いきなり騎士隊長の前にアナザーダイブなんて…これって病んでるの?もしかして運命とか言わないですよね?

はなまる

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  ロンダは夜通し馬を走らせてエルドラに向かおうと思っていた。だがエサムまで戻ってくると兵士たちはくたくただった。

 空はもう白み始めていた。仕方がないここでいったん休憩にしよう。それに兵に食事もとらせなければ…ロンダはエサムで休むことにした。

 ロンダは出発してからもレオナルドを捕まえるのを迷っていた。捕まればきっとレオナルドは処刑される。妹のイアスがそれを喜ぶのだろうか?それに番を横取りする国王も悪いと思っていた。出発もぐずぐずしていてすっかり遅くなったのだ。


 だがレオナルドがいなくなったと分かって、ロンダの考えは変わった。

 クッソ!俺としたことが…なにを迷っていた。よく考えればレオナルドこそ国王を倒して自分が国王になろうとしているのだ。

 レオンルドに何の義理もない。一刻も早くレオナルドを捕まえなければ‥‥

 そんな時に、ちょうど馬を売ろうとしていたレオナルドを見つけたのだ。


 何という幸運。ここで必ずレオナルドを捕まえる。

 ロンダはすぐに兵士たちに姿をひそめるよう命令した。

 そして小声で命令を下した。

 「近衛兵。レオナルドをとらえろ。それから女もだ」

 レオナルドは馬を店先で店主に見せて、これからお金をもらうところだった。瑠衣と一緒に店の中に入っていった。

 それをロンダはじっと陰から見ていた。

 近衛兵たちはそっと店を取り囲むと息をのんでレオナルドが出てくるのを待った。

 そしてレオナルドと瑠衣が店を出て来たところを一匹のありもはい出る隙間もないほどぐるりと囲んだ。


 レオナルドは瑠衣の前に立ちはだかった。 後ろにいる瑠衣の手を片手でぎゅっと握りしめたままロンダの顔をぎろりと睨む。耳はいきり立って尻尾は天を向くようにそそり立ち、時々瑠衣の体を絡めとるようにくるりと巻き付いた。

 「これはロンダ副隊長、何の用か?」

 「レオナルド騎士隊長。あなたに来て欲しいとジャミル宰相のご命令だ」

 「ジャミル宰相が?それはどういうことだ?」

 「何でも、プリンツ王国との和解について書簡を送ったのだろう?それについて聞きたいことがあるそうだ」

 「わかった。一緒に行く。だが彼女は関係ない。ヘッセンに送り届けてもらいたい」

 「残念だが、聖女様も来てもらう」

 「それは出来ない。どうしてもというなら俺を倒してからにしろ!」

 レオナルドは腰の剣を片手で抜いて身構えた。

 ”二度と国王は信用しない。瑠衣と別れるくらいなら‥‥レオナルドはとうに自分の命を捨てることなど覚悟できていた。だが、瑠衣は違う‥‥”



 ロンダはレオナルドと剣を交わすつもりはなかった。彼の腕前は知っていたし、第一そんな事で聖女に怪我でもされたらそれこそ取り返しがつかない。

 「おい、ジャックを連れてこい!」ロンダが兵士に命じる。


 瑠衣を後ろにして剣を構えたレオナルドの前にジャックが連れて来られた。

 ジャックは手を後ろ手に縛られている。

 「どうしたんだジャック!何があった?」

 「隊長を捕まえに来たので時間稼ぎをしたんです。それがばれてこのざまです。すみません」

 「すまんジャック、君にまで迷惑をかけたなんて‥‥ロンダ副隊長頼む、ジャックは関係ないだろう?上司を思ってしたことだ。君だってその気持ちは立派だと思うだろう?ジャックを放してくれないか?」

 「ああ、おとなしくふたりとも王宮に来るなら」ロンダが言う。


 レオナルドの後ろから瑠衣が顔を出して言った。

 「ジャック副隊長本当にすみません。わたし行きますから、彼を放して…」

 瑠衣はレオナルドが握った手を放すと、ロンダの前に走った。


 ”ったく…瑠衣。君って人は…”レオナルドはいつもながら彼女の献身的な行動に唖然とする。何より人の事を優先しようとする瑠衣が愛しくてたまらない。だからこそ何があっても瑠衣を犠牲には出来ないんだ。

