名もなき民の戦国時代

のらしろ

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第一章 転移、そして自立

三十一話 三蔵の衆

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 俺は上人様と玄奘様を連れて、寺の奥にある講堂に入った。
 ここは、今まで全く手を入れてなかったのだが、今日やっと掃除を始めた。
 中央部分は掃除を終えており、今は、隅や奥に隠れた部分の掃除を子供達がしてくれている。

「長、今日は何しに来たの?」

「今日は、ここで上人様達とお話し合いをしに来たんだ」

「私たちは此処をどいた方がいいの?」

「いや、構わないから、そのまま掃除を続けておいてくれ。
 俺たちは、ここの掃除の終わった中央でお話をしているけれど、気にしないでいいよ」

「判った、掃除を続けるね」

 子供たちのリーダー格の少女が俺たちが入って来たのを確認して声をかけて来た。
 俺は、そのまま掃除を続けてもらい、掃除の終えてある中央に上人様達を案内した。

「上人様、玄奘様、まだ掃除中で申し訳ありませんが、ここは掃除を終えてありますので、ここにお座りください」

「ほ~、この寺はこんな立派な講堂まであったのじゃな。
 凄いものだ」

「はい、建屋があるのは、ここに来た時から知ってはおりましたが、今日まで全く手を入れておりませんでした。
 いつもなら内々の話しには本堂を使っておりますが、今日は初めてここに来られた三家族にお休みいただいております関係で、ここに案内させて頂きました。
 正直、私もここに入ったのは今日が初めてです。
 ここがどうなっているか、ここに何があるのかは全く分かっておりません。
 お許しください」

「して、わざわざここに案内してきたのには訳があるのじゃろ。
 まずはそれを聞こうか」

「ありがとうございます。
 まずは、上人様がお連れ頂いた方々についてです。
 浜で話した通り、受け入れには全く問題はありません。
 彼らが、我々の方針に従ってもらえる限り、今いる者たちと何ら差をつけるつもりもありません」

「それに関しては、大丈夫だ。
 ワシが奴らにはきちんと話しておいた。
 奴らも、それを十分に納得してついてきたのじゃ。
 家族がそろって生きていけるのならばどこでも良いそうじゃ。
 しかし、奴らは、三河の百姓の出だ。
 それも小作だったそうじゃ。
 なので、空が何を期待しているかはわからんが、奴らの手には何ら技というものがない。 
 できるのはせいぜい今までと同様に百姓仕事くらいじゃぞ。
 それを判ってもらいたい」

「判っております。
 ここにきて月日が経ちました。 
 我々ほとんど子供だけで色々やってきて、ここでの仕事という面では、多分連れてこられた大人の人でも、今ここで掃除をしている者たちより劣りましょう。
 それでも、我々には大人が必要なのです。
 大人の数が足りません。
 外の村々に向かって商いをしていくうえで、大人の不足は少々困ってきております。
 なので、今回のお連れ頂いたことには大変感謝しております。
 多分、彼らには、今までと違う仕事をして頂く事に成りますが、先にここで生活をしていた者たちが、きちんと教えていきますので、大丈夫でしょう。
 心配なのは、彼ら自身がその生活の変化を受け入れてくれるかどうかです。
 これは子供の方が断然受け入れ易く、大人の方の一部には絶望的な方もいらっしゃるとか、それだけが心配です。
 それと、長がこの私であることを素直に受け入れてくれるかどうかもですね。
 こればかりは彼ら自身の問題なので私にはどうすることもできません。
 ただ気持ちの良い仲間として一緒に生活をしてくれることを祈るばかりです」

「それは、彼らの定めに任すしかないか。
 で、浜での話じゃが、ほかで商いをするそうだな。
 門前での商いを止めるつもりか?」

「いえ、上人様、まだ止めるつもりなど一切ありません。
 しかし、これから門前での商いは今日夫婦になります幸代さん達に任せます。
 当分は彼女達夫婦の二人位での商いになりそうです。
 それ以外は新規の仕事についてもらうつもりです」

