78 / 319
第三章 伊勢の戦国大名
第七十七話 弾正との同盟
しおりを挟む説明を全て終えると松永弾正は急に大声で笑いだした。
「ワハハハハ、空よ。
本当にお前は面白いことを考えるな。
確かに、そこまでされては幕府も朝廷も横槍は入れにくいだろう。
よし分かった。
京の流言にはワシも協力をしよう。
で、その場合の見返りはなんだ。
ワシになんの得がある?」
本当にここまではっきりと言ってくれると助かる。
多分俺に合わせて交渉をしてくれているのだろう。
それだけでも我々に友好的だ。
なので、俺は正直に伝えた。
「何もありません。
しかし、私どもが伊勢を完全に抑えることができたら、伊勢と堺、それを結ぶ大和で、商品の流れに大変革を起こします。
これを私は物流革命と呼んでおりますが、そうなると、実に多品種な商品が大量に各地を流れますので、ここ大和でも庶民が豊かになることと思います。
ご政道に背くことなく、このあたりを豊かで安全な地にしたいと考えております。」
俺の話を聞いて、どこまで理解出来たかわからないが、弾正はしばらく黙り込んでいた。
しばらくの間の後に話しだした。
「殿、三好殿のことだが身罷(みまから)れてそろそろ1年が経とうとしている。
喪に服(もにふく)するのもいいが、ゆっくり1年もの時間を無駄になんかできないご時世なのに三好の家中はまとまりが全くない。
あれはダメだな。
ワシは殿長慶様にしか仕えたつもりはないし、仕えたいとも思わない。
三好とは敵対するつもりはないが、今後は従うつもりもない。
ワシは自立する。
そこでもう一度問う。
空よ、ワシに仕える気はないか。」
「弾正様、先程もお答えしましたが、私は唯の庶民、それも子供です。
とても侍になんかなれません。
それに私の希望?夢?といいますか、私の目指していることは私の知人友人が安心して暮らせる環境を持つことです。
そんな世界を作ろうなんて野心はこれっぽっちもありません。
今の酷い時代にどうにか抗(あらが)うことくらいしかできません。
今、仲間と協力してやっていることも、伊勢志摩には多くの守りたい人たちがおります。
彼らを守っていけるだけの力を持つための戦いなのです。
それも、九鬼様にすがるようにして実現していきます。
なので、せっかくのお誘いですが、引き受けるわけにはいきません。
しかし、せっかく出来ましたご縁もありますし、私たちにできる限りの協力はしていきたいとも思っております。
大した力もありませんから、弾正様にとっては塵芥(ちりあくた)のようなものかもしれませんが、私の良心の許す限り、そう言った形での協力はしていきます。」
「ワシは……もう良い。
空の気持ちは分かった。
分かったが納得がいかぬのも確かだ。
何が庶民で子供だ。
本当に子供ならそういった受け答えはせぬし、庶民なら大名の誘いをおいそれとは断らん。
がしかし、空の申すことも理解は出来た。
今後は商いを通してこの地に繁栄をもたらすと申すのだな。
新たな政の、いや、この地の新たな産品の相談にも応じるということで良いのだな。」
「名君であります弾正様の政に対して意見などあるはずもありませんが、民を豊かにするための産品についてなら、新たな商いの形についてならいくらでも協力はさせて頂きます。」
「よし分かった。
でどうするね。」
「はい、九鬼様とは好を通じた形にして頂けたらと思います。
今の段階での同盟などいらぬ誤解も生みましょう。」
「伊勢攻めにはワシの軍勢はいらぬと申すのか。」
「はい、ここからだと、峠越えでの戦となりましょう。
北畠はともかく弾正様の軍勢に少なからずの被害が生じます。
今弾正様のお力に少しの緩みが生じましたら、三好の他の勢力に付け入られるかもしれません。
それは決して私どもにとっても得策ではありませんし、そもそも、北畠との戦は力押しをするつもりもありません。
由緒あるお侍様にとっては忌み嫌いみきらうかもしれませんが謀略を以って北畠を伊勢の地から追い出します。
完全に滅ぼすことができたらこれほど簡単なことはないのですが、多分逃げ出しますからその時には多少ご迷惑がかかるかと思います。」
「逃げ出すと言ったら京に来るわな。
そうなると京の都は多少煩くなりそうなのはわかるが……
空のところには多数の忍びがおるだろう。
暗殺は考えてないのか。」
「それこそ卑怯と罵られるような謀略を掛けますが、暗殺は致しません。
成功の可能性がそれほど高くなく、それでいて成功しても伊勢の攻略にとってひとつもいいことが考えられませんから。
一番の理由が、暗殺するほど北畠具教を憎んでいないこともあります。」
「大体わかった。
それにしても、空はまだ子供だな。
考えが甘い。
甘すぎる。
そんな考えでこれから仲間を守っていけるのか。
でも、その考え方は嫌いではないぞ。
しかし、これから大変な戦いを強いられるが、どれくらいの時間を見ている。」
「はい、神戸家も含めて伊勢の攻略に2年を見ております。
でないと願証寺の暴発は止められそうにありません。
神戸家は家臣が腐ってきておりますから大義があれば攻めることはできそうなのですが大義がありません。
なので、北畠との同盟でもさせる方向で謀略をかけていきます。
同盟したのならば一気に攻め滅ぼすようにしていきたいのです。
まだ、案は浮かんではおりませんが…」
「よし、わかった。
でワシが九鬼の要請を受けて朝廷や幕府に対して北畠の非道を問い質せばいいのだな。
それも、要請を受けたので、面倒だがとりあえず問うてみたようにすればいいのか。
それなら、その時にでも神戸にも手紙で北畠の非道が九鬼より上がっていることを知らせて、神戸からも幕府に訴えるように嫌々ながら協力をしてくれと頼めば完璧か。」
「はい、そこまでしていただけたら私たちには言うことがありません。
1回でいいのです。
きちんとした格好で確実に幕府と朝廷に北畠の非道を九鬼様が訴えでたことが伝われば、それに、神戸がその事実を知りながら無視をしてもらえれば、こちら側はいくらでも騒げます。
それなら一緒に九鬼を攻めようという機運を高めることもできるでしょう。
弾正様、お願いできますか。」
「なれば空よ。
ワシと空との関係をより一層強化したのだが、同盟ならば結べるな。」
「え、でも今九鬼様との同盟は弾正様にとって百害あって一利なしですよ。」
「九鬼とじゃない。
空とじゃ、三蔵の衆との同盟じゃ。
いわば秘密同盟じゃ。」
「それならば、私に拒否などできません。
しかし、婚姻での同盟は勘弁してください。
あ、そ~だ。
なれば、私どもの商家をご城下にお許しくださりませんか。
干物と塩、それに焼き物を扱います。
それなれば定期的に私どもの仲間が行き来しますので情報のやり取りには困りません。
あ、でもこれでは一方的か……
なれば、私どもの拠点である賢島か三蔵村のどちらかに弾正様の息のかかった商家をおいてください。
どうせ忍びの者たちですよね。
これならば一方的にはならないと思いますがいかがでしょうか。」
「伊賀の忍びの巣にワシの忍びを入れろと申すのか。
忍びかどうかは置いておいて、その申し出を受けよう。
ワシは直ぐにでも動けるがどうじゃな。」
「私どもはすぐには難しそうです。
まだ賢島の整備が終わっていないので、人手が足りません。
こちらが落ち着いてからになりますが、行商なら頻繁に送ることができますので、しばらくは行商にその役目を負わせます。
行商も一旦観音寺を経由してからになりますので、情報の伝達には時間が多少多めにかかりますが、背後関係はわかりにくくなる利点がありますので。
もしお急ぎならば、私たちとの取引がある堺の紀伊乃屋さんにでも伝えていただけましたら、ここと三蔵村との間には定期的に船でやりとりがありますから、早いかもしれません。」
「よし分かった。
ワシの方は準備が出来次第賢島と三蔵村とに拠点を出させる。
今後はそこの本多に一切の差配を任せるとしよう。
もともとその方らは知り合いだったようだから頻繁に行き来があっても問題はなかろう。」
「は、殿の命令を承りました。
今後は空との対応をお任せ下さい。」
「よろしくお願いします。」
すると、藤林様が難しい顔をして俺に言ってきた。
「忍びの対応を決めておかなければ同士討ちもありうるかと。」
それもそうか、どちらも分からなければ同士討ちもあるな。
どうするか………
符丁ふちょう(合言葉)でも決めておくか。
「合言葉、符丁を決めておきましょう。
その打ち合わせも本多様としておきます。」
「うむ、それでいいな。
ま~何かあれば空がここに来い。
俺が直にあって話し合おう。
そのほうが早く済む。」
「わかりました。
私も頻繁にここに通うことにします。」
「書面でも取り交わすか。」
「いりませんよ。
第一書面が敵にでも渡ったらそれこそややこしいことになりますから。
弾正様さえよければこの場での口約束だけで十分です。」
ひょんなことから戦国時代のチート武将の一人である松永弾正との同盟がなった。
もともとは、玄奘様のつながりで本多正信様との関係から人の縁が続き、ついには戦国時代の主役のひとりである松永弾正との同盟にまでつながっていった。
人の縁の不思議を感じるが、同時にややこしいことに巻き込まれそうな気もしてきた。
俺はもうひとりじゃない。
俺には守るべき人たちがたくさんいる。
が同時に一緒になって戦ってくれる人たちもたくさんいるのだ。
そう、仲間がたくさんいるのだ。
恐れずに俺の進むべき道を正直に進むだけだ。
俺は新たな覚悟を決め同盟に参加した。
20
あなたにおすすめの小説
幼馴染達と一緒に異世界召喚、だけど僕だけ別な場所に飛ばされた先は異世界の不思議な無人島だった。
アノマロカリス
ファンタジー
よくある話の異世界召喚…
スマホのネット小説や漫画が好きな少年、洲河 愽(すが だん)。
いつもの様に幼馴染達と学校帰りの公園でくっちゃべっていると地面に突然魔法陣が現れて…
気付くと愽は1人だけ見渡す限り草原の中に突っ立っていた。
愽は幼馴染達を探す為に周囲を捜索してみたが、一緒に飛ばされていた筈の幼馴染達は居なかった。
生きていればいつかは幼馴染達とまた会える!
愽は希望を持って、この不思議な無人島でサバイバル生活を始めるのだった。
「幼馴染達と一緒に異世界召喚、だけど僕の授かったスキルは役に立つものなのかな?」
「幼馴染達と一緒に異世界召喚、だけど僕は幼馴染達よりも強いジョブを手に入れて無双する!」
「幼馴染達と一緒に異世界召喚、だけど僕は魔王から力を授かり人類に対して牙を剥く‼︎」
幼馴染達と一緒に異世界召喚の第四弾。
愽は幼馴染達と離れた場所でサバイバル生活を送るというパラレルストーリー。
はたして愽は、無事に幼馴染達と再会を果たせるのだろうか?
マンションのオーナーは十六歳の不思議な青年 〜マンションの特別室は何故か女性で埋まってしまう〜
美鈴
ファンタジー
ホットランキング上位ありがとうございます😊
ストーカーの被害に遭うアイドル歌羽根天音。彼女は警察に真っ先に相談する事にしたのだが…結果を言えば解決には至っていない。途方にくれる天音。久しぶりに会った親友の美樹子に「──なんかあった?」と、聞かれてその件を伝える事に…。すると彼女から「なんでもっと早く言ってくれなかったの!?」と、そんな言葉とともに彼女は誰かに電話を掛け始め…
※カクヨム様にも投稿しています
※イラストはAIイラストを使用しています
日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-
ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。
1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。
わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。
だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。
これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。
希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。
※アルファポリス限定投稿
蒼穹の裏方
Flight_kj
SF
日本海軍のエンジンを中心とする航空技術開発のやり直し
未来の知識を有する主人公が、海軍機の開発のメッカ、空技廠でエンジンを中心として、武装や防弾にも口出しして航空機の開発をやり直す。性能の良いエンジンができれば、必然的に航空機も優れた機体となる。加えて、日本が遅れていた電子機器も知識を生かして開発を加速してゆく。それらを利用して如何に海軍は戦ってゆくのか?未来の知識を基にして、どのような戦いが可能になるのか?航空機に関連する開発を中心とした物語。カクヨムにも投稿しています。
現代錬金術のすゝめ 〜ソロキャンプに行ったら賢者の石を拾った〜
涼月 風
ファンタジー
御門賢一郎は過去にトラウマを抱える高校一年生。
ゴールデンウィークにソロキャンプに行き、そこで綺麗な石を拾った。
しかし、その直後雷に打たれて意識を失う。
奇跡的に助かった彼は以前の彼とは違っていた。
そんな彼が成長する為に異世界に行ったり又、現代で錬金術をしながら生活する物語。
もし石田三成が島津義弘の意見に耳を傾けていたら
俣彦
歴史・時代
慶長5年9月14日。
赤坂に到着した徳川家康を狙うべく夜襲を提案する宇喜多秀家と島津義弘。
史実では、これを退けた石田三成でありましたが……。
もしここで彼らの意見に耳を傾けていたら……。
帰って来た勇者、現代の世界を引っ掻きまわす
黄昏人
ファンタジー
ハヤトは15歳、中学3年生の時に異世界に召喚され、7年の苦労の後、22歳にて魔族と魔王を滅ぼして日本に帰還した。帰還の際には、莫大な財宝を持たされ、さらに身につけた魔法を始めとする能力も保持できたが、マナの濃度の低い地球における能力は限定的なものであった。しかし、それでも圧倒的な体力と戦闘能力、限定的とは言え魔法能力は現代日本を、いや世界を大きく動かすのであった。
4年前に書いたものをリライトして載せてみます。
日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる