いきなり騎士隊長の前にアナザーダイブなんて…これって病んでるの?もしかして運命とか言わないですよね?

はなまる

文字の大きさ
25 / 54

24

しおりを挟む

 馬車はゆっくりと確実に王宮に向かって行った。

 景色はのどかでどこまでも田園風景が広がっていた。

 瑠衣は最初のうちこそレオナルドの事が気掛かりでふさぎこんでいたが、次第にその景色を見ているうちになんだか子供の頃を思い出して気持ちが和んできた。

 それに女神様も言ってたじゃない。どうなるかは誰にもわからないって、絶対にレオナルドは死なせたりしない。わたしの命に替えても…

 瑠衣は心にそう決めると何だか安心した。

 遠くに見える木々、澄んだ空気、瑠衣は思いっきり空気を吸い込んだ。

 かすかに鼻腔をくすぐる香り。これって桜の木かしら?

 瑠衣は馬車から外を見る。遠い家から煙が立ち上っている。もしかしてスモークハムとか…そんなことを考えた。

 途中で森の中を抜ける。木漏れ日が木々の隙間から美しいグラデーションをつくりだしている。鳥はあちこちでさえずりにぎやかに飛び回っている。

 馬車の音で驚いたのか、鳥たちが一斉にはばたく。

 何もかもが瑠衣には懐かしく思えた。

 ああ…なんて気持ちがいいのかしら…次第に馬車に揺られているせいもあったかうとうとし始める。

 「全体、とまれ…」

 ロンダ副隊長の声が響く。馬車の外で彼の声がする。

 「聖女様、大丈夫ですか?ここで少し休憩を取ります。ここを出たらエサムまで休みませんので」

 瑠衣は慌てて返事をする。

 「はい、ありがとうございます。下りてもいいですか?」

 「ええ、もちろんです」

 そう言うとロンダが馬車のドアを開けて手を取ってくれた。

 瑠衣はお腹が空いた。レオナルドが手渡してくれた籠を持っておりると少し離れた木の根元に腰を下ろした。

 こんないい空気の中で食べるお弁当は久しぶりだった。

 彼は使用人に言いつけて用意させたのだろう。中にはハムやチーズを挟んだサンドイッチのようなもの、ズーラ、りんご、ポテトの素揚げのようなものやソーセージにチーズもあった。

 瑠衣はサンドイッチを口に運びながら辺りを見回す。

 兵士たちも食事をとっている。

 でもそれはとても粗末な食事だった。彼らは袋から干し肉のようなものや硬そうなチーズ、それに硬そうなパンのようなものを口に運んでいた。

 瑠衣は自分だけがこんなごちそうを食べるのは悪い気がした。

 立ち上がると、兵士たちにひとつずつサンドイッチやソーセージやズーラなどを手渡して歩く。

 「わたしだけでは食べきれません。良かったらいかがです?」

 押し付けに聞こえないよう気を使ったつもりだった。

 兵士たちは喜んでそれを受け取り口に入れた。おいしそうに食べると瑠衣は良かったと思った。

 だがロンダ副隊長は違ったようだ。

 「聖女様、この国では女が馴れ馴れしく男に声をかけるものではありません。あなた様はこの国の人ではないから仕方がありませんが、王宮に入ったらお気を付けください。どこで見られているかもしれないですから」

 「まあ、ごめんなさい。でもロンダ副隊長もいかがですか?」

 最後の一切れを彼に差し出すと、彼は結構と言ってサンドイッチを押し戻した。

 「聖女様つかぬことをお聞きしますがレオナルドとはどういうご関係でしょう?」

 なんなの?この人。失礼な…瑠衣は一気に機嫌が悪くなる。つい顔がふてくされるが、さっき言われたことを思い出した。余計なことは言っちゃだめよ。もし何かあったらレオナルドに迷惑がかかるかもしれない。

 「わたしはいきなり神に選ばれてこの世界に来ました。ちょうど現れたところがヘッセンだったのです。彼には親切にして頂きました。それだけです」

 「そうですか。余計なことを言いました。失礼」

 瑠衣は知らん顔をして黙って片づけをすると馬車に乗った。



 すぐに一行は出発をした。

 しばらくはさっきと同じ景色が広がっている道を進んだ。

 なだらかな丘になっていくと、その丘の上あたりで人がいるのが見えた。

 一行は老人の男性と中年の女性、そして5,6歳の男の子だった。

 レオナルドやロンダと違ってその人たちは少し小柄で耳は自分のように頭の横にあった。でも少し大きな耳だったが‥‥それにしっぽは細くて長いまるで猿のような…あっ、そうか。この人たちって猿獣人なのかしら?

