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第一章 転移、そして自立
第三十話 結婚、その前に
しおりを挟む昨日まで3日も降り続いていた雨は、今日は止んでいて、雲一つない快晴になった。
今日は暑くなりそうだったが、せっかくの晴れ間、梅雨の中休みなので、今まで、できなかった仕事を全員で片づけようとなった。
子供たちは寺の中で散らばり、草むしりや、畑の手入れ、本堂や仏塔などの清掃にあたった。
女衆の一部は宿坊の清掃を始めた。
残りの与作さんのところの若い衆は全員で林の中に入り、木を切り倒したり、川原の窯で炭焼きをしたりと大忙しだ。
俺は、いつもの張さん珊さんそれに葵に幸を連れて浜まで来ていた。
すでに浜では、商い衆?が浜まで出ており、あばら家の清掃や、海水の濃縮装置の清掃にあたっていた。
本当にここに集まってきたみんなは勤勉だ。
それに、見た目のガキの指図にいやな顔一つせずに従ってくれる。
まだ子供ならわかるが、大人になってまで勉強会に参加することなど、それも自分より年下の子供たちと同じ勉強など、本来ならばプライドが邪魔をして嫌なはずだが、唯黙々と俺の指示に従って勉強をしてくれているのには、頭の下がる思いだ。
でも、この勉強会は絶対に今後の力になるはずである。
全員が字を読み書きでき、数字に強くなれば、他の村や勢力に対して有利に働くはずだ。
今後新たに加わる人たちにも継続をしていく。
一応の読み書きと計算ができるようになったのならば、隔日の勉強会の出席をそろそろ免除してもいいかもしれない。
子供たちの中にはそろそろそのレベルに達しつつある連中が出始めてきた。
葵や幸がその代表格である。
しかし、子供たちにはより高いスキルの習得に努めてもらいたい。
現代に例えるのならば小学校2年生レベルで、一応の終了と考えているが、子供たちには少なくとも小学校卒業レベルまでの学習スキルの習得を目指していきたい。
そのうえで、個々人の性格や好みに応じて仕事上のスキルの習得に入っていきたい。
なので、学習免除は大人に限るつもりだ。
大人でこのレベルに達しているのが、珊さんくらいなのがちょっと頭の痛い問題だが、別に急ぐ必要はない。
特にこの梅雨の時期はやることが限られているので、また、冬場も同じようなものだと思うから、この時期に集中的に大人を鍛えていくつもりだ。
そのつもりで、梅雨のこの時期に徹底的に大人を鍛えていたせいか、この晴れ間で、勉強から解放されたのが嬉しかったのか、張り切って仕事をしている。
やはり、大人は机にしがみついての勉強は精神的に来るものがあったのだろう。
でも、これからも手を抜くつもりはないけれども。
で、俺らはというと、予てからの計画である干物作りのための漁業について、網や船を使わない方法を試してみたく、浜で一つの装置を作り始めた。
なんのことはない。
海の潮位の差を利用する装置を作ってみるのだ。
実に簡単な装置である。
付近から手頃の大きさの石を集め、干潮時に潮が引く位置までに石を並べ、入り口を広くし、魚が入りやすくし、出口を狭め、潮が引き始めたら入り口付近は最初に干上がるようにしておけば、干潮時には魚が浜でのたうち回る計算だ。
それを拾って歩くだけの自然任せの漁を考えていた。
今、俺らはその装置を作っている。
大潮や小潮のこともあるので、どこまでの場所まで装置を広げるかは、これから実際に使ってみて改良をしていけばよく、最初はまず作ることが大事とばかりに無計画に作り始めた。
そろそろ昼に成ろうかとする時間になって、浜で仲良く『リア充爆発しろ』といった雰囲気を辺りかまわず巻き散らしながら作業をしていた善吉さんと幸代さんが、これまた仲良く手をつなぎながら俺を呼びに来た。
その時俺が善吉さんに抱いた感情は殺意が籠っていなかったというのならば嘘になるが、一言『もげろ』だった。
俺も、かなり屈折してきたと自覚はあるが、あの甘ったるい雰囲気に充てられたのならば誰でも抱く正直な感想だと思う。
そんなことはどうでもよく、なぜ呼びに来たかを確認しなければならず、俺はあえて幸代さんに聞いてみた。
「幸代さん、何がありましたか。」
「あの~、長、あちらの方角から、以前寺でお会いしました上人様と玄奘様が幾人かの人を従えながらこちらにやってきます。
長に御用なのではと思いまして、お知らせに上がりました。」
俺は、幸代さんと一緒に仲良く二人して指さす方向を探した。
くそ~~、どうにかしてくれ。
早く二人を結婚させて隔離しようとその時俺は強く決心した。
本当に二人のさす方角に上人様一行の姿が見えた。
ちょっとした人数を連れている。
要件は限られているはずだ。
追加要件があるかもしれないが、この晴れ間のある今日中に二組の結婚は片づけられる。
俺は、ここにいるみんなに大声で声をかけた。
「とりあえず、今やっている作業は区切りの良いところでやめてください。
善吉さんは林で作業をしているみんなを寺に集めてください。
幸代さんは寺に戻って、上人様のお迎えの準備を寺で作業をしている人たちと一緒に始めてください。
よろしくお願いします。」 と言って、作業を中断させ、みんなを寺に集めるようにお願いをした。
「で、俺らは、ここで上人様たちをお迎えしよう。
