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第一章 転移、そして自立
第十七話 木札
しおりを挟む着いた時に感じたことだが、ここの城下町には活気があった。
そこかしこから聴こえてくる喧騒は田舎のそれではなく、充分に都会と思われる賑やかさだった。
ここなら大商いができそうなので、ゆっくり見て回って詳しく調べたいと玄奘様にお願いしたら、快く承諾してくれた。
俺たちは、早速、付近の寺に行き軒を借りた。
既に夕方を迎えていたので、街の散策は明日になる。
横になりながら、明日の散策で見て回らなければならない項目を、頭の中でリストアップしていった。
明朝早く、玄奘様と別れて街に出た。
夕方に玄奘様と待ち合わせをし、明日には本拠地に帰ることになる。
時間は限られているので、精力的に街を見て回った。
最初はここで商いをするために何が必要なのか、調べることにした。
市からさほど遠くないところに番所のようなものが建っていた。
そこに下級武士のようなお武家さんがおり、彼がこの市を取り締まっているようだったので、早速話を聞きに行った。
「あの~、お武家様。ちょっとお尋ねしたきことがあるのですが、よろしいでしょうか」
見た目に違和感を持たれぬよう、少年のように振舞うため細心の注意をはらい、声色まで気を使ってお武家様に声をかけた。
あまりに気を使ったもんだから、なんだか俺の中ではあの有名な名探偵が容疑者や目撃者に子供らしい声をわざと声色まで変えて聞いている光景が頭に浮かんだが、慌ててそれを頭の中から打ち消して、欲しい情報を聞いた。
「お、なんだ、どこのガキだ。あまりこのあたりじゃ見ない顔だな。
どこかほかの地から行商にでもついてきたのか」
お武家様が誤解しているようだったので、それに乗ることにし、話を合わせた。
「はい。伊勢からこの辺りの寺まで回る僧に同行して商いをしている親から、ここでの商いの方法を調べて来いと言われております。
お武家様がご存知でしたらお教え願えないでしょうか」
「初めてのやつか。
割と最近増えてきたな、そう言った輩が。
ここも有名になってきたといったところか」
「まだ伊勢ではさほどではありませんが、あちこちでここが座の横槍を受けずに商いができる、我ら行商にとって居心地の良い場所だと聞こえてきておりました。
親が贔屓にしておりますお坊さまが、この地に来ることになり、それならばということでついてきたそうです。
親はまだ寺の方で用事を済ませているので、俺に聞いて来いと言われました。
もし、お武家様がご存知でしたなら、お教え願えないでしょうか」
「お~~、そうか、そうか。
悪い悪い、ここは誰でも商いができる『楽市楽座』と言ってな、街に立って適当に商いをする分には何もいらないが、市で筵を敷いて商いをする場合は、この木札を買わなけりゃならないんだ」
「木札ですか。
で、その木札はおいくらするのでしょうか」
「木札か。
この木札は次の春の貢納の時まで使えて、銀2匁だ。
これは先に払ってもらう。
次の春になると木札は回収され、また買い直さなければならないが、これさえあれば次の春までお金はかからない。
誰でも、どこの国人でも買えるのだからすごいだろう」
「すごいです、我ら行商にっては天国のようなところです。
早速親に伝えてきます。
ありがとうございました」
「お~、坊主も頑張れや~」
俺は、早速番所を離れ、市を見て回った。
特に筵を敷いて商いをしている商人を注意深く観察した。
ほとんどが筵の見える場所に木札を出して商いをしていた。
中には木札のないものもいるが、直ぐに取締がなされそうだった。
銀2匁で1年間有効か。
相場としては妥当かどうかわからないのだが、ここの繁栄を見る限り、まず妥当と考えるのが良いだろう。
次に、どんなものがここに売られているかというと、本当に色々と売られていた。
内陸なのに塩もかなりの場所で売られていた。
そこそこの値段だった。
これならば売っても赤字にはならないが、ここまで来て売るほどの値段じゃない。
別の商材をここでは売りたい。
魚も売ってはいたが、琵琶湖で上がる淡水魚ばかりであった。
鯵などの海の魚の干物を売れば商売になるかもしれない。
まず魚を売っている商人に干物について聞いてみたが、『そんな高級品は扱ったことがない』と言われた。
次に海から仕入れていると思われる塩の商いをしている商人にも聞いてみたが、今まで扱ったことがないようだ。
干物は売れれば利幅が大きそうだが、売れるかどうかはギャンブルになりそうだった。
どちらにしても、もう少し注意深く相場などを探っていった。
しばらく見ていくと、硯や筆、それに墨を扱っている商人を見つけた。
墨の値段を見てみると、かなり高価だった。
俺が大和で買った値段の4~5倍はする。
もっとも、大和でも高級品は2倍以上したのだが、それでもやはり高価だ。
しばらくその商いの様子を近くで観察させてもらった。
硯は高価だったのか、なかなか売れていないようだが、筆はちょくちょく売れている。
驚いたのは墨である。
かなり割高だと思えたのだが、飛ぶように売れていた。
買いに来るのは、商人ばかりのようだった。
後で知ったのだが、このあたりは商いが盛んで、早くから商いの様子を記帳する習慣があるそうだった。
現代の簿記とは当然異なるが、それに近い概念の記帳方法がこのあたりで発案されており、多くの商人がそれを真似て記帳しているとのことだ。
その為に、墨の需要は常にあるが、それを売る商人はまだ少なさそうだ。
ここから離れ、先ほどの番所のそばで大和から買ってきた墨を取り出し、試しに買値の3倍の値段で売ってみた。
子供の商売のためか冷やかしも多かったし、値切られもした。
それでも買値の2倍半の値段で、すべてがすぐ売れてしまった。
途中で木札を持っていないことを理由に言いがかりをつけてきた輩がいたが、そこの番所で断って商いをしていることを言ったら、すごすごと引き上げていった。
ここでの商売は、やはり木札が必要だということを学習した。
そうなると問題は集約されてくる。
ここで何を売るかということだ。
今俺らは炭を作って生計を立てようとしている。
市場の小さな願証寺の門前の市でだ。
できれば、その小商いは存続した上で、そろそろ大商いがしていきたい。
今俺が考えているのは塩の生産である。
近くに海が有り、燃料の確保も容易のため、小規模な塩の生産を問題なく始められる。
その売り先として願証寺の門前市では市場規模も小さく、海のそばという立地のために利幅が稼げないことが容易に予想される。
塩の売り先として最有力候補として、大和の信貴山城の城下町を考えている。
内陸の上、松永弾正の善政のために徐々に豊かになっているのに加えて、堺や京にも通じる立地のためにお金持ちも多くなってきている。
高値で塩の商いができそうだと考えているが、こればかりは許可が必要なため、先にここでの商いを考えよう。
塩については、あまり旨みがないことはわかったので、今はギャンブルの覚悟を持っての海産品の干物が有力である。
我々で墨を作ることができたら、挑戦したい。
帰ったら塩の生産の開始と、干物の研究、墨の試作といったところか。
やることは多いが、人手が足りない。
これから行商の距離が大幅に延びる事を考えると、大人の男の働き手不足が痛い。
ここまで来なくとも、同じ楽市楽座なら清洲も考えるか。
あ~、まだ清洲の楽市楽座は怪しいぞ。
それに織田信長の城下ではあまり目立ちたくはない。
敵対するつもりはないが、取り込まれたくはない。
信長は優秀だと認めれば遠慮なく登用しようとするし、断れば敵対関係になりそうだ。
俺が知っている歴史では、そのように感じられる。
俺自身が優秀だとは思えないが、俺の知っている歴史的な知識はこの時代の人にとってチートであろう。
少なくとも俺が今まで読んできたラノベでは、チートとして扱われている。
信長が優秀な人物として捉えかねない。
やはり、近くても織田領はまだ避けていよう。
そろそろ夕方になってきたので、玄奘様と待ち合わせをしている寺まで戻っていった。
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