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しおりを挟むロンダはレオナルドを連れてジャミル宰相の執務室を訪れた。
「ジャミル宰相。仰せの通りレオナルドを連れてまいりました」
「うむ。ご苦労」
ジャミルはロンダを見てうなずいた。
レオナルドはほっと安心した。ロンダの言った通り話があるというのは本当だったんだ。
「わたしに聞きたいことがあるとか?それはあのプリンツ王国との和解案の事でしょうか?ですがジャミル宰相その前にこの縄を解いていただきたい」
「それはどうだろうレオナルド騎士隊長、わたしはあなたに裏切られた気分だが。まさか聖女に手を出すなんて…ロンダこの男を牢に入れておけ。皆におふれを出して公開処刑にする」
「ですが…レオナルドはこうやって投降してきたんです。公開処刑なんてひどすぎませんか?」ロンダも驚いた。
「だが、聖女は国王と結ばれるべき人だ。番がいる限りそれも出来ないではないか。お前はレオナルドが国王になっても良いと?」
「それは飛躍しすぎじゃないですか。いくら言い伝えがそうだからって、もうあれから300年もたってるんだし、誰もそんなことを信じちゃいません」
レオナルドはジャミルの誤解を解こうと言う。
「ジャミル宰相、わたしは国王になろうなんて夢にも思っていません。わたしは瑠衣が…ただ瑠衣を妻にしたいだけです」
「それは無理だと言ってるじゃないか!お前には死んでもらうしかないんだレオナルド!ロンダいいから牢に入れておけ!」
ロンダはレオナルドを牢に連れて行った。何とかしてやりたいとも思うがジャミル宰相の言うことももっともなことなのでどうにも出来なかった。
ジャミルはすぐに公開処刑のおふれを出した。
ジャミルは心の中で思い描いていた。
レオナルドが処刑され、聖女がレオナルドを生き返させる。それを見て国民は言い伝え通りだと…その時こそイエルク国王を倒して新たな国王を立ち上げるときだと。もしレオナルドが生き返らなくても、イエルク国王の悪行を暴露して国王を倒し、他の王族と聖女を結婚させて国王にする。そうすればこの国は安泰だ。プリンツ王国とも平和的な解決をしてこれまで通りアディドラ国は平和な国になる。
ジャミルは窓の外を見ながら、しきりに痛む胃を手で押さえて連れていかれるレオナルドを見送った。
ロンダはレオナルドを牢に連れて行くと、瑠衣の所を訪れた。
「聖女様、実はあなたにお願いがある」
「ロンダ副隊長、瑠衣でいいわ。わたしもあなたにお願いが…」
「わたしもロンダでいい。あなたの願いは無理でしょう。こんなことを言って気の毒とは思う。だがわたしの妹は長い間病気で苦しんでいる。勝手な願いだが、どうか妹の病気を治してもらえないだろうか?」
「お願いレオナルドはどうなるの?教えて…教えてもらえれば何でもしますから」
「瑠衣さん。レオナルドは気の毒だが処刑される。仕方がないんだ。言い伝えでは聖女と結ばれた人がこの国の王になるとされているから」
「じゃあひと目だけでもレオナルドに合わせて…」
ロンダはうんとは言わず、首を横に振った。
「ああ…神様…」瑠衣は言葉を失った。
その時あの絵本の話が思い浮かんだ。言い伝えではわたしがレオナルドを生き返らせることになっている。きっと出来るわ。ううん、絶対に生き返らせて見せるから、今はもうそれしか方法がないんだから。
「そうだ!ロンダさんレオナルドが処刑された後わたしを彼のところに連れて行ってくれませんか?」
「ええ、それくらいは約束します。最後に彼の顔を見るくらいは…」
「ありがとう。では妹さんをここに連れてきてもらえませんか?」
「えっ?いいんですか?わたしはあなたの願いを聞いてあげられないのに?」
「願いはきいてもらいます。約束したじゃありませんか。どうか妹さんを連れてきてください」
「ありがとうございます。あなたはやっぱり聖女様なんですね」
ロンダは急いで牢を後にした。
その夜も眠れずに瑠衣は何とかできないかと頭を悩ませた。
鍵を壊すことは出来ても、前より多い見張りの兵がいて、どうやっても逃げるのは無理だ。
色々な考えが浮かんでは消えていく。
もし今すぐにわたしがあっちの世界に帰ったらレオナルドは助かるだろうか?でも、聖女がいなくなってこの国が混乱して万が一戦争でも起きたら‥‥無理、無理そんな事…レオナルドも助かるかもわからないんだから…もしレオナルドが生き帰ってもわたしは死んでしまうのよ。
あっちの世界に帰れたとしても、レオナルドの事を諦めるなんて考えれない。こんなに愛してるんだから‥‥
はぁ…一体どうすればいいのよ…‥何度考えても結局私たちは別れることになるの?
レオナルドみたいないい人は絶対に二度と見つからないのに…‥
その日の夕方にロンダは妹のイアスを連れてきた。
「瑠衣さん、妹のイアスだ」
「ええ、あなたがイアスさんね」レオナルドの婚約者だった人。クマ獣人だからどんな人かと思ったけど、すごく可愛い人だった。目はパッチリの黒目で鼻は先がちょっと丸っこくて、小さな唇がチャーミングで…
「あなたが聖女様?わたしを治せるって聞いたけど…でもきっと無理よ。わたしの病気はリンパ腫でもうずっと治療してるけど、完全には治らないの。それにもういつ死ぬかもわからないの。だから失敗しても気にしないで…レオナルドもその方がいいって思うに決まってるから…」イアスは唇を噛んだ。
「そんなことはないと思うわ。彼とっても優しいでしょう?あなたが死んでいいなんて思ったりしていないわよ」瑠衣は彼女を励ます。
その瞬間瑠衣は思ってしまった。もしわたしがいなくなってもこの人がレオナルドを支えてくれるなら…
自分でもおかしいことを考えていると‥行き場のないわたしにはおかしな考えしか浮かばないのかもしれない。
「いいからわたしの前に来て」
瑠衣は手をかざしてイアスにまじないをかける。
「ヒィールウーンドウォート…ヒィールウーンドウォート…ヒィールウーンドウォート…」
イアスはじっとしてそのまじないを聞いていた。
それから当分瑠衣は力の限りまじないをした。
次第にイアスの顔色が良くなっていく。
「何だか、体が熱いわ。お兄様わたし…どうしたのかしら…何だかとっても体が軽くなった気がする」
「もしかして病気が治ったかもな…明日さっそく病院に行ってみるんだ」
「ええ、聖女様もし病気が治っていたらこんなに嬉しいことはないわ。ありがとう…ほんとにすごく気分がいいの…嘘みたいだわ」
「瑠衣さん、妹は治ったんだろう?」ロンダが聞く。
「多分そうだと思うけど…」瑠衣は疲れ切った体で言う。
イアスは楽になったと喜んでロンダと帰って行った。
その夜瑠衣は疲れ果てて体を横たえた。目を閉じて祈る。
ああ…どうか女神様現れてください。わたしにはレオナルドを生き返らせる力があるのか教えてください。わたしは自信がありません。だってあれくらいの事でこんなに疲れてしまった。死んだものを生き返らせるなんて到底無理としか思えません。どうか、わたしに教えてください……
その夜とうとう女神は現れなかった。
瑠衣はずっと眠れず胸がつぶれる思いで夜を明かした。
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