 そこまで話すと、張さんが上人様達に飲み物を器に入れて持ってきてくれた。
 ここで作った素焼きの器に何やら色のついたものが入っていた。

「ほ~、これは茶かな」

「はい、この寺に茶の木が生えており、ちょうど今日摘みました。
 簡単な処理しかしておりませんが、どうぞお試しください」 と言って張さんはお茶を勧めてきた。

 俺も頂いて飲んでみたが、お茶だった。
 本当に久しぶりのお茶だった。この世界にきて初めて飲んだものだ。
 そういえばまだ、この時代にはお茶は貴重品で、そう簡単に庶民の口には入らないものだった。

 なので、せっかくあるのに、俺はお茶を商材として考えていない。
 俺がおいしそうにお茶を飲んでいるのを後から入ってきた葵と幸は嬉しそうに眺めてきた。
 彼女たちが試しに作ったようだった。
 なので、俺がおいしそうにお茶を飲むのが嬉しかったのだろう。

 その後、俺の両隣にそのまま座ってきた。
 張さんは、先を越されたといった表情を見せたがすぐに葵の隣に座った。

「葵と幸か。
 その顔を見るとうまくやっているようだな。
 安心した」

「はい、私たちは空さんに良くして頂いております。
 十分に幸せです」

 この場がより一層和やかな雰囲気になってきた。
 上人様が葵たちの様子を見て安心したのか、すぐに話を戻してきた。

「して、先ほどの話で、門前での商いが変わる件じゃが、その訳を聞いてもよいか」

「はい、まず、大きな理由としては、危険の分散と言いますか門前だけの商いでは、もし、上人様が心配しております一揆が起こった際に我々も巻き込まれます。
 できるだけ、危険から遠ざけたいのです。
 一揆が起こりそうになったら、門前に近づかなくとも生活ができるようにほかでも商いをしておきたいのです」

「うむ、して、ほかにも理由がありそうじゃな」

「はい、一番大きな理由として、我々の持つ力を大きく成長させたいのです。
 少々のことでは他の勢力が我々にちょっかいをかけてこれないように力を付けたいのです。
 その手段が今やっている商いです。
 堺の例を見なくとも、銭は力を持ちます。
 小銭程度では大した力にはなりませんが、銭が多くなればなるほど力を強く持つことができます。
 そのための商いですが、門前の市では動くお金の量が少なすぎます。
 私が最初に上人様を訪ねた当初ではそれでも十分すぎるくらいの銭を稼ぐことができました。
 あれがなければ今まで生きてはいけなかったでしょう。
 上人様には大変に感謝しております。
 しかし、ここも既に50人を超えて生活をしております。
 正直、この時期に門前の稼ぎだけでは破綻が見えてきました。
 なので、動くお金の多い市で、それもできれば複数で商いをしていきたいのです。
 幸いに、ここからは少し距離がありますが近江の国の観音寺のご城下では、楽市楽座という政があり、いくばくかの銭を払えば商いができるのです。
 我々も前に大和に行った帰りにその権利を買ってきました」 と言って、木札を上人様に見せた。

「ほう~、自由に商いができるとな。
 なれば、そこで商いをするというのだな」

「はい、ここのご城下は交通の要所というか、各地に繋がる道を持っており、とても市は盛んで、当然動く銭の量も門前の比ではありません。
 多分、この辺りでは商いの盛んな津島や熱田よりも市は賑わっておると思います。
 都に近いというのもあるのでしょう」

「そこで商いをしていくといのじゃな。
 ここから離れるというのか」

「いえ、本拠地は変えるつもりはありません。
 それに、観音寺のご城下だけで商いをするつもりもありません。
 当然、門前の商いは止めません。
 商いをする場所を増やしていきたいのです。
 理由は先ほど話したことに加え、これも重要と考えているのですが、市には多くの人が集まります。
 人が集まれば情報も集まってきます。
 侍や商人、それに各宗門の情報が集まれば少しでも早く危険を知ることができます。
 とにかく、我々は生きていきたいのです。
 どんなことをしてもあがいて生きていきます。
 私は、みんなを守るためには何でもします。
 その覚悟を以前、上人様から頂きました。
 そのためには力が必要なのです。
 力の源泉を私は銭に求めます。
 なので、色々と商いを模索しております。
 そうなると、問題が仲間なのです。
 とにかく人手が足りません。
 それも大人の男衆が圧倒的に足りません。
 遠くに商いをするのに安全を確保できないので、以前から上人様にご相談しております。
 なので、今回は本当に感謝しております」

「いや、なに、ワシもワシが彼らを保護できればよかったのじゃが其れも叶わん。
 空にはワシの方が感謝しておるくらいじゃ。
 しかし、今回は今までと違ごうて家族を連れてきたのでちと心配じゃったのじゃよ。
 今までが孤児ばかりじゃったので、そこにいきなり家族が入るのはどうかと思うておったのだが、心配はなさそうだな」

「はい、それに今日から新たな家族を2つ上人様に作って貰いますし、これからは、ここにも家族は増えていきますよ。
 なので、これからもそのような身寄りのない戦災などで場所のなくなった方を遠慮なくお連れください。
 ただし、宗門に狂信的に関わっておられる方や、特定の勢力に深く関わっておられる方は遠慮願っておりますが」

「話は分かった。
 して、今後ワシがここを説明するのに、ここを何と呼べばいいのじゃ?」

「私は知りません、というか、そもそもこの寺の名前も知りません。
 どうしましょう」

「どうしましょうと言ってもワシが知るか。
 そもそも空達の名前を何とする。
 空一族とでも称するか」

「それは止めてください」

「では空よ、いい加減に決められよ」

 傍で今までおとなしく話を聞いていた張さんや葵たちは『そうだそうだ、早く名前を付けてくれ』と言わんばかりに大きく何度も頷いていた。

 困ったぞ。
 このままだと俺の名前が使われそうだ。
 鉄砲で有名な雑賀衆じゃないが空衆何てつけられたら俺は立ち直れないぞ。
 とてもじゃないがすぐに名前を考えないとまずそうな雰囲気になってきた。

 せめてこの寺の名前がわかればそれを使うのだが、あいにく全くと言ってよいほどこの寺の来歴が判らない。
 困った、どうしよう、玄奘様、どうにかしてください、せめてヒントでも貰えればと玄奘様に救いの気持ちを込めて見つめたが、まったく相手にしてもらえなかった。
 くそ~、こうなったら、中学時代のいじめを思い出すが、空衆よりは断然良い。

「決めました。
 『三蔵の衆(みくらのしゅう)』と号しましょう」

「三蔵とな、してその訳を教えてもらえるかな」

「はい、お隣の国、張さんの故郷にあたる明が唐と呼ばれていた時代に遠く天竺まで国の安寧と民の幸せのために命を懸けて旅をした僧に国から送られる称号に三蔵法師があると聞いております。
 その法師様の崇高な精神にあやかり、我々も仲間の安寧と幸せのために頑張る気持ちを込めて付けました。
 当分、この寺の名前も解らないので、この寺の名前も三蔵寺と呼び、我々自身を三蔵の衆と号します」

「三蔵の衆か、私は空さんの名前の方が良かったんだけれど、空さんが決めたのならば諦めます」

 何を言っているんだ、張さんは、葵も幸もそこで張さんに賛同しない。
 どうにかしてくれ。
 これだって、俺の黒歴史から来ているんだから。

 もう覚悟も決めましたよ。
 いいでしょう、行きましょう天竺でもどこでも、それこそ張さん珊さんと一緒に、でも玄奘様、あなたは逃がしませんよ。
 一緒ですからね、いいですか、一緒にどこでも行くのですよ、いいですね……

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