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第二章 国取り?
第六十六話 納品と受領
しおりを挟む俺は堺行きの準備を始めた。
堺へは、定期的に干物の商いのため、ここから船で向かわせている。
今はちょうど、先の戦の影響のためにしばらく堺行きを見合わせていた関係で、明日にでも堺に行かないと、雑賀党の商い部門の方(紀伊乃屋さんから)から睨まれてしまうそうだ。
しかし…船がない。
無いわけじゃないが、この村で持っている大型の帆船五隻は、今、全部賢島にある。
俺をここまで載せてきた船はって?
それは、俺をここに降ろすと、とんぼ返りで賢島に帰っていったよ。
今、賢島と田城城との間の引っ越しのために船が一隻でも貴重なのだ。
当然鹵獲ろかくした安宅船なども使ってはいるが、彼奴等図体ばかりでかくて、動かすのに沢山の人がいるんだよ。
それに、動かすのに人が多数必要なために、図体の割にはあまり荷物や人を載せられないし、たった賢島と田城城との間の移動にどんだけ時間をかけているんだよと言いたいくらいに遅い。
俺らの五隻の船のほうが一時に載せられる量は少なくとも、その分、何回も往復できるので、特に人の輸送には、こちらのほうがはるかに効率がいいときているのだ。
今あるのは、最初に実験船として作った一番艦と、竹製の船、それに漁で使っている手漕ぎの船数隻だけだ。
で、俺が使えるのが、最初にここで船を作り始めた頃に戻り、一番艦だけになっている。
先の説明でわかるように、船を動かす人も不足している。
しかし、一番艦で行くしか選択肢はないのだが、帰りはどうしよう。
三番艦以降のうちの大型船?でも、家畜を載せての移動は難しいのにそれより小さな一番艦では一頭も連れて帰れないかもしれない。
でも、グズグズはしていられない(堺の紀伊乃屋様のお怒りが怖い)。
今急いで向かっても、堺の紀伊乃屋からは流石に文句は出ないが、皮肉の一つも出よう。
戦が終わってから一週間も経っているのに荷が届かなければ、あんたら商売する気があるのかと言われてもしょうがない。
ハイ、正直俺は、堺の商いの件はさっきまで忘れていたのだ。
だいたい堺での商いは、商いと言うよりも、ただの納品といった形だったので、九鬼様たちに完全に任せきりだった。
値段の交渉もなければ、収める数量の取り決めもその場では行わない。
すべて、俺らが堺に行ったときについでにそれらの取り決めをするのだ。
それに、それを主に張さんがやっていてくれたので、俺はこの件にはほとんど関与していないのだ。
言い訳はしません。
俺は、完全に忘れていました。
俺が堺行きの準備を始めたから、それを見ていた張さんが、その件について俺に聞いてきたので、思い出した次第です。
完全に忘却の彼方にあったな、反省反省……。
すぐに干物を準備させようとしたら、干物は、すでに行李こうりに収められたのが多数浜に準備されていた。
いつもならばそれらを載せても余裕がある船室であったが、今回ばかりは、ギリギリ載せきれた。
デッキまではみ出さなかったのがせめてもの救いだ。
小さい一番艦に乗って、俺は、いつものメンバーを連れて、堺に向け出港していった。
この一番艦は小さい船であるために利点もある。
最大の利点としては、なんと操船に慣れると一人でできるのだ。
なので、この船を使う限りは、一人で堺までの納品も可能なのだが、一人での操船は、近場ならともかく色々と危険が伴うので、俺はやらせたことはない。
今後についてもやらせるつもりもないが、今回ばかりはその利点が生きた。
俺もどうにか操船には慣れてきているのだが、いかんせん十歳の体では帆の上げ下げはきつい。
緊急時など急な作業が必要な場合には、お手上げだが、珊さんならばなんにも問題はない。
軽々一人で操船してしまう。
なので、今回は珊さんに堺までの操船をお任せだ。
流石に一流の水夫だった珊さんだ。
鼻歌交じりで(冗談です。)軽々操船し、俺の体感では、前に行った時よりもずいぶんと早く堺についた。
早速、船を港に係留させてもらい(しこたま係留料を取られました)急いで紀伊乃屋に向かった。
紀伊乃屋で人足をお借りして、船から行李に入った干物をすべて店に運び込んで、納品を済ませた。
