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第一章 転移、そして自立
第十三話 廃寺での生活
しおりを挟む張さんたちが帰ってきたが、上人様たちとは完全に行き違いとなってしまった。
「あ、お帰りなさい。
で、物はありましたか」
「ただいま。桶を数個と竹箒の小さいのをいくつか買えたわ。
あ~、それと荒縄も買ってきたから、これだけあれば井戸の掃除はできますよね」
「そうですね、縄があれば井戸の中に入れますし、桶と縄を結ぶことで井戸の中の溜まった水を一度汲み出せます。
準備が出来たら掃除しましょう。
あ~そうだった。ちょうど張さんたちと行き違いに上人様と玄奘様が訪ねてきてくれまして、しばらくしたら玄奘様がここを拠点としてくれるようです。
ここも賑やかになりますよ」
「会えなくて残念でしたが、それは楽しみですね。
私たちも覚悟を決めて、ここに根を下ろしましょうかね」
「それは大賛成です。
せっかく仲良くなれたのに別れるのは偲びないです。
是非そうしてください。
私に出来ることでしたらなんでも協力しますから」
「ウフフフ……、そう言ってもらえると嬉しいわね。
その時には、よろしくね」
「空さ~ん、見てみて」 と、庫裡を片付けていた幸が大声を上げてきた。
「なんだなんだ」 と言って、庫裡にいる幸のところまで来た。
幸は庫裡に続いている倉庫の中にいて、長いはしごを見つけたようだった。
「こんなの見つけたよ、これなんだかわかる?」
「これは、はしごだな。
幸ははしごを見たことなかったのか。
それもかなり長いやつだ、多分井戸の掃除の時にはこれを使っていたようだな」
「うん、初めて見た。
これ、使えるかな」
「傷んでいなさそうだし、使えるかもしれないな。
外に出してみよう」
珊さんに協力してもらい、長いはしごを外に出して点検を始めた。
長い間使われていなかったようだが、どこにも傷んだところはなかった。
「きちんと保存しておけば保つものだな。
下手をすると100年は使ってなかったものだぞ。
でも、使えそうだ。
気をつけて使ってみよう」
珊さんにはしごを井戸に下ろしてもらった。
長さがちょうど良く、しっかり底まで届くはしごだった。
「やはり、このはしごは井戸さらい用の物だったんだな。
いいものを見つけた。
デカしたぞ、幸」 と言って、さちの頭を撫でた。
幸はちょっと嬉しそうだったが、
「空さん、私のことを子供扱いしないでください。
年だってあまり変わらないのに」 と文句を言ってきたので、張さんが吹き出した。
その日は井戸の中を点検して終わった。
十分に使えそうだし水もあまりに濁ってなかったが、井戸さらいすることにした。
翌日総出で井戸の水を抜き、井戸さらいを行った。
かなりの重労働だったが、交代で井戸の掃除を終え、その日は終わった。
翌日からまた分かれて、張さんに葵と幸が手伝う格好で寺の中を順番に掃除をしてもらった。
落ち武者や野盗の類が怖かったので、珊さんに彼女たちの警護を兼ねて、寺の外回りの絡まった蔦などの処理をお願いした。
おれは別に急ぐわけでもなかったので、一人で炭を作っていた。
そんな生活をしていたある日、玄奘さんがたくさんの人を引き連れて寺までやってきた。
前に上人様がおっしゃっていた寺男にしては人数が合わない。
玄奘さんは後ろに男女20人くらい連れて寺に入ってきた。
以前に頼んでいた大八車2台に、米俵をいくつか載せていた。
寺に入ると玄奘さんは大声で 「空は居るか」 と怒鳴ってこられてた。
俺は炭を運んで帰る途中で、玄奘さんが怒鳴り声をあげるとほぼ同時に寺に入っていった。
流石にいきなりの人数に驚いたが、人の良い玄奘さんのことだ、きっと困っていた方を保護したのに違いないと思われた。
