名もなき民の戦国時代

のらしろ

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第一章 転移、そして自立

第十四話 俺たちの商い

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 翌日は玄奘様を巻き込んで全員で本堂に来ていた。
 顔合わせは昨日の夕食時に済ませており、その後は何もせずに三々五々休ませた。
 なので朝食後にそのまま本堂前まで来て、全員で本堂の扉や窓を全て開けて空気を入れ替えた。
 その後、本堂の中の確認を俺と玄奘様とで行った。

 男衆は珊さんに預けて草むしりをお願いし、女衆は張さんに頼んで宿坊を完全に整備してもらった。

「ほ~、ほとんど荒れておらんな。
 ご本尊様もそのままじゃ。
 これなら埃を払うだけで、すぐにでも寺として機能を取り戻せるな」

「ここを去った寺の関係者の方は、すぐに戻るつもりだったのでしょう。
 どこもかしこも離れた後もしっかり守られるようにしてから去ったのでしょうが、なぜ離れたか、なぜ戻れなかったかという2つの疑問が残ります。
 どちらにしても、10年20年という単位ではなかったことは確かです。
 寺の前の木々が入口を塞いでおりましたから、少なくともそれらが育った年月はたっていることでしょう」

「うむ、そんな昔の方の残した寺じゃ、大切に使わせてもらうかの」

「はい、今後は寺をきれいにしていきます。
 玄奘様は今しばらくここに居て頂けると助かります。
 連れてこられた方たちが寺の清掃に慣れるまで、ご指導して欲しいのですが」

「それくらいは大丈夫じゃ、半月もあればよかろう。
 それくらいをめどにここに留まろう。
 その後も頻繁に顔を出すことにしよう」

「よろしくお願いします」

 外で作業をしている男衆の内、近くにいた数人を呼び、玄奘様と一緒に本堂の掃除をしてもらった。
 俺は近くの探査を兼ね、一人で炭の材料を探しに行った。

 その後しばらくこの組み合わせで、寺の色々な施設の整備をしてもらっていった。
 半月も経てば荒れ果てた寺もすっかり綺麗になり、今では誰が見ても立派な寺になった。
 もっとも寺の敷地に入らなければそうは見えないが、敷地内の清掃はとりあえずカタがついた。
 今度は寺の外周の整備だ。
 これは急ぐ必要はなかったが、男衆の仕事となりそうだった。
 流石に玄奘様もいつまでもここにいるわけにも行かず、この寺を一旦出て行かれた。

 当面は男衆を珊さんにまとめてもらい、女衆を張さんにまとめてもらった。
 ガキの俺がいきなり頭を取って色々言うと、とりあえずは従ってくれるだろうが反発を喰らいそうだったので、俺から二人にお願いしたら快く引き受けてくれた。

 仕事の全体的な配分は相変わらず俺が二人に出しているが、二人から各個人に割り振る形を取っていた。
 徐々にではあるが住環境が落ち着いてきたこともあり、商いを本格的に始動させた。

 門前の市までは基本的に張さんに頭をしてもらい、手伝いと護衛を兼ねて男衆から年長のものを2人と女衆の2人をつけて、大八車1台に詰めるだけの炭を積んで向かわせ、基本日帰りで商いを始めた。
 ここから門前までは10km弱だったので、片道2時間半かかる計算だ。
 往復で5時間はかかる。
 でも桑名でいきなりは商いはできない。本来ならば市のそばに拠点があれば楽なのだが、常設の店舗なんぞこのあたりには無い。

 祭りの出店を少しばかり立派にしたようなものがほとんどだった。
 でも流石に大きな寺の門前だ、人の出入りは少なくない。
 市もほぼ毎日立っている。
 しっかりお金も動いているので、きちんと商売をしていけば資本は少なからず貯まってくる。

 できればこの1年の間にしっかり金を貯めたい。
 いつここが暴発するかわかったもんじゃない。
 できるだけ商売に力を入れていこう。

 商売を始めて2日目に早くも問題が発覚した。
 張さんは流石に大店の娘だったこともあり、商いは順調だった。
 言葉も流暢に話せることから問題はないと考えていたが、甘かった。
 金勘定ができるのが張さんしかいないのだ。
 ほかについていった連中は、男も女も誰ひとり金勘定を任せることができない。

 正直ここに集まっている連中は、俺と張さんを除くと文字すら読めない。
 俺もあの独特のくずし字は読めないので、実質張さんしか文字は読めないのだ。
 この時代の識字率はこんなものであるが、これでは商いを大きくしてはいけないし、今も張さん一人に頼っているので、交代で休むこともできない。

 計算ができないから、買い物も頼めないということがわかった。
 すぐに、俺は対策を考えた。
 これからのこともあるので、ここにいる全員に読み書き計算を習わせることにした。

 すぐに覚えられるわけも無く、焦ってもろくなことにはならないので、まずは市で稼いだお金を使って筆記用具と紙を買った。
 流石に寺の門前である。
 それらについては簡単に手に入った。
 かなり高価だったが、買えない金額じゃなかった。

