70 / 319
第二章 国取り?
第六十九話 命中精度
しおりを挟むとりあえず、賢島の港の近くに仮小屋を建てて、そこに滞在することにした。
九鬼様あたりからは、再三にわたり、建設中の城のそばにある屋敷に住むように言われていたが、そこはこの地を治める大名の九鬼様に住んでもらいので、俺は自分たちで建てた小屋に住んだ。
俺の住む小屋は少し広めに作ってあるから、ここにいつものメンバーである張さん、珊さん、葵、幸に加え、俺の情報担当官になりつつある丹波少年も同居することになった。
この島について数日過ごしていたら、雑賀崎から船で、雑賀孫一氏が訪ねてきた。
今では俺たちの仲間が、三蔵村と堺との間に定期的に商いのために船を出している。
その途中にある、ここ賢島と雑賀崎にも寄るようにしてもらっているので、割と頻繁に雑賀党とは連絡を取り合っていた。
その定期船に乗って孫一氏が配下数人を連れての訪問であった。
まだ城が完成していないので、この島で一番立派な屋敷である九鬼様の家でもてなそうと考えていたところ、たまたま来ていた藤林様に止められた。
あの屋敷は、すでにこのあたりの公的な場所となっており、いろんな人たちが出入りしている。
となると、当然、敵勢力からの人や、敵と好よしみを交わしている人たちもかなりの数が出入りしていると考えたほうがよく、雑賀党との会合は俺の屋敷の方が安全だとか。
とにかく、俺らと雑賀党との友好関係がこれ以上世間に知れ渡るのは防いだほうがよさそうとの判断から、港のすぐそばにある俺の屋敷で対面した。
今回の訪問は、これといった懸案事項がなく、ただの表敬訪問というか、ここ賢島の様子見と、今後の北畠との抗争の確認が目的だった。
直ぐに孫一氏の目的は達成され、当然お客様をもてなす宴会が始まった。
お連れの雑賀党の人たちも同席して、派手な宴会となるのは当然の流れだ。
お酒がだいぶ入ってきた頃に孫一氏が俺に聞いてきた。
「空殿、次の戦でも、あの大砲とやらを使うおつもりなのですか。」
「そのつもりなんですけれど、先の戦で、ほとんど弾を使い切ったので、補充しないと使えないんですよ。
堺あたりで買い付けないと宝の持ち腐れになってしまいますね。」
「我々は、自分たちで弾薬は用意していますよ。
流石に硝石ばかりは南蛮商人からの商いで入手せざるを得えないですが、弾は自分たちで作っています。
空殿も作ってみたらどうでしょうか。
なんなら、我々も協力しますよ。
火薬は同じものを使えるのでしょう。」
「そうなんですよ。
同じ火薬で全く問題はありませんが、問題は弾の方なんですよ。
あれ、かなり大きくて重かったですからね、自分たちで作りたいのもやまやまですが、あの大きさだと鍛冶師の力を借りないと作れそうにないのです。
しかし、我々の中に鍛冶師がいないのが悩みなんですよね。
でも、雑賀党の協力が得られれば作れそうですね。
ここでやってみますか。
念の為に、堺での買い付けもしますが、ここに鍛冶場を作りますので、人の協力をお願いできませんか。」
それを聞いていた雑賀党の一人が、既にかなりお酒が入っていてかなり酔ってはいたが、大砲について意見を言ってきた。
「空殿~~、あの大砲をまた使うんですか~~~。
あれ、ダメですよ。
使えませんから。」
俺は思わず彼に聞き返してしまった。
「へ? どういうことなの??」
「あれ、的まとに全然当たらないんですよ。
狙ったところに飛びやしない。
うちの若い連中だって、目をつぶって撃っても、あの大砲よりはましな結果になりやすよ。
あの時の戦(いくさ)は、的がでかかったから多少は当たりましたが、船から撃った弾で当たったのなんかたったの1発ですよ、1発。
確かに1発当たれば威力はでかいから捨てがたいのはわかりますが、今度の戦は動く人が的まとなんでしょ。
当たりっこないですよ。
我々の鉄砲隊ですら、動く人に対して当てるのは難しいのに、あの命中率の大砲では当たりませんよ。
重いのを戦場に持っていくだけ無駄のような気がしますね~~。」
「へ~~~、そ~なんですか、孫一様」
「確かに、あの大砲は狙いをつけるのが難しいですね。
城を狙ったものでも、外はずすやつがあったくらいですから、籤(くじ)でも引くつもりで使わないと大怪我をしますね。」
「でも、大砲の威力がなくて、多勢に勝つには難しいですよね。
どこかに敵を誘い込んでから、鉄砲と大砲を使って、敵を一挙に排除したかったのですが、槍や刀を使った戦では、たとえ勝ったにしろ被害がでかすぎますしね。
その場合には戦力の大きいほうが有利ですしね…どうしたものかな。」
う~~~む、そのあとの宴会中、俺は考えていたが、回答が見つからない。
宴会も終わろうかという頃になって、俺は孫一氏に、聞いてみた。
「先程、自分たちで弾を作れるように協力してくれると言って下さりましたよね。
鍛冶師をこちらに派遣してくださるという理解で間違いありませんか。」
「うちの鍛冶の中から、若い腕の立つやつを数人次の船で寄こすから自由に使ってくれ。
で、空殿はどうするつもりなのだ。」
「どうせ自分たちで作るのならば、弾も工夫をしてみようかと思っています。
もう少し命中率を上げないと、戦には使えそうにありませんから。
たとえ主力が鉄砲でも、大砲のあの迫力は捨てがたいですから、戦では使いましょう。
もう少し命中率が上がれば、たとえ虚仮威こけおどしでもどうにか使えますから。」
「分かった、それじゃ、試し打ちも沢山しないといけないな。
よし、次の船で火薬も1樽進呈しよう。
でも、うまくいったら成果を分けてくれ。」
「何言っているのですか、その成果をモノにするのは雑賀党の鍛冶師ですよ。
尤もうまくいけばの話ですからね。
では、最初の予定通りに、弾は堺で買い付けましょう。
ここでは、弾を作るよりも弾の改良をしてみます。」
昼間の話し合いよりも宴会での話の方が重要だったような気がしたが、雑賀党との宴会も無事終わり、次の堺行きの船で帰っていった。
数日後、本当に約束通り、堺からの船でたくさんの道具を抱えた若い鍛冶師のふたりが俺の屋敷を訪ねてきた。
既に彼らの住居は俺の屋敷の横に用意してあり、今は、作業小屋の建設中だった。
俺は、その日から、大砲を使って彼ら鍛冶師と現状の確認のために残った弾を的に向けて撃っていた。
確かに酷い。
これじゃ~、実際に鉄砲を撃っていた人たちからは嫌われるな。
しかし、どうしたのものかな……
現代の大砲だと、ライフリングを刻んで弾に横方向に回転をつけて真っ直ぐに飛ぶようにしていたんだよな。
俺は武器や軍関係には詳しくはなかったのだが、好きなラノベに色々と書いてあったのを思い出した。
でも、魔法でもない限り、旋盤もボール盤もないこの時代にライフリングなど無理ゲー以外にないな。
下手に加工しようものなら今以上にまっすぐに飛ばないぞ。
弾詰まりをおこして爆発なんかもありそうだし、ライフリングのアイデアは封印するとして、どうしたものかな……
と、俺は辺をウロウロとあてもなく歩き出した。
ウロウロ、ウロウロ。
それを見ていた葵は、 「空さん、いい加減うっとうしいんだけれど、少し落ち着きませんか。」 と文句を言われる始末だ。
でも、現代の知識があっても技能も道具も何もないこの時代ではちっとも役に立たない。
現代知識なんか周りの技術水準が追いついてなければほとんど使えないなとこの時しみじみに感じた。
俺が、周りを歩きながらブツブツ言って居ると、葵が声をかけてきた。
「あれ、花びらが舞っていますね。
もうすぐ春ですか」
中を舞う花なビラを見つけたのか俺に教えてくれる。
俺があまりに不審な行動をしながら考え事をしていたのを心配したようで、気を紛らわすためのようだったが、俺はその花びらが舞う姿を見て羽根つきの羽根を思い出した。
そうだよ、重心を替えてまっすぐ飛びやすくすればどうにかなるかもと考えが及ぶ。
ということで、俺らは早速試作品の製造にかかった。
ライフリングなど無くともまっすぐに飛ばす方法があった。
羽根つきの羽根やバトミントンのは値のように前に重心があればとにかくそれは重い方を先に前に進む。
大砲の弾に後ろに羽をつけるわけにもいかないが、ある程度まっすぐ進むような形はあるだろう。
いくつかアイデアを考えて試作してみる。
結局大砲の弾は、進行方向前側に重心が来るような形状で、後ろは、中空にしておけばより前にまっすぐに進むようになった。
頭を少し尖らせて、後ろ側には、風を切って回転するように斜めに溝をつけての構造にしてみた。
懸案であった命中精度が格段に向上した。
これは使える。俺たちは大喜びで叫んでいた。
「空殿、これは凄いことになりますね。
この形状を小さくすれば鉄砲でも使えそうですしね。
この形状だと鉄砲では、中空の部分に火薬を詰めれば、それだけで早合にもなりそうですし、いいことずくめですね。
後で、試しに鉄砲の方で早合に転用できないか、作ってみます。
で、この弾に名前を付けませんか。」
へ?名前……考えても居なかったが、そういえばこんな形の玉があった。
確か、スラッグ弾とか言ったような気がするが思い出せない。
俺がブツブツ言いながら思い出そうとしていたら、周りで聞いていた人たちが勝手に名前をつけていた。
「へ???す…ぐ…??ですか。
よくわかりませんのでもう一度お名前をお願いできますか。」
こんな感じで、すったもんだがあり、我々の間では笥弾(すだま)と呼ばれるようになった。
~~~~~蛇足~~~~~~
歴史が幾年と過ぎ、戦国の時代が200年も昔のことと語り継がれるようになった頃に三重県のある郷土史家が一冊の研究レポートを発行した。
その中の一節で、面白いことが書かれていた。
この地での善政を敷いていた九鬼嘉隆は、この地で長く伝えられていた謎の集団である三蔵の衆との協力を得て、志摩一国から始まって、直ぐに伊勢の全土を攻略に成功した。
その原動力となったのが、九鬼嘉隆が早くから使っていた大砲である。
しかし、この時代の大砲は遠くヨーロッパで作られており、そのヨーロッパでも大砲の命中精度はひどいものであった。
謎の集団である三蔵の衆たちは独自の改良を重ね、飛躍的に命中精度を上げることに成功した。
彼らは、命中精度の高い弾たまの名前を笥弾と呼んでいたが、そのいわれは未だ不明である。
笥弾の構造は今で言うスラッグ弾に非常に近い構造であることも知られているが、スラッグ弾が生まれたのははるかに後の世であることからスラッグ弾のスから取られた名前であるとする一部の歴史家の意見は直ぐに否定されており、謎のままであった。
開発の経緯も不明なのだが、地元では羽子板に使われる羽からヒントを得たのではないかとも言われているが、その羽子板で遊ぶ風習が戦国時代にあったか怪しいものである。
一部には、謎の集団を率いていた空という人物(今では実在が否定されている)が神の啓示を得て作ったとも言われており、とにかく謎の多い集団である。
しかし、九鬼の流れを汲む人たちによって、この地は戦国時代の戦乱による混乱から無縁の存在であり、戦によって逃げ場を失った多くの人達を手厚く保護していった。
三蔵の衆という謎は未だ解けてはおらず、歴史の定説では存在すら否定されているが、地元の一歴史研究者としては、先祖の感謝の意味も込めて、謎の集団が広く人々を救ったと考えてもロマンがあっていいのではないか。
なので、自分は三蔵の衆もそのリーダーたる空の両方の存在を信じていると結んであった。
20
あなたにおすすめの小説
幼馴染達と一緒に異世界召喚、だけど僕だけ別な場所に飛ばされた先は異世界の不思議な無人島だった。
アノマロカリス
ファンタジー
よくある話の異世界召喚…
スマホのネット小説や漫画が好きな少年、洲河 愽(すが だん)。
いつもの様に幼馴染達と学校帰りの公園でくっちゃべっていると地面に突然魔法陣が現れて…
気付くと愽は1人だけ見渡す限り草原の中に突っ立っていた。
愽は幼馴染達を探す為に周囲を捜索してみたが、一緒に飛ばされていた筈の幼馴染達は居なかった。
生きていればいつかは幼馴染達とまた会える!