なにせ連れていた人たちは、17~8才の男の人が1人と同じくらいの女性2人、14~5才位の男の人3人、10歳くらいの女児5人、それ以下の女児6人と同じくらいの男児3人の、ちょうど20人の集まりだった。
「玄奘様、いらっしゃいませ。
この方たちは、俺と同じような方でしょうか」
「ん。ある意味そうだ。
この者は皆同じ部落の出でのう。
先の三河での一揆の影響でな。松平様がしきりに残党を探しておられる。
そこにもやりすぎはおってな、この者の住んでいた部落は一揆とは関係がないばかりか一向宗ではないのに松平衆の乱取りに会い、部落は全滅して親類縁者を亡くした者たちでな。近くの別の宗派の寺が一時的に匿っておったのじゃよ。
上人様がそれを知って願証寺に一時的に保護し、我にここへ連れて行くよう指示を出されたわけじゃ。
上人様が言うには、空がしっかりこの者たちを導いてくれるから安心して連れて行くが良いとな。
そうおっしゃって、急に人数が増えても困るじゃろうからと言って、持ち出せる限りの食料を持たせてくれたわけじゃ。
彼らが落ち着くまで、我も当分はここにおるでな、よろしく頼む」
「それでは玄奘様はここの副住職に御成になられて、ここを拠点になさるわけでは」
「あいにく、それはまだじゃ。
上人様の住職就任が先でないと、他の僧が入り込む危険があるそうじゃ。
それをひどく空が嫌っていることを上人様は良くご存知じゃ。
焦らぬことじゃ。
上人様に任せておけばよい」
「分かりました。
でも、しばらくは居て下さるのですよね。
それならば寺のことについて色々と教えてください。
今全員でこの寺の清掃をしておりますが、本堂や塔など我々で分からないところは手をつけられませんし、5人にこの寺は広すぎました。
連れてこられた方たちにお手伝いをお願いしても大丈夫ですか」
「それは構わん。
むしろ、どんどん指示を出してくれ。
上人様より、ここでは空の言うことに従ってくれと言われてきておるでな。
我も例外ではないぞ。
我も居る間はどんどん使ってくれ」
「流石に玄奘様をお使いする訳には行きませんが、色々とお願いはさせて頂きます。
それで勘弁してください」
「ハハハ……それで空がいいのなら我は構わん。
して、このあとはどうする」
「清掃が比較的済んでおります宿坊に皆さんをご案内します。そこでしばらくお待ち頂けますか」
「夕方には全員が揃います。
揃ったら食事の用意の前に紹介しますので、それまで宿坊で休んでいただき、旅の疲れを取っておいてください。
明日からは寺の清掃をお願いすることになります。
玄奘様がいらっしゃる間に本堂を使える状態までにしておきたいと考えております。
明日は玄奘様に本堂の清掃の音頭をとってもらいたく、お願いできますでしょうか」
「お。早速来たな。
大丈夫だ、任せておいてくれ」
「ではご案内いたします。
玄奘様も付いてきてください。
皆さんが安心致します」
「わかったわ。
お~い、聞いただろ。
宿坊で夕方まで一休みだ。
今日は夕食の用意だけしか仕事はないが、その時は手伝ってくれ」
「「「へ~い」」」
大八車を押しながら、みんなで宿坊までのろのろと移動していった。
「お~い、幸や」
「は~い」
宿坊の入口で幸を呼んで、みんなを清掃の済んでいる部屋に案内してもらった。
はじめはたくさんの人が急に訪問されているのを見て幸は驚いていたが、玄奘さんがいるのを見つけると安心して玄奘さんから順番に案内していった。
幸は玄奘さんに許可をもらって、年長の女性を数人井戸まで案内し、飲み水などの手配をしていた。
もうここは任せても大丈夫と確認し、俺はやりかけの仕事に戻っていった。
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