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第二章 国取り?
第六十八話 家畜
しおりを挟む普通ならば100kmの道のりを問題なく進んでも3日はかかるのだが、ロバのおかげで道の悪さをほとんど気にならずに進むことができたので、途中に甲賀で1泊したが、目的地の八風峠には2日で到着することができた。
戦国時代の日本で、馬車などが普及しなかった原因の一つにこの道の悪さがある。多少整備された道でも、かなり凸凹できついものがあるところに、平坦な所が少ない地形だ。
このデコボコでの峠越えなど、まず人を乗せた馬車では無理である。
激しい揺れで中にいる人や積荷が、耐えられないことだろう。
戦などで大量の物資を運ぶ必要がある場合には、荷車が使われるが、人がゆっくり丁寧に運ばないと運べない。
行商人などが荷物を運ぶ場合にも、同様でどうしても流通に妨げになってしまう。
唯一の例外としてあるのが、馬の背中に荷物を乗せて運ぶ馬借という職業の人達もいる。
しかし、これは、コストが掛かる上、運べる荷物の大きさや数量にどうしても制限が掛かってしまう。
なので、商人などは、コストをかけても利益のとれるものくらいしか馬借は利用されない。
とにかく馬はイニシャルコストもバカ高いが、問題はランニングコストの高さだ。
馬の維持にはとにかくお金がかかる。
軍用などで、騎乗して使用するには向かないが、その点、ロバは維持するのに馬ほどのお金はかからない。
色々と動物の種類による性格の違いがあり、一概に比較はできないが、こと荷運びだけに注目するならば、ロバは馬よりもはるかに優れていると言える。
どうして日本での物流においてロバが使われなかったのか不思議なくらいだ。
今回の移動において、十分にロバによる物流の有用性が証明されたので、俺は、かねてからの思惑通りに、ロバを使って馬借(馬じゃないが…ロバ借なんて言葉はないしね)を始める。
峠に着くと直ぐに権造さんとロバを使った馬借の計画について話し合った。
家畜に関しては、少し開けたところに柵を設け、牧場を作ることで話はまとまった。
しかし、今日明日に出来る訳もなく、とりあえず持ってきた家畜のロバとヤギについては、杭を打ち、それに少し長めの縄で結んで、世話をすることにした。
早速、三蔵の衆の荷物を運んで、実績作りと、この道を利用している商人たちへの宣伝も兼ねて、当分の間、オスの1頭を使って三蔵村と観音寺の拠点である店との間の荷物を運ばせることにした。
三蔵村から観音寺に向けては重くはないが、かさばる干物を運ぶために載せられれば他の荷物も乗せて運ぶが、主に他からの運搬の依頼は観音寺から三蔵村に向かう便だけを受けるようにしていくことで、ここの伊賀組を預かる権造さんと話は付いた。
もっとも、この峠を利用する商人の多くが、京や堺で作られた物を尾張や三河、遠くは甲斐や関東の小田原などで売ることをしていたので、逆の荷運びの需要はそんなにない。
俺らの場合とちょうど逆の需要でかち合わず、無駄のないロバの運用ができそうだ。
とにかく、当分は、この峠の行き帰りの荷運びだけに特化して他ルートでの荷運びの注文は受けず、ロバの繁殖に力を注ぐことにした。
なので、2頭いるメスのロバと、交代で、荷運びをさせるために常時1頭は残るオスのロバが、この峠に作られる牧場で、繁殖の時を待つのである。
馬もそうだが、家畜の繁殖にはオスは1頭いればことは足りる。
種付けが済んでしまえば、生まれるまでは、オスを残す理由がなくなるので、もし、繁殖に成功すれば、オスの2頭を使っていくこともできる。
だいたい2日かけて、打ち合わせと、世話についての説明をした後、俺は、直接賢島に向かった。
俺たちの護衛でついてきてくれた紀伊乃屋さんとはここでお別れなので、伊賀衆から数人付けてもらった。
とにかく、今回仕入れた家畜については落ち着かせたい。
ロバとヤギについては、峠の伊賀衆にほぼ丸投げで押し付けて、俺の仕事は終えたのだが、羊と牛が残っている。
こっちも早くどうにかしたかったので、俺は村に戻らずに直接賢島に向かうことを選択した。
しかし、ここからだと、一旦大湊(今の津市のあたり)を抜けて陸路で賢島に向かうようなものだった。
はっきり言って失敗した。
村に戻って船が来るのを待ったほうが、早く賢島に到着することができたのを後で知ったのだ。
陸路で、約120kmもあったのだ。
子供の足で、3日はフルにかかった。
