名もなき民の戦国時代

のらしろ

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第二章 国取り?

第六十七話 戦国チート武将の一人 松永弾正

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 パカパカ
 本当にのどかな田園風景の中をヤギやロバを連れて1つの商隊が移動している。

「空殿、今回は本当にありがとうございます。
 こんなに楽な移動は初めてですよ。
 でも、ロバって本当に力持ちですね。
 馬に比べて小柄ですが、遥かに荷が積めるようですね。
 なので、今回は持ってきている荷車は空荷で移動できます。
 山越えにかかる時間が数段違いますよ。
 これなら私ども紀伊乃屋でも欲しいくらいですね。」 と一度話し始めたら興奮していたのかなかなか止まらなくなった紀伊乃屋の手代である五郎丸さんが俺に話してきた。

 紀伊乃屋の荷物は、試しにロバに積んでみた。
 積み込みの際には、ロバを仕入れてきてくれた中国人商人が手取り足取り、ものすごく丁寧にコツを教えてくれたものだから、積み込めた積み込めた。背の高さの数倍の高さまで積んだのには驚いた。
 一度に多くの荷を積み込めるロバが4頭もいたのだから、運ぶ予定の荷物は全てロバに積むことができた。

しかし、ロバは八風峠から先には行かないので、空(から)だろうが荷車も同行しているのだ。

 このあたりは堺に近いせいか道はきれいに整備されており、荷車に乗っていてもそれほど揺れはきつくない。
 でも、この時代の日本の道路事情は、とにかくひどい。
 すぐにでも堺から離れれば、道は凸凹になり、車での移動(馬車や牛車を考えて下さい)は揺れが酷くて生身の人間には耐えられなくなってしまう。

 平地でこれなのだから、山道など目も当てられない。
 現に八風峠を荷車を引いて超えるのは至難の業とは言わないが、1台の荷車を前後に数人つけてやっと超えているのが現状だ。

 なので、ちょっと峠周辺の道を均ならしただけで、この道を利用している商人たちが「金は払うから整備する道を延のばしてくれ」と峠の茶屋に連日のようにお願いをしてくるのだ。

 俺たちも利用しているし、現に俺たちの拠点が観音寺にもある関係で、三蔵村と観音寺との間の行き来が盛んになり、自分たちのために六輔さんに人を付けて、専門に道の整備にあたってもらっている。
 しかし、彼の組も今は賢島の整備に駆り出され、道の整備は一時お休みだ。

 で、空(から)で曳かれている荷車には、俺たち子供を乗せて頂いている。
 まだ、このあたりの揺れは我慢できる。
 速さも歩く速度で移動しているので、車酔いにはならずに済んでいる。
 葵や幸がちょっと心配だったのだが、まだ大丈夫のようだ。
 道が悪くなったら、すぐに降りて一緒に歩くつもりだ。

 すぐに金剛山の峰の端に差し掛かる。
 山越えとは言わないが、それでも峰の端の丘のような所を越えて奈良にある多聞山城に向かう。

 このあたりは、それこそ鑑真和尚が来日した頃から頻繁に人が行き来をしているのだから、道もきちんと整備されているのだが、あくまで、この時代の平均的日本の道路事情と比べての話だ。

 徒歩ならば、苦にはならないといったレベルだ。
 荷車に曳かれての丘超えは流石にきついので、丘に差し掛かる前にさっさと荷車から降りた。

 約15Kmの道のりを歩かずに運んでもらったのだから、かなり楽をさせてもらった。
 堺の街から松永弾正様の居城までは約20kmの道のりで、ここからだと後5時間位の距離だそうだ。

 丘の途中で一旦は休憩を入れるが、今日中には御城下まで行けるらしい。
 堺の商人にはおなじみのルートのようだ。
 俺ら子供が加わっての移動で、いつもよりは余分に時間はかかったそうだが、日も沈む前には御城下の紀伊乃屋が定宿じょうやどしている宿に着いた。

 俺らも一緒に泊まることになったので、この宿の人に頼んで、城の本多様に先触れをお願いした。

 夕食時の会話で、俺の運ぶ荷が干物だと聞いた宿のご主人は、是非物を見せてほしいと頼んできた。
 俺は、自分たちの商品を自慢したい気持ちもあり、行李の中から、一つだけ取り出し、ご主人に差し上げた。

