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第一章 転移、そして自立
第十六話 初めての視察
しおりを挟むしばらくは玄奘様がこの寺に滞在してくれていたが、このままと言う訳にもいかず、明日にはまた玄奘様は旅に出る。
少し足を延ばし大和地方にまで行くとのことだったので、俺も便乗させてもらう。
最近は炭焼きも、その販売も、仲間の教育も順調すぎるくらい順調で、俺から完全に手が離れていた。
その負担が張さん一人に掛かってしまっているが、直にみんなのスキルも上昇するだろうし、さほど心配はしていない。
そろそろ、次のステップを考えていた。
幸い、玄奘様が新たな仲間を20人ばかり連れてきてくれ、そろそろみんな慣れてきたので、もう少し冒険ができると踏んでいた。
張さんや珊さんに相談したら、「俺の好きなようにやってほしい、私たちは全力で協力する」と言ってくれた。
それを聞いて、正直泣きそうになるくらい嬉しかった。
今回、玄奘様の大和行きへの同行を相談したら、張さん筆頭に全員が快諾してくれた。
葵と幸は一緒に行きたそうにしていたが、張さんがなだめての快諾となっている。
お土産は必要かな……ちょっと心配になったが、そこは出たとこ勝負ということにした。
今回の大和行きには目的があった。
以前、本多様にお会いした時に「訪ねてこい、力になる」とおっしゃってくれたことを頼りに、多聞山城の城下かその近くの町で商いをできるよう、お願いするつもりだ。
この当時あまり知られてはいないが、割とこの辺りでは楽市楽座の政策が試されていた。
この年永禄7年は多聞山城が完成した年でもあり、地元では名君であったとされている松永弾正も、この楽市楽座を検討していたかもしれないのだ。
弾正は寺社やほかの勢力が力を持つことを警戒していた節もあり、家臣の紹介であれば、既存勢力と関わり合いのない俺らが、商いの許しがもらえるかもしれないと期待もあった。
その場合の心配事として、俺らが一向宗の上人様や玄奘様の庇護を受けていることがネックになるかもしれないが、こればかりはことに当たってみるまでわからない。
見聞を広めるだけでも価値のある大和入りである。
寺を出て後に東海道と言われる街道を南に下り、亀山宿に入った。
ここ亀山宿はちょっとした交通の要衝で、このまま東海道を進めば近江の国の草津を抜け大津に至るし、南に下がれば伊勢街道でお伊勢様まで続く。
俺らは大和に向かうので、もう一つの街道を通って伊賀を抜け、大和盆地に入る。
ちょっとした峠越えとなるが、大和に入るにはどのルートを通っても峠越えは避けられない。
むしろ、このルートは大和に入る最短である。
初日は一向宗の寺の軒を借り一泊したのち、伊賀に向かった。
伊賀の里でも玄奘様は各家々を回り説法を解いて托鉢していたので、ここでも1泊することとなった。
さすがに玄奘様の托鉢について回るわけにもいかず、一旦別れて伊賀の里を一人で見て回っていた。
ここの里は忍者の故郷として有名だが、この時代よりも少し前には何度か室町幕府からの攻撃を受け、それを防ぎきって勝利している。
その後に織田信長の息子である織田信雄に攻められているが、これも押し返し勝利しているすごいところである。
今は、このあたりの戦国大名の六角氏についているはずだ。
そんなことを考えながら歩いていると、見覚えのある足を引きずるようにして歩いている人を見つけた。
すぐに追いかけたが、見失ってしまった。
やはり、以前助けた御仁は此処の里の人だったんだ。
伊賀忍者の一人だったのだと確信を持った。
町を歩く人はさほど多くなく、生活もこの時代の平均程度に貧しく見え、市などもたっていなかった。
ここでの商売は行商しか成り立ちそうにない。
俺らにはまだ難しそうだったので、とりあえず、ここでの商いは諦めた。
ここでも寺の軒先を借り一泊したのちに大和に入った。
目指す多聞山城は、ここからだと反対側の堺に近い側にあり、まだ距離はあったので、途中の大和郡山で一泊した。
ここも後に発展するが今は田舎街そのもので、先の伊賀とさほど変わらない。
やはり城下街での商いしかないかと考えている。
町の役人に頼んで本多様に先ぶれを出し、明日あたり多聞山城城下でお会いできるよう、手配してもらった。
で、その多聞山城の城下どころか、城内にまで連れ込まれた。
玄奘様はわかるが、童である俺まで一緒に案内されたのには驚いた。
さすがに城主である弾正様にお会い出来なかったが、城の重役の方とは面識を得た。
どの時代もそうだが、特にこの時代には、コネというか人と人のつながりを大事にされる。
一度面識を得たのならば、次から直接訪ねても失礼に当たらない。
もっとも会ってくれるかどうかは別問題で、それでもきちんと俺も面会できた。
一応俺の肩書は、上人様預かりの孤児まとめ役となっている。
本多様と玄奘様は以前の時とは全く違い、最近の世の中諸々について、冷静に話しているようだった。
各地を頻繁に渡り歩く玄奘様のような立場の人は、情報の大切さを知る人たちにとって貴重な存在であり、大切に扱われる。
そんな訳で、この会合には先ほど紹介された城の重役も混じっている。
弾正様のところの重役ともなると、三好家の内情を詳しく知っており、また都についてもかなりの人脈を持っているので、大所高所から今を見通せるのである。
今はまだこのあたりを含め京の都のある山城周辺に信長は出てきていないが、伊勢の国あたりに信長が大いにに関わってくるとの見通しだった。
願証寺の今後についてもかなり気にしておられる様子で、玄奘様に直接そのあたりを尋ねておられた。
最後に本多様に伊勢と大和との間で商いをしたいことを伝え、許可を得ようとした。
同席された重役も、商いについて権限を有しておらず、本多様預かりとなってしまった。
上人様宛に手紙で知らせてくれることになった。
大和での目的を終えたので、この後のことについて玄奘様と城下で話し合った。
玄奘様はこのあたりを回ってから帰ることにしていたので、近江を回るようにお願いし、ご一緒させてもらった。
すでに楽市楽座の政策を取り入れているはずの、観音寺城城下町の市を見たかったのだ。
簡単な手続きで商いができるようならば、ここでも商いをやっていきたい。
そのためには市の様子を調べ、よく売れて儲けの大きなものに当たりをつけたかった。
内陸なので塩などは高値で取引されていそうだが、観音寺城は琵琶湖の水運を使え、敦賀辺りからの荷も多くて、どれほどの儲けになるかわからない。
伊勢からの陸送では俺らに分はない。
大和ならまだ勝負になるだろうが、別の商材も考えなくてはならないだろう。
とりあえず、許可は下りていないが多聞山城下の塩と炭の相場を調べ、ここでしかないもの、いわゆる特産品を探してその相場も調べた。
このあたりの名産特産品としては墨があげられる。
しかし墨の良い物は高価だし、売り先も問題だ。
寺社などはその有力な顧客になろうが、そんなところはすでに有力商人がついているだろう。
俺らが売るなら同じ商いの仲間くらいしかないので、安い墨を探さなければならないだろう。
幸い今までに稼いだお金があるので、安い割りに物がよさそうなものを少し買い込んだ。
売れなければ自分たちで使えばいいと割り切った。
その後、多聞山城下を出て北上し、京田辺、宇治を抜け京に入った。
応仁の乱以降、治安が定まらず、京の町は荒れるに任せた惨憺たる状況だったが、それでも日の本の都であり、市は賑わっていた。
さすがにこの市にはまだ加われないので、簡単に見て回って、すぐに京を出て大津に入った。
ここは琵琶湖水運の拠点であり、京と敦賀を結ぶ商流の重要な拠点でもあったし、応仁の乱の影響も少なかったので、ある意味今の京よりも栄えているようだった。
ここが楽市楽座の政策をとっていれば良かったのだが、古くから栄えた町という事もあってか、座が絶大な力を持っていた。
孤児の出の俺らが簡単に商いできるようなところじゃない。
しかし、ここからさほど遠くない観音寺城の城下町石寺で楽市楽座の政策がとられているので、早速そこを目指した。
観音寺城の城下は大津ほどではないが、楽市楽座の良い影響のおかげか街は大層賑わっていた。
これならば、大商いができそうだ。
これから俺の持っている知識を使ってチートしていくぞと、決意を新たにした。
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