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第一章 転移、そして自立
第三十三話 梅雨の時期
しおりを挟む案の定、翌日からまた雨が降り出した。
バケツをひっくり返したような豪雨ではなく、また一日中降っているわけでもないが、毎日降ったり止んだりだ。
毎日の雨で仕事ができないわけではないが、川原は急な増水が怖かったし、浜では作業そのものができそうになかったので、寺で出来ることを中心に作業をしていた。
新たに加わった家族のみんなには、特に文字の習得に勤めてもらった。
乳飲み子もいたが、母親3人がかわりばんこに子供の面倒を見てもらい、その隙に勉強をして貰う。
最初は、どこの家族も戸惑っていたが、お金が掛からずに文字を覚えられることを一様に喜んでくれた。
ここ三蔵村では文字による情報の伝達を目指しており、文盲の撲滅が当面の目標の一つになっている。
とりあえずは乳飲み子は家族とそれぞれの部落で家族で一緒に暮らしてもらうが、ある程度大きくなった子供については、この三蔵寺で他の子供達と一緒に同じ生活をして貰うつもりだ。
すでに合流しても問題なさそうな年頃の子供も三人ばかりいたが、彼らも今まで逃げ惑う生活で色々とあっただろうから、しばらく家族と一緒に暮らして落ち着いてから合流をして貰うことにした。
夏過ぎまでには合流できそうだと思っている。
なので、しばらくは家族全員で、昼はこの寺で色々してもらい、夕方にそれぞれの部落に戻って貰っている。
それに、生活についてだが、現在は、この寺で給食方式で食事を全員の分を用意しているが、追々それぞれの生活基盤である部落で、普通の家族のように食事を出せるようにしていきたい。
すぐに出来ることとしては、家族ごとに食料を配給方式に変更していくことだ。
梅雨が明けたら配給に変えていく。
できれば、家族に対して給金とまで行かなくともちょっとしたものが買えるくらいのおこずかい程度の銭を支給していくことにした。
将来的には働いている全員に独立して生活できるだけの給金を支給していき、経済的にも自立した村人による村を作っていく。
今だと、大家族か、原始的共同体的な生活様式で、ある意味ゆがんでいる。
理想的な共産主義的生活とも言えなくもないが、このまま更に規模を大きくは絶対にできない。
俺の考えに新たに村方になったみんなは納得してくれた。
その席上で、浜の生活に対して要望がでてきた。
水の問題である。
浜の生活用水というより飲料水は、現在、炭焼き用の窯のある川原付近から瓶に汲み置いて運んでいる。
とても独立した生活は出来そうにない。
なので、飲料水確保に俺は乗り出した。
梅雨の合間、雨の小ぶりの時やわずかな晴れ間の時を狙って林の中を歩き回り、昨日やっと、見つけたのだ。
浜からは7~800m位離れた林の中で小さな湧水の出ている沢を。
俺は、ここから樋などを設け浜に直接水を送ることにした。
早速、珊さんたちを呼んで、計画を話し、以前よりお世話になっている竹林から太めの竹を切り出してきた。
竹を使って樋を作り、浜まで水を送ることにしたのだった。
樋作りならば、雨の日でも寺の中で作業はできる。
適当な長さに竹を切り、半分に割った状態で、節を取り除けば充分に樋として使える。
もともとの沢もそれほど大きくはなく、送れる水の量も大したことはなかったが、数家族程度の水ならば充分に足りる。
浜の部落の規模が大きくなるようならば考えなくてはならないが、当面の対策としてはこれで良かった。
とにかく雨で仕事ができなかったので、寺には暇人が多い。
大人の男集は、連日の勉強から逃げれるのならばなんでも良かったのだろうか、必要とされる竹の切り出しはあっという間に終わった。
文字の読み書きがまだ十分だとは言えない人も、連日の勉強から逃げるために作業に参加してきた程であった。
だから、そんな彼らに対して俺は釘を刺した。
「文字が読めなければ絶対に結婚させませんが、いいですね」
俺の言葉を聞いた大人たちは一様にしょんぼりしていたが、作業にかかったらすぐに元に戻った。
まだまだ隔日の勉強会はやめられそうにないとその時に感じたのだった。
普段ならば、人手の不足で、色々な作業に時間がかかったのだが、ここ数日は梅雨のおかげか人手だけは十二分にあった。
そのおかげで梅雨の合間を使った作業であったが、あっという間に樋による水路は完成した。
俺は、時々様子を見に来る玄奘様に梅雨明け時期のことを聞いたら、あと1~2週間くらいで開けそうだということだった。
今後のこともあり、また、人手が使い放題だったこともあったので、川原に作ってある窯と同じものを林の中の部落に作ることにした。
最初に川原に窯を作ったのは他の望まない勢力に発見されることを恐れてであったが、今ならば、人数も増え、また。