 すぐに炙って食べた宿の主人は、是非にうちの宿にも卸してほしいと、すごい形相ぎょうそうで頼んできたが、我々の生産能力の関係もあり、ここは丁寧にお断りさせて頂いた。

 そのかわりと言ってはなんだが、我々の干物は紀伊乃屋で扱っていることを教えておいた。
 その後どうなったかは知らないが、これくらいは問題ないよね。

 翌日、俺は紀伊乃屋の五郎丸さんと連れ立って城に向かった。
 城では本多様が城の賄い(まかない)を管理している賄い方(まかないかた)と一緒に待っていた。

 紀伊乃屋様の五郎丸さんを賄い方に紹介した本多様は、五郎丸さんを彼に任せ、俺を半ば無理矢理に連れて城の奥に入っていった。

 一体どこに連れて行かれるのやらと、思っていると、こっちの気持ちなど関係ないとばかりにどんどん奥に入っていった。

 オイオイ、どこまで行く気だ。
 この先は城主などが生活をしている御殿しか無いのではないか?大丈夫かいな。

 そして今、俺は本当に御殿の、それも一番奥にあるご城主様のいる部屋まで連れてこられ、あの有名人である松永弾正その人と対面させられている。

「ほ~、その子供が、正信が言っていた者か。
 うむ、確かに面白い顔をしているな。
 で、その方、名をなんと申す。」

「はい、三蔵村の空(ひろし)と申します。」

「三蔵村?
 聞いたことがないな。
 ひょっとして、最近にわかに力をつけてきた三蔵の衆の関係者か。」

「はい、その通りです。」

「では、先の志摩での戦のことについても詳しく知っておるのだろう。
 差し支えなければ聞かせてくれ。」

 すげ~~~~、テレビもラジオもない時代にわずか1~2週間前に起こった戦のことを知っているよ。
 この時代のチート武将はやはり違うな。
 情報に関しての感度が鋭い。
 しかも、三蔵の衆が関わっているとまで知っているとは驚きだ。

 そうなると当然、雑賀党との関わりも知っているのだろうな。
 とぼけてもすぐにバレそうだし、ここは正直に話すしか無いか……

「はい、多少ですが、我々三蔵の衆も協力させて頂きました。」

「ほ~、やはりな。」

「私が知りたいのは、三蔵の衆と九鬼一党、それに雑賀党との関係だが、そこまで話す気はあるか?」

 ちょっと、すごいことになってきたよ。
 子供の俺に情報を開示する気があるのかと聞いてきたよ、このおっさんは。

 なに、下手な勘ぐりを入れるのならば、俺らと組む気があるかとも聞こえるのだが……う~~む、組む組まないは九鬼様の判断に任せるとして、情報の開示だけはしておこう。
 今は、弾正様とは敵対はしていないし、近い将来も敵対する予定もないしな。

「はい、私が知る範囲でよろしければお話ししますが、私のような子供の話などでご満足いただけるかどうか……」

「何が子供だ。
 其方(そち)のことは正信から聞いておるわ。
 それに、俺にも各地の情報を集める手立てもあるしな。
 ま~いいわ、で、そのあたりはどうなっている。」

「はい、我々三蔵の衆と九鬼様一党の皆様とは協力関係にあります。
 九鬼様が桑名近くに逃げておられたときに知り合いました。
 で、雑賀の皆様とは商いを通して親しくさせて頂いております。
 その関係で、今回の戦では傭兵として助力を頼みました。
 弾正様のご下問のお答えですが、これ以上には、これと言ってお答えすることは無いかと思われます。」

「三蔵の衆は九鬼、雑賀との関係は良好だというのだな。
 これ以上は何を聞いても答えまい。
 済まなかったな、無理を言って。
 いずれ、もっとあらたまった席で合うこともあるだろうが、今日のところはこれで満足するとしよう。
 一つだけ最後に聞いておく。
 我らと争う気はないのだな。」

 わ~~~、直球できたよ。
 腹芸も得意な人なのに、俺が腹芸などできないことを見越して直球とは、流石に人を見抜く力がとにかくすごい。

 とりあえず、この人には嘘は通じない。
 少なくとも俺の嘘は簡単にバレる。
 相手が直球できたのなら、こっちも直球で返すしか無いか。

「ありません。
 我々三蔵の衆は生きるだけで精一杯なのです。
 畿内で最大の勢力を誇っておられる弾正様には逆らう手立てもありません。
 何をご心配しているかは存じませんが、弾正様のご懸念は杞憂に過ぎないかと。」

「ワハハハハ…本当に正信の申す通りのやつよの。
 空と申したか、気に入った。
 なにか困ったことがあればそこの正信に申してみよ。
 できる限りの協力はしてやる。ワハハハ」

 何々、なんだか俺は松永弾正様に気に入られたような。
 でもなんでなんだろう。
 う~~~む、戦国チートの考えることは分からない。
 ま~いいか、とりあえずは、これで、本多様への義理は果たせたのだし、松永弾正様への知己を得たのだし、上出来だと判断しよう。
 危ないことに巻き込まれるのだけは注意しないとな。

 とりあえず無事商談??も終え、俺らは、ここを離れ、甲賀を抜けて八風峠に向かった。

 ここから約100km3日の道のりだ。

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