名もなき民の戦国時代

のらしろ

文字の大きさ
62 / 319
第二章 国取り?

第六十一話 志摩攻略

しおりを挟む



 俺は今北風が吹きさらす浜にきている、先ほど日も沈み、寒さが骨身に染みる。
 なぜ寒い中、俺が浜にいるかと云うと、決してMではない。
 寒いのが好きなわけではない、むしろ寒いのは苦手だ。
 ではなぜ今ここにいるかと云うと、ちょうど日が沈むこの瞬間に一隻のキャラベル型の帆船の出港を見送った。

 そう、あの2番艦と交換したキャラベルだ。
 完全武装した兵士を150人を乗せ、手に入れたカルバリン砲を10門乗せての出港だ。
 定員60名の船に倍以上の150名も乗せて大丈夫か、だなんて言わないでくれ。
 兵糧の類は、一切載せていないのだ。
 それに搭乗時間も3~5時間もあれば目的地に着く距離なのだから、武装した兵士の皆さんには、船倉の中にとりあえず入って貰っているので、表面上にはぎゅうぎゅうに詰められたような感じにはなっていない。

 もうお気づきだろう。
 志摩への侵攻が始まったのだ。
 春に攻めると言ってなかったっけ。
 俺は確かにそういった。
 昨日も皆が集まる席で、志摩侵攻は春の予定ではなかったっけ……と言いました。
 そうしたら、あいつら何て言ったかと思う?

『空さん、立春過ぎたら春ですよ』って言いやがった。

 ……そんなわけあるか~~~~~~って言おうかと思ったのだが、言う前に九鬼様の所の副将格の源蔵さんが言うには 『大丈夫ですよ、御屋形様。
 実際に攻撃が始まるのは弥生ですから、十分に春と言えますよ。』だって。

 いいかげんにせ~よ~、お前たちは本当にもう……

 なぜこうなったかと言うと、ほんの1週間前くらい前に雑賀党の皆さんが、全員浜に到着したのだ。
 事前に入念に打ち合わせができるので、早く到着したことはむしろ朗報なのだが、3日前に最後になる5艘目の8番艦が艤装を終え、2日前にその船の確認を全て終えた。
 そう、2日前に侵攻の準備が完全に整ったのだ。

 今回は近場なので兵糧などの準備は要らず、武器等の準備だけだったので、2日前には完全に志摩侵攻の準備を終えたのだ。
 そうしたら、何を思ったのか、今回の大将を任せている九鬼様が明日、侵攻を開始します。
 戦闘は明後日の弥生の初日、早朝からです…だと。

 で、最初の会話に繋がるのだ。

 俺は、流石に心配になり、少々生意気かと思ったのだが、九鬼様に多少の皮肉を込めて 「九鬼様、急いては事を仕損じると申します。
 十分に用意してから攻めませんか。」 と言ったら、九鬼様はなんといったと思う。

 「『兵は拙速(せっそく)を聞くも、未いまだ巧(たくみ)の久(ひさ)しきを賭(みざ)るなり。』と聞きます。
 時間は我々だけでなく敵にも働きます。
 敵に準備の時間を与えないためにも明日行動を開始します。」……だって、くそ~学があるな……って俺が言っては駄目か。しょうがないので俺は大将の意見に賛意を示したよ。
 『将、軍に在りては君命をも受けざるところにあり』ってこれも孫子だったか、そんな格言があるので、一度任せたのだから諦めて全てを九鬼様の云う通りに任せることにした。

 そんなことが昨日あって、先ほど第一陣が出発したわけだ。
 一緒に見送りに来ていた九鬼様が心配そうに見ている俺に向かって、

 「大丈夫です。
 やれることはすべてやりました。
 万が一にも失敗はありませんよ。」

 だって、本当に大丈夫かな。
 横で一緒に見送りに来ていた張さんが 「空さん、船も見えなくなりましたから、戻りましょうか。」 と優しく声を掛けてくれた。

 既に賽さいは投げられたので、あとは成り行きに任せるしかないのだが、部屋に戻ると、葵たちが暖かな夕餉を作って待っていてくれた。
 助かる、体の芯まで冷えていたので、暖かな食事はごちそうだ。

 夕餉を食べながらみんなと会話を続けていく。
 俺の横で、情報収集を担当してくれる百地丹波少年が(と言ってもほとんど俺と年格好は変わらないのだが) 「空様、大丈夫です。
 すべてうまくいきますよ。
 それに毎日現地の様子は伝えられてきますので、入り次第すぐに知らせます。
 明日の朝には城攻め組の上陸の様子が入ってきますから、待っていてください。」 と自信たっぷりに教えてくれた。

 俺はとりあえず、丹波少年に感謝の意を示して、今日のところはすぐに寝た。
 床に入ってもなかなか寝付けなかったが無理にでも目をつむり朝まで耐えた。

 翌朝、5艘の帆船が朝日に向かって出港していった。
 九鬼艦隊の出港だ。
 今まで1艘単位で敵への威嚇と牽制、それに水夫たちの習熟を兼ねて船を出してはいたが、艦隊としての出港は初めてであった。

 これまた、弥生3月の初日なのだから、日の出前は非常に冷えるのだ。
 昨日の比ではないのだが、見送らないわけにはいかず、船が見えなくなるまで浜で見送っていた。

 もう心配で、俺の胃に穴が開きそうなのだが、これから作戦の終了予定の1週間もあるのに……持つのかな俺の胃が、それよりもメンタルの方が心配だ。
 なんで転移させるのならば、こんな競争の激しい、それも比喩ではなく命が掛かる競争の激しい時代に送り込んだのか、送り込んだやつを恨みたい。
 転移されるまでは許そう……せめて昭和の30年代とか、それでもなければ江戸の元禄時代とかだったら、時代の隅で細々と生きていけたのに、この時代はないわ~~。

 とにかく、生きていくのに厳しすぎる。
 俺には無理、助けてほしいよ。
 と愚痴を言っても始まらないか、俺は、見送りを終えたのちに、寺に戻った。

 寺に戻ると、丹波少年が俺を見つけ、本当にうれしそうに走ってきた。
 もし彼にしっぽがあれば犬のように振り切れんばかりに振っていただろうと思われた。

 俺のところまでくると、昨日の城攻め組の夜間上陸の様子を教えてくれた。
 その報告では、事前に上陸予定地に伊賀組が10人ばかりが待機しており、船とたいまつを使って連絡を取り合い、無事に一人もかけることなく全員が上陸し、朝までに攻撃の準備を整えたそうだ。

 九鬼艦隊の攻撃が始まるのを合図に城の攻撃を開始するとの報告を受けた。
 とりあえず、今の段階では計画の通りに進んでいる。
 頑張れ、俺のメンタル、まだ大丈夫だ。

 結局その日は、俺は何もできずに、寺の中をただウロウロとしていただけだ。
 葵や幸には、うっとうしがられ、張さんには優しく慰めて貰った。
 張さんに慰めて貰っている俺の姿を見た葵と幸は悔しそうにさんざん嫌味を言ってきたのだが、俺の耳には右から左で届かなかった。

 とにかく心配で何も考える事すらできなかったのだ。
 こんなのがあと1週間も続くかと思うと、本当に勘弁してくれ~~。

 翌日の朝には、昨日の戦闘の様子が伝えられた。

 「誰も死者なく終わった。
 完勝であった。」とだけ伝えられた。

 誰も死ななかったとの報告に俺は安どして、その場に座り込んでしまった。
 その日の午前中も俺は使い物にはならなかった。
 全身に力が入らずにただ座り込んでいた。

 昼過ぎに浜から、九鬼艦隊の帰港が伝えられた。
 俺はすぐにでも浜に出迎えに行こうとしたのだが、まだ体調が復調しておらず、結局出迎えは張さん達に任せて、俺は寺で待つ事にした。

 どれくらい待ったのだろう。
 寺の外から嬉しそうにワイワイしながら大勢の人たちが近づいて来るのが分かった。

 先頭に九鬼様が大股で俺に向かって来るのが見えてきた。
 本当にうれしそうに近づいてきてきた。

 でもなんで、総大将がここに戻ってきているのだ。
 城を落としても、周りの平定が残っているはずじゃなかったっけ。
 しかし、あまりに九鬼様が嬉しそうに近づいて来るので、悪い事ではないと、とりあえず安堵してはいるのだが、納得ができない。

 ま~話を聞けばわかる事だと、この場にて九鬼様を待った。

 九鬼様が本堂に入ると、俺に向かって深々と頭を下げ、

「御屋形様、報告します。」 と言ってきた。

 御屋形様って誰の事だよ…と、突っ込みたいのを我慢して続きを促した。

「我々は念願の志摩一国の平定を終えました。
 今、現地には孫一氏率いる雑賀党と藤林様率いる伊賀衆が不測の事態に備え警戒に当たっております。
 御屋形様には現地にお越しいただき、その場にて直接の差配をお願いしたく参上しました。」

「え???? 
 早くない?
 計画では早くて7日はかかるはずだよね?
 どういうこと?」

 俺の頭の中は、疑問でいっぱいになった。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

幼馴染達と一緒に異世界召喚、だけど僕だけ別な場所に飛ばされた先は異世界の不思議な無人島だった。

アノマロカリス
ファンタジー
よくある話の異世界召喚… スマホのネット小説や漫画が好きな少年、洲河 愽(すが だん)。 いつもの様に幼馴染達と学校帰りの公園でくっちゃべっていると地面に突然魔法陣が現れて… 気付くと愽は1人だけ見渡す限り草原の中に突っ立っていた。 愽は幼馴染達を探す為に周囲を捜索してみたが、一緒に飛ばされていた筈の幼馴染達は居なかった。 生きていればいつかは幼馴染達とまた会える! 愽は希望を持って、この不思議な無人島でサバイバル生活を始めるのだった。 「幼馴染達と一緒に異世界召喚、だけど僕の授かったスキルは役に立つものなのかな?」 「幼馴染達と一緒に異世界召喚、だけど僕は幼馴染達よりも強いジョブを手に入れて無双する!」 「幼馴染達と一緒に異世界召喚、だけど僕は魔王から力を授かり人類に対して牙を剥く‼︎」 幼馴染達と一緒に異世界召喚の第四弾。 愽は幼馴染達と離れた場所でサバイバル生活を送るというパラレルストーリー。 はたして愽は、無事に幼馴染達と再会を果たせるのだろうか?

蒼穹の裏方

Flight_kj
SF
日本海軍のエンジンを中心とする航空技術開発のやり直し 未来の知識を有する主人公が、海軍機の開発のメッカ、空技廠でエンジンを中心として、武装や防弾にも口出しして航空機の開発をやり直す。性能の良いエンジンができれば、必然的に航空機も優れた機体となる。加えて、日本が遅れていた電子機器も知識を生かして開発を加速してゆく。それらを利用して如何に海軍は戦ってゆくのか?未来の知識を基にして、どのような戦いが可能になるのか?航空機に関連する開発を中心とした物語。カクヨムにも投稿しています。

日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-

ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。 1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。 わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。 だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。 これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。 希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。 ※アルファポリス限定投稿

もし石田三成が島津義弘の意見に耳を傾けていたら

俣彦
歴史・時代
慶長5年9月14日。 赤坂に到着した徳川家康を狙うべく夜襲を提案する宇喜多秀家と島津義弘。 史実では、これを退けた石田三成でありましたが……。 もしここで彼らの意見に耳を傾けていたら……。

マンションのオーナーは十六歳の不思議な青年 〜マンションの特別室は何故か女性で埋まってしまう〜

美鈴
ファンタジー
ホットランキング上位ありがとうございます😊  ストーカーの被害に遭うアイドル歌羽根天音。彼女は警察に真っ先に相談する事にしたのだが…結果を言えば解決には至っていない。途方にくれる天音。久しぶりに会った親友の美樹子に「──なんかあった?」と、聞かれてその件を伝える事に…。すると彼女から「なんでもっと早く言ってくれなかったの!?」と、そんな言葉とともに彼女は誰かに電話を掛け始め… ※カクヨム様にも投稿しています ※イラストはAIイラストを使用しています

対ソ戦、準備せよ!

湖灯
歴史・時代
1940年、遂に欧州で第二次世界大戦がはじまります。 前作『対米戦、準備せよ!』で、中国での戦いを避けることができ、米国とも良好な経済関係を築くことに成功した日本にもやがて暗い影が押し寄せてきます。 未来の日本から来たという柳生、結城の2人によって1944年のサイパン戦後から1934年の日本に戻った大本営の特例を受けた柏原少佐は再びこの日本の危機を回避させることができるのでしょうか!? 小説家になろうでは、前作『対米戦、準備せよ!』のタイトルのまま先行配信中です!

母を訪ねて十万里

サクラ近衛将監
ファンタジー
 エルフ族の母と人族の父の第二子であるハーフとして生まれたマルコは、三歳の折に誘拐され、数奇な運命を辿りつつ遠く離れた異大陸にまで流れてきたが、6歳の折に自分が転生者であることと六つもの前世を思い出し、同時にその経験・知識・技量を全て引き継ぐことになる。  この物語は、故郷を遠く離れた主人公が故郷に帰還するために辿った道のりの冒険譚です。  概ね週一(木曜日22時予定)で投稿予定です。

仮想戦記:蒼穹のレブナント ~ 如何にして空襲を免れるか

サクラ近衛将監
ファンタジー
 レブナントとは、フランス語で「帰る」、「戻る」、「再び来る」という意味のレヴニール(Revenir)に由来し、ここでは「死から戻って来たりし者」のこと。  昭和11年、広島市内で瀬戸物店を営む中年のオヤジが、唐突に転生者の記憶を呼び覚ます。  記憶のひとつは、百年も未来の科学者であり、無謀な者が引き起こした自動車事故により唐突に三十代の半ばで死んだ男の記憶だが、今ひとつは、その未来の男が異世界屈指の錬金術師に転生して百有余年を生きた記憶だった。  二つの記憶は、中年男の中で覚醒し、自分の住む日本が、この町が、空襲に遭って焦土に変わる未来を知っってしまった。  男はその未来を変えるべく立ち上がる。  この物語は、戦前に生きたオヤジが自ら持つ知識と能力を最大限に駆使して、焦土と化す未来を変えようとする物語である。  この物語は飽くまで仮想戦記であり、登場する人物や団体・組織によく似た人物や団体が過去にあったにしても、当該実在の人物もしくは団体とは関りが無いことをご承知おきください。    投稿は不定期ですが、一応毎週火曜日午後8時を予定しており、「アルファポリス」様、「カクヨム」様、「小説を読もう」様に同時投稿します。

処理中です...