名もなき民の戦国時代

のらしろ

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第二章 国取り?

第六十二話 落とした田城城

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 俺は、九鬼様に連行されるように船に連れてかれそうになり、張さんと珊さんを呼んで一緒に来てもらった。
 なぜか当然のように葵と幸もついてくるので、俺は彼女たちに寺に戻って、玄奘様に頼んで、和紙をもらってくるようにお願いをした。

 大丈夫、絶対に必要になるので、紙が来るまで出港は待ってもらうからといって言い聞かせた。
 なぜか二人は「私たちじゃなく紙を待っているんですね」っと言ってふてくされながら走って玄奘様のところに向かった。

 浜に俺らがつくと同時に息を切らせながら二人も浜に来た。
 既に日は傾きつつあり、日のあるうちに向こうに着きたいので、直ぐに船を出してもらった。

 船上で俺の疑問を九鬼様にぶつけようと思っていたのだが、まだ、船の扱いに完全に慣れているわけじゃなく、九鬼様も一族のみんなも忙しく船を操船しているので、ついに目的地である田城城から一番近い入江についた。

 俺らは、九鬼様に連れられて、そのまま戦の終わったばかりの田城城に向かった。
 俺は心の中で大丈夫か?
 俺はグロイのは苦手なんだぞ。
 落ちた城ってお化けが出たりしないよな、っていうか、いたるところに血糊やら、打ち取られた敵兵士の死骸やらがいっぱいあるんだろう。
 俺は見たくはないのだぞ。

 恐る恐る向かっていたので、すぐ傍にある城なのだが、城門に着くまでにちょっとした時間を要した。

 落ちたばかりの城は、俺が思っていたほど酷い状態ではなかった。
 さすがに城門の扉は大砲の弾で壊されたようで、明らかにこれは使いものにはなりそうにない。
 もともとこの城は放棄するつもりだったので、別にかまわないのだが、城門以外ではそれほどの破壊のあとは見られなかった。

 城の中ほどに入り、警備で外に出ている人間を除き今回の志摩の攻略に参加した全員が中庭に集まっていた。
 俺の姿を見つけると、全員が一斉に頭を下げてきたのだ。
 考えられるか、全員だぞ、全員が一斉にだぞ。
 まるで大河ドラマの一場面を見ているような気分になる。
 しかし、これは絵には絶対にならないよな。

 なにせ、筋肉隆々の見るからに海賊の親分に連れられた10歳の少年に続き美女と美少女が続けて入ってくるんだから。
 珊さんはどうしたかって、珊さんには裏切られた。
 港で、船の傷み具合を調べてくると言って、いの一番にこの場から逃げた。
 出会った時には朴訥だが好青年だと思っていたのだが、今ではしっかり要領を覚えて、上手く逃げられる事が多くなってきた。

 今度、珊さんと一緒の時には逃がさないような工夫をしないと、と俺は強く心に誓った。

 俺らはそのまま促されるようにお誕生日席のようなひな壇中央に案内された。
 張さんや葵と幸は、集まりの端に邪魔にならないように控えていた。
 いやが上でも俺が一番目立つ。

 その場にて、俺は藤林様から、追撃の件の報告を受けた。
 この田城城には敵勢力の約半数が詰めていて、残りの半数はそれぞれの村に居たそうだ。
 そもそも敵は一枚岩ではなく、九鬼様の一族を討ち果たすと、そのまま田城城を占拠して、九鬼一党の地盤を強奪したが、そのあとの処遇を巡って内部で抗争があり、田城城に詰めていた連中とそれ以外といった状態になっていた。

 そんな状況で、前当主である九鬼一族の一人が田城城の奪取のための兵を起こされたと聞いたときに各村に散っていた反主流派の約半分が九鬼様に合流してその傘下に戻ろうとしていたし、残りも城が落ちたと聞いた時には逃げ出すか、こちらに降伏の使者を送ってきて、ほぼ志摩一国の全ての村がその日のうちに片付いたそうだ。

 で、これからの志摩の政や、合流組や降伏組の処遇についての扱いを決めて欲しいとのことだった。

 え、誰にそんな難しいことを決めろと。
 総大将が決めればいいではないですかって……そんなわけには行かないと……
 戦は終わったので、政まつりごとはお屋形がやってくれと。

 ちょっと待て~~~~。

 まず、そのお屋形様ってなんですか。
 すると九鬼様が今更ですかという顔をしながら説明してくれた。

 小さくとも志摩一国を勢力下においた現状では我々は既に大名家だというのだ。
 その大名家なれば、他から誹そしりを受けないように、家格を持たなければならない。
 なれば身分の上下関係をただし、内外にきちんと示さなければならない。
 そのために、組織のTopである俺の呼び方が重要になるそうなのだ。

 そこで、九鬼様が小さき頃の事を思い出したのだ。
 それは、当時このあたりの海賊衆を束ねていた紀伊の国の国主である畠山氏に親に連れられお会いしたことがあるそうなのだ。
 その時に畠山の殿様が配下から『お屋形』と呼ばれていた姿にひどく憧れていたそうなのだ。
 自分たちも親分を『お屋形様』と呼べる日が来ると良いなと言う憧れから、自分たちが大名家の家臣となるこの日からこの呼び方で俺のことを呼びたいというのだがどうしたものかな………

 呼ばれていて俺が気持ちが悪い。
 10歳くらいのガキにいい大人が『お屋形』はないわ。
 さすがにその呼び方を禁止したが、なかなか皆が納得してくれない。

 そこで、俺はみんなに「俺のことを慕ってくれるのは嬉しく思う。
 しかし、『お屋形』の呼び方は、考えてみて欲しい。
 かつて俺の知っているお屋形と呼ばれていた大名がどうなったのか。
 今川のお屋形がどうなったのか、甲斐の武田信虎もお屋形と呼ばれていたはずだ。
 皆不幸な末路であった。
 力が及ばない状況でその呼び方は不幸を招く、いわば呪われている呼び方なのではないのかと俺は思う。
 朝廷などからそのように名乗れと命じられれば名乗ろうが、今はまだ力不足だ。
 なので、そのように名乗りたくはない。
 納得してくれ。」

 すると、皆は渋々ながら納得してくれた。
 すると藤林様が

「では、これからどのようにお呼びすれば良いでしょうか?
 さすがに今までのように村長とはお呼びできませんが……」

「でも、村長以外で、そうだ、空さんでも空殿でも良いのでは。」

 すると、今までの話を離れた所から聞いていた張さんがこれでは話が進まないと俺の横まで来て

「空さん。
 私たちはそれでも良いでしょうが、この方たちは、それではケジメがつかないと最初に言っておられるわよ。
 何か良い呼び方はないのですか。
 このあたりの小さな領主様はなんと呼ばれているのですか。
 お隣の尾張の殿様や北畠の殿様や神戸の殿様はなんと呼ばれているのですか。」

 織田信長はともかく北畠や神戸のバカ殿は、なんと呼ばれているかなんか分かりっこないし、それに興味もない。
 以前に、桑名で絡まれた時の事を根に持っております。
 だいたい家柄だけを誇っているような連中にロクな奴はいない。

 ハイ、これも俺の偏見です。
 でも…………
 あ、バカ殿、それいいかも。

「これから俺のことはバカ殿とでも呼んでくれ。
 呼ばれたら『アイ~~ン』とでも答えるから。」

 ………

「「「「へ???」」」」

 10歳の小学生男子の悪ふざけです……ごめん。

「ごめん、ふざけすぎました。
 それでは、皆さん、これから武士になられる方には殿とお呼びください。」

「『殿』ですか……いいですね。」

 「判りました。
 殿、ではご沙汰をお願いします。」

 そうか、俺はその為に呼ばれたんだよな。
 こういった集まりには、まず皆の働きを評価しないといけないんだよな。
 でも、首実検なぞやりたくはないぞ。

 そうとなれば、全体の結果を評価していく現代軍隊のようなというよりも会社の評価方式を採用だ。
 全体での実績に対して、個々人がどれだけ関与して、どれだけの成果を上げたかを評価していく、至極当たり前の評価方式の採用だ。

 では、まず皆に働きを称えよう。

「皆に聞いて欲しい。
 先の俺の呼び方にこだわったのも、これからの事に繋がるからだと、皆が心配したのだろう。
 が、まずは、此度の皆の働きには感謝したい。
 よく働いてくれました。
 それも一人も欠くこともない成果だと聞いております。
 ありがとう。
 我々は今、志摩一国を完全に支配しました。
 そうです、この地獄のような戦国の世で、皆の働きによって、戦国大名の一人となったことを誇りに思います。
 で、皆様の戦功に報いなければなりませんが、皆も感じたことと思いますが、一騎打ちなどで相手を葬ることはしなかったはずです。
 今後の戦も、この様な戦い方をしていきます。
 我々は今までのどの武士、どの大名とも戦い方を異にします。
 なので、討ち取った武士の首実検などで戦功を決めません。
 まずは、今回の戦功の報酬ですが、この戦いに参加された方は、全員が武士になっていただきます。
 その上で禄を支給していきますが、細かいことは時間がかかりますので、追々に皆さんに伝えていきます。
 しかし、我々の戦いは終わったわけではありません。
 むしろこれからの方が厳しい戦いを強いられることでしょう。
 それに、まず早急にやらなければならないことがあります。
 それは『新しい国作り』です。
 我々の国である志摩をより良いものに作り替えていかなければなりません。
 ………
 皆さんには本当に感謝のしようもありません。
 なので、今夜は警戒中の方には申し訳ありませんが、皆さんには酒を振る舞いたいと思います。
 酒の肴も用意しております。
 この後この場にてお楽しみください。
 ………
 なお。正式な祝勝会は後日開きますので、その時には全員が参加して楽しみましょう。
 なので、本日は私の参加はありませんが、皆さんは疲れを取っておいてください。
 明日からもたくさん働いてもらいます。」

「「「「「オ~~~~~~」」」」」

「すみませんが九鬼様と藤林様、それに孫一氏にはこのあと私にお付き合いください。」

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