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しおりを挟むだが、2か月を過ぎたころから、彼の暴力が始まった。仕事で嫌なことがあるとわたしを殴った。
わたしは泣きながらもう嫌いだと言った。
すると彼は、わたしを抱きしめて自分が悪かったと謝って来る。優しく口づけされて彼の熱塊を穿たれるとわたしはすべてを許せた気がしていた。
そんなことが繰り返されたある夜わたしは不思議な夢を見た。その日も彼に殴られてうまくいいくるめられた。わたしは泣く泣く自分に修仁の暴力は仕方がないんだと諦めるように言い聞かせながら寝付いた。
それは洞窟のような岩に囲まれた場所だった。わたしはいきなりその洞窟の泉のほとりに投げ出された。気づくと目の前に銀色の被毛に覆われた狼がいた。驚いて尻もちを搗くがそのオオカミがしゃべったのでまた驚く。
でも狼はわたしにパンを投げてよこすと離れて座った。そして人間の言葉をしゃべり始めた。
自分は狼の姿をしているが人間の姿をした獣人だと…そして名前はレオナルドだと…
おかしな夢を見たと思った。
わたしは最近自分でも精神状態が良くないと思っていた。
とにかく今までは何でも自分の思う通りにやって来たし、それは独り身で誰も頼る相手がいなかったからで…なのにいきなり自由を奪われて言いなりになるような関係についていけないのは当然だ。
最近あまり眠れないし、修仁とのことでいつも落ち着かず彼の顔色をうかがうばかりでかなり疲れていた。だからあんな夢を見たのだ。そう思った。
そんな事があってから1か月がたった。
わたしは最近新商品の発売に関わっていて、仕事が忙しかった。その日も仕事で遅くなってアパートに帰ると修仁が仕事にも行かずに家にいた。
「瑠衣遅かったじゃないか。なにしてた?」
「仕事よ。新商品の発売が近いから遅くなるって言ってるじゃない。これでも大急ぎで帰って来たんだから許してよ修仁」わたしは逆らうと殴られると思いとっさにそう言った。
「そうか。悪かった。でもビールがないんだ。買って来てよ瑠衣」
修仁は優しく言った。
「ええ?修仁。仕事休みならたまには自分で買いに行ってよ。わたしこれからご飯の支度もあるのよ」また気分で休んだのだろうか?この人の気分屋な所にはついていけない…
もうそれくらいしてもらって何が悪いの?最近は生活費も入れてくれないし、わたしはそのことも腹が立っていたのでつい文句を言った。
わたしはミスを犯した。
「瑠衣。俺に逆らうのか?」
その言葉が終わらないうちに修仁の手がわたしの頬を殴った。
「もう!そうやってすぐ殴るのやめてくれない。自分の都合が悪いとすぐ暴力振るなんて最低!」
それを聞いた彼の手がわたしの胸ぐらをつかんだ。
「もう一回言ってみろよ。俺が何だって?」
わたしはぶるっと震えた。恐くて逆らえない。
「何でもないってば。ビール買ってくる」
わたしは頭を押さえて顔を伏せた。涙がこぼれそうなのを見られたくはなかった。
「最初からそうすればいいんだ。気を付けて行けよ瑠衣」
彼はそう言うと部屋に引っ込んだ。
そしてアパートを出て曲がり角を曲がったんだった。
車のライトに顔を垂れされて眩しくて顔をそむけた。
その瞬間……
気が付くとわたしは知らない部屋で眠っていたらしい。てっきり自分の部屋で修仁がいると思っていたのに…
優しい吐息が耳朶にかかって、すごく気持ちよかった。
おまけにレオナルドはとてもたくましくて男らしい。瞳はちょっと怖いと思ったけど、彼の胸の中はとても安心できて居心地がよくてこのままあそこにいたい気分になったなんて…
そして彼の胸に抱かれていた時わたしは気づいた。
頭の上にあるのは何?三角でふわふわした毛におおわれたものは?
まるで獣のような耳がある。もしかして彼ってコスプレが趣味と思ったけどしっぽがあるときにはもう驚いた。
もしかしてわたし夢で動物を擬人化したとか?
いや、いくらわたしが修仁とうまくいっていないからといっても…夢で男に優しさを求めてしまうとは…
わたしはそうとう病んでるに違いない……
瑠衣は深くため息をついた。
もういいから早くビールを買って帰らなきゃ……
瑠衣はコンビニ急ぐとビールとおつまみにする枝豆の冷凍食品を買った。
わたしは走ってアパートに帰りドアを開けると彼に声をかけた。
「修仁、遅くなってごめん。ビール買て来たよ…」
「ああ、瑠衣悪かったな。サンキュ!」
修仁は転んでテレビを見ていた。
驚いたことにかなり時間が過ぎた気がしたけど、全く時間は経っていなかったようだ。
わたしは急いで枝豆をチンして彼の前に置く。
「おつ!さすが瑠衣ちゃん気が利くぅ」修仁は機嫌よかった。
「今夜は鍋焼きうどんにするわよ」
「ああ、何でもいい」
わたしは急いで夕食の支度にとりかかった。
修仁の機嫌がよかったのでわたしはほっとすると、夕食を作りながらレオナルドの事を考えた。
彼の温もりがまだ残っているような気がして思わず腕を抱きしめる。「ばか!」大きな声が出た。
「瑠衣どうしたんだよ?」
「ううん、何でもない」はぁ~…わたしのアパートは小さな部屋なのでどんな音もすぐに聞こえてしまう。
じゃあ、3か月前に見たあの夢の続きをわたしは見たって事?それも道路の真ん中で?狼男の続編ってやつ?いやレオナルドは獣人とか言ってたな。すごい夢なのにちゃんと演出も出来てる。まさか彼は俳優なの?いや、あんな顔の俳優見たことはない。
もう…、わたしの好きになった人がレオナルドみたいな人なら良かったのに…わたしは修仁を好きになった事を後悔し始めていた。
ひょっとしたらまたレオナルドのところに行けるのかしら?
わたしはいったいどうしたの?あんな夢の世界のようなところの事を考えても仕方がないのに…
それから修仁にびくびくしながら暮らす日々が続いた。
レオナルドの夢を見てから、2週間ほどが過ぎたころだった。
瑠衣は会社の新商品の事で忙しくしていた。
すでに健康食品のシェアはどこの薬品会社にも大きなウエイトを占める存在になっていた。思ってもないことで瑠衣の考案したハーブティーの発売をすることになり、瑠衣はその発売を控えてパッケージのデザインの調整やそれぞれの効能についての説明などを任されていたのでその説明書きやらで忙しかった。おまけに商品の納品するデパートへの挨拶も説明を兼ねて彼女が同伴させられたりして毎日帰りが遅くなっていた。
自宅に帰ってからも上司から電話がかかってきたりして、修仁の機嫌はますます悪くなった。
それに彼は最近仕事でうまく行ってないらしくて、前ほどクラブに行かなくなった。事情を聞いてもはっきりしたことを言わないので瑠衣には修仁が何を悩んでいるのかさえ分からなかった。
そして二人の距離はまるでアラスカの氷河のように遥か彼方まで広がっていた。でも瑠衣はまだ修仁の事を諦めきれずにいた。
その晩も修仁から激しく求められ身も心も疲れてくたくたになっていた。
”ああ…こんな時はレオナルドの腕に優しく抱かれる夢が見たい。夢でもいいからレオナルドに癒されたい”
瑠衣はそんなことを思いながら深い眠りについたらしかった。
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