積荷のすべて船から降ろし、紀伊乃屋様に運んだが、今回は特別に、一つの行李だけは納品せず、俺の手持ち分とさせてもらった。
最近本当にご無沙汰している大和の本多様の分として俺が無理を言って確保したのだ。
遅れての納品の上、たとえ一つでも納品されないともなれば、あちらさんも皮肉の一つも出よう。
店主さんは戦などの状況を理解していて、流石に何も言っては来なかったが、純粋に商いしか担当していない番頭さんには、港から店まで運ぶ途中ずっと皮肉を聞かされた。
堺から、ルソンや釜山、琉球などに出港していく船はかなりの数に登る。
その船の多くがここ紀伊乃屋から干物を積み込み食料として買っていくのだそうだ。
そのため、干物の入荷が遅れると、船主からの催促がとてもきついのだそうだ。
向こうの言い分も尤もなので、俺はただひたすら平謝りなのだが、ガキの詫びなど、大人に怒られている子どもにしか見えず、また、多分番頭さんもそのように感じていたのか、なかなか詫びとして聞き入れてもらえなかったのがきつかった。
なんだかんだと賑やかに店に入り、無事納品を済ませた。
納品を済ませたのならば、今度は注文品の受領の番だ。
受領のため、中国人商人との間に入ってもらっている能登屋に向かった。
これには紀伊乃屋の店主も同行してくれた。
能登屋に着くと、すぐに店主のいる部屋に案内された。
すでに紀伊乃屋から先触れを出してもらっていたので、そこにはあの中国人商人も同席していた。
張さんの通訳で、家畜の受領の件を話した。
今回は、釜山からだそうで、釜山から大型の船に別の荷物と一緒に運んでもらえたので、かなり安く仕入れることができたそうだ。
あまり多くの家畜を運ぶのも大変ということなので、頼んだ家畜(ロバ、ヤギ、羊)は皆二組の番つがい、四頭ずつ運んできた。
それだけでは頂いた前金がかなり余るようなので、たまたま安く仕入れることができた牛の番も仕入れてきた。
要らなければこちらで肉かなんかに処理して、お金は返金しますが、と言ってきたのだが、これは引き取らない手はない。
新たに、別の料金もかかるわけもないのだから素直に受領することにした。
それでも、すでに自分に支払らわれている前金が少し余ると、俺がお願いしていた中国人商人は言った。
俺は、本当に正直な商人だと感心し、お礼を言って幾ばくかの謝礼を渡しながら「余らせたお金はあなたの才覚なので」と言って、その商人にそのまま収めてもらった。
その後、少し世間話をしたあと、家畜を受領しに、家畜を保管?している、堺の街が共同で管理している場所まで行った。
ここは、主に軍馬などの商いのための場所なのだそうだが、今は、軍馬がいなかったので、こちらに一時的に保管させてもらっていた。
なので、早急にものを引き取って欲しいとのことだった。
しかし……、家畜が十四頭、それも決して小さくない家畜がだ。
大型になる牛やロバもいるので、壮観だ。
ちょっと見た感じが、昔子供の頃に近所によく来た移動動物園のようだ。
その時の俺の感想は、どうしようの一言だった。
頼んだ手前すべての家畜を引き取るが、とりあえずどうするかだ。
ロバとヤギはそのまま連れて、八風峠の村に預けて飼育してもらうつもりなので、そのまま八風峠に向かうが、羊はあのときには船で三蔵村につれていくつもりだった。
それに計算外の牛が二頭もいる。
困っていると、紀伊乃屋の店主が
「空殿、何やらお困りのご様子ですが、何をご懸念しておりますか。」
「はい、紀伊乃屋様、ロバとヤギはこのまま連れて行く場所があるのですが、羊は今回こちらに来た船では運べません。
それに計算外の牛が二頭もいるとなると、どうやって運べばよいか、思案していたところです。」
「なれば、当家から船を出しますが、三蔵村に運べば良いのですか。」
「え、運んでくださる。
ぜひお願いできますか。
場所は、……あ、そうだ。
途中にある、賢島まで運んで下さると大変助かります。」
「分かりました。
しかし、我々も商人です。
タダというわけにはいきませんよ。」
「それはそうですね。
後日でよろしければ、輸送費をしっかり請求して下さい。
きちんと払わせていただきます。」
「そこなんですが、少し、ご相談がありますが……よろしいですか。」
「なんでしょう?
