30 / 319
第一章 転移、そして自立
第二十九話 報告
しおりを挟むどんよりとした空模様の中を、俺らは願証寺に向かって歩いていた。
今日は、まだ雨は降ってはいないが、連日のように降る雨のために、商いの炭焼きと塩作りは暫くの間お休みをしていた。
それでも、商い用に作り置いていた炭と塩を持って、ふた組のリア充どもを引き連れての移動だ。
目の前でイチャイチャされたのでは堪らない。
俺は、列の先頭を歩いていた。
何故だか、今日はやけに葵と幸が俺にくっついてくる。
正直暑いのと歩きにくいのだが……どうしたものか、うん~~~~ん。
それに、時折見せる張さんの目つきが鋭く怖い。
後ろでは、リア充爆発しろ、といった雰囲気の中で、ここはなぜだか異様に寒々しい。
怖い、俺が何をしたというのだ。
とにかく気にせずに願証寺に急ごう。
雨が降り出しても、荷物は大丈夫なように大八車に積んだ荷物の上に屋根材で使った余りの木の表皮を幾重にも重ね、縛ってあるので、少々の雨ならば濡らさずに済みそうだ。
でも、降る前に願証寺に着ければそれに越したことはない。
「いつ雨が降るかわからないので、できる限り急いで行きますよ」 と後ろのリア充たちに声をかけた。
「「♥はい~~♥♥♥」」 と本当に腹の立つ。
張さんは笑顔で頷いてくれたが、目が、目が笑っていませんよ。
かえってその方が怖いです。
いつもならば2時間くらいかけて到着する距離のところ、俺が急がせたので1時間半くらいで到着することができた。
急いだだけじゃないが、異様に疲れた。
俺らは、どうにか雨の降る前に着くことはできたが、到着と同時にしとしとと雨が降り始めた。
「梅雨時は本当にうっとうしいな。
失敗したかな、この時期に結婚させるのは。
次からは時期を考えよう」 と独り言を言いながら、俺らは寺の中に入っていった。
いつのもように寺男を見つけて、上人様に取次をお願いした。
直ぐに、許可が下りて、いつもの上人様の部屋に今日は全員でお邪魔した。
全員でお邪魔したものだから、俺らが部屋に入ると上人様は驚いていた。
部屋が狭いので、直ぐに上人様は広めの客間に俺ら全員を案内してくれた。
「空よ、今日はどうした。
随分大勢できたものだな」
「はい、まずは、順調に行っております商いのおすそ分けじゃないですが、塩と墨をお持ちしました。
ご笑納ください。
で、直ぐに本題に入らせていただきます」
「うむ。で、その本題とはなんだ。
そちらの表情からは厄介事じゃないだろうことはわかるが、なんなりと申すが良い」
「はい、本日は上人様に報告とお願いに上がりました。
後ろに控えておりますふた組の男女を結婚させて夫婦にしたいので、上人様に祝福とできましたら上人様、無理でしたら玄奘様に我らの寺までお越しいただいて、そこで式を上げさせたいのです。
我らの村の最初の祝い事になります。
お願いできませんでしょうか」
「うむ、結婚とな。
それはめでたいな。
そうか、結婚させる位までにはそちらの所は落ち着いてきたか。
そうならば、是非にでもワシから祝わせてくれ。
今日明日にそちらのところに向かうのは難しいが、近日中にワシが行ってお祝いをしよう。
そうかそうか、本当にめでたいものよな。
わしの目に狂いはなかったということか。
幸せの中にあっては、人は馬鹿な真似はすまい。
空もそう考えているのだろう。
人の営みとしては、夫婦となり子を成すことは当たり前の事じゃ。
その当たり前の中に人としての幸せがあるのじゃとワシは思っておる。
しかし、今の世の中では、その当たり前がひどく贅沢となっている。
早く、本当に当たり前の人の世になるといいのじゃが。
一人でも多くの者が当たり前の幸せを感じるように、空よ、頑張るのだぞ。
前にも言ったことじゃが、それなればワシにできる協力は惜しまんでな」
「ありがとうございます、上人様」
「私らは、寺で祝いの宴ができるように市で買い物などして、本日は帰ります。
後日、上人様のお越しをお待ちしております。
梅雨時の外出となりますので申し訳ありません」
「なに、構わんよ。
この時期はそちらも商いがやりづらいだろうて、暇なのだろう。
良い判断だと思うぞ。
ワシのことは気にするな」
「では、これにて私らは失礼させて頂きます」 と言って、上人様の前から退いた。
その後は、鬱陶しいリア充どもを先に帰して、門前の市や桑名の市を見ながら買い物をしていった。
少ないながら大人もいるので酒を買い込んで、伊勢海老も売っていたので、欲しかったが、いつ上人様がいらっしゃるのか分からないので、今日は諦めた。
売っている場所と相場のみを確認して、上人様がいらっしゃったら急いで買いに走ろうと考えていた。
帰りはリア充を先に返したので、変な空気は無くなったが、今度は張さんまでもが俺に近づいてきた。
張さんと葵、それに幸までもが加わって場所取り合戦の様相を見せ始めていた。
珊さんは危険に近寄るなといった雰囲気を全身で漂わせて俺からかなりの距離をとって、一人で大八車を引いていた。
裏切り者~~~、って俺は思ったが、ここでそれを口にしたらどんなことになるのか想像もつかなかったので、賢者のごとく俺はだんまりを決めた。
だいたい今まで生きてきたか?20数年の間、彼女の「か」の字もない童貞だったので、というより、俺の外観はまだ10歳くらいだろう。
これ、何かおかしいだろう。
絶対に変だよ。
それとも張さんはショタコンなのだろうか、違うだろう。
行きも帰りも異様に疲れて、俺らは寺に戻ってきた。
寺に戻った俺らを茂助さんが迎えてくれたので、協力して買い込んできた酒やその他食材を庫裡の倉庫に仕舞って貰った。
なんでも、先に帰ってきたふた組のリア充どもが本堂で自習しているみんなの所で一緒に自習を始めたのだが、ふた組共に自分たちの空間を作り上げ、辺りかまわず甘ったるい空気を撒き散らしたものだから、全員が勘弁してくれって気持ちになっているそうだ。
