13 / 319
第一章 転移、そして自立
第十二話 引っ越し
しおりを挟む廃寺の整備を始めて5日が経ち、どうにか生活ができるようになってきた。
しかし、まだ生活をするにはどうしても必要なものがあった。
それは水である。
みずがめを使って川から持って来ればすぐにでも生活ができるが、ここから川までは少しある。
おまけに子ども主体の俺たちにとって、水汲みは苦行に他ならない。
できれば避けたい。
それにここは、かなり大きな寺だったのだ。
宿坊の規模を見ても最盛期には100名は優に超えた修行僧がいたと思われる。
となると、当然どこかにあるはずである井戸を探すことにした。
集団生活には欠かすことのできないものだから、庫裡のあたりから重点的に探すことにして、女性は庫裡を掃除しながら探し、俺と珊さんは外で草を刈りながら、あるはずの井戸を探した。
なかなか見つからない。
夕方になり、とりあえずは一旦の捜索を諦め、生活の拠点を置いている小屋まで戻ってきた。
「なかなか見つからないね。
本当にあるのかな」
「別に急ぐことじゃないけれど、見つけたいよね」
「見つけられなくとも、明日には引っ越しましょう。
水は川からの水汲みでどうにかなります。
きついですけれど、あそこに生活の拠点を移したほうが、このあとの作業もはかどりますしね」
「俺、水汲み、大丈夫、それくらいなら俺やる」
「珊さん、ありがとうございます。
最初はお願いしますが、苦労はみんなで分かち合いたいので、珊さんばかりにはさせません」
「嬉しい、でも、俺、苦労じゃない。
大丈夫」
「そうですね。珊は力持ちですものね。
明日からお願いね」
「お嬢、俺、頑張る」
とりあえず生活の拠点を明日からあの廃寺に移すが、生活の糧を稼ぐ炭作りは釜を作った川原でやるしかない。
生活が落ち着いたら、寺の周りだけでどうにかしたいな。
それと、俺ら以外に見つからないようにもしないと色々厄介なことになるかもしれないし、一向宗の末寺に見えるような工夫はしないとまずいだろうな。
たとえ住職がいなくとも、外からは寺のように見える工夫をしなければならないな。
女子供がほとんどなので、充分に気をつけていても足りないくらいだから、安全面での工夫もしないとな。
考えることが多すぎる。
まずは腰を落ち着けることを最優先で考えよう。
あとの事はそれから考えればいい。
いざ引越しとなって改めて持ち出すものを確認すると、これが結構あるのだった。
多くは張さんの持ち物である衣装箱?、所謂いわゆる宝箱のイメージのやつと柳行李がある。
張さんの言うところによると、箱の中はだいぶなくなってきており、大したものは入ってはいないそうだが、それでも子どもが持つには重そうだった。
それに葵のところからの大工道具の入った箱もある。
それらを運べるのが主に珊さんだけなので、手分けをしながら何度でも往復しての引越しとなった。
これからの商いのこともあるので、大量に荷を運べる大八車の導入を考えたい。
とりあえず今は人力だけが頼りなので、重いものを珊さん頼み、軽そうなものをそれ以外で、手分けして何度も往復しながら運んだ。
流石に引越し作業が終わったのは夕方になってからだった。
「今日はもうできないわね。
終わりにしましょう」
「ハイ、張さん。
そうしましょう。
今日は食事して休みましょう」
まだ囲炉裏が見つからないのと庫裡の掃除が済んでいないので、外で焚き火をしながら食事の準備をしてもらった。
本当に少しずつだな。
何もない状態から生活基盤を作っていくのは大変だ。
張さんの言う通りじゃないが、焦らずに一歩ずつやっていくしかない。
当面の現金収入の目処である炭の製作と販売は問題はないのだから、それだけでも良しとしよう。
明朝から全員で早速作業にかかった。
昨日の続きで井戸の捜索を最優先で行っている。
ちょうど昼を過ぎたあたりで、庫裡の裏手に草木が絡まって小山のような状態の場所を見つけた。
早速のこぎりなどを使って草木を取り除いていく。
全部取り除けた時には夕方になっていた。
石が上手に積まれていて、まるで石で何かを守っているような場所だった。
ここの場所の調査は明日だな。
大した進展もなく1日が過ぎた。
翌日は朝から全員で、昨日見つけた石積みの場所の調査を行った。
上から注意をしながら石を取り除いていった。
すると中からきちんと枠組みをされている井戸が、まるで積まれた石で保護されているような状態で出てきた。
「ここから、人が離れる時に井戸を石で保護していったのだな。
使えるといいけれど、どうだろう」
恐る恐る井戸の中を覗いてみた。水は汲み取れそうだったし、石で保護されていたため、中の汚れや植物による破損等は見つけられなかった。
「どうにか使えそうですね」
「そうだけど、井戸の掃除はやらないとダメだな。
でも、どれくらい使ってなかったのかな。
まさか100年ってことはないですよね~」
「わからないわよ。
井戸の掃除に使えそうなものを探さないとね。
それに一度井戸の水を抜かないといけないのだけれど、その道具も探さないとね。
井戸があるのだから、どこかにあるはずよ」
