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27仕事が決まりシルヴィの兄と出会いました
しおりを挟むミモザはその後でシスターと別室で話をした。
ヴィオラは怒って帰ってしまったらしい。
「先ほどは失礼しました。お気を悪くされたなら許してください。ヴィオラはどうも貪欲な子でお金があるほど幸せだと思っているところがありまして…」
「いえ、彼女も色々あるのでしょうから…それより仕事の事ですが、私、ここで看護助手になりたいんです。看護助手だと住むところも用意していただけると伺って来たんですがどうなんでしょう?」
「まあ、そうですか。でも、ミモザさんは貴族の方ですよね?」
「ええ、ご存知だったんですか?」
ミモザの顔が強張る。あまり知られたい話ではない。
「確か前にこちらに来られたことがあったと、いえ、こんな事を言っては失礼ですがそんな仕事を希望されるとは思ってもいなかったので」
シスターはあくまでもそう思ったのは違う理由だと気を使っている。
でもヴィオラとの話が筒抜けならばもうすべてばれている。それに教会の人に話しても問題はないはずと心を決める。
「もとはキャメリオット公爵令息と結婚しておりましたが離縁が整いました。ですがそれを父が知りまして離籍させられました。ですから、今は平民となり仕事をさがしているのです。住まいも知人の所でお世話になっていてどうしても住み込みの仕事が必要なんです。ですからどうか…」
「いいんです。誤解しないで下さい。あなたを責めているわけではありません。私たちは看護助手をしたいと言ってくれる方はとても貴重で、それはもう願ってもない事だと思ってるんです。もちろん住まいはこちらで用意します。とは言っても教会の隣の古びた住まいですのでそれでも良ければここで働いて下さい」
「いいんですか?看護助手と言っても薬の調合くらいしか経験がないんですが…」
「ええ、それだけ出来れば上々です。診察は診療師がやりますから、後は包帯を巻いたり入院患者さんの着替えを手伝ったり寝具を整えたりやることは数え切れないほどですので」
「そうですか」
「あの…それでいつから?」
「はい、来週からでもいいですか?」
「まあ、いいんですか?助かります。では、そのようにしましょう。それで住まいはお困りではないんですか?」
「はい、一応友人にも都合があると思いますので、来週からで大丈夫です」
「わかりました。では月曜日の午前中でいいですか?」
「はい、それでお願いします」
「では着替えと身の周りのもの。例えば櫛とか本などだけお持ち下さい。その他のものはすべてこちらで用意出来ますのでご安心ください」シスターがにっこり微笑んだ。
「そうですか。助かります。ではよろしくお願いいたします」
ミモザはほっとして教会を後にしようとした。
「げっ!」カエルを踏み潰したような声が出た。
表にヴィオラがいることに気づいたのだ。かなり苛ついているようで腕組みをして行ったり来たりしながら中を伺っている。
(やだ!あの人私を待ち伏せしてるの?もう、一体どういう神経してるんだろう。まっ、結婚したとわかってもああやって男にへばりついていたくらいなんだから、どんな人かなんてわかってるじゃない。ああ~嫌だ。仕方がない別の出口を探してみよう)
ミモザはくるりと向きを変えると建物の裏手に回った。
裏手には墓地があってその向こうに小さな門が見えた。
「良かった…」
ミモザは墓地を向けて出口に向かう。
その時墓地にお参りしている男性が見えた。
ちらりとその横顔を見る。
「えっ?」
言いようのないざわめき。
(この人…シルヴィのお兄さんに似てる。ううん、あれから21年も経ってるのよ。かなり年を取ったはず…確か45歳になってるはずよね。でも…でもあの面影は…)
思わず脚を止めてその横顔を食い入るように見つめてしまう。
「あの…なにか?」
ミモザの視線に気づいたのかその男性が声をかけて来た。
シルヴィと同じ栗色の髪は短く切りそろえられ翠色の瞳がこちらを見据える。
(ああ…間違いない。あの高い鼻梁、少し下がった眉、そして右眉の上にあるほくろ。あれは間違いなく私の兄のアランだわ)
今すぐに駆け出して「お兄様、私です。シルヴィです」と言いたい。
でも、シルヴィは死んでいて私は全くの別人。彼女の生まれ変わりだと言っても信じてもらえるはずもない。
