名もなき民の戦国時代

のらしろ

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第三章 伊勢の戦国大名

第七十八話 観音寺の伊勢屋

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 大和の松永弾正との秘密同盟がなった。
 今回の大和の訪問では、当初考えていた以上の成果があった。
 これで、本格的に伊勢に攻め込める状況が出来る。

 しかしその前に俺らにはやることがてんこ盛りにあるのだ。
 志摩の再開発に兵力の増強、武器の改造に商いにも力を注いで大きくしていく必要が有り、また、雑賀党の商い部門との約束である八風峠の整備の仕事まであるのだ。

 俺は本来働き者じゃない。
 むしろなまけものの部類に分類されてもいいくらいのものぐさだが、ここ最近は体が2つ3つあってもいいくらいの仕事を熟(こな)しているように感じる。
 本当にあともう2つくらい体が欲しい。

 愚痴ぐちを言っても始まらないか。
 とりあえず同行してくれた伊賀組の一人に今回の成果を報告する手紙を託し、賢島にいる九鬼様に送った。

 で、俺らはというと今後俺らの行商が通るルートの確認のために一旦観音寺の城下にある拠点に向かった。

 道すがら俺は藤林様や張さん達に向かって喫緊(きっきん)の課題である政(まつりごと)関係の人材の危機的状況について相談をしてみた。
 しかし、お二人共地頭(じあたま)はいいのだが、政に関してかろうじて藤林様が里の長を勤めていたことがあるくらいで、大名の仕事については詳細には分かっていない。
 張さんに至ってはそもそも日本人じゃないので日本の政に詳しいわけはなく、相談を始めて直ぐに詰まってしまった。

「空殿、やはりどこからか人を持ってくるしか方法はなさそうですな。」

「それができればいいのだけれども、信頼できて優秀な人などそう簡単に見つかるものなの。」

「今は戦乱の時代ですから、お家が潰れ浪人となって諸国を周り歩いている人はおります。
 彼らを見つけるのにはさほど苦労はしませんが、空殿のおっしゃるように信頼と能力の見極めが難しいですね。」

「とりあえず、仕官を求めている人がいたら話だけでも聞いてみませんか。」 と明るい声で張さんが提案をしてきた。

 それしかないかな、でも志摩一国だけの弱小勢力の九鬼様の所に士官を求めてくる人材などいるのかな……
 それに、今仕官を求めてくる人たちってお家を潰してきた人たちのお仲間でしょ、その能力もちょっと心配になる。

 あ……最大の懸案事項を思い出した。
 俺らはあまりに異例な政をしていたんだ。
 過去のしきたりに拘泥(こうでい)するような人は絶対に受け入れられないんだ。
 となると更に人材の募集は狭き門になる。
 ただでさえ人がいないのに制限ばかりが出てくる。

 となると、やはりこちらからアタックしていく必要があるな。
 …………
 そうだ、俺にはひとつのアドバンテージがあるのを思い出した。
 俺はこの時代の歴史を知っているのだ。
 某歴史戦力ゲームの武将データを朧おぼろげに覚えている。

 俺の知っているチート級で、まだどこの勢力にも取り込まれていない武将を片端かたっぱしに声を掛けていこう。
 そうと決まれば、思い出さないといけないな。
 この時代、永禄8年現在で近畿地方にいて、俺らに引き抜いてこれそうな武将っていたかな…………
 俺は人材を思い出しながら観音寺の城下にある三蔵の衆の拠点に向かった。

 観音寺城下にある拠点の伊勢屋についたのは、昼を過ぎ夕方に近くなっていた頃であった。
 市の喧騒からは少し離れた場所に構えている店ではあったが、店前はそこそこの賑わいを見せていた。

「報告通り店は流行っているのだな。」

「はい、茂助さんはよくしてくださっているようですわね。
 本当に頑張っておられるようで、毎日店が繁盛していると聞いておりますわ。」

 俺らはロバを連れて店の裏手に回った。
 そこには既にロバを世話する人が待機しており、俺からロバを受け取った。
 ここと三蔵村との間には既に定期的にロバを使って荷を運んでいたので、ロバを専門に世話をする人を置いてあるとのことだった。

 俺は、世話係にお礼を言ってから店の中に入っていった。
 直ぐに店長をしている茂助さんを見つけたが、彼も俺らを見つけており、俺の姿を見た瞬間に俺の傍までやってきた。

 何だなんだ?何がどうしたんだ。
 俺はあまりのことに驚いていたが、茂助さんはそんな俺に構わずに直ぐに要求を突きつけてきた。

「空さん。
 干物、干物の増産が始まっていると聞いていますよ。
 ここに増産分を直ぐに回してください。
 お願いしますよ。
 本当に、お客さんに売り切れを伝えるのがきつくなって来ているのですから。
 私たちを助けてください。」