「そうですね。
井戸の捜索はこれで終わりですから、次は生活のために井戸の掃除ですね。
手分けして道具を探しましょう」
流石にその日には見つけられなかったが、翌日庫裡の掃除をしていた幸が、庫裡に続く小さな部屋の扉を見つけた。
「空さ~ん。
ここになにかあるよ~」
その声で全員が集まり、その扉を開けて中に入った。
そこは予想通り庫裡で使う道具類の保管場所のようであったが、道具類のほとんどが長い年月で腐ちて使い物にならなかった。
せいぜい石臼などの石でできたものだけが使えそうであった。
「桶はあるようだけれど、使えそうにないわね。
あ、壊れた。
やっぱり使えなかったわね」
「買い揃えるしかないか。
今、お金はどれくらい残っていますか」
「先日の市で炭がいい値段で売れて、炭1俵で銀が1匁と20文といったところだったから、全部で銀6匁くらいかしらね」
「それで買えるだけのものを買いましょう。
買うだけだから桑名で済みますね。
明日にでも買いに行きましょう」
明日に張さんと珊さんに桑名での買い物をお願いした。
残った俺たちは、寺の掃除の続きをしていた。
「ほ~、これは立派な寺じゃな。
な~、玄奘よ。これなら帥では確かに格が足らぬわ。
よし、わかった。
ワシが住職となろう。
玄奘は副住職として、ここに拠点を移せ。良いな」
玄奘さんが上人様を連れてこの廃寺まで来ていた。
「ん、空。張さん達がおらぬが、どこへ行ったのか」
「あ、玄奘様。それに上人様までいらしたのですか。
張さんと珊さんはいま、桑名まで買い物をお願いしております」
「なに、買い物とな。
して、何を」
「この寺にある井戸を昨日見つけたのですが、見ての通りこの寺はかなり長いあいだ使用されていなかったので、そのままじゃ使えません。
掃除をしようにも全く道具がなく、その道具の買い物をお願いしております」
「空よ。帥の頼みのことだが、確かにこの寺は立派で玄奘では格が足らぬ。
そこでワシが住職となり、玄奘に副住職を努めさせようと思うのじゃがどうだろう」
「え、上人様に住職をして頂けるのですか。
それならば、大歓迎です。
よろしくお願いします。
でも、この寺はまだ……」
「空よ、慌てるな。
ワシとて、いきなりここに居住するわけには行かん。
ワシは名ばかりの住職となるので、拠点は変わらず願証寺のままじゃ。
玄奘を副住職としてここに拠点を移させる」
「それでは玄奘様がここにお住まいに」
「そうじゃが、それもあまり今の生活と変わらぬ。
玄奘は今までのように各地を転々と托鉢に参っておるしな。その生活のまま、玄奘も名ばかり副住職となるが、しばらくはしょうがないじゃろ。
ワシも、時期を見て移るとする。
それでよいかな」
「上人様、充分なご配慮です。
よろしくお願いします」
「して、空よ。この寺なら人手が必要じゃろ。
孤児の出で信者でない者を数名、寺男としてここに送りたいのじゃが、引き受けてもらえんか」
「え、寺男ですか?」
「なに、心配はいらん。
ここでは帥が主(ぬし)じゃ。
帥の指示に従うように言いつけておく。
少しでも今はあそこに関係の薄い人間は近づけておきたくないのじゃ。
目的は葵たちと一緒だ。
引き受けてはくれぬか」
「はい、分かりました。
で、どうすれば……」
「今度、ワシか玄奘にでも連れてこさせる。
帥は何もする必要がない。
となれば色々ここに持ってこれるな。
空よ、なにか必要なものはあるか。
寺から持ってこれるようになるでな」
「それでは上人様。大八車をお願いできますか。
商売をする上で、どうしても必要になります」
「それくらいならば大丈夫だ。
よし、わかった。
今度来るときにでも他に色々持ってこよう」
「ありがとうございます。
今度上人様がお越しになられるまでには、お休みができるまでにはしておきます」
「何、気にするでない。
玄奘、用は済んだ。
帰るとするぞ」
「上人様、分かりました」
上人様はものの数分だけ確認し、我々にとってとてつもなく大きな援助をしてくれることになった。
これで玄奘さんがここで生活をするようになれば大丈夫だ。
少なくとも神戸や北畠あたりでは、一向宗の寺には手は付けられない。
しばらくの安全は手に入れた。
できれば長島の一揆だけは防ぎたい。
俺の知る限り、時間はまだある。
とりあえず今は俺たちが安全に過ごせる環境を、少しでも増やしていくことだ。
大丈夫、まずは一歩ずつだ。
今は順調すぎるくらいうまくいっている。
焦らずやっていこう。
22
あなたにおすすめの小説
幼馴染達と一緒に異世界召喚、だけど僕だけ別な場所に飛ばされた先は異世界の不思議な無人島だった。
アノマロカリス
ファンタジー
よくある話の異世界召喚…
スマホのネット小説や漫画が好きな少年、洲河 愽(すが だん)。
いつもの様に幼馴染達と学校帰りの公園でくっちゃべっていると地面に突然魔法陣が現れて…
気付くと愽は1人だけ見渡す限り草原の中に突っ立っていた。
愽は幼馴染達を探す為に周囲を捜索してみたが、一緒に飛ばされていた筈の幼馴染達は居なかった。
生きていればいつかは幼馴染達とまた会える!
