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第一章 転移、そして自立
第三十八話 峠の茶屋
しおりを挟む三蔵寺の門前に用意している家の整備が住むまでの10日間は、俺はここを離れることができなくて、林の中の部落で作っている焼き物の進み具合の確認やら浜での干物作りの監督やらで時間を使った。
となりの部落からは、ほぼ毎日魚が届けられるので、浜ではみんながかなり忙しく動いていた。
願証寺の門前市での商いは通常通り続けて貰っていた。
干物と塩の売り上げがかなり好調で、商材を増やしてからの売上額はバカにできないくらいであった。
ずっとこの生活ができれば良いのだが、俺の知っている歴史では数年でここも地獄を見ることになる。
俺らの当面の目標として、ここでの暴発を防ぐことが挙げられるが、どこまで頑張れるかは未知数であるために、みんなの生活を守るための方策だけは色々と準備をしていく。
その一つに、収入を得る先を複数持つことで、ここがもし戦乱にでも巻き込まれることがあっても、逃げ先を用意できる。
まずは観音寺での商いの常態化を急ぐことから始める。
今までに2回商いを行ってきたが、できれば10日間で一回、月で三回の割合での商いをしていきたい。
ここからだと、観音寺まで片道2~3日を要する。
ほぼ毎日休みなく働いてやっと達成できる計算だ。
まず最低でも2日で移動できるようにしたい。
そのためには、途中に体を休める場所を整備していきたい。
最近あのルートは尾張商人たちも多数利用しているそうだから、八風峠あたりに茶店などを出してみるか、要検討だな。
ただ何もない場所だけに子供たちだけではあまりに物騒なので、中継ポイントの整備に関して俺は藤林様に相談をしてみた。
「藤林様、ちょっと相談したいことがあるのですが、お時間を取れますか」
「空殿、こっちも落ち着いてきたので、いくらでも時間は有るが、なんの相談かな」
「立ち話ではなんなので、寺で話しましょう」 と言って、門前での家の整備などで配下の者たちを差配していた藤林様を伴って、俺は寺の本堂まで来た。
本堂で、和紙にここと観音寺城下のある近江八幡辺りの場所に印を付け、途中に八風峠を書いた物を見せながら相談を始めた。
「我々は、今後力をつけるために商いの規模を大きくしていきます。
先ごろ手伝って貰いました観音寺城下での商いを本格的にそれも定期的に行っていきます。
私の希望としては毎週あそこで商いをして行きたいのですが、ここからだとあそこまでは2~3日要してしまいます。
休みなどを考えますと、最低でも2日で移動していきたいのですが、それには途中にしっかりとした休憩場所が欲しくなります」
「ふ~~む、空殿はその休憩場所をこの『八風峠』あたりに作りたいと考えているのだな」
「はい、ここからだとちょうど中間地点になりそうですし、できればここにも蔵などを作り、商品の備蓄にも使いたいと考えております」
「して、その相談とは……」
「ここの街道は、最近まであまり使われていなかったので、途中には休める村などほとんどなく、野宿で休むしかありません。
藤林様がご指摘頂いた峠付近に安心して休める茶店などを作ってみたいのですが、建物を作ってもそこを任せる人材がここにはありません。
何分何もない場所の一軒家なもので、野盗などの安全面でかなりの不安があります。
藤林様のお知り合いでそういった面でも、ものともしない方などご存知ありませんか」
俺は、忍者である伊賀の人たちの能力に期待して聞いてみた。
もしかして、藤林様率いる忍者ならば、これくらいなら全く問題ないくらいだったら『しめたもの』だと思って聞いてみた。
「それなら一緒に来た佐吉や利助の家族でも問題は無いのだが、そうするとここでの活動に支障がでるし、引越してきたばかりでまたの引越しをさせるのは気が引けるな。
う~~む、相分かった。
昔の仲間に声を掛けておくとしよう。
ふた家族くらいあれば安心だな。
空殿、峠にはふた家族分の家を用意できるかな」
「それならば問題はありません。
早速、明日から休憩場所を作るとしましょう。
あそこの道は、最近では尾張商人たちも良く利用しているようで、もしかしたら商売としても成り立つかもしれませんから、木賃宿代わりになるものも用意しますので、そちらを任せても大丈夫ですか」
「それなら問題はない。
それに、ほかの商人たちとの接触ができる機会があれば情報も集まりやすいしな。
直ぐに人を用意させるので、そちらで準備を始めてもらえるかな」
「明日から、作業に掛かります。
で、藤林様はどうしますか」
「人の手配は佐吉たちに任せられるので、俺は空殿についていくとしよう」
藤林様に話をつけられたので、早速俺は建物の準備にかかった。生乾きだけれど比較的状態の良いものから順に材木を作り出してもらうように与作さんにお願いを出して、林の部落の男衆総出で、この峠の茶屋作戦に取り組んでもらった。
与作さんには、峠に木賃宿の付いた茶店を作って貰うので、そのための資材をここで揃えて貰うように説明してから、珊さん率いるグループを連れて藤林様と八風峠に向かった。
現地で数日の野宿の必要もあり、そのための資材を荷車に積んでの移動なので、実際の商いの時とあまり変わらない規模となった。