 「わかったロンダ副隊長、君の言う通りにする。ジャックを放してくれ!それから瑠衣の身の安全は保障してくれるんだろうな?」

 「当たり前だ。聖女に手出しする奴は俺が許さん!」

 ロンダは眉をつりあげて言う。

 「君を信じる」

 レオナルドは片手で剣をくるりと回して腰に収める。


 「先に聖女様、こちらに来てくれ」

 瑠衣は言われるままロンダのすぐ目の前に行く。ロンダは瑠衣を自分の馬に乗せた。

 「レオナルドはこちらに」

 レオナルドは言われた通り兵士のところに行く。兵士に手を後ろに回されてぐるりと縄をかけられる。その縄を兵士の一人が腰に巻き付けた。

 「こうしておけばすぐには逃げられないだろう」

 ロンダは次にジャックを放すように言う。

 ふたりの兵士が掴んでいたジャックの腕を放した。

 「隊長私も一緒に行きます」ジャックが言ったがレオナルドは首を縦には降らなかった。

 「ジャック、君は騎士隊の事を頼む。君までいなくなったらどうする?俺達は大丈夫だ。さあ急いでヘッセンに戻ってくれ」

 「わかりました。隊長も瑠衣さんもくれぐれもお気を付けて…」

 レオンルドは瑠衣に声をかけた。

 「瑠衣!もし俺に何かあっても何もしないでくれ。言い伝え何か信じなくていい。俺は生き返りはしない。だから…」

 「黙れレオナルド。いいから後ろの隊列に連れていけ!」

 ロンダがレオナルドを黙らせた。

 「レオナルドと話をさせて、お願いロンダさん…もう会えないかもしれない。お願いよ」

 「そんな泣き落としには引っかからない。また逃げる算段でもする気なんだろう?わたしだってこんな事したくはない。でも上からの命令とあれば仕方がない。さあ、行くことを聞いて大人しくしててくれ、そうしないとレオナルドがひどい目に合うことになるぞ」

 瑠衣は何も言えなくなった。レオナルドは何が言いたかったの?もう死んでしまうようなことを言うなんて…彼はジャミル宰相に呼ばれて…もしかして処刑されてしまうの?もしそうなったらどうしよう‥‥

 瑠衣は先の事を考えると恐ろしくてすっかりおとなしくなった。



 ロンダは瑠衣を乗せたまま馬に乗ると、休憩のための宿に入った。そして宿主に急いで兵士たちの食事の用意するように頼んだ。

 「悪いがみんなここで食事を取ったらすぐに出発する。いいか気を抜くな。レオナルドはかなりの使い手だ。油断していると逃げられるかもしれん!」

 ロンダは兵士にくれぐれも気を抜かぬよう注意をした。

 兵士は交代で食事をとった。

 レオナルドと瑠衣にもそれぞれ食事が出されたが、瑠衣はずっとロンダのそばを離れるのを許されなかった。

 レオナルドは機会があれば、瑠衣にもし逃げられたらエルドラにある自分の家に行くようにと伝えたかった。もし自分の身に何かがあれば、瑠衣を助けてくれるのは両親しかいないと考えた。だが、そんな隙もロンダは見せなかった。



 食事が終わるとすぐに隊はエサムを出発した。

 瑠衣はロンダの馬に乗り、レオナルドは兵士と繋がれたまま歩かされた。おまけにぐるりと兵士に囲まれたまま‥‥

 だがジャミル宰相に呼ばれただけでどうしてこんなに厳重なんだ?

 瑠衣を助けたい。だが、もうどうすることも出来なかった。

 とにかくエルドラに着いたらジャミル宰相に頼むしかない。俺と瑠衣は番なんだから…だから国王は瑠衣に触れられなかったんだから…


 陽が西に傾く前にはエルドラの街に入った。隊は真っすぐに王宮を目指した。

 大きな門を入ると、近衛隊が二手に分かれた。片方は東側に片方は西側にと‥

 瑠衣はロンダの馬からおろされると兵士たちに連れられて、すぐにこの前投獄された東の塔に連れていかれた。そしてまた牢に入れられた。

 瑠衣はレオナルドが心配で見張りの兵士に聞く。

 「お願い。レオナルドはどうなるの?彼は大丈夫なの?」

 「わたしにはそんなことはわかりません、お願いです静かにしてください」

 兵士はそれだけ言うと口を閉ざした。

 ”女神様お願い。どうかレオナルドを助けてください。”瑠衣は心の中で何度も何度もお祈りをした。今はそれしかなすすべがなかった。

 ああ…こんなに愛してるのに…やっと彼の気持ちが分かったというのにこんなのひどすぎます。神様彼を助けて…

 祈ることしかできないなんて……

 瑠衣は牢の中で唇をかみしめた。



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