 『助けてください』だと?
 茂助さんのあまりの表現に俺は固まった。
 助けてくれとは穏やかでないな。
 干物が売れているのは聞いていたが、店長が血相を変えて訴え出るほどのものか。

「茂助さん、落ち着いてください。
 店の奥でゆっくり相談しましょう。」 と言って茂助さんを店の奥に連れて行った。

 話を聞いてみると、本当に干物が飛ぶように売れており、荷が三蔵村から到着するとその日のうちに干物は完売する勢いだとか。
 毎回決まった日に荷が到着するわけではなく、運の良いお客様だけが干物を購入できることから、常連さんあたりから、かなりきつく言われているそうなのだ。

 ここに入荷する干物の量を増やして欲しいと。
 茂助さんは、既に三蔵村が干物の増産に入っていることを知っており、何故こちらに回ってこないかを気にしていたそうだ。

「空さん。
 増産分の干物はどこに行っているのですか。」

「あ~、あれね。
 堺の世話になっている商人に卸しているわ。」

「堺ですか……こちらにも回してくださいよ。
 本当に困っているのですから。
 それこそ常連さんから毎日のように催促がかかっているのですよ。
 こちらの身にもなって考えてください。
 お願いしますよ。」

 本当に困っているようだ。

「分かった。
 一度三蔵村に戻ったら検討するよ。
 これは約束します。 
 少なくとも今よりは多くの干物を回しますから。
 でも、完全にはそちらの要求を満たせませんよ。
 それは覚悟してくださいね。」

 俺はどうにか茂助さんを落ち着かせることに成功したようだ。
 これでゆっくり話ができる。

 俺は、茂助さんに大和との間に行商をすることを伝えた。
 俺から話を聞いた茂助さんは、かなり反対していたがこれは止むをえまい。
 茂助さんは、ただでさえここの商品在庫に不安があるのに、商圏を広げるとはとんでもないと考えているようなのだ。

 俺は行商を藤林様の所に任せることを話し、扱う商品もそれぞれの地での生産品を別のところで売る商社機能を持った商いをすることで茂助さんを納得させた。
 茂助さんにとって数少ない干物を、他と取り合うことを危惧していたのだ。
 なので、行商が扱う商品に干物を含まないことを約束させられた。
 また、行商も今ある三蔵村との定期便の延長ではなく、完全に別で行うことも約束させられたのだ。

 なんでも、ここと三蔵村との間の荷運びもかなり順調に業績が伸びてきており、本当はロバの増便も欲しいところなのだが我慢しているとのことだった。
 なので、余計な仕事は入れたくないとの配慮から先の約束に繋がってきたのだ。

 商いの業績の急拡大も、善し悪しだな。
 特にサプライチェーンのマネジメントは、本当に難しい。
 ここまで商いが大きくなってきているのならば、真剣に専門にやらせたほうが良さそうだ。
 
 誰かに任せきってしまったほうが良さそうなのだが、誰に任せよう?
 ここでも、人材の不足が足を引っ張る。
 とりあえず、行商は商売が目的でないので完全に藤林様に任せるとして、とにかく人材の枯渇の打開策を考える必要に迫られていることには変わらない。

 茂助さんに、頭の良さそうなお侍さんの情報を集めてもらい、同時に商いを任せることの出来そうな人もここで探してもらうことにした。
 俺は、伊勢屋の問題点を把握したことで、とりあえずここでの仕事は終了させたのだが、俺がどこかで動くたびに仕事が増えるのは、どうにかならないものかな。

 せっかく、人の多い観音寺の城下に来たのだから、人材の宛でも探そうとご城下で噂話を拾ってきてもらった。
 で、俺はというと、さっきからこのあたりの有能な武将を思い出しているのだが、中々思い出せない。

 う~~~~む、誰かいたはずなんだけれどもな~~。
 …………
 あ~~~~~~~、思い出した。
 信長が麒麟児きりんじと称え、自分の娘を嫁に出したチート武将がいた。
 蒲生氏郷がいたはずだよな。
 出身がここ六角氏の配下だったはずだ。
 ………
 あれ~、蒲生と言えば俺は一度蒲生を訪ねていたよな。
 道の整備の嘆願で蒲生定秀の館を訪ねていたよな。

 あの時には会えなかったのだが、蒲生氏郷はこの定秀の孫のはずだから…ってまだ子供じゃん。
 クソ~まだダメじゃん。
 でも一度会っておくか。

 丹波少年も子供だけど既に十分に使えるのだから、この時代の子供を見くびってはいけないからな。
 俺は、藤林様に氏郷の調査と会うための手はずをお願いしておいた。
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