夕方になりやっと目的の場所についたが、流石にこの時間からは何も出来そうにないので、少し開けた場所に早速野宿の準備を始めた。
翌朝からは、拠点となる場所の選定から始めた。
野宿程度ならば、今の開けた場所で何ら問題は無いのだが、実際にここでの生活を考えると水が確保できない。
小一時間ばかりみんなで手分けして探したら、割と簡単に小さな湧水の出ている泉を見つけた。
森の木々が生い茂った山の中だけあって、水は豊富のようだ。
ここからならば、例の樋を使った水路で野宿の場所まで水を引ける。
早速、付近を探して竹を見つけ、樋を作ってみた。
総出で1日を掛けると、泉からの水道が開通した。
排水用に簡単な水路を作って、この日を終えた。
翌日からは珊さんたちを中心になって、例の三和土もどきを使った簡易モルタルハウスを1軒作り始めた。
流石に1日では作れないが後二日もあれば完成する。
その完成を持って、一旦、村に戻ることにした。
林の部落では、順調に建築用の資材の準備が進んでおり、来週にはとりあえずそろうとのことだったので、資材が揃ったら、林の部落の男衆も連れて総出で茶店の建設に向かうことになった。
資材を持って建設現場に向かうのには村の男衆総出となって、浜にいる男衆にも協力を願った。
村にある大八車総出でも建材を全て運ぶことができなかったのだが大八車全てを使うために門前に商材を運ぶことができなかったので、門前での商いも今日はお休みしたのだった。
干物や塩、それに炭や焼き物の制作に携わっていた女衆はそのまま作業を継続してもらったが、それ以外の女衆にも協力を願った。
現場での炊き出しなどで、人手はいくらあっても足りないくらいだ。
峠についたら、すぐさま積荷をお下ろし、与作さんたちは早速建設作業に取り掛かった。
炊き出し組の女衆はその場に残ったが、それ以外の男衆は無理をしても今日中に大八車を引いて村に戻っていった。
まだ残っている資材を明日以降に運ぶためだ。
結局全ての資材を運び終えるのに3日も掛かった。
浜の部落の人たちには1日だけ休みを与えて、翌日から日常の商い活動に戻ってもらった。
峠では、与作さんたちが必死に店の建設を行っていた。
張さんに寺から炊き出しのための女衆を出してもらい、珊さんには以前に作った簡易モルタルハウスを後2軒作ってもらった。
前に作ったモルタルハウスは、今は炊き出しに来てもらっている女衆の宿泊場所として使ってもらっている。
かれこれ1週間経とうかという時期にここ峠の建設現場に藤林様が幾人かの見知らぬ人たちを連れてやってきた。
「空殿、紹介させてくれ。
ここの面倒を見てもらう権造さんの家族と、小築さんの家族だ。」
「村長、お世話になります。」
と俺にたいして丁寧に権造さんが挨拶をしてくれた。
俺は、かなり慌てたが、俺も頭を下げて挨拶を返した。
「こちらこそ、急な話で、驚いたことでしょうが、よろしくお願いします。」
「店の方はもう7日ばかりかかりそうですが、皆様方の家はできております。
粗末な家で申し訳ありませんが、ここにお住まいください。」
と言って、珊さんに作ってもらった家に一行を連れて行った。
「これは、かなり変わった作りですね。
今まで見たこともありません。」
「な~に、住むと、案外快適だぞ。
雨風の漏れは全く心配ないのだから、直ぐになれるはずだ。」
と言って、すでに同様の家に住んでいる藤林様がみんなに説明していった。
女手も新たに増えたので、張さん達寺から応援に来てもらっていた人たちも明日朝一番で、ここを離れることになった。
俺も、一旦ここを離れ張さんたちと一緒に珊さんたちに守られながら寺に戻っていった。
あと2週間もすれば峠での商売も出来そうになっていた。
我々があそこで建設を始めてからもかなりの数の商人がキャラバンを組んで通っていった。
峠が近江八幡と桑名の中間に位置しているためか、峠付近で野宿している商人たちが多かった。
その商人の多くが建設途中であるにも関わらず、泊まりたそうにしていたのが印象的だったし、俺らが準備した水道を借りにくる商人たちが多かったので、あそこでの商売も充分に採算が取れそうだった。
もっとも、あそこは採算割れをしても問題ないと考えていたが、あそこでも儲けられるのならばそれに越したことはない。
もうじき八月も終わりそうなこの時期に準備できたのは良かった。
秋に入るとまた雨季になる。
そうなると活動がかなり制限されるが、あそこが活動を始めたら、焼き物だけでも観音寺城下で商いが出来そうだ。
俺がここに流れ着いて早5ヶ月が経とうとしているが、よもやここまで活動が大きくなるとは思わなかった。
本当に良い人たちとの出会いが多かった奇跡に感謝しよう。
まだまだ夏の暑さはピークを越えてはいないが、もうじき秋が来る。
今まで嵐の被害は出ていなかったが、秋には台風も来ることがあるだろう。
それに関しても備えておかなければならない。
特に浜の部落に関しては、十分な備えをしていこう。
そのための資金も完成した峠の茶店を利用して観音寺での商いを大きくしていくことになる。
まだまだやることがいっぱいだ。
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