 瑠衣はそんな事を思いながら彼らを見ていた。


 馬車が通り過ぎようとする時、瑠衣はその老人が真っ蒼な顔をして苦しんでいると気づいた。

 一行の列が止まった。

 「お願いします。助けてください。父が急に差し込んで苦しんでいるんです。どうか近くの町まで馬車か馬に乗せてもらえませんか?」

 女性がロンダ副隊長の前に走り出たらしく、馬を急いで止めた。

 「悪いが我らは国王の使いで先を急いでいる。別のものに頼むがいい」

 ロンダ副隊長の声が聞こえる。

 瑠衣は馬車から様子を伺う。

 男の子が老人の汗を拭き、口元に水を差しだしているのが見えた。老人はかなり痛そうに苦しんでいるのもわかった。

 「ロンダ副隊長、ちょっといいでしょうか?」

 「なにか?」

 「少し待っていただけない」

 「何をされるつもりで?」

 瑠衣は馬車から下りて老人に近づいて行く。

 「お止めください。聖女様。もしもこいつらが悪者だったら…!」

 「構いません。苦しんでいる人を見過ごすことは出来ません」

 だって、わたしにはこの人を治せる力があるんだから…わたしはこの世界にそのために来たようなものなんだから。


 瑠衣はその老人に近づくといつものように手をかざしてまじないを始めた。

 「ヒィールウーンドウォート…ヒィールウーンドウォート…」何度もそう言ってまじないにパワーを送る。

 次第に老人の苦し気な顔がゆるんでいく。

 瑠衣は一心にまじないを唱えているので、そんなことは気づかなかったが…


 やっと瑠衣が目を開けて老人を見た。

 老人はすっかり顔色も良くなり痛みはなくなったようだ。

 「あの…あなたはいったいどうやってわたしの痛みを?」

 老人は不思議そうに瑠衣の顔を見る。

 その顔は‥‥そうだ!おさるさんみたいだわ。それにしっぽも長くて細い尻尾が見えた。


 兵士たちもその様子を見て口々に言っている。

 「すごい…やっぱり聖女様だ。間違いない」

 「あんな凄い力見たことがない」

 「いいから、もう立ち去れ!」

 ロンダ副隊長が馬に乗って彼らを蹴散らすように瑠衣を遠ざけた。 

 「さあ、もういいでしょう。馬車に乗って下さい。すぐに出発だ!」

 馬車は動き出した。

 瑠衣はそれ以上何も話せなかった。

 老人と母親と男の子は頭を何度も下げてお礼を言っていた。馬車が見えなくなるまで手を振り見送ってくれた。


 その夜はエサムで宿を取り、翌日の午後には王宮のあるエルドラに着いた。

 馬車は森を抜けてエルドラの街に入った。

 瑠衣は馬車の中から街を見回す。街は賑やかで道路も石畳のせいか揺れがひどくなってきた。

 道端には所狭しと店が立ち並び、野菜や果物、パンやチーズ、ソーセージ、花やクッキーのようなにおいも匂って来た。

 人々の声が飛び交い、よく見るとレオナルドやロンダのように耳が頭の上にあった。そして尻尾も……


 やはりここは獣人の国らしい。やっぱりわたしは人間界とはおさらばしたのね。何度言われてもピンとこない実感だったが、本当にわたしはこの世界に来たらしい。そしてこれからもここで生きていく。

 だったらレオナルドと一緒に生きて行きたい。ううん、絶対にそうして見せるんだから!

