名もなき民の戦国時代

のらしろ

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第一章 転移、そして自立

第三十九話 茶店の拡張

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 まだまだ暑い日が続いていたが、ここは周りを深い森に囲まれた峠である。
 海辺と違って、夏真っ盛りでも割とひんやりした空気で過ごしやすい場所に我々の新たな基地となる茶店を作っていた。

 ここの整備に全力を挙げていたので、本来ならばとっくに観音寺での商いに精を出しているはずであったが、俺の思い付きが悪いのか、あれから一度も観音寺には行っていない。
 商いの方は願証寺の門前市で頑張ってもらっている。

 幸い、観音寺向けに開発した干物が好調で、今のところ十分な収入を上げている。
 でも、そろそろ俺の方も商いを頑張りたいと考えてきだした頃にやっと茶店がオープンできるまでになった。
 茶店の新規開店は時期的にお盆過ぎにすることにした。

 さすがにお盆中はここの街道を通る商人は全くいなかったので、かえってお盆明けに多くの商人が通ることが予想されたのだ。
 もっとも、ここでの商いは期待していなかったのだが、ここを整備している時に、この街道を通る商人たちが、ここの開店をものすごく期待しているのが判ったので、どうせならきちんと商いをしていこうと皆で話し合い、開店の時期を決めたのだ。

 我々には、ここの世話をして貰える事に成っている甲賀の方を除くと、全員が故郷を何らかの事情で追い出されていたので、お盆に何かしようとする雰囲気に成れなかったので、そのまま仕事をして貰っていた。

 もっとも願証寺の門前市はお盆の最中は人もまばらで、市に成らなかったので、商いの方はお休みしていた。
 その分、作るのに時間のかかる焼き物をみんなで協力して作って貰っている。
 そのかいもあってか、十分な量が用意できたので、これを持って観音寺に商いに向かうことにした。
 途中、茶店で開店のお祝いを簡単に済ませて、1日だけ様子を見てから、峠を降りていった。

 観音寺城下の賑わいは以前来た時よりもより賑わっているようで、持ち込んだ、干物はあっという間に売り切れてしまった。
 なんでも以前に売った時のお客様が干物の味を覚えていたとかで、何度もここに買いに来たが、我々を見つけることができなかったとこぼしていたのを聞いた。

 あの後、ここに来なかったので見つかるはずはなかったのだが、事情を説明して、不満をこぼしていたお客様に少しだけサービスを付けたら大層喜んでいたので、商いは『三方良し』の近江商人じゃないが正しくお客様に喜んで頂くのが一番だと強く感じた。

 素人の作品である焼き物も順調に売り上げ、用意した分は初日で売り切ることができた。
 ここなら、かなりの量を用意しても、十分に商売としてやっていけそうだ。

 峠に拠点を作ったことに気を大きくしていたこともあったのだが、ここにも拠点が欲しくなってきた。
 すると商いを手伝ってくれている藤林様が俺に話しかけてきた。

「空殿、ここでの売り上げは大したものだな。
 干物だけでも十分に商売が成り立つ。
 どうだ、ここにきちんと店でも構える気はないかな」

「藤林様、ちょうどおれもそれを考えていたところです。
 ここに店を構え、専門に商いをしてくれる人を配置し、俺らは、ここと三蔵村との間を商品を運ぶだけに専念できればかなりの売り上げを見込めそうだと考えておりました。
 あと何回ここで商いをすればお金が溜まるかきちんと計算しないといけませんね。
 戻ってから、村方と相談してみます。
 そうだ、藤林様も一緒に打ち合わせに出てください。
 これから我々と一緒に生活をして頂ける事に成ったので、藤林様も村方の一人として、今後も色々と相談に乗ってください」

「新参の俺にか…いいのか?」

「大丈夫ですよ。
 村の連中は全員、まだ1年も住んではいませんよ。
 それを言うならば、俺もその新参者です。
 気にしないでください」

「相分かった。
 空殿の話を受けよう。
 よろしく頼む」

「はい、こちらこそ、よろしくお願いします。
 で、早速なのですが、ここでの店を持つのに必要な条件を調べて貰えますか。
 掛かる費用から、土地の有力者への申請など、ここに小さくても構いませんから店を持ちましょう」

「すぐに調べさせる。
 村に戻るまでに、おおよその事は分かるようにしておくから、村に戻ったら相談しよう」

 翌日は、俺は市を散策して、伊勢に持ち帰って売れば儲けられそうなものを探していった。
 ここでの特産品としてまず思い浮かぶのが『鮒ずし』と『信楽焼』だけなのだが、市を見渡してもそれらは見つけられなかった。

 もっとも『信楽焼』が売っていたのならば我々の素人臭い焼き物など売れそうになかったのだが、当分は干物と焼き物で勝負ができそうだ。生憎ここから持ち帰って利益になりそうなものはとうとう見つけられなかった。
 途中に寄る茶店で使えそうな味噌を買い込んでここを離れることにした。

 観音寺城下から八風峠に作った茶店まではやはり1日掛かる。
 朝、観音寺を発って峠の茶店には夕方に着いた。
 今はまだ十分に明るいが、冬場などぎりぎりの距離だと思われる。
 もっとも雪などが降ったら通れそうにないから、冬はどうするかは今後の課題だ。

 夕方、峠の茶店に着いたら、そこそこの人が出ていた。
 早速のお客様で、茶店は、店主たちが慣れないこともあって、かなり天手古舞の状態だった。

 俺らは、買ってきた味噌を茶店の中に下すとすぐに手伝いを始めた。
 藤林様やここでの主人である権蔵さんが言うには、慣れれば今の人員で充分だが、こちらの予想に反して木賃宿がすぐに一杯になりそうで、とても俺らが泊まり切れそうにないというのだ。

 本末転倒じゃないか……
 自分たちの宿のつもりで準備していたのに、目ざとい近江商人や尾張商人は早くからこの街道に目を付けていたのだが、安全と宿泊の問題から利用に躊躇していたようだった。

 それが解決したのならば何ら躊躇する必要がなくなったので、遠慮なく使う事に成ったようだ。
 なので、これからも利用者が増えそうだというのだ。

 今日は、最初に準備していた権蔵さん達の家に分かれて泊まることでどうにかしのいだが、これからどうしよう。
 いっそのこと、自分ら用にもう1~2軒の家をここに作ろう。
 なら、その時に一緒に蔵も作って、茶店の倉庫として使うだけでなく、観音寺の店のためのバックヤードとしての機能も備えよう。
 帰ったら、合わせてこの件も相談しよう。

 翌朝早くから商人たちはそれぞれの方面に、ここを発って行った。
 俺らは、ここでの商いについて二、三、権蔵さん達と相談をした後、ここを発った。
 ほんの少しの差でしかないが、すでに、ここには商人たちは誰もいなかった。
 旅行じゃないので、商人たちはすぐに目的地に向かったようだ。
 かえって俺らには都合が良かった。
 三蔵村については、まだできるだけ公にはしたくはなかった。
 なので、付近にだれもいない状態での旅立ちはむしろ望む所だったのだ。

 下りなので、来る時よりは時間は掛からなかったが、なにせ道が悪いので、そうたいした時間の短縮とまではいかなかった。
 いずれ道の整備もしたいくらいだ。
 俺らが村に着いた時には、まだ日も高かったので、村の連中は全員が戻ってはいなかったが、俺は、葵を捕まえて、村方を本堂に集めて貰った。

 三々五々に村方たちが本堂に集まってきた。
 散らばっていたので、集まるのに時間がかかったが、全員が集まったのを確認したのちに、話し合いに入っていった。

 観音寺での店の件と、近々の課題としての峠の茶店の件についてみんなで話し合った。
 観音寺での店の件だが、少々場所が悪いのだが、数軒の空き家があるとのことで、ここならば既に手持ちの銭で買うことができそうだったが、地元の有力者などの紹介状が必要だというのだ。

 でも、これには、俺にあてがあった。
 以前に何度かお世話になった寺のご住職がいるのだ。
 しかも、このご住職は玄奘様の兄弟子だとか。
 玄奘様かお師匠様にあたる上人様を通して、彼から紹介状を書いて貰う事に成った。

 明日、早速俺は願証寺まで行き、また、上人様にお願いに上がることにした。
 近々の課題である峠の茶店の件だが、俺の素案通りに明日から珊さんが手の者を連れて峠まで行き、作ることになった。

 秋の雨期に入るまでにはきちんとした格好で整備が終わりそうだ。
 問題らしい問題はほぼ無くなった。
 これから、ますますここは大きくなりそうだ。
 となると、最初から常にこの村を悩ませていた問題が、今度はかなりの深刻度を持って浮上してきた。

 人が足りない~~、どうしよう。

 
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