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しおりを挟むレオナルドの遺体は処刑台から降ろされて台の上に置かれていた。
胸から血を流したレオナルドは青白い顔で静かに横たわっていた。その横でふたりの男女が彼にすがって泣いていた。きっとレオナルドのご両親に違いない。瑠衣は声をかけた。
「レオナルドのご両親ですか?わたしは橘瑠衣と言います。レオナルドの番です。これからレオナルドにまじないをかけますのでどうか少し後ろに下がってもらえませんか?」
「あなたが聖女様なんですね?レオナルドの最期の言葉です。自分を生き返らせてほしくないと…あなたには死んでほしくないからと息子はそれだけを願っていました。だからもうこのまま逝かせてやってください」
「もし、わたしがいなくなってもイアスがいます。彼女ならきっとレオナルドを支えてくれます。彼ならきっと大丈夫。どうかわたしにまじないをさせて…お願い…お願いします」
ああ…レオナルドそんなにわたしの事を思ってくれてたなんて…
彼のためなら死んでもいい。この命の全てをかけてあなたを生き返らせて見せる。
瑠衣は心の底からまじないを唱え始めた。
「ヒィールウーンドウォート…ヒィールウーンドウォート…ヒィールウーンドウォート…ヒィールウーンドウォート…ヒィールウーンドウォート…ヒィールウーンドウォート…」
その言葉は帰りかけていた群衆の耳にも入った。群衆は瑠衣のまじないをかたずをのんで見守った。
それからどれくらい経っただろう‥‥
動かなかったレオナルドのまつ毛が震えた。そして指先が動き、彼は目を開けると起き上がった。
それを見ていた群衆から声が上がる。
「やっぱり言い伝えは本当だった…」
「聖女様…聖女様…」
そこでジャミルが声を上げた。
「皆の物。聞いてくれ…言い伝えは本当だった。たった今、神はレオナルドに国王になる権利をお与えになった。よって現イエルク国王、並びに閣議での協議をへて新しい国王と選ぶものとする」
ジャミルは内心驚いていたが…
”まさか、生き返るとは思ってもなかった。だが、そうなればイエルク国王を引きずりおろせるではないか。レオナルドに国王になってもらえば…とにかくイエルク国王をこのままにはしておけないのだから”
「アディドラ国バンザイ!」
「レオナルド国王おめでとう‥‥」
群衆から歓声が上がった。
レオナルドはまだはっきりしない頭で周りを見渡す。
ここはどこだ?俺は処刑されたはずで…なんだ、この重みは…
レオナルドは脚の上に倒れ込んだ瑠衣にやっと気づいた。
「瑠衣?どうして?おいしっかりしろ!瑠衣目を開けてくれ…頼む。瑠衣君を失っては生きていけない.瑠衣…どうか、目を開けてくれ」
レオナルドの悲痛な叫ぶ声が響き渡る。
その時瑠衣は女神と一緒にレオナルドの上からその様子を見ていた。
瑠衣の目からははらはらと涙が伝った。その涙が雨のように地上に降り注ぐ。
ああ…レオナルド。わたしもあなたを心から愛してる。でもお別れよ‥‥さようなら、どうか、どうか幸せになってね…‥
すると女神が尋ねてきた。
「瑠衣どうするの?この世界に残るんですか?それともあっちの世界に帰るんですか?いい加減決めてもらわないとわたしも困るんですよ」
「えっ?どういうことです?わたし死んだんでしょう?だからもうこの世界には戻れないんじゃ?」
「何言ってるんです。今あなたはどちらの世界にもいるんです。つまりちょうど真ん中にいある感じ。だからどっちに行くか決めてもらわないと困るんですよね」
「でも言い伝えではヤスミンは死んだって…」
「ええ、ヤスミンはこの世界でしか生きてなかったんですから、当然でしょう。でも、あなたはあっちでもまだ生きていると言うことは今ならどちらに行くか選べるんです」
瑠衣の目が点になる。
「えっ?それって…‥」
頭の中で今言われた事を反芻する。うそーわたしは生き返れるって事なの?
「もう、女神さまったらそれならそうと早く言ってくださいよ。それって…めっちゃラッキーじゃないですか。嘘みたい生き返れるなんて…あの、それであっちの世界のわたしはどうなるんです?」
「もちろんあちらの世界のあなたは死ぬことになります。今は昏睡状態ですが、あなたがこちらの世界で生き返り次第、あちらの世界のあなたは存在しなくなりますよ」
そうなんだ…あっちの世界に未練なんかないもの。それよりわたしはレオナルドを愛している。
思ってもなかった事で滅茶苦茶うれし感激していたら、ふっとレオナルドが叫んでいることが耳に入った。
「瑠衣頼む。目を開けてくれ…もしかして瑠衣は俺が国王になりたいと?そんなものくそくらえだ!俺は言っただろう。お前がいれば何もいらない。農夫でも木こりでも炭鉱夫だって構わない。瑠衣と一緒なら、君さえいてくれれば何もいらないんだ。だから‥‥だから、目を開けてくれ‥‥」
レオナルドは必死で瑠衣の体を抱き起して声をかけていたが、今や人口呼吸をして心臓マッサージまで始めた。
「レオナルド…もう諦めろ…」レオナルドの父が声をかける。
「父上あれほど頼んで置いたのに、ひどいじゃないですか。いいから放っておいてください」レオナルドは瑠衣にすがる。
その様子は悲痛で聞いている群衆からも、鳴き声や嗚咽が漏れた。
「そうだ!女神様お願いだ。どうか瑠衣を生き返らせてくれ。その代り俺の命を捧げる。だからお願いします。どうか瑠衣を…」
レオナルドは天を仰いで手を合わせた。
「女神様、早くわたしをこの世界に戻してこのままじゃレオナルドが死んじゃう…」
「決めたんですね?もうあっちの世界には戻れませんよ。覚悟は出来てますか?」
「はい、女神様」
「わかっていますよね?これは特別優遇措置なんですから。あなたは一度死んだのですから、もう特別扱いはしませんよ」
一瞬瑠衣は戸惑った。もしかしてレオナルドは心変わりしてしまうんじゃないかって…
ううん、そんなはずない。彼を見て、あんなにわたしの為に自分の命さえ差しだそうとしてるんだから…
でも二度とこの世界から出ることは出来なくなるのよ。今なら元の世界にだって戻れる。
ああ…わたしったらどうしてレオナルドを心から信じれないのかしら…いい加減覚悟を決めなさいよ。
悲痛な声でわたしを呼んで、本気でうろたえて、わが身を捧げると…これが本物の愛じゃなかったら、何なのよ!あんたいい加減レオナルドを信じたら… これじゃどっちがひどい人かわからないわよ。
レオナルドは獣人だけど…これほどいい獣人はいないから、わたしの愛する獣人レオナルド。
「さあ、瑠衣。覚悟はできた?」
女神はもう一度訪ねた。
「ええ…」
その時女神が声を上げた。
「まあ、あなたお腹に子を宿したのね…やっぱりこうなる運命だったのね…さすが神様はやることがえぐいわ」
「女神様?今なんて‥‥」
「まあ、ごめんなさい。余計なことを言ったわ。でもまあいいわ、今あなたのお腹で受胎が起きたのよ。精子と卵子が結ばれたの。こんな瞬間を見れるなんて…きっと今日はいいことがありそうだわ」
「それは…レオナルドの子供を授かったって事?」
「他に思い当たることでもあるの?」
「あの…女神様、修仁は最後までしなかったんでしたよね?あの時…わたしが死んだと思って途中でやめたんですよね?」
「そうね…確かに途中で…っていうか、わたしはたった今受胎されるところを見たんですから…」
「良かった‥‥女神様。お願いします。すぐにレオナルドのところに…この世界に戻してください」
瑠衣は生まれてこの方こんなにわくわくしたことはなかった。
その時イエルク国王が処刑台に上がって来た。
「クッソ!聖女はわたしのものだ。その汚い手で聖女に触れるんじゃない。見ておれ、この手で成敗してやる」
イエルク国王は処刑台の横の立てかけてあった槍に手をかけるとそれを振り上げてレオナルドに向かってきた。
レオナルドはそれをあえて受け止める体勢を取った。
彼は自分が死ぬことで瑠衣を生き返らせようとしていた。
「神よ、わたしが身代わりになります。どうか瑠衣を…」
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