途中、田城城の跡地?の近くを通るので様子を見に寄ったら、城の解体はかなりの部分が済んでおり、後は運び出すのを待つばかりのようだった。
船がここに来るのならばと、俺らはここで船を待って、荷物と一緒に賢島に向かった。
賢島に着くと、島にはかなりの人が作業に当たっており、とても活気があった。
港を整備しているところで、話し込んでいた張さんが、俺の姿を見つけると直ぐに俺のところまでやってきた。
今までほとんど一緒だったから1週間ばかり離れたのは初めてかも知れない。
いや、玄奘様と一緒に各地を回ったときにあるか……でも最近はほとんど一緒に行動を共にしていたので、慣れない賢島に珊さんと二人だけにしたのは、ちょっと可愛そうだったかもしれない。
でも、既に顔見知りの九鬼様たちがいるから、不安はなかったと思うのだが、俺の姿を見て本当に嬉しそうにしている張さんに対して申し訳ない気持ちが湧いてきた。
この埋め合わせは後できちんとしよう。
その張さんが報告してくれた賢島の現状はというと、かなり順調に開発が進んでいるようだ。
連れて帰った羊や牛などは、ちょっと広めの場所に柵をこさえて、放し飼いになっていた。
家畜の世話を、九鬼勢力に後から合流してきた村の女性たちが受け持ってもらえるように既に話がついていた。
俺が急いで帰ってくるまでもなかったかも知れない。
六輔さんのとこのメンバーが中心になって、例の三和土を使った分譲建売住宅を量産していた。
それに珊さんも加わり、合流組の男衆を集めて、一緒になって作るもんだから、同時進行でかなりの軒数が出来上がりつつあった。
珊さんからの伝言として、今問題になりつつあるのが、壁に使っている三和土たたきの生産の件だ。
開発のスピードが早く需要に対して、三和土の生産がそろそろ限界になりつつあるそうだ。
近くで取れる貝もほとんど取りきってしまい、三和土の材料となる貝殻を見つけるのが難しくなってきているのだとか。
流石に、開発を始めたばかりなのに、開発が止まるのはまずい。
おれは、直ぐに六輔さんと珊さんをここに呼んでもらった。
これから作る住宅の壁を土壁と三和土のハイブリットにしてもらうようにお願いをした。
壁の主成分を日本家屋に古くから使われている土壁を取り入れ、外壁部分に当たるところに三和土を薄く塗るようにして、雨の侵入を防ぐ工夫をしてもらい、三和土の使用量を抑えながら、建設される速度を落とさない工夫をしてもらう。
耐久性に問題が出るかもしれないが、とりあえず2年、2年ももてば、その頃までには少しは状況が落ち着く。
今は、夏から来年にかけての北畠との抗争で、戦に参加しない人たちの安全の確保が最重要だ。
そのためにも、無理を言ってここに越してもらうのだ。
なので、2年を持ちこたえれば、そのあとは余裕を持って街作りもできよう。
六輔さんも珊さんも俺の意図が理解できたようで、早速、工法を変えての作業にかかっていった。
そろそろ、北畠から何か言ってくる頃だ。
追い出された連中が北畠のところに逃げていったのは確認している。
そもそも、今回の九鬼家のお家騒動の原因が、北畠が九鬼水軍ほしさの謀略から始まったようなものだ。
そのせっかく手に入れた水軍を、ただ黙って失うのを何もせずにいることは、出来ようもないのだろう。
きっと無理を言ってくるに違いない。
今度は、俺らが無理を言ってくる北畠を逆に利用して、伊勢まで手に入れるぞ。
で、北畠が最初に訪ねるのはどっちかな。
いきなりこっちに来るようならば、少しは警戒をしないとならないが、のこのこと田城城に来るようならば、孫子の言う敵を知らなすぎだ。
情報に関して感度が鈍にぶすぎだ。
もし、そうなればしめたものだ。
こっちがいかようにも北畠を料理できよう。
ここの開発もあるが、北畠との抗争の件もあるので、しばらくはここにいなければならないのだろう。
どうせ今の俺は住所不定だ(拠点の用意をしていない)。
こっちに俺の仮かりの住処でも作るか。
そうと決めれば、港の近くに例の家を数少ない手空きの人を集めて作った。
この辺は峠に比べれば比較的暖かいのだが、朝晩はまだ寒くなる。
だってまだ3月だぞ。
このあたりでの野宿では、俺がかわいそすぎる。
朝晩の寒さで風邪をひく。
当初の計画通りならば、そんなことにはならなかったのにな~
春に始める計画が……
ま~いいか、ここでお花見ができるくらいの余裕ができることを祈ろう。
桜の開花まではあと2週間はあるはずだ。
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