でも…でも…
「いえ、お墓参りですか?」
「ええ、両親と妹の…あなたも?」両親?父と母が亡くなった?それに妹は私の事…
あまりにショックなことを聞いて一瞬めまいがしてよろめく。
「おい、大丈夫か?顔が真っ青だ。少し…そうだ。教会で休ませてもらった方がいい」
アランが駆け寄って来てミモザを支えてくれる。優しかった兄の温もりが伝わって来てミモザは思わずその腕に身を預けるが…
いけない。
「…いえ、大丈夫ですから」
身を起こして彼から離れる。
「でも…」
「いえ、ほんとに大丈夫ですから。ありがとうございます。お参りのお邪魔をして申し訳ありません。失礼ですがご両親はいつ?」
こんな事をいきなり聞くのは失礼だと承知で。聞かずにはいられなかった。
「6年前の疫病で…薬剤が間に合わなかったんだ」
ミモザは疫病と聞いて、ああ‥と思い出す。
両親からあの時は大変だったと聞いている。我が家はキャメリオット公爵家の領地内だから薬剤が確保してもらえたが他の領地は間に合わなかったところがたくさんあったと聞いた。
「そうですか…あの、もし良ければお参りさせて頂いてもよろしいですか?」
アランは一瞬驚いた顔をしたが、すぐに「ええ、もちろんです」そう言って墓参りを許してくれた。
ミモザはシルヴィの両親の前で跪き手を合わせる。
隣には自分の名前を刻んだ墓標があり何とも言えない気持ちになったが、すぐに気を取り直して心の中で両親に話しかけた。
(お父様。お母様。私です。シルヴィです。実は私、生まれ変わって今はミモザと言うんですよ。驚きますよね。生前あなた達を悲しませたこと許してくださいね。もし天国で私を探していたらごめんなさい。私は天国にはいません。生まれ変わって新しい人生を歩んでいるんです。私もつい最近そのことを思い出したばかりでびっくりでしたんですけど…この一年ほんとに嫌な事ばかりでした。でも、ここでおふたりに会えたのはきっときっと…)
そこまで思うともう我慢の限界だった。
涙がとめどなく溢れた。悲しみやうれしさや悔しさや後悔。色々な感情が雪崩のようにミモザの身体の奥から流れ出した。
「うっ、うっ、うっ…ぅぅぅ…」
「おい、大丈夫か?やっぱり少し休んだ方が…」
アランがミモザが泣いていると気づいて慌てる。
手を差し伸べようとするが触れていいのかとその手は空を彷徨いおたおたとしている。
ミモザははっと自分がミモザだったことに気づいてそれこそ涙や鼻水を袖でㇰシャリと擦りとった。
「あ、あの…違うんです。ここに来る前にやっと仕事が決まってそれでうれしくって…すみません」
「そうか。ならいいんだ。俺はアラン・ペルヘルム子爵だ。怪しいものではない。国防院で働いている」
アランは気を使ったのか少し下がった眉をさらに下げて言った。
その顔は、泣くじゃ来る女性に何といえばいいんだ?とでも言いたげだ。
ミモザははっとこの状況に気づいて、急いでこくんを首を折り腰を折り曲げた。
「申し訳ありません。子爵様とは知らず失礼しました。私はミモザと言う平民です。お気遣いありがとうございます。では失礼します」
ミモザは急いでその場を立ち去る。去り際にもう一度両親のお墓に心の中で声をかけた。
(お父様。お母様。ここで出会えたこと本当にうれしく思っています。きっとおふたりは私を元気づけようとされたんですね。ええ、きっとそうですね。私、頑張りますから!また、会いに来ますねお父様。お母様…)
「しかし…驚いたなぁ」
小さな門を出て街中に向かって歩き始める。
(ずっと気になっていた。いつかペルヘルム領に行ってみようとは思っていたが、両親が亡くなっていたとは…
でも、兄はすごく元気そうだった。子爵と名乗ったから父の跡を継いだのだろうか。それに国防院で働いているなんてすごい)
兄は元気にやっていると分かってすごくうれしくなった。
(ほっとしたらお腹が空いたなぁ…)
ミモザは街の屋台で初めて食べ物を買った。
紙にくるんである揚げた肉で、これが食べながら歩くとことのほか美味しかった。
ミモザはもう一度戻ってもう一本追加で肉を買って食べた。
ふと思い出す。セルカークに帰ったらいつ出て行くって言おうか…そんな事を考えながら診療所を目指した。
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