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第一章 転移、そして自立
第二十五話 そうだ清洲に行こう
しおりを挟む門前で商いをしている張さん達とそこで別れ、俺は玄奘様に付いて清洲に向かった。
ここから清洲まではおおよそ30km、ここを出て直ぐに木曽川を渡らなければならないが、木曽川さえ超えてしまえば、清洲まではほぼ平坦で、所々に小川程度はあるが、難所と呼べるものはない。
子供の足でも6~7時間あれば着く距離だ。
門前を出たのが正午を迎えるかなり前だから、清洲には夕方までにはつく計算だ。
夏前の田園風景の中のんびり歩いて清洲に向かった。
まだ、日が落ちるまでには少しの猶予を残し、清洲に着いた。
そろそろ夕方になろうとしている時間なのに、清洲の城下ではまだ市が立っていた。
人の通りも多く、活気があった。
さすが今一番勢いのある大名のお膝元だけのことはある。
この時代はまだ、清洲では楽市楽座の政策は取られてはいないが、通りにはかなりの行商人が辻辻に立って勝手に商いをしているようだった。
彼らはきっと許可もなく非合法の商売なのだろう。
かなりのお目こぼしをしていて、それが実質的に楽市楽座と同じ効果を及ぼしているのだと予想できた。
「なにしている、おいていくぞ。
明るいうちに、今日お世話になる寺まで行くんだ」
「はい、すみません、玄奘様」
清洲の街に入っても、玄奘様は、まず、本日軒を借りる寺まで寄り道をせずに行くようだった。
街の一番賑やかな道を通り過ぎて暫く行くと、急に寂しくなったところに一軒の寺が立っていた。
玄奘様は躊躇せずにそのままスタスタと中に入っていった。
かなり前から玄奘様とこの寺のご住職とは知り合いだったようで、会うと直ぐに打ち解けたように話していた。
なんでも、ここのご住職は、上人様のところで玄奘様と一緒に修行をしていた兄弟子だとか、だからかなり親しそうに会話をしているんだ。
俺らは直ぐに空いている宿坊に案内され、そこで休憩を取らせてもらった。
暫く休ませてもらった後、ご住職に夕餉をご馳走になった。
何分寺の食事なので贅沢なものではないが、心のこもった夕餉を頂いた。
ご住職と一緒に食事をとりながら、ご住職は最近の清洲の様子や尾張の国の様子、そして大名である織田の殿様の評判などを聞かせてくれた。
清洲の街の様子の話では、日に日に活気が増しているようで、街のみんなもどんどん豊かになっているようだ。
しかし、行商などが辻辻で勝手に商いをしているところを座のご重役などが配下を従えてその行商たちともめている所をよく見かけるようだった。
城の役人などは、騒乱にでもならない限り、出張ることはなく、勝手にやらせている風だったと言っておられた。
彼ら行商たちがこの街を豊かにしているようで、城の役人としては、座の方を取り締まりたいようだが、古くからある座なもんで、思い切った政策が取れないでいるようだとも話してくれた。
これが、連戦連勝の大名ならば、その偉業で押し切れようが、なかなか美濃の国に攻め入れていないので、もどかしさを感じているのだろうな。
特に昨年の新加納の戦いでの敗戦は手酷かったようで、すぐ後では流石にご城下の活気も一時期だが無くなっていたようだ。
それでも、懲りずに度々美濃に攻め入っている姿を街の人は見ており、活気はすぐに戻ったと言っておられた。
ご住職の話を聞いて、信長はここ清洲で楽市楽座の政策を行いたいようだが、なかなか古くからある座の持つ権威の前に思い切った政策が取れないでいるようだ。
なし崩しを狙ってか、わざと城からの非合法な商いを取り締まらずにいる。
座の方ではそれが面白くないようで、今では自分たちが見回りに乗り出してきている。
しかし、非合法といっても、お上の方が奨励しているようにも見えるために、辻辻に立っての非合法の商いをする行商の数が多すぎた。
清洲は古くからの尾張の政治の中心だったが、尾張には津島や熱田といった商いの盛んな街があり、清洲はむしろ商いは他の村々と同レベルくらいしかなかったので、座そのものも小さく、今の清洲の需要を座だけではまかないきれないのが現状だ。
そのため、いくら座の連中が見回りをしてもほとんど効果は出ていない。
それに、街の人たちは今から4年前の今川との戦の折に真っ先に街から逃げ出そうとしていた座の連中の姿を見ているので、むしろ座に対しては敵意すら持っているらしい。
そのような状況なので、政策としては楽市楽座ではないが、実質無法状態で商いができる環境になっている。
そんなことまでご住職は教えてくれた。
しかし、おれは、揉める可能性のあるところであえて商いはしたくはなかった。
でも、ご住職から貴重な情報を多数得ることができたのは殊のほかの収穫だ。
まだ、俺の知る歴史通りにこの辺は動いている。
なので、伊勢の織田勢の侵攻は数年先だ。
地盤を固める時間はまだある。
明朝、俺は玄奘様と別れ、一人で清洲の街を散策して歩いた。
本当に朝から人が多数出てきており、活気のある街だ。
津島や熱田には行ったことがないため、その街の繁栄ぶりは判らないが、少なくとも今商いをさせてもらっている長島の門前よりは格段に活気があり栄えている。
本当は、ここで自由に商いができればいいのだが、織田信長の性格上、避けておきたい。
彼は、家督を継いでからも一人で城下を見て回ったそうだから、ガキや女性の商いが評判になれば絶対に本人が直接確認にくる。
俺らは、信長に取り込まれるつもりはないので、信長には見つからないように生きていく。
理想としては、天下取りの騒乱の外で静かに生きていきたいのだ。
なので、目立つ行為は出来るだけ避けておきたい。
土地の権力者に目を付けられないように、特に有能な家臣を多数抱えている信長には。
なので、彼の領地での活動は最小限に抑えておく必要がありそうだった。
自惚れかもしれないが、俺の持つ現代から持ってきた知識はラノベの定番のチートに当たるだろう。
俺は、知識を使って生きていくのだから、彼らに見つかれば、取り込まれる。
もしくは、殺されるのどちらかだろう。
どちらにしてもありがたくない未来だ。
唯、生きていくだけならば、有力者の保護下に入ったほうが断然簡単なことは俺でも解る。
しかし、俺は、俺の知るみんなも戦争に駆り出されたくない。
目の前で人を切ったり、返り血を浴びるような戦場になんか出たくない。
綺麗事を言うつもりはないが、歴史に沿っての天下取りは他でやってくれ、といった気持ちだ。
この時代は好むと好まざるとにかかわらず、唯の民衆といえども戦からは逃げられないことは知っている。
それでも俺は、出来うる限り避けていく。
その為には、力をつける。
その力を持って惣村として付近の有力大名に認めさせるのが理想だ。
そんなことを考えながら街を散策していた。
既に玄奘様とは別れている。
ここから拠点にしている寺までは一人で帰ることになる。
距離的にも40kmくらいだろうか。
そろそろ帰らないと、明るいうちに帰れなくなってしまう。
充分に目的を果たしたので、帰ることにした。
帰りに観光目的で清洲城の前を通ってみた。
流石に大名の居城だ。
ひっきりなしにお武家様が出入りしている。
身分の高そうなのからそうでもなさそうな者まで、本当にひっきりなしに出入りしている。
ジロジロ見ていると忍びに間違われそうなので、帰ることにした。
途中に滝川様を見かけたので身を隠した。
多分あちらは俺のことなど覚えているはずはないが、念の為に回り道をして帰ることにした。
なので、来るときには通らなかった中村の村や荒子といった村々を通って帰ることになった。
これは俺の趣味も入っているのは否定しない。
中村は俺の大好きな武将で、超有名人の弟である豊臣秀長の出身地だ。
この時代ならば、既に兄秀吉に仕官しているだろうからここにはいないだろうが、見てみたかったのでだ。
ここまで来たらついでと言わんばかりに荒子も回ってみた。
ここは言わずと知れた加賀100万石の祖前田家の居城だった場所である。
ここまで気持ちを引き締めていたのに、ここに来て前世の記憶がどうしても我慢できずに観光をしながら帰ることになった。
はい、今ちょっとばかし後悔しております。
かれこれ10時間以上は歩いたでしょうか。
やっと長島の願証寺が見えてきました。
ここから2時間以上はかかるが、どうにか日没までには帰れそうです。
疲れましたが、頑張って今日中に帰ります。
10歳児の朝帰りなんて通報されますよ。
頑張ります。
多分、明日の俺は、使い物になりません。
張さん、珊さんごめんなさい。
トホホホ…
今歩いている道に青色の看板があれば励みになるんだけれどもな……
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