悪夢から逃れたら前世の夫がおかしい

はなまる

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28セルカーク捕まる

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 ミモザは診療所に帰ってからいつここを出て行くと言おうかチャンスを伺った。

 ここを出て行くまで後3日ほどであまりゆっくりはしていられないが、あまり早く行って引き留められると出て行くのが辛くなるとも思った。

 (どうして私が…あんな奴どうでもいいのに…でも、彼の優しさを知ってしまった。いつも私を認めてくれて、いつも寄り添ってくれて、いつも…そんな訳ないじゃない)

 否定しても否定しても彼の事が気にかかってしまう。

 そんな気持ちに蓋をするためにもここから早く出て行かなくてはならない。

 なのに…そんなときに限ってなのか、その日はいつになく忙しくセルカークもテルヒさんも手が離せなく夜には往診も出入って言い出せなかった。


 翌日はセルカークは疲れているだろうと思いミモザは張り切って朝食を作っていた。

 「ふんふんふん…♬」

 セルカークに朝食を作っていると思うと何故か知らず知らずのうちに鼻歌が出た。

 
 セルカークはいつもの時間に起きてキッチンに現れた。

 「ミモザさん、どうした?もう起きたのか?何だか楽しそうだな」

 「あっ!先生こそお疲れなのに、朝食私が作りますからもう少し休んでいて下さい」

 ミモザは最近、くしゃくしゃの黒髪のままで髭もまだ剃っていない彼になぜかときめきを覚えてしまう。

 その何気ない飾らない仕草に何とも言えない色気を感じてしまうのだ。

 (私って中年の親父が趣味だとは知らなかった。ううん。きっと前世を思い出したからよ。

 ほら、きっと前がひどかったからそのギャップがあり過ぎて、すっごくいい人に思えるのよ)

 ミモザは必死にそんな言い訳を探す。

 「なんだ。心配してくれてるのか?何、大丈夫だ。今までだってこれくらいいつもの事だったし、今はミモザさんもいてくれるんだ。寧ろこっちが感謝してるくらいだ」

 「そんな…行くところのない私を置いてくださって私が感謝してますよ。あの…そ、そのことなんですけど…」

 (この際一気に話してしまいなさいよ)

 「もういいって、お互い利益になってるって言いたいんだろう。おっ、何か焦げてないか?」

 「えっ?あっ、やだ!もぉ、どうしよ~」

 焼いていたベーコンが焦げて煙を上げている。ミモザは慌てたので鉄板に思いっきり触れてしまう。

 「きゃっ!あっつぅぅぅ!!」

 「ばか!手を冷やせ」

 セルカークが飛んできてミモザの手を桶の水の中につける。

 「先生それよりベーコンが」

 「いいから、任せろ!」

 セルカークが火を止めて、もうもうと煙る中からベーコンを火ばさみで挟んで取り除く。

 「これでいい。手は?見せてみろ」

 セルカークはすぐにミモザの手の甲を見る。

 「ああ~水膨れになったじゃないか。いいか、そのまま冷やしておけ、すぐ薬を取って来る」

 手伝うつもりが余計な事になってしまった。

 そのまま手を冷たい水の中で冷やしながら炭になったベーコンを恨めしく見る。


 セルカークが薬を持って来てくれてミモザは椅子に座らされた。

 冷えた手をそっと持ち上げられ水膨れになった傷に優しく薬を塗られる。

 その指先に感じたこともない羞恥を感じて思わず手を引こうとした。

 「じっとしてろ。痛いか?でも、少しの間我慢しろ」

 ぶっきらぼうだが、その扱いは途方もなく優しい。

 包帯を巻く手も傷に触れないようにそっとそっと手を添えてそれでいてしっかり巻かれる。

 ミモザの頬はいつしか真っ赤になりそれに気づかれたくなくて俯いたままで。

 「よし!これでいいだろう。後は午後と寝る前に薬を塗ること。いいな?」

 ミモザは俯いたまま頷く。

 「どうした?痛むのか?」

 ミモザは首を横に振る。

 「ミモザ…さん?」

 セルカークの手がミモザの肩を掴んで顔がかがめられミモザを覗き込んだ。

 「何でもないんです。先生は食事をして下さい。私は少し休みます。いえ、心配しなくていいですから!」

 どうしようもないほど心臓がドクドクして彼に顔を見られた途端、まるで恋をしているみたいに胸がときめいた。

 ミモザはそれだけ言うと椅子から立ち上がりキッチンから飛び出した。


 (なんなの?これ?セルカークは憎き仇で、こんなおかしな気持ちになるなんておかしいのに…もう、いやだ。こんな所一日も早く言わなくちゃ…)

 午後からは薬室の片づけを頼まれてミモザは棚の上の方から床下まで薬の整理をした。

 もちろんセルカークとは目を合わせたりせずに。

 おかげで薬になりそうな薬草が瓶にあるだけと分かって何とかしなくてはと思うは目にもなり、とても出て行く話を切り出せなくなった。


 その夜だった。

 夜中に下で大きな物音がしてミモザは飛び起きた。

 恐る恐る下に降りて行くとセルカークが立っていた。

 「先生今の音は?」

 「わからんが、物捕りじゃないかと思う。ったく!家に入ったって捕るものなんかないってわからないのか?あれを見ろ!」

 診察室や薬室が荒らされていた。

 「ひど~い。これって…捕られたものはないんですか?」

 セルカークがぐちゃぐちゃになった机の引き出しや倒れた椅子を直しながら周りを見回す。

 「ああ、捕るものなんかないからな…ミモザさんはいいからもう寝ろ。後は明日にしよう」

 「ええ、おやすみなさい先生」


 翌朝、朝食後しばらくして下におりて行くと信じられない事に…

 そこにシルヴィの兄アルクが来ていた。

 ほかにも数人の騎士隊もいておまけにセルカークは拘束されている。

 驚いたミモザ。

 「先生、何があったんです?」

 「俺にもさっぱりわからん」セルカークは困った顔で答えた。


 「ミモザさん?どうしてここにいる?」アルクが驚く。

 「私、今、ここで厄介になってるんです。仕事を探してたのもここを出るつもりで…」

 「じゃあ、君は診療所の彼とはどういう関係なんだ?こいつがどんな奴か知ってるのか?」

 アルクは眉根を寄せてセルカークを指さす。

 (まあ、それはそうだわ。何しろ妹をあんな目に合わせた男だもの。兄のアルクにしてみれば憎い相手以外の何者でもないわね)

 ミモザは答えに困る。


 「おい、それはいくらなんでも酷いんじゃないか?彼女はしばらく預かっているだけで俺とは何も関係ない!」

 ミモザが何か言おうとする前にセルカークがそう言った。

 「そうか。ではセルカーク・ペルサキス一緒に来てもらう。君には違法薬物の栽培と販売をしていると通報があった。取り調べは国防院で行う。さあ、行くぞ」

 「でも‥そんな事、先生がするはずがありません」

 アルクの唇が歪む。はっ?何言ってるんだ?とでも言いたげだ。

 そこにセルカークが言葉を放つ。

 「心配するな。俺は何もしていない。容疑はすぐに晴れる。ミモザさんテルヒにしばらく休むと伝えてくれ。後、戸締りもしっかりするように。いいな?」

 「でも…先生」

 「心配ない」

 「ったく、お前なんか調べればすぐに証拠が出るに決まってる。さあ、連れて行け!」

 アルクは怒鳴るとセルカークの背中を強く押した。

 セルカークは騎士隊に連れられて行った。

 薬室の薬剤はほとんど押収されて棚は空っぽになって床下まで見られていた。



 アルクはセルカークが連れて行かれるのをも届けるとミモザに話しかけた。

 「いや、驚いた。ミモザさん悪い事は言わない。あんな奴と関わっるんじゃない。君は何も心配しなくていい。なるべく早くここから出て行った方がいい」

 ミモザは何とも言えない気分でその話を聞いた。

 「その…仕事が決まったと言ったがどこに?」

 「えっ?ああ、教会の診療所ですけど」

 「ああ、それはいい。さっきも言ったが一日も早くここから出るんだ。いいね?」

 「ええ、そのつもりです」

 「そうか。それは良かった。そうだ。教会で働くならまた会えるな。では失礼する」

 アルクはほっとしたらしく安心したように出て行った。

 ミモザはアルクの言いたいことがよくわかっていた。シルヴィと同じ二の舞にならしてはいけないと心配してくれたのだろう。

 (それにしてもひょっとしたら私はまた騙されてたの?セルカークがそんな事をしてるだなんて…私ったらなんてばかなのよ)

 ミモザはセルカークに心を許し始めていた自分に怒りを覚えていた。



 

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