愽は希望を持って、この不思議な無人島でサバイバル生活を始めるのだった。
「幼馴染達と一緒に異世界召喚、だけど僕の授かったスキルは役に立つものなのかな?」
「幼馴染達と一緒に異世界召喚、だけど僕は幼馴染達よりも強いジョブを手に入れて無双する!」
「幼馴染達と一緒に異世界召喚、だけど僕は魔王から力を授かり人類に対して牙を剥く‼︎」
幼馴染達と一緒に異世界召喚の第四弾。
愽は幼馴染達と離れた場所でサバイバル生活を送るというパラレルストーリー。
はたして愽は、無事に幼馴染達と再会を果たせるのだろうか?
マンションのオーナーは十六歳の不思議な青年 〜マンションの特別室は何故か女性で埋まってしまう〜
美鈴
ファンタジー
ホットランキング上位ありがとうございます😊
ストーカーの被害に遭うアイドル歌羽根天音。彼女は警察に真っ先に相談する事にしたのだが…結果を言えば解決には至っていない。途方にくれる天音。久しぶりに会った親友の美樹子に「──なんかあった?」と、聞かれてその件を伝える事に…。すると彼女から「なんでもっと早く言ってくれなかったの!?」と、そんな言葉とともに彼女は誰かに電話を掛け始め…
※カクヨム様にも投稿しています
※イラストはAIイラストを使用しています
日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-
ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。
1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。
わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。
だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。
これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。
希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。
※アルファポリス限定投稿
蒼穹の裏方
Flight_kj
SF
日本海軍のエンジンを中心とする航空技術開発のやり直し
未来の知識を有する主人公が、海軍機の開発のメッカ、空技廠でエンジンを中心として、武装や防弾にも口出しして航空機の開発をやり直す。性能の良いエンジンができれば、必然的に航空機も優れた機体となる。加えて、日本が遅れていた電子機器も知識を生かして開発を加速してゆく。それらを利用して如何に海軍は戦ってゆくのか?未来の知識を基にして、どのような戦いが可能になるのか?航空機に関連する開発を中心とした物語。カクヨムにも投稿しています。
現代錬金術のすゝめ 〜ソロキャンプに行ったら賢者の石を拾った〜
涼月 風
ファンタジー
御門賢一郎は過去にトラウマを抱える高校一年生。
ゴールデンウィークにソロキャンプに行き、そこで綺麗な石を拾った。
しかし、その直後雷に打たれて意識を失う。
奇跡的に助かった彼は以前の彼とは違っていた。
そんな彼が成長する為に異世界に行ったり又、現代で錬金術をしながら生活する物語。
もし石田三成が島津義弘の意見に耳を傾けていたら
俣彦
歴史・時代
慶長5年9月14日。
赤坂に到着した徳川家康を狙うべく夜襲を提案する宇喜多秀家と島津義弘。
史実では、これを退けた石田三成でありましたが……。
もしここで彼らの意見に耳を傾けていたら……。
帰って来た勇者、現代の世界を引っ掻きまわす
黄昏人
ファンタジー
ハヤトは15歳、中学3年生の時に異世界に召喚され、7年の苦労の後、22歳にて魔族と魔王を滅ぼして日本に帰還した。帰還の際には、莫大な財宝を持たされ、さらに身につけた魔法を始めとする能力も保持できたが、マナの濃度の低い地球における能力は限定的なものであった。しかし、それでも圧倒的な体力と戦闘能力、限定的とは言え魔法能力は現代日本を、いや世界を大きく動かすのであった。
4年前に書いたものをリライトして載せてみます。
日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる