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第三章 伊勢の戦国大名
第七十話 北畠からの使者
しおりを挟む俺が賢島に落ち着いてから2週間が経った。
最初の1週間は大砲の弾の研究をしており、あっという間に時間が過ぎていった。
幸いにして、1週間とかからずに笥弾(すだま)の試作品の製造に成功して、実用化の目処は付いた。
今は、雑賀党から来ている二人の鍛冶師に量産化の段取りをつけてもらっている。
どこで試作に成功した情報が伝わったのか、今週になって、孫一氏がもう二人の鍛冶師を連れてやってきた。
ここで、開発された笥弾を火縄銃への応用ができないかということだった。
連れてこられたふたりの鍛冶師はその研究をさせたいと言って、ここに置いて行かれた。
前回のように宴会を開いてなんて間もなく、孫一氏はとんぼ返りで乗ってきた船に乗って雑賀崎に帰っていった。
今まで一人もいなかった鍛冶師が急に四人になった。
出向できているだけで、目的が火縄銃の弾の研究だが、笥弾の量産も手伝ってくれるそうだ。
賢島の整備でどこも人手は不足している状況ではあるが、俺は無理を言ってここの鍛冶場の拡張に人を割いてもらった。
今週の半ばを過ぎると、俺の仕事は鍛冶場には、ほとんどなくなり、手が空いてきたので、いつもの面々を連れて、賢島の各地を視察しに回った。
城を置く小高い山や、島中央部のわずかばかりの平地などを見て回り、伊勢の件が落ち着いたら、本格的に開発をしていくつもりで、色々と構想を練りながら歩いて回った。
俺らが、港周辺の視察に来ている時に、俺の情報担当の丹波少年が藤林様からの伝言を持ってきた。
そういえば、最近は藤林様のことを見ていなかったな~、今どこにいるのだろうと考えていると、すぐに答えてくれた。
「空殿、取手山砦におります藤林様から伝言を預かっております。」
「取手山砦???聞いたことがないけど,それってどこにあるの?」
「取手山砦は、田城城から北に半刻(一時間)ばかり行ったところにあります。
ここはわりと最近になって、九鬼様達を攻め滅ぼした勢力の首班である橘宗忠が築いた砦だそうですが、先の戦の折に一族全員が北畠の方に逃げ出しており、空城だったようです。
いま、賢島が落ち着くまでの間、仮の本陣として、藤林様が詰めておりました。」
「へ~、今そんなところに居たんだ。
で、藤林様はなんて言ってきたの。」
「そうでした、藤林様は、北畠の動向を探っておりましたが、いよいよ北畠が動き出したと連絡が入りました。
今、北畠の居城である霧山城では我々に対しての詰問のための使いの選定に入っているそうです。
霧山城からですと2日もあれば取手山砦にも田城城にも来ることができますので、遅くとも10日のうちには来るとのことです。」 と、ここまで丹波少年が伝言を言い終えた頃に、俺のところに急ぎくる侍がいた。
九鬼様のところの家来だ。
息を切らせながら急ぎ俺のところまで来ると、今度は九鬼様の伝言を持ってきた。
「殿、九鬼の頭からの伝言があります。
北畠から、使者がこちらに来るそうで、急ぎ田城城まで戻りませんといけません。
つきましては、殿も田城城まで同行をお願いしたいと。」
その伝言を持ってきた侍は息を切らせながらも一気に伝言を言い終えた。
この戦は、俺が始めたようなものだから、会見の場に俺が出るわけにはいかないけれど、やはり俺がそばで見ていないとまずいわな。
「分かりました。
すぐに向かいましょう。
でも、向かう先は田城城ではなく、取手山砦ですよ。
九鬼様に返事頼めますか。」
「ハイ、なんなりと。」
「港で、待ちますので、そちらにお越し下さいと。」
「分かりました、直ぐに」 と言って、先の侍は取って返した。
「珊さん、すみませんが、1番艦の用意を頼めますか。
乗れるだけ乗って、急ぎ取手山砦に向かいましょう。
藤林様と話し合わないといけませんから、急ぎたいのです。
残りは、定期便にでも乗ってきてもらえば問題はないでしょう。
すぐに戦となるわけじゃないので。」
「分かった、すぐにでも船は出せるが、見てくる。」 と言って、珊さんも港の方へ急ぎ向かった。
「では、俺らは一旦鍛冶場にもどり、ここをしばらく留守にすることを伝えてから港に行きましょう。」
「空さん、私は、移動の準備に一旦屋敷に戻りますね。」 と張さんが言うと、「「あ、私も」」と葵と幸も張さんについていった。
その後しばらくして、港に全員が揃った。
九鬼様は、とりあえず、3人ばかり家臣を連れての移動となる。
どうせここから取手山砦まではすぐだ。
それに田城城と違い、海に面しているので、船で向かえばさほど時間をかけずに到着できる。
それこそ、北畠からの使者が着いてから向かっても何ら問題ないレベルの時間しかかからない。
俺らは珊さんが用意してくれた1番艦に乗り込み取手山砦に向かった。
向こうの港に着くと、藤林様が港まで出迎えてくれていた。
この砦はロケーションがよく、海の監視にはもってこいの場所だそうだ。
なので、俺らの船がこちらに着く前には、俺らが港に向かってくるのが分かったそうで、こうして出迎えてくれたのだとか。
俺らは藤林様の案内で砦の中に入っていった。
一室に集まり、情報の確認に入った。
今回の詰問の内容は調べるべくもなく、内容は分かりきってはいたが、藤林様の配下が正確に掴んできていた。
その内容とは、『我ら(北畠)が唯一認める正当な統治者である橘氏に城を明け渡し、キサマらが不当に占拠している志摩の地から出て行け。
さもなくば、実力を持ってキサマらを排除する。』という内容だった。
あまりに一方的で、見下した内容に俺は呆れた。
先に手を出し、不当に九鬼様達を攻め滅ぼしたのは北畠の方だろう。
これを聞いた全員が同じ思いだった。
俺は、計画通りに彼らを激怒させ、この地での一戦をすることで意見を統一させた。
この内容では、明らかに宣戦布告だ。
この時、俺はあるアイデアが浮かんできた。
これから俺らが北畠を攻め滅ぼすときに、幕府が色々といちゃもんをつけてくるだろう。
一応、彼らは名門の出だ。
そこで、幕府が俺らに対していちゃもんをつけづらくなるように色々とやることにした。
要は、彼らの言ったことをそのまま利用しようというのだ。
まず、この内容を俺らが受け取ったら、幕府に対して彼らの不当な行いを訴え出ることにする。
当然、今の幕府には力などないから、何も言っては来ない。
それに、俺らのような連中のことなど無視されるのがオチだ。
ここで大事なのが、訴え出ることが大事だ。
幕府が不当な行いを受けたという訴えを無視する事実が大事になる。
早速、俺は藤林様に京都の幕府や朝廷の役所に過去のルールに基づき申請が出来るように準備をお願いした。
ここでやってはいけないのが、有力者を介していきなり上層部に情報が上がるようにすることだ。
木端役人(こっぱやくにん)に、泡沫(ほうまつ)の連中からの訴えとなるように、しかし、それでいて過去に定めた決まりに沿っての申請となるように調べてもらった。
俺ら相手に北畠は幕府や朝廷は使わない。
金もかかるし、手間がかかるからだ。
俺らなど、ちょっと脅せばすぐにどうとでもなると考えている節がある。
でないと、あの詰問の内容はない。
あとは、俺らは、使者から俺らにとって後に有利となる言質を取るだけだ。
なので、彼らをどのように怒らせるかを相談し始めた。
後で張さんから、『あの時の皆さん、本当にひどい顔をしていた』と言われた。
悪巧みをしている悪人の顔だったとか。
でも、この悪巧みは結構楽しいんだよ、困ったことに。
それから4日後に使者がこの地に訪れた。
俺らは、取手山砦に近い寺に使者を案内し、そこで会談を持つことになった。
会談の参加者は使者側から正使と副使の二人なので、こちら側も九鬼様と藤林様のふたりで臨んだ。
会談はこの時代の作法に則り、北畠具教からの信書を手渡され、上から目線で先に我々が掴つかんでいた内容をそのまま言ってきた。
俺は、隣室に控え、会談の様子を伺っていたが、この正使は馬鹿なのかと思った。
明らかにこちら側を馬鹿にした態度だ。
敵の本丸にあって、そんな態度ができることが不思議でならない。
激怒した家臣に切り殺されても不思議ではない態度だった。
相手が馬鹿ならこちらも遠慮する必要はない。
かねてからの打ち合わせ通りに相手を怒らせることにした。
「何を馬鹿なことをいっている。
そもそも、この地は志摩であり、伊勢ではない。
我々がなぜ伊勢の連中のいうことを聞かなければならないのか。
道理もわからないのか、お前のところの殿様は。」
「キサマら御所様を愚弄する気か。
よ~~~く聞け。
御所様は中納言にあらせられる。
なので、この地の差配は中納言の責において行われた。
先の領主の交代も中納言様のお考えでもあらせられる。
お前ら、どこぞの馬の骨ともわからない連中にこの志摩を任せられるかということだ。
わかったらさっさとこの地より出て行け。」
「ほ~~、中納言と申したか。
では、伊勢の国司ではないな。
なれば、なぜ伊勢におる。
なぜ、伊勢の国司と詐称しているのだ。
中納言といえば、律令の要(かなめ)の役職のはずだ。
京の地にあって政まつりごとを中心になって司つかさどっているはずの役職だ。
なのに何故伊勢の地にそれも城を占拠しておるのだ。
国司といえば律令では従五位下相当であったはず、中納言のような高位の方が務める役職ではない。
伊勢の地で勢力を誇っているからといって、騙かたって良い役職ではないぞ
キサマらの殿は、昨今、あちこちで騙られているやつと同じか。
三弾正とか典厩とか言う奴と同じようなものか。
さしずめ強欲中納言とでも言うのか、それともバカ中納言とでも呼べば良いのか。
そもそも騙って良い役職ではない。
帝に対して不敬であるぞ。
我ら九鬼家は藤原北家に連なる家柄だ。
かような不敬を見過ごすわけにはいかぬ。
すぐに改めよ。」
今では完全に機能していない律令を持ち出して、彼らが唯一誇りにしている家柄を完膚なきまでに馬鹿にした。
確かに戦国の時代になって、自称の官位を名乗る人たちはたくさん出てきた。
先に挙げた三弾正とか典厩は甲斐武田家の家臣が名乗っていたものだが、この時の北畠は正真正銘の中納言であったが、伊勢の国司も兼ねていた。
律令体制では絶対にありえない組み合わせなのだが、向こうが官位をたてに無理を言ってきたので、こちらも律令の建前を突いて応戦したのだ。
さすがにこの時代には誰も官位を信じてはいない。
何しろ自称が多すぎるのだ。
それこそ足軽より少し上のくらいの武士が何がしかの守を名乗るのなぞ当たり前のように起こっていたのだ。
しかし、どんなバカでも、ここまで馬鹿にしたら、当然怒り出す。
正使も、完全に頭に血が上り、自分でも訳も分からないことを言い始めた。
「お前らは、弱かったから追い出されたのだ。
この戦国の世では力が全てだ。
力ある高貴な方に従っていれば良いのだ。
お前らは、再三に渡る御所様の御意向を無視してきた当然の結果だ。
この地は御所様に従順な橘に任せると御所様がお決めになったのだ。」
「なれば、我らが力でこの地を取り戻した今は、やはり我らが正義だな。」
「そこまで申すのならば、今度は我ら直々に成敗してやる。
おとなしく出ていけば、命を長らえられたものを、戦となると、もはや降伏など許されまい。
覚えておけ。」 と言って、使者はかなり激怒しながらこの地を去っていった。
嵐が過ぎ去ったような感じになったが、本当に北畠具教は、あの使者で俺らがこの地を素直に明け渡すと考えていたのだろうか。
もしそうならば彼の頭の中はきっとお花畑で花が咲き乱れているのだろう。
彼の家臣の出来も今の者を使者に送る様子から期待できないから良いけれど、領民はたまったものじゃないだろう。
早く善良な領民を解放してやりたいと、この時ばかりは真剣に思った。
俺らは決して解放軍じゃないのだけれどな~~~。
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