私どもでできることなれば、他ならぬ紀伊乃屋様のお頼みを無下にはできません。
何なりと申して下さい。」
「今回の納品では干物が足りそうにありません。
しかし、空殿たち三蔵の衆の方はとても忙しそうだ。
今回船で運びますが、その船を空殿の村まで向かわせますので、干物をその費用分だけその場で頂戴できればと考えております。
また、それ以外にも在庫があるようでしたら、その分はしっかり費用を払いますので、あるだけ納品して下さると助かります。」
「え、そんなのでよろしいでしょうか。
その条件ならば、1も2もなく賛成です。
早速、村へは文を認したためます。
それをお持ち下さい。
浜の村長に渡せば分かるようにしておきます。」
「ありがとうございます。すぐに準備にかかりましょう。」
すると、横で話を聞いていた能登屋様も、急に儲け話の匂いを嗅いだのか、話に入ってきた。
「空殿、今回のお取引は、何かのご縁と考えます。
その村への船に私どもも同行するわけにはいきませんか。」
「能登屋様、私は構わないかと思いますが、何分にも船を出すのは紀伊乃屋様です。
そちらにお聞きしませんとなんとも言えません。
それに、干物は紀伊乃屋様に独占して卸しているわけじゃありませんが、生産能力の関係で、他の堺の商家まで下ろす分は有りませんよ。
それでも構いませんか。」
「イエ、干物の扱いはすでに紀伊乃屋さんでやっておりますので、私どもは扱うつもりは、今のところはありません。
いずれ、大量に作れるようになりましたら、お考え下されば良いので、構いません。
しかし、三蔵の方たちの扱っている焼き物の類たぐいや炭、それに塩など他の商品もお有りだとか、私どもはそれを扱えたらと考えております。
何、今回はその下見だと思って下さい。
で、このようなことなのですが、私どもの同行をお許し下さるか、紀伊乃屋さん。」
「~~~~~~~~(⇐早口の中国語)」
すると、何やら能登屋と一緒にいた中国人商人が何やら早口の中国語を大声で言ってきた。
今までの会話を横で、張さんが通訳していたのだそうだ。
「あの~~、空さん。
こちらの方が、でしたら私もご一緒したいのだそうです。
できましたら、今後は三蔵の方たちとの商いもしたいのだとか。
どうですか。」
「ここまで、家畜を運んでくださった商人の方だ。
船での家畜を運ぶノウハウをお持ちだろう。
向こうの賢島で、牛の世話の方法なども教えてくれると助かるのだが、それでもいいと言うならば、私には異存はありません。
あとは紀伊乃屋様のご判断におまかせします。」
「他ならぬ能登屋さんご自身からのお願いとあっては断れるはずもない。
また、動物の世話をそちらの御仁がしてくださるのなら、当方に反対する理由などありますまい。
是非ご一緒しましょう。
………
それにしても、空殿はお人が悪い。
干物の他にも魅力的な商材があるのなら、こちらにもお声をかけて下さればよかったのに。」
「堺や京などの大きな街に納められるようなものなどありませんよ。
田舎商品の類で、かろうじて干物がこちらでも扱って下さると言うのだから、納めさせて頂いているだけですよ。
物を見てがっかりしても私は責任を負いかねますよ。
それじゃ~、中国人商人の通訳の件もあるから、張さん、すみませんが紀伊乃屋さんたちとご一緒していただけますか。
賢島にでも居て下さい。
珊さんも申し訳ありませんが、船を回しながら張さんと一緒にいて下さい。」
「ならば、私どもが空殿の護衛を兼ねてご一緒に八風峠まで参ります。
これならば、張さんも安心でしょう。」
「いいのですか、しかし、私は途中で、大和の松永弾正様のご家臣である本多様のところに寄り道をする予定なのですが。」
「何、通り道ですよ。
それに、本多様をご紹介いただけたら、それに越したことはありませんが、ワハハハ」
流石に堺で大店の店主をしているだけある。
しっかりしているな。
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