 そんなことを考えているうちに馬車はどんどん進んで大きな金色の門をくぐった。そして走ることしばし…‥



 馬車が止まった。ロンダ副隊長の声が聞こえる。

 「一同、整列!」

 馬の嘶きが聞こえて兵士たちが並んでいる。

 ロンダ副隊長が馬から下りて馬車に近づいてきた。

 「聖女様、王宮に着きました。どうぞ馬車から下りてください」

 「はい、わかりました」

 瑠衣は覚悟を決めて馬車から下りたが、脚は震えていた。

 こんなお城に住んでいる国王をわたしは説得できるのかしら?レオナルドにはあんな大みえを切ったけど…

 何でも人を頼らないわたしの悪い癖のせいだわ。こんなことにならレオナルドの言うことを聞いておけばよかったかも…

 さっきまでの威勢のいい考えはすっかり影をひそめてしまった。



 辺りはきれいに整備された芝だった。その目の前には大きな宮殿がそびえている。

 はぁ…中世のヨーロッパみたい。もちろん行ったことなどないが写真やテレビで見たような建物が目の前にあった。

 側防塔や門塔がいくつもそびえ要塞のような石垣が積みあがっている。まさにお城だ。



 玄関前では煌びやかな服を着たやや年を取った男性の人が立っていた。

 どうやらロンダと同じクマ獣人らしく大柄な体に丸い耳が印象的だった。

 「聖女様、あの方がジャミル宰相です。国王に代わって政治の事はほとんどあの方が采配を振るっておられますので」

 「そうなんですか」

 「まずは国王に謁見していただきます」

 「はぁ」

 レオナルドにはあんな事を言って出て来たが、こんな豪華なお城を目の前にすると、心なしか気持ちが萎えて行く。

 「これは聖女様。ようこそお越しくださいました。わたしはこの国の宰相をしておりますジャミルと申します。どうぞよろしくお願いいたします。お疲れの所を申し訳ありませんが、とにかく国王に会っていただきたく存じます」

 「はい、わかりました。ジャミル宰相…」

 城の入り口でロンダ副隊長はジャミル宰相に頭を下げて立ち去った。




 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

ヤンデレ王子を闇落ちから救ったら愛執まみれの独占欲に囚われました

大江戸ウメコ
恋愛
幼い頃に精霊の祝福である未来視の力が開花し、「夫である第二王子ナハルドに殺される」という己の運命を知った伯爵令嬢ツィーラ。この悲惨な未来を変えるべく、ツィーラは彼を避けようとしたが、ひょんなことから婚約者に選ばれてしまった! ならば、ナハルドが将来闇落ちしないよう、側で彼を支えることを決意する。そんな努力の甲斐あって、ツィーラへの好意を隠さず伝えてくるほど、ナハルドとの関係は良好になった。だけど、彼の並々ならぬ執着心のすべてを、ツィーラはまだ知らなくて――

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。

彼の巨大な体に覆われ、満たされ、貪られた——一晩中

桜井ベアトリクス
恋愛
妹を救出するため、一ヶ月かけて死の山脈を越え、影の沼地を泳ぎ、マンティコアとポーカー勝負までした私、ローズ。 やっと辿り着いた先で見たのは——フェイ王の膝の上で甘える妹の姿。 「助けなんていらないわよ?」 は? しかも運命の光が私と巨漢戦士マキシマスの間で光って、「お前は俺のものだ」宣言。 「片手だけなら……」そう妥協したのに、ワイン一杯で理性が飛んだ。 彼の心臓の音を聞いた瞬間、私から飛びついて、その夜、彼のベッドで戦士のものになった。

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

男として王宮に仕えていた私、正体がバレた瞬間、冷酷宰相が豹変して溺愛してきました

春夜夢
恋愛
貧乏伯爵家の令嬢である私は、家を救うために男装して王宮に潜り込んだ。 名を「レオン」と偽り、文官見習いとして働く毎日。 誰よりも厳しく私を鍛えたのは、氷の宰相と呼ばれる男――ジークフリード。 ある日、ひょんなことから女であることがバレてしまった瞬間、 あの冷酷な宰相が……私を押し倒して言った。 「ずっと我慢していた。君が女じゃないと、自分に言い聞かせてきた」 「……もう限界だ」 私は知らなかった。 宰相は、私の正体を“最初から”見抜いていて―― ずっと、ずっと、私を手に入れる機会を待っていたことを。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

男嫌いな王女と、帰ってきた筆頭魔術師様の『執着的指導』 ~魔道具は大人の玩具じゃありません~

花虎
恋愛
魔術大国カリューノスの現国王の末っ子である第一王女エレノアは、その見た目から妖精姫と呼ばれ、可愛がられていた。  だが、10歳の頃男の家庭教師に誘拐されかけたことをきっかけに大人の男嫌いとなってしまう。そんなエレノアの遊び相手として送り込まれた美少女がいた。……けれどその正体は、兄王子の親友だった。  エレノアは彼を気に入り、嫌がるのもかまわずいたずらまがいにちょっかいをかけていた。けれど、いつの間にか彼はエレノアの前から去り、エレノアも誘拐の恐ろしい記憶を封印すると共に少年を忘れていく。  そんなエレノアの前に、可愛がっていた男の子が八年越しに大人になって再び現れた。 「やっと、あなたに復讐できる」 歪んだ復讐心と執着で魔道具を使ってエレノアに快楽責めを仕掛けてくる美形の宮廷魔術師リアン。  彼の真意は一体どこにあるのか……わからないままエレノアは彼に惹かれていく。 過去の出来事で男嫌いとなり引きこもりになってしまった王女(18)×王女に執着するヤンデレ天才宮廷魔術師(21)のラブコメです。 ※ムーンライトノベルにも掲載しております。

処理中です...