また、一向宗の庇護も受けているように見せられるので、部落の近くに作ることにした。
川の急な増水に充分気を付けながら窯の材料となっている川原の手頃な大きさの石を集め、掘っ立て小屋近くに作り始めた。
最初のあれを作った時には張さん、珊さんと俺の3人で作ったので出来上がるのに時間がかかったのだが、川原から石を運ぶ手間も増えたのに、あっという間に窯が完成した。
こんなに簡単に作れるのならばと、俺は気をよくして、ついでとばかりに焼き物用の窯も作ることにした。
今は、炭焼きのついでに素焼きの焼き物を作っていたのだが、塩の販売を始めるにあたって、塩用の器が欲しかったのだ。
せっかく新たな人手もできたことだし、専用に焼き物にも挑戦することにした。
できれば登り窯を作りたかったのだが、原理も良く解らなかったのと、とりあえず色々と実験の為の物だし、炭焼き用の窯よりも小ぶりの窯を作った。
これも、完成までさほどの時間はかからなかった。
2回目もあり作業になれた大人衆が簡単に作ってしまった。
俺からお願いする作業がなくなったことを知った大人衆は、なんでもするからほかの仕事を作ってくれと俺に懇願してきたのには笑った。
そんなに勉強がしたくなかったのね。
でも、文字が読めないとダメなので、俺は無慈悲に一緒に勉強しましょうと、大人たちを無理やり寺に戻していった。
でも、炭焼き窯が川から離れ、増水による危険もなくなったので、雨でも隔日に炭焼きの作業だけは再開したのだった。
これには大人たちに、特に男衆に喜ばれた。
あなた達は本当に勉強嫌いなのですね。
これから雨でも作業がしやすいように、炭焼きの窯と焼き物用の窯の前に屋根を作ってもらった。
これは、生乾きの木を使っての作業で、大工仕事に経験のある与作さんが中心になって、かなり立派なものがそれもあっという間に完成した。
屋根も出来たので、そろそろ本格的に焼き物を作ることにした。
林の部落に住むのが与作さん夫婦なので、焼き物に付いては与作さん奥さんのお菊さんに頼むことにした。
幸代さんに数人の女衆を付けて、塩を入れておくための小ぶりの壺を蓋も付けて作ることにしたので、彼女たちに集まってもらい、みんなで川原の粘土を使って、作り始めた。
みんな初めての経験で良くわからなかったようで、俺が今まで作ってきた経験を教え、一緒にしばらく作ってみた。
粘土で壺ができても、直ぐに焼けるわけはなく。1週間くらいの乾燥時間が必要なのだ。
できた壺をとりあえずあばら家の中で乾燥させ、次々に壺を作ってもらった。
壺作りは、とりあえず俺の手を離れたので、次に浜の漁の仕掛けを作ることにした。
まだ、人手に余裕があるので、暇な大人のみんなを連れて浜まで来た。
海岸に潮の満ち引きの差を利用しての仕掛けを作ることにした。
梅雨の合間を狙ってかつ潮の潮位の関係もあり、完成までに何度も作業を中断しながら作っていったが、1週間くらいで完成した。
仕掛けは、自然の現象のみで作用するために、完成した翌日から漁ができた。
漁といっても潮が引いたあとに残っている魚を拾うだけの至って原始的な漁だが、初日からそこそこの収穫はあった。
とりあえずはこれら収穫した魚を寺に持ち帰り、みんなで食べた。
これにはみんな喜んでいたのだった。
そうこうしているうちに無事梅雨が明けた。
本格的に夏が到来したのだった。
我々も、引きこもりから、いつもの日常に戻っていった。
新たな作業も加わってきたが、問題なくみんなはこなしている。
俺は、張さん、珊さんと一緒に浜まで来て、いよいよ干物作りに挑戦することにした。
まず、珊さんに作業台と、魚を干す台を作ってもらい、俺と張さんは、桑名の街に魚をさばくための包丁を探しに行った。
今までに材木のために斧を買ったり、竹を捌く為に鉈を買ったりして、色々と道具を揃えていったので、かなりの道具が集まっていた。
最初は何もないところから、葵の相続品である大工道具に始まり、銭を稼げるようになって買い足していき、今では、必要になったらその都度直ぐに買いに行けるだけの銭も持っている。
ここに流れ着いた時には考えられないくらいに豊かになってきているのを実感した。
一緒に暮らす仲間も考えられなくらいのスピードで増えている。
これからは、銭稼ぎも重要だが、食料の確保の道筋だけは付けていかなければならない。
銭があっても飢えはある。
絶対にみんなが飢えない様にしていくことが俺の仕事だ。
そのための力を俺は付けてきた。
まだ非常に微々たるものだが、徐々にではあるが大きく力強くなってきているのだ。
まだ、間に合うはずだ。
今後は大きな不幸を跳ね返せるだけのより大きな力をつけていくぞと心の中で静かに誓った。
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