36 / 54
35
しおりを挟むロンダは夜通し馬を走らせてエルドラに向かおうと思っていた。だがエサムまで戻ってくると兵士たちはくたくただった。
空はもう白み始めていた。仕方がないここでいったん休憩にしよう。それに兵に食事もとらせなければ…ロンダはエサムで休むことにした。
ロンダは出発してからもレオナルドを捕まえるのを迷っていた。捕まればきっとレオナルドは処刑される。妹のイアスがそれを喜ぶのだろうか?それに番を横取りする国王も悪いと思っていた。出発もぐずぐずしていてすっかり遅くなったのだ。
だがレオナルドがいなくなったと分かって、ロンダの考えは変わった。
クッソ!俺としたことが…なにを迷っていた。よく考えればレオナルドこそ国王を倒して自分が国王になろうとしているのだ。
レオンルドに何の義理もない。一刻も早くレオナルドを捕まえなければ‥‥
そんな時に、ちょうど馬を売ろうとしていたレオナルドを見つけたのだ。
何という幸運。ここで必ずレオナルドを捕まえる。
ロンダはすぐに兵士たちに姿をひそめるよう命令した。
そして小声で命令を下した。
「近衛兵。レオナルドをとらえろ。それから女もだ」
レオナルドは馬を店先で店主に見せて、これからお金をもらうところだった。瑠衣と一緒に店の中に入っていった。
それをロンダはじっと陰から見ていた。
近衛兵たちはそっと店を取り囲むと息をのんでレオナルドが出てくるのを待った。
そしてレオナルドと瑠衣が店を出て来たところを一匹のありもはい出る隙間もないほどぐるりと囲んだ。
レオナルドは瑠衣の前に立ちはだかった。 後ろにいる瑠衣の手を片手でぎゅっと握りしめたままロンダの顔をぎろりと睨む。耳はいきり立って尻尾は天を向くようにそそり立ち、時々瑠衣の体を絡めとるようにくるりと巻き付いた。
「これはロンダ副隊長、何の用か?」
「レオナルド騎士隊長。あなたに来て欲しいとジャミル宰相のご命令だ」
「ジャミル宰相が?それはどういうことだ?」
「何でも、プリンツ王国との和解について書簡を送ったのだろう?それについて聞きたいことがあるそうだ」
「わかった。一緒に行く。だが彼女は関係ない。ヘッセンに送り届けてもらいたい」
「残念だが、聖女様も来てもらう」
「それは出来ない。どうしてもというなら俺を倒してからにしろ!」
レオナルドは腰の剣を片手で抜いて身構えた。
”二度と国王は信用しない。瑠衣と別れるくらいなら‥‥レオナルドはとうに自分の命を捨てることなど覚悟できていた。だが、瑠衣は違う‥‥”
ロンダはレオナルドと剣を交わすつもりはなかった。彼の腕前は知っていたし、第一そんな事で聖女に怪我でもされたらそれこそ取り返しがつかない。
「おい、ジャックを連れてこい!」ロンダが兵士に命じる。
瑠衣を後ろにして剣を構えたレオナルドの前にジャックが連れて来られた。
ジャックは手を後ろ手に縛られている。
「どうしたんだジャック!何があった?」
「隊長を捕まえに来たので時間稼ぎをしたんです。それがばれてこのざまです。すみません」
「すまんジャック、君にまで迷惑をかけたなんて‥‥ロンダ副隊長頼む、ジャックは関係ないだろう?上司を思ってしたことだ。君だってその気持ちは立派だと思うだろう?ジャックを放してくれないか?」
「ああ、おとなしくふたりとも王宮に来るなら」ロンダが言う。
レオナルドの後ろから瑠衣が顔を出して言った。