ほかにも何かあるかもしれないが、せっかく上人様がそれも玄奘様とご一緒にいらしたのだから、絶対に今日中に結婚式をしてもらう。
でないとそろそろ耐えられなくなってきた。」
最後には本音が出たが、張さんと葵や幸はニコニコしながら大きく頷いた。
浜で作業をしていた全員が作業の区切りをつけ、寺に戻っていった。
それとほとんど時を経ずに上人様一行がここまでやって来た。
「上人様、よくおいで下さいました。」
「やっと晴れたのでな、予てからの帥との約束であった結婚の祝いに来たぞ。
祝いの品も用意したでな、受け取るがよい。」
「それは、それはありがとうございます。」
玄奘様が、 「もう、ここの連中の中から結婚する人が出たのには驚いた。
とても順調そうなので我も安心したが、ここも大きく変わったな。
家などなかったはずじゃったのに。
それに見慣れないものまである。
あれはなんじゃ。」
「あれは塩を作るための装置です。
それにここに作った家は、結婚する二人のための物で、おいおい結婚する人間も出るだろうから、余裕のあるうちに数軒建ててみました。
ここにちょっとした部落ができましたが、あくまで私たちの拠点は寺にあります。
それより、皆様はお疲れではありませんか。
もしお疲れならば、あばら家で申し訳ありませんが休憩はできますが。」
「何、構わんよ。
それに、ちょっと帥に相談もあってな。
寺に向かうとしよう。」
上人様の言葉もあり、そのまま俺らは寺に向かった。
俺らが上人様を連れて寺に着いた時には全員がすでに上人様を受け入れる準備を済ませ、外で待っていた。
「「「「良くいらっしゃいました。」」」」
子供たちの元気のよい挨拶で上人様を迎いれた。
俺はここまで子供たちを教育したつもりはなかったが、行儀よく上人様一行を迎い入れたのには驚いた。
俺のいないところで良く教育がなされていたことに驚いた。
多分、張さんが教えているのだろう。
張さんは『論語』の素養もあったはずである。
本当に良い方向で村が運営されていたことに俺は改めて感じた。
感謝しております張さん。
「空よ、良く教育がされておるな。
大したものだ。」
「いえ、これは張さんの教育のたまものだと思います。
取り敢えず、皆様をご本堂にご案内いたします。
ついてきてください。」
横で上人様との話を聞いていた張さんが顔を赤らめ照れていたが、嬉しそうにしていた。
全員を本堂まで連れていき、そこで落ち着かせた。
すぐさま全員に女衆が飲み水を湯冷ましで持ってきた。
俺は、できるだけ口に入れるものには火を入れるようにお願いをしていた。
特にこの時期は食中毒が怖い。
なので、飲み水も井戸からくみ上げたのをそのまま飲むのではなく、できるだけ湯冷ましにしてから飲むようにお願いをしているが、特に外回りのガテン系の男衆は冷たい井戸水をそのまま飲んでいる。
幸いにまだ腹などを壊したものは出ていないが、ちょっと心配だ。
なので、お客様に出される水は湯冷ましを出してくれた。
全員が安心したのかほっとした雰囲気が感じられる。
ここで、俺は上人様についてきた人たちの観察を始めた。
寺男にしては構成する人が変なのである。
どう見ても数組の家族が付いてきたようであった。
はは~ん、これは移住組かな。
すぐに上人様からお話があるのだろうと、上人様に挨拶を始めた。
「今日は、本当にありがとうございます。
玄奘様までご一緒していただけるとは、今まで経緯もあり、うれしさでいっぱいです。」
「なに、礼には及ばんよ。
むしろ、こっちから色々と保護を頼んでいるのだからな。
でだ、空もすでに悟ったようなので、先にこちらのお願い事から片づけよう。
今回連れてきた3組の家族じゃが、今度は家族ごとの保護を頼みたいのじゃ。
理由はいつもと一緒だ。
三河からの流れ者だ。」
「こちらとしては、むしろ歓迎します。
今は一人でも多くの働き手が必要なのです。
今年中に、できたら夏ころまでに観音寺城下での商いを始めたいと計画をしております。
なので、大人の人手は大歓迎なのです。
もっとも、いつも言っております、狂信的な方は除きますけれど。」
「それは大丈夫だ。
彼らはうちの信者じゃない。
唯の被害者だ。」
「それなら安心しました。
皆様方を歓迎いたします。
上人様からお話があったか判りませんが、ここでの集まりの長をしております空と申します。
しばらくは、ここでの生活に戸惑うかもしれませんが、ご一緒に頑張って頂けますようお願いします。
本日は、ここで初めてのお祝い事であります二組の結婚式を上人様に執り行っていただきます。
その後、ささやかな祝宴も開きますので、その席で皆様のご紹介をいたします。
なので、お疲れのところ恐縮ですが、祝宴までお付き合いください。
村での生活の詳細につきましては明日改めてご説明させて頂きますので、それまで今しばらくここでお寛ぎ下さい。」
と、訳も解らずに心配そうにしていた三組の家族が少しでも安心できるように挨拶を済ませ、今後について上人様と玄奘様に打ち合わせがしたく、二人を連れて、本堂奥にある講堂にやってきた。
本当にこの寺は立派なのだ。
必要なものがきちんとそろっている。
今まで、ここを使う必要がなかったが、今日掃除もできたので、確認の意味も含めて、ここまでお連れし、相談を始めた。
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