いきなり騎士隊長の前にアナザーダイブなんて…これって病んでるの?もしかして運命とか言わないですよね?

はなまる

文字の大きさ
40 / 54

39

しおりを挟む

 その時だったロンダが国王の前に立ちはだかった。ロンダは腰の剣を引き抜き国王に向かって構えた。

 「国王、おやめください。ここは神聖な場所です。レオナルドはもう処罰を受けました」

 「まだ生きておるではないか。わしが成敗する。そこをどけ!誰にも邪魔はさせん!」

 「これほど言っても‥‥」

 ロンダは寝間着のまま鬼のような形相で走って来る国王に剣を振り下ろした。

 国王の寝間着がはらりとほどけて、ぶざまな肉体が群衆の前にさらけ出されると、国王は悲鳴を上げてバタンと床に倒れた。

 だが、息絶えたわけではなかった。剣の刃先が少し皮膚を切っただけで、イエルク国王は気絶しただけだった。


 あっという間の出来事で辺りは、水を打ったかのように誰一人声を上げなかった。


 すぐにジャミル宰相が声を上げる。

 「イエルク国王はご乱心のご様子であった。よって近衛隊、副隊長ロンダ・マルティスがそれを阻止した。ロンダご苦労であった。すぐにイエルク国王を運んで治療に当たらせろ!皆さんわたしはすぐに議会を開いて最善の策を立てる所存です。どうか安心してください」

 ジャミルは国民にはっきりとイエルク国王が悪いことを印象付けた。そしてすぐに対処するから心配ないことも付け加えるとロンダと固い握手を交わした。


 慌てたのは瑠衣だった。早くレオナルドのところに戻らなちゃ!

 レオナルドはまだ自分の命を引き換えにして瑠衣を生き返らせようとしていた。

 「女神様、早く、早くレオナルドのところに戻して…」

 「わかりました。では…わたしはもう二度とあなたに姿を見せることはありませんよ」

 「ありがとうございます。女神様…」

 「あっ!それから言い忘れていましたが、あなたは一度死んで生き返るのです。だから聖女の力は失いますよ。これからは普通の人間として生きていくのです。瑠衣、幸せになりなさい‥‥」


 その瞬間女神はすぅーと消えた。

 「ちょっと待ってください…女神様、そんな話聞いてません…女神様‥‥」

 瑠衣がいくら呼んでももう女神は現れなかった。

 そんな‥‥ううん、レオナルドはわたしを愛してるんだもの。もっと自信を持つのよ!きっと大丈夫!


 瑠衣はふっと意識が戻った。

 レオナルドは?どこ?

 瑠衣はまだ朦朧とする意識を吹き飛ばすように上体を起こし頭をまわした。

 「レオナルド…レオナルド…わたしはここよ。早まったことはしないで!」

 瑠衣はレオナルドのどこかをつかんだ。

 振り返ったレオナルドの顔は涙でぐしゃぐしゃで、瞼は腫れて赤い瞳はすっかり光を失っていた。


 もう一度今度はレオナルドの手をしっかりとつかんで叫んだ。

 「レオナルド‥‥レオナルド…わたしはここよ」

 「ああ…瑠衣?瑠衣なのか?瑠衣。ああ…るい、るい‥‥」

 レオナルドは瑠衣の頬を両手で挟んだ。そして抱きしめて倒れ込むように胸に顔をうずめた。

 あまりの感激でレオナルドは瑠衣に体全体を押し付けた。そしてお腹に力をかけられた瑠衣は、いきなり怒る。


 「やめて!レオナルド。お腹の赤ちゃんが…」

 「瑠衣、今なんて言った?」

 「意識を失っている時、女神様と一緒だったの。女神さまが言ったわ。今受胎が起きたって、だからわたしきっと妊娠したのよ。もちろんあなたの子供よ」

 「ああ…なんてすばらしい。瑠衣が生き返った上に赤ん坊まで?瑠衣すごくうれしいよ」

 「もう…レオナルドったらこんなに愛しい人は他にいないわ。もう二度と離れないから」

 「ああ、俺も二度と離すつもりはないからな」

 群衆の歓声がわーと沸き起こった。

 「レオナルド、瑠衣おめでとう!」

 レオナルドの両親もたいそう喜んでふたりを祝福してくれた。


 そこにジャミル宰相が現れた。

 「ふたりとも議会に来てもらおう」

 「ジャミル宰相、言っておきますけどわたしは国王なんかになりませんよ」

 レオナルドがふてくされたように言った。

 「それは議会が決める事です。いいから来なさい」

 そして群衆に言った。

 「皆さん、後の事は議会で最善策を考えます。どうか安心してお引き取り下さい」

 湧き上がっていた群衆は落ち着きを取り戻すと皆引き返し始めた。

 「ご両親もここはわたしに任せてどうかお引き取りを」

 レオナルドの両親もジャミルの言われて帰って行った。


 ジャミル宰相について王宮に入っていく。

 「取りあえずそれぞれ別室で休んでいてください。すぐに議員に召集をかけて議会を開きますので…」

 「それで俺たちはどうなるんです?」

 レオナルドは瑠衣の手を放そうとはしなかった。

 「決して悪いようにはしません。安心してください」

 「俺から瑠衣を奪ったりしないんだな宰相?」

 「レオナルド、いいから落ち着いて。そのためにも少し休んで、使用人にお茶でも持ってくるよう言いつけておきますから」

 「どうして瑠衣と一緒にいてはいけないんだ?」

 「お互いに話を示し合わせるようなことが会ってはいけませんからな。今は一人ひとり別室で待機していただきます」

 「瑠衣の安全は?」

 ジャミルはレオナルドのしつこさに顔をしかめた。

 「もちろん保証しますから。少しはわたしを信じていただけないか?」

 「もちろんです。ジャミル宰相。あなたを信じていますとも!」

 レオナルドはやっと引き下がった。

 「瑠衣少しの辛抱だ。この件が終わったらすぐにここから出よう」

 「レオナルド…あのお話が…」

 「ああ、後でゆっくり話をしよう。じゃあ…」

 レオナルドは瑠衣の唇に熱い口づけをすると、瑠衣を部屋に入れやっと自分も別室に入った。

 ジャミルは忙しそうに部屋を後にした。

 レオナルドは血まみれになった服を脱いでシャワーを浴びると、置いてあった着替えを着た。そ子には、レオナルドもよく知っている貴族が着る服が用意されていた。白いシャツに襟は立ててスカーフのような布を巻いてリボンのように結ぶ。シャツの上には前が短く後ろが長いジャケット。生地はシルクで色は黒。ズボンは白いブリーチズボン。靴はハーフブーツが用意されていた。レオナルドはそれを着ると、テーブルにあったお茶を飲んで気を紛らわした。


 瑠衣も着替えを用意されて血の付いた服を脱いでシャワーを浴びて着替えをした。着替えはとても豪華な衣装で、シルクの淡いグリーンのシンプルだが高そうなドレスと金糸の刺しゅうが入ったガウンのようなものだった。これはカモダールという民族衣装だ。

 瑠衣は知らなかったが、これは正式な時に身に着ける女性の正装で、アディドラ国の民族衣装でもあった。

 ジャミルはレオナルドと聖女の為にとても礼を尽くした正装を用意させたのだった。


 瑠衣はレオナルドと話がしたかったが、あの状態では何も話せなかったし、それにドアの外には厳重な見張りがつけられていた。

 ジャミルはすぐに議会を招集する。2時間後には議会が開かれることになった。アディドラ国にはそれぞれの町から選ばれた議員の庶民院と、それに貴族院がある。

 議会でレオナルド、ロンダ、瑠衣それぞれが順番に呼ばれてイエルク国王の事を詳しく聞かれた。



 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

いなくなった伯爵令嬢の代わりとして育てられました。本物が見つかって今度は彼女の婚約者だった辺境伯様に嫁ぎます。

りつ
恋愛
~身代わり令嬢は強面辺境伯に溺愛される~ 行方不明になった伯爵家の娘によく似ていると孤児院から引き取られたマリア。孤独を抱えながら必死に伯爵夫妻の望む子どもを演じる。数年後、ようやく伯爵家での暮らしにも慣れてきた矢先、夫妻の本当の娘であるヒルデが見つかる。自分とは違う天真爛漫な性格をしたヒルデはあっという間に伯爵家に馴染み、マリアの婚約者もヒルデに惹かれてしまう……。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている

井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。 それはもう深く愛していた。 変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。 これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。 全3章、1日1章更新、完結済 ※特に物語と言う物語はありません ※オチもありません ※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。 ※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。

強面夫の裏の顔は妻以外には見せられません!

ましろ
恋愛
「誰がこんなことをしろと言った?」 それは夫のいる騎士団へ差し入れを届けに行った私への彼からの冷たい言葉。 挙げ句の果てに、 「用が済んだなら早く帰れっ!」 と追い返されてしまいました。 そして夜、屋敷に戻って来た夫は─── ✻ゆるふわ設定です。 気を付けていますが、誤字脱字などがある為、あとからこっそり修正することがあります。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

魔性の大公の甘く淫らな執愛の檻に囚われて

アマイ
恋愛
優れた癒しの力を持つ家系に生まれながら、伯爵家当主であるクロエにはその力が発現しなかった。しかし血筋を絶やしたくない皇帝の意向により、クロエは早急に後継を作らねばならなくなった。相手を求め渋々参加した夜会で、クロエは謎めいた美貌の男・ルアと出会う。 二人は契約を交わし、割り切った体の関係を結ぶのだが――

バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました

美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?

処理中です...