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第二章 国取り?
第六十五話 戦報告
しおりを挟む俺は本堂に入り、上人様と玄奘様とが話しているそばまで近づき、村への帰還を二人に告げた。
「上人様、玄奘様、ただ今戻りました。」
「お~、空か。
よう戻った。
話は聞いておるぞ、志摩での戦は、大成功だったそうだな。
何でも空らしい戦いぶりだったそうな。
攻守ともに死に人(しにびと)はかなり少なかったと、各地を回っている僧が寺に立ち寄り話してくれた。」
「え、戦が終わってから、まだ7日も経っていませんよ。
なのにもう知らせが上人様まで入りましたか……
忍者顔負けの情報収集能力ですね、寺の情報収集能力は、本当にすごい。」
「いや何、托鉢などで、本当に各地に出ている僧がたくさんおるでな、その時の様子などは自然と入ってくるんじゃ。
特に戦の話などは本当にすぐに入るぞ。
つい最近までは、そこの玄奘なども、話を仕入れてくる方だったのだが、今ではこの寺を守らないといかんから、どこにも出かけられなくなっておる。
なので、その不満などの愚痴を聞いてやっていたところじゃ。」
「上人様、私は愚痴などは申しておりません。
ただ、この目で戦の様子などが直接確かめられないのがもどかしいと言っていただけです。」
「お~、そうじゃ、そうじゃ。
愚痴など申しておらなんだったな。
で、どうなのだ、空よ、その後の様子など、話してくれるのだろ。」
「ハイ、報告と、その後の件の相談などもありましたので、お時間は大丈夫でしょうか。」
「何、大丈夫じゃよ。
今日は、寺の様子も見に来たのじゃから、2~3日は、こちらに居ることになっておる。
なにせ、今はこのワシが、この寺の仮の住職じゃからな。
玄奘に任せているので、寺のことは何の心配もしておらんが、一応、ワシに責任があるのじゃから、ちょくちょくこの寺の様子を見に来んとな。」
なのでそのまま俺は戦について報告していった。
戦そのものは、俺自身は参加していないので、詳しくは説明できなかったのだが、問題は無かった。
そもそもお坊さんが人の殺し合いの詳細などを聞きたがるわけじゃなく、戦後の民たちの被害状況などが心配であったのだ。
で、実際の人的被害だが、攻め込んだ我々の側には怪我人は出たが、死者は幸いなことに出すことなく戦を終えることができた。
敵の側についても、そのほとんどが逃げていったので、さほどの死者は出さずに済んだ。
それでも、城に立て篭った士分の人たちは全員が銃弾などを受け、そのほとんどが死んでしまった。
数にして100名弱である。
悔しいことには、九鬼様一族を滅ぼした張本人たちは、安宅船に乗っていたようで、船ごと北畠家に保護を求めて逃げていった。今回の目的は志摩一国の奪取であったために深追いはせずに国の平定に全力を注いだ。
なので、実質1日で志摩は平定されたことを順番に報告していった。
で、志摩の中心を今の田城城から賢島に移していることも話し、田城城の跡地に追々、寺を建立し、この地で亡くなった九鬼一族の方と、今回の戦で命を落とした方々の御霊を祭りたいと相談した。
この件はすぐにはどうにもならないことなので、とりあえず保留し、直近の課題の相談に入った。
「私が、山門に入るときに知らない僧が多数いましたが、あの方々が、以前上人様が話されていた、応援の方なのですか。」
「お~、そうじゃ。
空に相談なく多数この寺に入れてしまったが、そのつもりで連れてきた。」
「いえ、この寺については私に相談など不要です。
既にお任せをしておりますから。
でも、前のような、人としてどうなのと思わせるような方は遠慮したいのですが、そのあたりだけこちらの要望を聞いていただけたら、私は関与しません。」
「分かっておる。
わしもあの時の対応はいささか思うところがあったのじゃが、寺にも政治が働いており、どうにもならんこともあるのじゃ。
でも、この寺の所有者であり、村の有力者である空から嫌われたら、誰であろうと、寺にはおれんじゃろう。
あ奴らも、あれでかなり懲りていることじゃろう。
あれで少しはまともになって欲しいのじゃが……それはいいとして、今回連れてきた連中も今いる連中と同じようにそのへんは大丈夫じゃ。
これくらいおれば大名からの難題も跳ね返せるじゃろうて。
しかし、しばらくはこの辺もきな臭くなるのじゃな。」
「申し訳ありません。
来年中にはできればこの辺も我々が抑え、安定させたいと考えております。
そうでなければ、この辺りも皆様が嫌っている地獄になるかと」
などと、今後の展開についても色々と相談していき、最後には近況のたわいのない話なども出てきた。
上人様と玄奘様は俺が大名となったと勘違いをしていたので、その辺も訂正していったが、理解してはくれなかった。
俺としては、志摩の政は九鬼様にお任せしてきたので、志摩国の大名は九鬼様となっていたが、九鬼様が殿と崇めている俺が大名だとして、俺のいい分を受け入れてくれない。
その席上で、俺の敬称の話が出て、俺が愚痴紛れに『お屋形様』と呼ばれそうになり、俺が全力で阻止をして『殿』に落ち着いたことを話したら、上人様は、それは良かったといっておられた。
何でも、『お屋形様』は京の方、朝廷か幕府かは分からないが、そのあたりの権威筋から褒美などとして与えられるありがたい敬称なのだそうだと教えてくれた。
そのまま使っていたら、そのあたりの権威筋から不敬だと謗りを受け攻撃の対象になっていたかもしれないとも教えてくれた。
本当に助かった。
俺はあまり細かいことに気にする性格じゃないけれど、敬称だけは気にして良かったと思いっきり安堵した。
そのうち、『殿』もやめさせよう、とこの時心に誓った。
寺で、かなり話し込んでしまい、夕方になり、寺を出て、昨年から生活をしている浜の小屋に向かった。
そういえば、俺は今まで寺に住んでいて、戦の準備を始めた頃からは浜で生活をしている。
はっきり言って住所不定だ。幸い無職じゃないから……無職じゃないよね。一応村長やっているし、……どうでもいいから話を戻して、そろそろ俺の住処を決めておいたほうが良さそうだ。
いつも誰かに俺の居場所を探させるのは気が引ける。
今までは拠点の数が少なく、観音寺や八風峠など、定住はないとはっきりわかる場所を除くと、ここあたりだけを探せば良かったが、志摩がある以上そうも行きそうにない。
一部の人間は俺が大名になったと勘違いしているのもいるし、その辺もきちんと考えていくしかないが、賢島の件が片付かないと何もできない。
ここの浜には漁や干物や塩の生産をする人間しかおらず、ちょっとさみしい感じを持った。
このあたりにも、拠点をおいた時に比べるとはるかに多くの人がいるのだが、つい最近まで造船に加わっている人間が多かった。
彼らが今は、賢島の町割に行っており、留守にしているので、急に寂しく感じてしまった。
でも、これから作ろうとしている3つの組の運営にはここは便利だ。
この浜に拠点を置くか、門前に置くかでちょっと悩ましいが、門前に拠点を置くとしたら新たに建家を作らないといけないので、しばらくは、この浜の小屋を拠点として活動をしていくことを決めた。
2~3日はこの小屋で、しばらく放置していた商いについての現状を確認し、また、三蔵寺にまだ滞在している上人様を訪ねて、願証寺の様子などを伺った。
また、上人様が殊のほか各地の情報に詳しいので、織田や六角、北畠や畠山、それに三好などの大名の動向等についても情報を集めて欲しいとお願いをしておいた。
商いの方は願証寺門前も観音寺も問題なく順調に売上を増やしていった。
また、三蔵寺の門前の周辺で作ってもらっている焼き物についても、その出来栄えが日に日に良くなり、釉薬ゆうやくも、以前の草木灰一色から、色々と混ぜ合わせ、いくつかの色を出すことに成功をしていたのには驚いた。
これからもどんどん挑戦して行ってもらいたいものだ。
そのおかげで、焼き物の売上において単価そのものを上げることに成功し、総売上の大幅な増加に一役買っていた。
俺が前の戦でかなりの金額を使い込み、更に賢島の開発にこれも多額の銭を使っているので、商い組のみんなが知恵を絞りながら売上向上を目指してくれた成果だった。
材木に関しては与作さんのところが全員出払い、今までは造船で、今は賢島の町割に駆り出され、全く機能していなかったが、それもしょうがない。
峠の方はもう完全に藤林様に投げきっているので、調べもしなかったが、現状全く問題なく機能しているとの報告だけは受けた。
街道の整備についてだけは相変わらず利用する商人たちからの要望と寄付金を得ているそうだ。
これには峠にいる連中も困っているのでどうにかできないかとも相談された。
そんなこんなの雑用を片付けていると、峠の茶屋からそこで働いている伊賀の若い者が、堺の能登屋からの知らせを持ってきた。
例の中国人商人が堺にご依頼の品を持って戻ってきたとの報告を受けた。
俺は戦いのためにすっかり忘れていたが、前に頼んでいたロバやヤギなどの家畜が届いたようなのだ。 ロバが手に入れば、俺が考えている流通の柱の一つとなる馬借事業の手始めに、ロバを使って八風峠で、峠越えの荷物を運ぶ仕事をすることができる。
これで俺の思惑通りに行けば峠の道に関する問題も一挙に解決ができるはずだ。
将来的には、ここの浜や賢島などの港と結び俺らの管理している港を内陸の消費地向けのハブ港として開発もできるようになる。
夢は広がる物流事業。
目指せ『目通』、打倒『白犬トマト』だ。
俺は喜び、早速、堺に向かう準備を始めた。
しかし…あの時の中国人の商人は約束通り春?の納品であった。
本当にこの時代の人は桜も咲かない3月を春だと言い切るのだといらぬところに感心をしたのだった。
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