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第二章 国取り?
第六十一話 志摩攻略
しおりを挟む俺は今北風が吹きさらす浜にきている、先ほど日も沈み、寒さが骨身に染みる。
なぜ寒い中、俺が浜にいるかと云うと、決してMではない。
寒いのが好きなわけではない、むしろ寒いのは苦手だ。
ではなぜ今ここにいるかと云うと、ちょうど日が沈むこの瞬間に一隻のキャラベル型の帆船の出港を見送った。
そう、あの2番艦と交換したキャラベルだ。
完全武装した兵士を150人を乗せ、手に入れたカルバリン砲を10門乗せての出港だ。
定員60名の船に倍以上の150名も乗せて大丈夫か、だなんて言わないでくれ。
兵糧の類は、一切載せていないのだ。
それに搭乗時間も3~5時間もあれば目的地に着く距離なのだから、武装した兵士の皆さんには、船倉の中にとりあえず入って貰っているので、表面上にはぎゅうぎゅうに詰められたような感じにはなっていない。
もうお気づきだろう。
志摩への侵攻が始まったのだ。
春に攻めると言ってなかったっけ。
俺は確かにそういった。
昨日も皆が集まる席で、志摩侵攻は春の予定ではなかったっけ……と言いました。
そうしたら、あいつら何て言ったかと思う?
『空さん、立春過ぎたら春ですよ』って言いやがった。
……そんなわけあるか~~~~~~って言おうかと思ったのだが、言う前に九鬼様の所の副将格の源蔵さんが言うには 『大丈夫ですよ、御屋形様。
実際に攻撃が始まるのは弥生ですから、十分に春と言えますよ。』だって。
いいかげんにせ~よ~、お前たちは本当にもう……
なぜこうなったかと言うと、ほんの1週間前くらい前に雑賀党の皆さんが、全員浜に到着したのだ。
事前に入念に打ち合わせができるので、早く到着したことはむしろ朗報なのだが、3日前に最後になる5艘目の8番艦が艤装を終え、2日前にその船の確認を全て終えた。
そう、2日前に侵攻の準備が完全に整ったのだ。
今回は近場なので兵糧などの準備は要らず、武器等の準備だけだったので、2日前には完全に志摩侵攻の準備を終えたのだ。
そうしたら、何を思ったのか、今回の大将を任せている九鬼様が明日、侵攻を開始します。
戦闘は明後日の弥生の初日、早朝からです…だと。
で、最初の会話に繋がるのだ。
俺は、流石に心配になり、少々生意気かと思ったのだが、九鬼様に多少の皮肉を込めて 「九鬼様、急いては事を仕損じると申します。
十分に用意してから攻めませんか。」 と言ったら、九鬼様はなんといったと思う。
「『兵は拙速(せっそく)を聞くも、未いまだ巧(たくみ)の久(ひさ)しきを賭(みざ)るなり。』と聞きます。
時間は我々だけでなく敵にも働きます。
敵に準備の時間を与えないためにも明日行動を開始します。」……だって、くそ~学があるな……って俺が言っては駄目か。しょうがないので俺は大将の意見に賛意を示したよ。
『将、軍に在りては君命をも受けざるところにあり』ってこれも孫子だったか、そんな格言があるので、一度任せたのだから諦めて全てを九鬼様の云う通りに任せることにした。
そんなことが昨日あって、先ほど第一陣が出発したわけだ。
一緒に見送りに来ていた九鬼様が心配そうに見ている俺に向かって、
「大丈夫です。
やれることはすべてやりました。
万が一にも失敗はありませんよ。」
だって、本当に大丈夫かな。
横で一緒に見送りに来ていた張さんが 「空さん、船も見えなくなりましたから、戻りましょうか。」 と優しく声を掛けてくれた。
既に賽さいは投げられたので、あとは成り行きに任せるしかないのだが、部屋に戻ると、葵たちが暖かな夕餉を作って待っていてくれた。
助かる、体の芯まで冷えていたので、暖かな食事はごちそうだ。
夕餉を食べながらみんなと会話を続けていく。
俺の横で、情報収集を担当してくれる百地丹波少年が(と言ってもほとんど俺と年格好は変わらないのだが) 「空様、大丈夫です。
すべてうまくいきますよ。
それに毎日現地の様子は伝えられてきますので、入り次第すぐに知らせます。
明日の朝には城攻め組の上陸の様子が入ってきますから、待っていてください。」 と自信たっぷりに教えてくれた。
俺はとりあえず、丹波少年に感謝の意を示して、今日のところはすぐに寝た。
床に入ってもなかなか寝付けなかったが無理にでも目をつむり朝まで耐えた。
翌朝、5艘の帆船が朝日に向かって出港していった。
九鬼艦隊の出港だ。
今まで1艘単位で敵への威嚇と牽制、それに水夫たちの習熟を兼ねて船を出してはいたが、艦隊としての出港は初めてであった。
これまた、弥生3月の初日なのだから、日の出前は非常に冷えるのだ。
昨日の比ではないのだが、見送らないわけにはいかず、船が見えなくなるまで浜で見送っていた。
もう心配で、俺の胃に穴が開きそうなのだが、これから作戦の終了予定の1週間もあるのに……持つのかな俺の胃が、それよりもメンタルの方が心配だ。
なんで転移させるのならば、こんな競争の激しい、それも比喩ではなく命が掛かる競争の激しい時代に送り込んだのか、送り込んだやつを恨みたい。
転移されるまでは許そう……せめて昭和の30年代とか、それでもなければ江戸の元禄時代とかだったら、時代の隅で細々と生きていけたのに、この時代はないわ~~。
とにかく、生きていくのに厳しすぎる。
俺には無理、助けてほしいよ。
と愚痴を言っても始まらないか、俺は、見送りを終えたのちに、寺に戻った。
寺に戻ると、丹波少年が俺を見つけ、本当にうれしそうに走ってきた。
もし彼にしっぽがあれば犬のように振り切れんばかりに振っていただろうと思われた。
俺のところまでくると、昨日の城攻め組の夜間上陸の様子を教えてくれた。
その報告では、事前に上陸予定地に伊賀組が10人ばかりが待機しており、船とたいまつを使って連絡を取り合い、無事に一人もかけることなく全員が上陸し、朝までに攻撃の準備を整えたそうだ。
九鬼艦隊の攻撃が始まるのを合図に城の攻撃を開始するとの報告を受けた。
とりあえず、今の段階では計画の通りに進んでいる。
頑張れ、俺のメンタル、まだ大丈夫だ。
結局その日は、俺は何もできずに、寺の中をただウロウロとしていただけだ。
葵や幸には、うっとうしがられ、張さんには優しく慰めて貰った。
張さんに慰めて貰っている俺の姿を見た葵と幸は悔しそうにさんざん嫌味を言ってきたのだが、俺の耳には右から左で届かなかった。
とにかく心配で何も考える事すらできなかったのだ。
こんなのがあと1週間も続くかと思うと、本当に勘弁してくれ~~。
翌日の朝には、昨日の戦闘の様子が伝えられた。
「誰も死者なく終わった。
完勝であった。」とだけ伝えられた。
誰も死ななかったとの報告に俺は安どして、その場に座り込んでしまった。
その日の午前中も俺は使い物にはならなかった。
全身に力が入らずにただ座り込んでいた。
昼過ぎに浜から、九鬼艦隊の帰港が伝えられた。
俺はすぐにでも浜に出迎えに行こうとしたのだが、まだ体調が復調しておらず、結局出迎えは張さん達に任せて、俺は寺で待つ事にした。
どれくらい待ったのだろう。
寺の外から嬉しそうにワイワイしながら大勢の人たちが近づいて来るのが分かった。
先頭に九鬼様が大股で俺に向かって来るのが見えてきた。
本当にうれしそうに近づいてきてきた。
でもなんで、総大将がここに戻ってきているのだ。
城を落としても、周りの平定が残っているはずじゃなかったっけ。
しかし、あまりに九鬼様が嬉しそうに近づいて来るので、悪い事ではないと、とりあえず安堵してはいるのだが、納得ができない。
ま~話を聞けばわかる事だと、この場にて九鬼様を待った。
九鬼様が本堂に入ると、俺に向かって深々と頭を下げ、
「御屋形様、報告します。」 と言ってきた。
御屋形様って誰の事だよ…と、突っ込みたいのを我慢して続きを促した。
「我々は念願の志摩一国の平定を終えました。
今、現地には孫一氏率いる雑賀党と藤林様率いる伊賀衆が不測の事態に備え警戒に当たっております。
御屋形様には現地にお越しいただき、その場にて直接の差配をお願いしたく参上しました。」
「え????
早くない?
計画では早くて7日はかかるはずだよね?
どういうこと?」
俺の頭の中は、疑問でいっぱいになった。
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