 それらを持って帰り、俺は紙にひらがなで50音順に並べたものを数枚書いた。
 数字も漢数字を書いたものを用意したが、同時にアラビア数字も合わせて書いた。
 どうせ最初から覚えるのならば、後の計算が楽になるアラビア数字も一緒に覚えてもらうことにした。

 最初は紙がもったいないので、俺の書いた文字を参考にし、そこいらに落ちている棒を使って地面で練習してもらった。
 まとめてやっても生活に支障が出るし、かと言って夜に出来る訳もなく、勉強は1日おきにして間の日に商いをしていくこととした。

 勉強は全員で臨み、俺と張さんが指導に当たった。
 最初は年長者からえらく評判が悪かったが、そこは珊さんに参加してもらい、特に男衆を黙らせた。

 俺が強く言って聴かせるよりよっぽど効果があった。
 珊さんの気持ちが心配だったが、珊さんは喜んで字を習っていった。
 珊さんの勉強が実を結んでいくと、会話も上達していった。
 今では日常会話もすんなり交わせるようになっていった。

 これには張さんも嬉しそうだった。
 当然、学習効果は幼いほうが早く、また個人差も出るが、俺も張さんも焦らなかった。

 今では1日勉強をしたら、翌日は商いに行く人とこの寺で仕事をする人に分かれ、それぞれに仕事をした。
 俺は寺に残って、葵と幸と一緒に炭を作った。
 窯の前には男の子を数人待機させ、以前のように葵と幸を交代で連れて林に入り、材料を集めていった。

 今まで炭作りは余裕があったのだが、張さんの商いのスキルが高いのか持っていった炭を毎回完売してくるので、ストックしていた炭を徐々に食いつぶす格好となり、作るほうが間に合わない状態だった。
 とりあえず、寺に残る人間が少なくても済むようになってきたこともあって、手分けして炭の材料を集めるようにしていったが、それでも間に合いそうにない。

 俺は勉強会を張さんに任せ、抜本的な解決策を探るべく一人で付近を探索した。
 できれば寺の中か、すぐそばで炭焼きを行いたい。
 移動の手間を省けるし、火の番に人を割かなくても良くなる。
 そういう気持ちで付近を探索し、窯を作り直すのに都合の良い場所を探していった。

 そう簡単にはいい場所は見つからない。
 それにいまの場所での炭焼きにも利点はある。
 炭焼きはどうしても煙が発生する。
 目の良いものがいれば遠くからでも煙は見つかる。
  招かざる人に寺に来て欲しくない。

 今では一応の体裁が整っているが、それでも余計なリスクは避けたい。
 今のように川原での炭焼きでは、釜は発見されてもすぐに寺が見つかる事はない。
 窯から寺までは少し距離がある。
 そういう意味もあって寺の近くでの炭焼きに躊躇しているためか、なかなか窯を新たに作る場所が決まらない。
 毎日、ただ林の中をうろついているばかりだった。

 そんなある日のことだった。
 河原を上流方向に唯々歩いていると、少年の泣き声が聞こえてきた。
 うちの連中で誰かが迷子にでもなったかと思い、その泣き声のする方向へ林の中を歩いて行った。
 そこには一人の少年が泣きながら倒れている大人を担ごうといているが、力が尽きたのかできずに泣いていた。

 倒れている人は足に刀傷でも負ったようで、腿もものあたりが裂け、血が出ていた。
 傷がもう少し深ければ動脈に達し即死だっただろうけれど、とりあえずは命を取り留めていたようだった。
 そのままにもできず俺は少年に声をかけ、急いで珊さんを探して連れてきて、倒れている大人を担いで河原まで運んでもらった。

 川の水で綺麗に傷の周りを洗い流し、近くに生えていたドクダミの葉を沢山採ってきて、傷に付けるだけ付けた。
 そこまで処置を行い、その上彼らが持っていた紐のようなものを借りて足の付け根を軽く縛り、ドクダミの葉も押さえた。
 とりあえず助けてしまったが、どうしよう。

 このままというわけにもいかないけれど、かといって訳も解らない人を寺には連れて行きたくないし、その場で悩んでいた。

 結局、俺は助ける覚悟を決めた。
 しかし寺には連れて行かずにだ。
 幸いこの傍に玄奘様が用意してくれた最初の小屋がそのままある。
 珊さんにお願いし、彼らを小屋まで連れていった。
 途中炭焼き窯に寄って落ちている炭を拾い、小屋まで持って行った。

 囲炉裏にさっそく火を入れ、彼を寝かした。
 その後、少年にちょっと出かけてくると言って外に出た。

 そのまま寺まで戻り、張さんに少年たちを助けた経緯を話し、寺から少しばかりの食料を持ち出して小屋まで戻ってきた。

 張さんに、しばらく彼らとここで生活をすることを話し、寺の生活を任せた。
 小屋に戻ると傷ついた大人は生きてはいるようだったが、まだ意識は戻っていなかった。
 泣いていた少年は疲れていたのか、囲炉裏の横で寝ていた。

 俺は炭をおこしながら食事の用意をして、彼らが起きるのを待った。


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