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16副隊長ラヴァード
しおりを挟む俺は寝室を出ると着替えを済ませて執務室にラヴァードを呼んだ。
ラヴァードは今から10年ほどまえだったか、15歳の頃この辺境にやって来たキアラルダ人だ。孤児で盗賊に拾われたかでチェスナット辺境領で街を荒らしているところを捕らえた。
盗賊の親玉はとんでもない悪人であちこちで人殺しをしては盗みを働いていたらしくキアラルダ国に引き渡した。
ラヴァードはまだ子供だった。俺はここで真面目に暮らしてみないかって話を持ち掛けるとラヴァードはそうしたいと言った。
だから辺境騎士団に入れた。辺境伯騎士団には他にもそんな奴らが騎士団にはたくさんいたし腕っぷしのいい傭兵も噂を聞いてやって来ていた。
俺の辺境騎士団では身分は関係ない。実力で出世をさせて行くシステムだ。
だからこそもっと強くなろう、もっと戦略に詳しくなろうってみんなが頑張る。
そんな中ラヴァードは頭角を現してとうとう副隊長にまで上り詰めた。
「隊長。お呼びですか」
「ああ、ラヴァード話がある。実はフレイシアの事だが、王都の罪状は真っ赤なうそだった。彼女は何も悪いことなどしていない。反対にジェリクに利用され捨てられた被害者だ。だが、このまま辺境領から放り出せばまたジェリクが何をするかわからん。だから保護の為に俺の婚約者という事にする」
ラヴァードが眉に皺を寄せる。
「隊長大丈夫ですか?あの女に何か飲まされたんじゃ?昨晩はあんなに息巻いてたじゃないですか。あの気概はどうしたんです?これじゃ騎士団に示しがつきませんよ!」
白金の髪が揺れて緋色の瞳に怒りが灯る。
「だが、彼女は魔力が使えるんだぞ。魔物を倒すには彼女がいた方がいいだろう?」
昨夜の彼女の寝顔を思い出すとつい顔が緩みそうになった。いかんいかん。急いで顔を引き締めてラヴァードを見返す。
「それは‥ですが婚約者にしなくても罪人として働かせればいいじゃないですか!」
ラヴァードは引かなかった。まあ、今までの俺ならそうしていたと思う。
「だが、王都の報告書は嘘だと「どうして嘘だと分かるんです?」
どこまでも食い下がるよなお前は。
仕方がない。
「そ、それは昨晩彼女が‥純潔だったからだ!フレイシアはふしだらな聖女でもないましてや淫乱聖女などとありもしない事を報告書に書いたジェリクに問題があると分かったからだ!これでいいだろう」
もしこれが本当だったらどんなに良かったか。おい、俺は何を考えている。自分でそんな考えに驚く。
ラヴァードは、顔をしかめた。
「はっ!純潔だったからあの女に婚約者になれと?たったそれだけで?」
「それだけって‥ああ、そうだ。悪いか。俺だって女を好きになってもいいだろう?まあ、お前はそんな男じゃないんだろうが」
っていうか何言ってんだ俺。
ラヴァードは、俺にうわをかけて女嫌いだった。
母親に捨てられ酷い暮らしの中で女の汚い部分を見知ったらしく、女は汚らわしい生き物と認識している。
まあ、盗賊の仲間じゃ、知っている女は娼館の女くらいだろうからな。
だがな、世の中にはフレイシアのように素晴らしい女もいるんだ。だが、ラヴァードにそれを分かれと言うのは無理があるかもな。
第一にこの辺境にはそんな素晴らしい女性がいない。
平民は生きて行くのに精いっぱいだし、娘は年頃になると街を出て行くか良くてこの辺境の男と結婚する。
いわゆる空きがないって状態だ。
街には騎士相手の娼館があるがそりゃもう酷いもんだ。王都に出て行って擦れた女が帰って来た女ならまだましだ。王都で酷い目に合って売られた女なんか男はただの金ずるとしか思ってない。下手すりゃ根こそぎかすめ取られる。
それも仕方のない事だと思う。
まあ、人身売買と分かった時はこっちも女を救い出す手立てを打ってはいるが一度そんな目に合うとまともではいられないらしく結局娼館に戻ってしまう女が多いんだが。
俺はもちろん娼館なんかにはいかない。今までだって女には縁がなかったと言うか興味がなかったからな。
ラヴァード。お前にはわからないんだ。フレイシアがどれほどの女かってことが!