茂助さんはたまらず逃げてきたので、ここにいるのだとか。
我慢してください。
上人様が近日中にここに来てくださる。
そうしたら式を挙げてそれぞれの家に追い出すので、しばらくは我慢してください。
俺なんか、その上、葵たちが変になっているのでたまらないのだが、我慢しているのですから。
俺は、ここの片付けが済んだら、本堂にみんなで向かい、集まった全員に異様な雰囲気の元凶であるふた組の結婚を伝えた。
近日中に願証寺から、日頃からお世話になっておられる上人様に式を挙げて貰えることになったことを伝え、当日は祝いの宴を開くことも伝えた。
だから、この雰囲気でももう少し我慢してください。
みんなで耐えようではないか。
でも、いい加減もう少し場所を考えてくれませんかねリア充ども。
「リア充、爆発しろ、もげてしまえ~~~~~」
24
あなたにおすすめの小説
幼馴染達と一緒に異世界召喚、だけど僕だけ別な場所に飛ばされた先は異世界の不思議な無人島だった。
アノマロカリス
ファンタジー
よくある話の異世界召喚…
スマホのネット小説や漫画が好きな少年、洲河 愽(すが だん)。
いつもの様に幼馴染達と学校帰りの公園でくっちゃべっていると地面に突然魔法陣が現れて…
気付くと愽は1人だけ見渡す限り草原の中に突っ立っていた。
愽は幼馴染達を探す為に周囲を捜索してみたが、一緒に飛ばされていた筈の幼馴染達は居なかった。
生きていればいつかは幼馴染達とまた会える!
愽は希望を持って、この不思議な無人島でサバイバル生活を始めるのだった。
「幼馴染達と一緒に異世界召喚、だけど僕の授かったスキルは役に立つものなのかな?」
「幼馴染達と一緒に異世界召喚、だけど僕は幼馴染達よりも強いジョブを手に入れて無双する!」
「幼馴染達と一緒に異世界召喚、だけど僕は魔王から力を授かり人類に対して牙を剥く‼︎」
幼馴染達と一緒に異世界召喚の第四弾。
愽は幼馴染達と離れた場所でサバイバル生活を送るというパラレルストーリー。
はたして愽は、無事に幼馴染達と再会を果たせるのだろうか?
マンションのオーナーは十六歳の不思議な青年 〜マンションの特別室は何故か女性で埋まってしまう〜
美鈴
ファンタジー
ホットランキング上位ありがとうございます😊
ストーカーの被害に遭うアイドル歌羽根天音。彼女は警察に真っ先に相談する事にしたのだが…結果を言えば解決には至っていない。途方にくれる天音。久しぶりに会った親友の美樹子に「──なんかあった?」と、聞かれてその件を伝える事に…。すると彼女から「なんでもっと早く言ってくれなかったの!?」と、そんな言葉とともに彼女は誰かに電話を掛け始め…
※カクヨム様にも投稿しています
※イラストはAIイラストを使用しています
日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-
ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。
1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。
わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。
だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。
これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。
希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。
※アルファポリス限定投稿
蒼穹の裏方
Flight_kj
SF
日本海軍のエンジンを中心とする航空技術開発のやり直し
未来の知識を有する主人公が、海軍機の開発のメッカ、空技廠でエンジンを中心として、武装や防弾にも口出しして航空機の開発をやり直す。性能の良いエンジンができれば、必然的に航空機も優れた機体となる。加えて、日本が遅れていた電子機器も知識を生かして開発を加速してゆく。それらを利用して如何に海軍は戦ってゆくのか?未来の知識を基にして、どのような戦いが可能になるのか?航空機に関連する開発を中心とした物語。カクヨムにも投稿しています。
現代錬金術のすゝめ 〜ソロキャンプに行ったら賢者の石を拾った〜
涼月 風
ファンタジー
御門賢一郎は過去にトラウマを抱える高校一年生。
ゴールデンウィークにソロキャンプに行き、そこで綺麗な石を拾った。
しかし、その直後雷に打たれて意識を失う。
奇跡的に助かった彼は以前の彼とは違っていた。
そんな彼が成長する為に異世界に行ったり又、現代で錬金術をしながら生活する物語。
もし石田三成が島津義弘の意見に耳を傾けていたら
俣彦
歴史・時代
慶長5年9月14日。
赤坂に到着した徳川家康を狙うべく夜襲を提案する宇喜多秀家と島津義弘。
史実では、これを退けた石田三成でありましたが……。
もしここで彼らの意見に耳を傾けていたら……。
帰って来た勇者、現代の世界を引っ掻きまわす
黄昏人
ファンタジー
ハヤトは15歳、中学3年生の時に異世界に召喚され、7年の苦労の後、22歳にて魔族と魔王を滅ぼして日本に帰還した。帰還の際には、莫大な財宝を持たされ、さらに身につけた魔法を始めとする能力も保持できたが、マナの濃度の低い地球における能力は限定的なものであった。しかし、それでも圧倒的な体力と戦闘能力、限定的とは言え魔法能力は現代日本を、いや世界を大きく動かすのであった。
4年前に書いたものをリライトして載せてみます。
日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる