名もなき民の戦国時代

のらしろ

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第三章 伊勢の戦国大名

第七十六話 松永弾正との対面

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 俺は一旦願証寺を出て、三蔵寺に戻ってきた。
 これから行く大和の松永弾正の手土産の準備のためだ。
 大したものは持っていけないので、俺らしか持っていけないような希少価値??のあるものを探した。

 以前なにげに作った椿油とお茶の実から椿油の要領で作ってみた茶の実油とでも言えばいいのかわからない2種類の油を見つけた。
 これを持っていこうと思ったのだが、何に入れていけばいいのやら、今は焼き物の壺に入っている。

 贈答用に作られた壺じゃないのでそのままではまずい。
 ちょうど塩の販売用に作っていた小さめの壺が多数あったのを思い出した。
 この壷入りの塩は以前本田様に贈ったことがあるので、そのままじゃ格好がつかない。
 あれから焼き物も色々と進化を遂げてきており、釉薬の開発も盛んに行われてきている。
 ちょっと渋めの壺になるように今ある釉薬の中から一番高価に見えるものに釉薬を変えて作ってもらった。

 これで、2種類の油も立派な贈り物となる。
 色々と考えもしたが、松永弾正に贈る品物は、先の油と、我々の商材の中から干物、塩、それに焼き物の夫婦茶碗のセットにしてみた。

 俺だけの訪問では問題なさそうだが、大名家からの贈り物としては貧相だ。
 かろうじて貧乏大名からの贈答品として格好が付くレベルくらいだそうだ。
 それらを峠から降りてきていたロバに積んで大和の多聞山城を目指した。

 荷車で峠を越える必要がないので、順調に大和まで向かうことができた。
 本当に峠の多いこの日本ではロバは便利だ。
 なぜ今までロバの利用がなかったのかが不思議だが、俺は、八風峠の村でロバの繁殖に力を入れることを心に決めた。

 これは流通革命が起こせそうだ。
 帆船とハブとなる港、それに陸送にロバの使用、あとはコンテナとガントリークレーンがあれば言うことないのだが、そこまでは考えない。

 とにかく1日以上の日程の短縮で多聞山城に着くことができた。
 大手門前の街で、以前にせわになった紀伊乃屋さんの定宿に今回も世話になることにした。
 宿で、城に先触れをお願いして、今日はゆっくり休むことにした。

 俺は、張さんや葵と幸を連れて街を散策してみることにした。
 なにせ以前の堺行きで土産を忘れたのを未だに根に持たれているのだ。
 今回の大和の訪問でも彼女たちは城には連れていけないので、宿で留守番だ。
 留守番させるのも機嫌が悪くなりそうだったので、街の散策することにしたのだ。

 街に出ると活気がある。
 街で生活をしている庶民の顔に笑顔があるのだ。
 歴史を習った俺からしたらちょっとした衝撃があった。
 歴史上では色々と言われることの多い(悪名高い言われ方だが)松永弾正ではあるが、領主としては極めて優秀で、地元では名君として慕われている。

 街には活気があり、扱われている品物も多い。 
 俺は以前訪れたことのある清洲を思い出していた。
 ちょうど清洲の街と同じような空気が流れているのだ。
 街は楽市ではないのだが、どうも清洲と同じように座に属さない商人も多そうだ。
 後で本多さまにでもそれとなく聞いてみよう。

 そんな街の様子に張さんたちと散策を楽しんだ。
 葵たちには色々と小物を買わされたが、とても楽しいひと時が送れた。
 宿での夕食の時に宿の主人から明日朝に本多様への面会ができることを伝えられた。

 ま~いきなり弾正に面会はできないわな。
 ここは、本多様に弾正宛の土産と信書を渡して、後日返書をもらう流れだろう。
 今回の訪問では、返書がもらえた時点で成功とも言える。

 しかし、それだけではここに来たのはもったいない。
 本多様やご城下の様子から三好勢と言うより松永勢の我々志摩勢力に対する考え方を知りたい。
 少なくとも、京の都に一定の力を及ぼす松永勢との敵対は避けたいのだ。

 以前の訪問時の弾正との対面では敵対する素振りはなかったのだが、なにせ名門の北畠をゲリラ戦で破ってしまった志摩勢力だ。
 考え方が変わっていないとも言い切れない。

 できれば中立以上の友好的な関係を作っていきたいところだが、どうなりますことやら、明日以降のお楽しみといった感じだ。
 それにしても政治はめんどくさい。
 誰かにこんな仕事は投げてやりたいのだが、あいにく今の仲間にはこんな芸当ができるものは俺も含めて誰もいない。

 裏の事情に詳しい藤林様と一緒に頭を悩ましながらどうにか対応しているだけだが、この部分は今後のこともあるのでどうにかしないと本当にマズイな。

 それにしても、一体いつになったらこの人材の不足地獄から抜け出せるのだ。
 我々と一緒に行動してくれる仲間の数は順調に増えてはいるのだが、なぜかそれ以上に仕事が増えていく。
 必然だが、そうなると人材の不足が一層深刻化してくる。

 いっそのこと松永弾正に庇護を求めて配下に入るか………ダメだな。
 信長と一緒だ。
 戦に仲間が駆り出される未来しか見えない。

 本当にとんでもない時代に来たものだ。
 そんな愚痴ともつかないことを考えていても、時間だけは誰にでも公平に過ぎていく。
 そう、あっという間に面会の日の朝になった。

 俺は、留守番を予定通りに張さんたちに任せて、藤林様と数人の男衆を連れて城に向かった。

 城門には既に本多様が待っており、正直驚いた。
 俺はすぐに本多様に挨拶をして贈答品と信書を渡す準備を始めた。
 今回は俺があまりに一般常識を知らなかったので藤林様たちに恥をかかせることになってしまった。

 こういった場合には、贈答品の現物を渡すのではなく、目録を作って、目録の方を渡すのだそうだ。
 現物は担当役人にこちらも担当者が目録の写うつしと照らし合わせて引渡す手順だそうだ。

 平成の世でも同じようなもので、そういえば卒業式などで記念品の贈呈などではよくある光景だった。

 武家社会の礼儀等に関しては我々の仲間の中には詳しいものなど誰もいない。
 そろそろ本当にやばくなってきたかもしれない。
 九鬼様は志摩の大名として名門の北畠との一戦に勝利をしているのだ。
 もう実績のある大名となっている。
 真剣にヘッドハンティングを考える時になってきている。

 ま~、今はそれどころじゃない。
 本多様のご好意で、俺らはすぐに城門脇にある詰所に通され、そこで、目録書きをさせてもらったばかりだけではなく、その場にて担当の役人への引渡しも行われた。

 なんと目録の写は、その担当の役人が手伝ってくれて、いくら様式美とは言え自分で書いた写を使って贈答品の受領を行っていたのを見たときには、非常に自分の無知が恥ずかしくなった。
 どうも、こうなることを本多様は予測していたようで先触れをもらった時に準備をしてくれたそうなのだ。

 本来の手順では、俺と藤林様は面会のできる一室に通され、今書いている目録と信書を本多様に手渡して、世間話などして解散の運びだそうなのだが、全てがすっ飛び、この場にて出来上がった目録と信書を本多様に手渡すことになってしまった。

 これでは北畠具教あたりに田舎者だの庶民だのと言われてもしょうがないな。
 最も俺は庶民なので別に悪口とも思えないのだが、政治的には色々とありそうで本当にめんどくさい。

 ヤレヤレ、これで今日の仕事が終わりで、宿に帰れると思っていたら、また、以前のように本多様に捕まり奥に連れて行かれた。
 とりあえずどうなるかわからないので、同行してくれたみんなにはその場にて待ってもらう。

 俺は、全く以前の訪問の時と同じ経路で奥に連れて行かれた。
 俺の予想通りに奥ではあのスーパーチート武将がにこやかに待っていた。

「空よ、そろそろ来る頃かと思っていたのだが、俺の予測よりも早い訪問だな。
 これは褒められることだぞ。
 しかし、城に入ってからがえらく時間が掛かったな。
 面倒な手続きは全部排除してあったはずだが、どうした?」

「はい、殿。
 贈答品の受領で、手間取りました。
 これが目録です。
 それと信書も預かっております。」

「信書など見る必要もないだろう。
 どうせ中身はそこの空が考えた内容なのだから、それは今から本人に聞くからいいが、目録だけは確認しないと不味いか。
 すぐに読ませてもらうとしよう。」

 くそ~、何から何までお見通しかよ。
 どうとでもなれって感じかな。

「椿油は知っているが、この茶の実油ってなんだ?」

「はい、京や堺で流行っております茶の湯で使われますお茶の実から取り出した油でございます。
 椿油と同じようにご使用ください。
 香りや味は異なりますが、毒などではありませんので、同じ用法で問題はありません。
 そもそも、お茶と椿は親戚のような関係の木なので、その油も似たものになります。」

「そ~か、これは珍しいものだな。」

「はい、我々には高価な贈り物はできませんので、珍しいものをお持ちしました。
 喜んでいただけたら幸いです。」

「ま~、贈答品の受領はこれで完了でいいな。
 俺も、仕来りとかはよく知っているが、めんどくさいのは嫌いだ。
 相手がそれを望んでないのなら、省いて本題に入ろう。
 空は、それで構わないな。」

「はい、そのほうがありがたいです。
 私はあいにく庶民ですので、そもそも仕来りそのものを知りません。
 弾正様のご提案は私にとってこれほど助かるものはございません。」

「空の言い方が硬いのが気になるが、ま~いいか。
 で、空よ。
 お前は何を考えているのだ。
 何を望んでいると言い換えてもいいか。」

「これは、以前にお会いした時に話させて頂きましたが、仲間との安寧な生活です。
 安心して安全なところでの生活を望んでおります。」

「その安全なところを伊勢に作るのだな。」

 本当に完全に見透かされているな~。
 この人には嘘やごまかしは効かないのはわかっていたが、ここは俺の強みである何も考えない作戦だ。
 正直に伝え、こちらの要望も腹芸をしないで伝えることにした。

「これは、そこの本多様もご理解ができることなのですが、私の大恩ある上人様がおります長島にある願証寺が日に日に怪しくなってきております。
 いずれ近い将来には三河の一揆のような暴発が起こることでしょう。
 今は上人様を始め良識ある人たちが抑えておりますが、それもそろそろ限界なのです。
 一揆が起こればまた仲間のような力ない女子供が犠牲になります。
 それらを一人でも多く保護をするために、私の理想となる政が行われている地を伊勢志摩に作り上げたいのです。
 幸いにも志摩の九鬼様や雑賀党の方々には協力して頂けるようになりました。
 しかし、当然のことながら伊勢の北畠を始め既存の勢力の方とはどうしても衝突が生じます。
 それらの衝突に打ち勝って伊勢の地も九鬼様に治めてもらえるようにしていきます。
 本日は、先に志摩に攻め込んできた北畠との一戦で防衛に成功したことを以前お世話になりました弾正様に報告に上がりました。」

「何が報告だよ。
 で、オレに何を望んでいるのだ。」

「正直に言いますが、できれば友好、最低でも中立、避けたいのが対立です。」

「う~~ん、なんとなく分かってきたが、お前ら京で何やらこちょこちょとやっているだろう。
 あれはなんだ?」

 京都での工作も最初から掴んでいるのかよ。
 本当に京都は弾正の庭だな。
 隠し事はできない。

 俺は、以前にみんなに説明したように京都からの介入や嫌がらせの阻止のための工作について丁寧に弾正に説明を始めた。

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