「ジャック副隊長本当にすみません。わたし行きますから、彼を放して…」
瑠衣はレオナルドが握った手を放すと、ロンダの前に走った。
”ったく…瑠衣。君って人は…”レオナルドはいつもながら彼女の献身的な行動に唖然とする。何より人の事を優先しようとする瑠衣が愛しくてたまらない。だからこそ何があっても瑠衣を犠牲には出来ないんだ。
「わかったロンダ副隊長、君の言う通りにする。ジャックを放してくれ!それから瑠衣の身の安全は保障してくれるんだろうな?」
「当たり前だ。聖女に手出しする奴は俺が許さん!」
ロンダは眉をつりあげて言う。
「君を信じる」
レオナルドは片手で剣をくるりと回して腰に収める。
「先に聖女様、こちらに来てくれ」
瑠衣は言われるままロンダのすぐ目の前に行く。ロンダは瑠衣を自分の馬に乗せた。
「レオナルドはこちらに」
レオナルドは言われた通り兵士のところに行く。兵士に手を後ろに回されてぐるりと縄をかけられる。その縄を兵士の一人が腰に巻き付けた。
「こうしておけばすぐには逃げられないだろう」
ロンダは次にジャックを放すように言う。
ふたりの兵士が掴んでいたジャックの腕を放した。
「隊長私も一緒に行きます」ジャックが言ったがレオナルドは首を縦には降らなかった。
「ジャック、君は騎士隊の事を頼む。君までいなくなったらどうする?俺達は大丈夫だ。さあ急いでヘッセンに戻ってくれ」
「わかりました。隊長も瑠衣さんもくれぐれもお気を付けて…」
レオンルドは瑠衣に声をかけた。
「瑠衣!もし俺に何かあっても何もしないでくれ。言い伝え何か信じなくていい。俺は生き返りはしない。だから…」
「黙れレオナルド。いいから後ろの隊列に連れていけ!」
ロンダがレオナルドを黙らせた。
「レオナルドと話をさせて、お願いロンダさん…もう会えないかもしれない。お願いよ」
「そんな泣き落としには引っかからない。また逃げる算段でもする気なんだろう?わたしだってこんな事したくはない。でも上からの命令とあれば仕方がない。さあ、行くことを聞いて大人しくしててくれ、そうしないとレオナルドがひどい目に合うことになるぞ」
瑠衣は何も言えなくなった。レオナルドは何が言いたかったの?もう死んでしまうようなことを言うなんて…彼はジャミル宰相に呼ばれて…もしかして処刑されてしまうの?もしそうなったらどうしよう‥‥
瑠衣は先の事を考えると恐ろしくてすっかりおとなしくなった。
ロンダは瑠衣を乗せたまま馬に乗ると、休憩のための宿に入った。そして宿主に急いで兵士たちの食事の用意するように頼んだ。
「悪いがみんなここで食事を取ったらすぐに出発する。いいか気を抜くな。レオナルドはかなりの使い手だ。油断していると逃げられるかもしれん!」
ロンダは兵士にくれぐれも気を抜かぬよう注意をした。
兵士は交代で食事をとった。
レオナルドと瑠衣にもそれぞれ食事が出されたが、瑠衣はずっとロンダのそばを離れるのを許されなかった。
レオナルドは機会があれば、瑠衣にもし逃げられたらエルドラにある自分の家に行くようにと伝えたかった。もし自分の身に何かがあれば、瑠衣を助けてくれるのは両親しかいないと考えた。だが、そんな隙もロンダは見せなかった。
食事が終わるとすぐに隊はエサムを出発した。
瑠衣はロンダの馬に乗り、レオナルドは兵士と繋がれたまま歩かされた。おまけにぐるりと兵士に囲まれたまま‥‥
だがジャミル宰相に呼ばれただけでどうしてこんなに厳重なんだ?
瑠衣を助けたい。だが、もうどうすることも出来なかった。
とにかくエルドラに着いたらジャミル宰相に頼むしかない。俺と瑠衣は番なんだから…だから国王は瑠衣に触れられなかったんだから…
陽が西に傾く前にはエルドラの街に入った。隊は真っすぐに王宮を目指した。
大きな門を入ると、近衛隊が二手に分かれた。片方は東側に片方は西側にと‥
瑠衣はロンダの馬からおろされると兵士たちに連れられて、すぐにこの前投獄された東の塔に連れていかれた。そしてまた牢に入れられた。
瑠衣はレオナルドが心配で見張りの兵士に聞く。
「お願い。レオナルドはどうなるの?彼は大丈夫なの?」
「わたしにはそんなことはわかりません、お願いです静かにしてください」
兵士はそれだけ言うと口を閉ざした。
”女神様お願い。どうかレオナルドを助けてください。”瑠衣は心の中で何度も何度もお祈りをした。今はそれしかなすすべがなかった。
ああ…こんなに愛してるのに…やっと彼の気持ちが分かったというのにこんなのひどすぎます。神様彼を助けて…
祈ることしかできないなんて……
瑠衣は牢の中で唇をかみしめた。
0
あなたにおすすめの小説
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
ヤンデレ王子を闇落ちから救ったら愛執まみれの独占欲に囚われました
大江戸ウメコ
恋愛
幼い頃に精霊の祝福である未来視の力が開花し、「夫である第二王子ナハルドに殺される」という己の運命を知った伯爵令嬢ツィーラ。この悲惨な未来を変えるべく、ツィーラは彼を避けようとしたが、ひょんなことから婚約者に選ばれてしまった! ならば、ナハルドが将来闇落ちしないよう、側で彼を支えることを決意する。そんな努力の甲斐あって、ツィーラへの好意を隠さず伝えてくるほど、ナハルドとの関係は良好になった。だけど、彼の並々ならぬ執着心のすべてを、ツィーラはまだ知らなくて――
転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
彼の巨大な体に覆われ、満たされ、貪られた——一晩中
桜井ベアトリクス
恋愛
妹を救出するため、一ヶ月かけて死の山脈を越え、影の沼地を泳ぎ、マンティコアとポーカー勝負までした私、ローズ。
やっと辿り着いた先で見たのは——フェイ王の膝の上で甘える妹の姿。
「助けなんていらないわよ?」
は?
しかも運命の光が私と巨漢戦士マキシマスの間で光って、「お前は俺のものだ」宣言。
「片手だけなら……」そう妥協したのに、ワイン一杯で理性が飛んだ。
彼の心臓の音を聞いた瞬間、私から飛びついて、その夜、彼のベッドで戦士のものになった。
人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている
井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。
それはもう深く愛していた。
変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。
これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。
全3章、1日1章更新、完結済
※特に物語と言う物語はありません
※オチもありません
※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。
※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。
男として王宮に仕えていた私、正体がバレた瞬間、冷酷宰相が豹変して溺愛してきました
春夜夢
恋愛
貧乏伯爵家の令嬢である私は、家を救うために男装して王宮に潜り込んだ。
名を「レオン」と偽り、文官見習いとして働く毎日。
誰よりも厳しく私を鍛えたのは、氷の宰相と呼ばれる男――ジークフリード。
ある日、ひょんなことから女であることがバレてしまった瞬間、
あの冷酷な宰相が……私を押し倒して言った。
「ずっと我慢していた。君が女じゃないと、自分に言い聞かせてきた」
「……もう限界だ」
私は知らなかった。
宰相は、私の正体を“最初から”見抜いていて――
ずっと、ずっと、私を手に入れる機会を待っていたことを。
男嫌いな王女と、帰ってきた筆頭魔術師様の『執着的指導』 ~魔道具は大人の玩具じゃありません~
花虎
恋愛
魔術大国カリューノスの現国王の末っ子である第一王女エレノアは、その見た目から妖精姫と呼ばれ、可愛がられていた。
だが、10歳の頃男の家庭教師に誘拐されかけたことをきっかけに大人の男嫌いとなってしまう。そんなエレノアの遊び相手として送り込まれた美少女がいた。……けれどその正体は、兄王子の親友だった。
エレノアは彼を気に入り、嫌がるのもかまわずいたずらまがいにちょっかいをかけていた。けれど、いつの間にか彼はエレノアの前から去り、エレノアも誘拐の恐ろしい記憶を封印すると共に少年を忘れていく。
そんなエレノアの前に、可愛がっていた男の子が八年越しに大人になって再び現れた。
「やっと、あなたに復讐できる」
歪んだ復讐心と執着で魔道具を使ってエレノアに快楽責めを仕掛けてくる美形の宮廷魔術師リアン。
彼の真意は一体どこにあるのか……わからないままエレノアは彼に惹かれていく。
過去の出来事で男嫌いとなり引きこもりになってしまった王女(18)×王女に執着するヤンデレ天才宮廷魔術師(21)のラブコメです。
※ムーンライトノベルにも掲載しております。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる