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13せっかくですから
しおりを挟むライオスが出て行って入れ替わるようにセルカークがやって来た。
「ミモザ夫人。ご主人がひどく荒れていたようだが大丈夫か?」
「まあ、聞かれてましたか」
それもそうだ。あんなに大声で言い合いをしたのだ。喧嘩をしていると思ったに違いない。
「どこか殴られたりしてないのか?」
セルカークはミモザのそばに近寄って顔や腕を見た。
「ええ、口では偉そうなことを言ってますけど、見かけより軟弱なんです。でも、ここが自宅だったら殴られていたかもしれませんね。良かったです。ここに連れて来てもらっていて」
「ああ、それならいいんだが…何か困ったことがあるなら俺で良ければ相談に乗るが…」
「いえ、お世話になっているのにこれ以上ご迷惑をかけるわけには…あの…明日出掛けたいのですが、杖があれば貸して頂けたら、それから…いえ、それだけでいいので」
ミモザは辻馬車を呼んでもらおうとした。でも、今手持ちのお金がないと気づいて急いで訂正する。
「ミモザ夫人。その脚で出掛けるのは無理なんじゃ?まさかキャメリオット公爵家に帰るつもりなのか?」
セルカークは相変わらず優しい。
「まさか。王宮に行って離縁の手続きをするつもりです」
「そうか。それなら俺も一緒に行こう。一人では歩くのも難しいし手続きは法務院だな。実は俺の兄のリックが法務院で執務官をしている。少しは融通が利くかもしれないぞ」
セルカークは深刻そうなミモザを癌気づけようと思ったのかにやりと笑った。
「ですが、これ以上迷惑をかけるわけにはいきません」
「まあ、そう遠慮しなくても、困ったときはお互い様だ。それに俺も王宮に行く用もある。だから一緒に行こう。いいな?」
(さらっといい男を演じるところなんか相変らずなのね。でもあなたがそう言ってくれるなら利用しない手はないかもね)
ミモザの心の中にはどす黒いわだかまりが渦巻いていたが、今は利用できることはどんなものでも利用しよう。一番大切なのは一日も早く離縁することだ。
「いいんですか?そんなに言って下さるなら先生に甘えてしまいますよ」
ミモザは微笑む。
(それはもうせっかくですから)
「ああ、もちろん。離縁の申請をすればきっと君の思うようになると思う。あれほどひどい目にあってるんだ。何なら俺が承認になってもいい。受けた傷の事。俺が聞いた夫の暴言。愛人や義理母の強要もあるんだろう?挙げればきりがないほど理由はあるからな。きっとうまく行く。じゃあ、もう心配せずに休め」
セルカークは自身たっぷりにそう言った。
そして部屋から出ようとして身をひるがえした。
「そうだ。脚の湿布薬を取り替えようと思っていたんだ。話がそれたから忘れるところだった。さあ、脚を出して」
流れるような仕草でミモザの脚を持ち上げて包帯を解いていく。
「かなり腫れはひいたな。数日もすれば歩けるようになるだろう。でも、今は無理をしてはいけない。わかってるだろう?」
そう言いながら湿布薬を貼りまた包帯を巻く。
「はい、わかってます。無理はしませんから…先生ありがとうございます」
セルカークが嫌な奴だったとはわかっているが、こうやって助けてもらっている事実は変わらない。
利用しようとはしたが、こうも親切にされると心が痛んできそうになる。
(誤魔化されちゃだめよ。この男は優しくして女をその気にさせるんだから、お得意中の必殺技だってわかってるじゃない。もちろん、そんな見え透いた手にひっかる訳がないわよ。シルヴィの時に散々泣かされたんだもの)
セルカークは脚の包帯を巻くと「何か困ったことがあったら下にいるから大声で呼べ。いいな。じゃああやすみ」そう言ってさっさと部屋から出て行った。
「はい、おやすみなさい先生」
(あれ?何もせずに出て行ったわ?あいつならこんな時髪の毛とか頬にでも触れて慰めるように近づいて来るかと思ったけど…まっ、これでもまだ公爵令息夫人なわけだし、おかしなことをすれば自分が困るってわかってるわよね。問題は離縁が成立してからかも…気をつけなきゃ)
ミモザはそんな事を思いながら眠りについた。
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