがこうなったら仕方がないだろう。お前のお腹の子供は間違いなくガストン侯爵家の子供だ。きちんと話をしなければな。まあ、子供が生まれるまではお世話して下さるだろう。それに1年間は子供の世話も出来る契約だった。心配するな。お前はきちんと仕事をしただけだ」
「ええ、きっと大丈夫だと思うわ。まず手紙を書きます」
「ああ、大切な話だ。会って伝えると書くんだ。話は合って直接話した方がいいだろう」
「ええ、そうね。でも、ここの仕事はどうするの?」
「そんな心配はいい。ミーシャお前は身体の事だけを考えるんだ。子供を無事に産むことだけを考えなさい。私も一緒に行こうか?」
父にそう言われてうれしかった。愛する人の子供が今私のお腹で育っていると思うだけで胸が熱くなった。
「いえ、一人で大丈夫です。まず手紙を書きます」
「ああ、早い方がいい」
だが、私は手紙にすべてを書くと返事を貰うのが恐くなった。
契約は終わっているのだからそちらで好きにしてくれなどと言われたらと思うとペンの握る手が震えた。
だから話があるのでそちらに向かうと書いた。
そして実家を後にした。
ネイト様は喜んでくれるだろうか?
奥様と仲良くしているなら私は邪魔だろう。
でも、お腹の子に罪はないんだから…
私は子供を産むことだけを考えよう。そして子供を産んだらすぐに侯爵家から去ろう。
そう何度も言い聞かせる。
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