ラヴァードに悪態をつかれながら話をしているうちに俺はもやもやした気持ちが何なのかやっと気づいた。
ああ‥そういう事か。俺はフレイシアが好きなんだ。
フレイシアに再会した途端何だかおかしかった。以上に嫉妬にかられるっていうか‥思えば俺はずっと彼女を気にかけていたんだろう。
今ははっきり気づいた。俺はフレイシアが好きなんだって。だから彼女に婚約者になってほしかったんだが‥
まあ、あんなことをしたんだ。今すぐ俺を信じて欲しいなんて無理だろう。
でも、必ずフレイシアを振り向かせて見せるぞ。
「ったく、何やってるんです?あんな女に‥」
いきなり思考を遮られた。
「まあ、そう言うな。ラヴァードお前が頼りなんだから。フレイシアは騎士団に協力したいって言ってる。何か困った事でもあれば仕事をやってくれ。頼んだぞ」
これ以上ラヴァードに何を言っても無駄ってやつだ。それよりフレイシアがやりやすいようにした方がいいってものだと気持ちを切り替えた。
「俺は忙しいんですよ。そんな暇ありません。暇つぶしはこの屋敷の中でさせて下さいよ」
「ああ、危険な事はさせる気はない。安心しろ」
「だったら最初からそう言って下さいよ。じゃ俺忙しいんで失礼します」
「ああ、すまん」
ラヴァードは忙しそうに執務室を出て行った。
フレイシアには悪いがしばらくは屋敷で大人しくしていてもらおう。
俺は部屋を出てロバートを呼ぶ。
「ロバート、悪いがマリンをフレイシアの世話係に頼む。フレイシアは俺の婚約者だ。そのつもりで接してくれ」
ロバートは俺がこの辺境に来た時から執事をしてくれている。前の辺境伯の執事補佐をしていた男で彼には色々教わった。今でもこの辺境領のほとんどを担っていると言っても言い過ぎじゃない。
「はい、旦那様。ですがマリンは王都からお越しの令嬢のお世話が出来るかどうか」
「心配ない。フレイシアも元はグラマリンの聖教会の娘だ。王都に行っていたが貴族ではない。その辺りは気構えなくていい。食事や掃除などの世話でいい。頼んだぞ」
「わかりました。マリンにもそう伝えます」
「ああ、王都では色々あったらしい、彼女に必要なものがあれば何でも用意してやってくれ」
「わかりました。旦那様では今から朝食をご一緒されますか?」
ロバートにそう言われて朝食がまだだったと気づく。
俺としたことが今まで女の相手なんかしたことがなかったからな。
「ああ、マリンに支度を頼んでくれ。フレイシアと朝食をとる」
「ああ、旦那様にもやっと春が‥ロバートは夢を見ているようです」
「大袈裟だな。そんなに俺は酷かったのか?」
「ええ、もう旦那様は生涯お一人かもと覚悟を決めかけておりました。そうだ。婚約の祝いをしなくてはなりませんね。騎士団にも知らせて辺境領のあちこちにも触れを出しませんと‥」
ロバートの喜びようと言ったら‥まあ、絶対フレイシアを落としたいと思ってはいるが‥
「ロバート。それはまだ早い。フレイシアはここに来たばかりなんだ。少し落ち着くまで時間が必要だ。なっ、頼んだぞ」
俺はロバートの暴走を止めるのに必死だった。
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