愽は希望を持って、この不思議な無人島でサバイバル生活を始めるのだった。
「幼馴染達と一緒に異世界召喚、だけど僕の授かったスキルは役に立つものなのかな?」
「幼馴染達と一緒に異世界召喚、だけど僕は幼馴染達よりも強いジョブを手に入れて無双する!」
「幼馴染達と一緒に異世界召喚、だけど僕は魔王から力を授かり人類に対して牙を剥く‼︎」
幼馴染達と一緒に異世界召喚の第四弾。
愽は幼馴染達と離れた場所でサバイバル生活を送るというパラレルストーリー。
はたして愽は、無事に幼馴染達と再会を果たせるのだろうか?
マンションのオーナーは十六歳の不思議な青年 〜マンションの特別室は何故か女性で埋まってしまう〜
美鈴
ファンタジー
ホットランキング上位ありがとうございます😊
ストーカーの被害に遭うアイドル歌羽根天音。彼女は警察に真っ先に相談する事にしたのだが…結果を言えば解決には至っていない。途方にくれる天音。久しぶりに会った親友の美樹子に「──なんかあった?」と、聞かれてその件を伝える事に…。すると彼女から「なんでもっと早く言ってくれなかったの!?」と、そんな言葉とともに彼女は誰かに電話を掛け始め…
※カクヨム様にも投稿しています
※イラストはAIイラストを使用しています
日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-
ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。
1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。
わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。
だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。
これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。
希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。
※アルファポリス限定投稿
蒼穹の裏方
Flight_kj
SF
日本海軍のエンジンを中心とする航空技術開発のやり直し
未来の知識を有する主人公が、海軍機の開発のメッカ、空技廠でエンジンを中心として、武装や防弾にも口出しして航空機の開発をやり直す。性能の良いエンジンができれば、必然的に航空機も優れた機体となる。加えて、日本が遅れていた電子機器も知識を生かして開発を加速してゆく。それらを利用して如何に海軍は戦ってゆくのか?未来の知識を基にして、どのような戦いが可能になるのか?航空機に関連する開発を中心とした物語。カクヨムにも投稿しています。
現代錬金術のすゝめ 〜ソロキャンプに行ったら賢者の石を拾った〜
涼月 風
ファンタジー
御門賢一郎は過去にトラウマを抱える高校一年生。
ゴールデンウィークにソロキャンプに行き、そこで綺麗な石を拾った。
しかし、その直後雷に打たれて意識を失う。
奇跡的に助かった彼は以前の彼とは違っていた。
そんな彼が成長する為に異世界に行ったり又、現代で錬金術をしながら生活する物語。
もし石田三成が島津義弘の意見に耳を傾けていたら
俣彦
歴史・時代
慶長5年9月14日。
赤坂に到着した徳川家康を狙うべく夜襲を提案する宇喜多秀家と島津義弘。
史実では、これを退けた石田三成でありましたが……。
もしここで彼らの意見に耳を傾けていたら……。
帰って来た勇者、現代の世界を引っ掻きまわす
黄昏人
ファンタジー
ハヤトは15歳、中学3年生の時に異世界に召喚され、7年の苦労の後、22歳にて魔族と魔王を滅ぼして日本に帰還した。帰還の際には、莫大な財宝を持たされ、さらに身につけた魔法を始めとする能力も保持できたが、マナの濃度の低い地球における能力は限定的なものであった。しかし、それでも圧倒的な体力と戦闘能力、限定的とは言え魔法能力は現代日本を、いや世界を大きく動かすのであった。
4年前に書いたものをリライトして載せてみます。
日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる