名もなき民の戦国時代

のらしろ

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第三章 伊勢の戦国大名

第七十九話 三蔵村の発展

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 俺は、ここで人材の目処をつけたかったのでしばらく逗(とど)まるつもりだったのだが、店長を務めている茂助さんの眼が気になる。
 時々俺らのことを睨んでくる。
『さっさと村に戻り干物をよこせ』と訴えている眼だ。
 俺らは非常に居心地が悪くなり、早々に観音寺の伊勢屋をあとにした。

 途中の八風峠に置いてある拠点の宿に一泊して三蔵村に帰ってきた。
 しばらくぶりの三蔵村は浜も林も両方ともにすごい勢いで変わっていった。
 とにかく家が増えていたのだ。

 願証寺経由で戦災により焼け出された人たちを受け入れていたので、俺のいない間にかなりの数の人たちが村に移住してきているようだ。
 移住に関しては三蔵寺にいる玄奘様や村の長を務めている与作さんと龍造さんに任せているので、既にどれだけの人が村に住んでいるか俺は知らない。

 いずれ落ち着いたらきちんと記録には残すが、まだ住人管理には手がつかない状況だ。
 しかし、発展の勢いがすごいことになってきているな~
 このままだと、直ぐにこの辺りを治めている神戸家にここがバレそうだ。
 既にバレているのかもしれないが、表面上この辺は願証寺の支配下ということになっているので、直ぐにとやかく言われることはないだろう。

 とにかく、神戸家に口出しされる前に、このあたりまで支配を及ぼさないといけないな。
 俺と同じことを考えていたのか藤林様も 「空殿、これは伊勢制圧を急いだほうがいいかもしれませんな。
 いくら願証寺の庇護があることになっていても、これほど発展している村をそのまま指を咥くわえてみている大名はおりませんよ。
 何かしらの言いがかりをつけて、支配しようとするでしょうから。」

「俺もまさかこんなに人が居るとは思っても見ませんでした。
 まだ最近来たばかりのようで、みんながみんな仕事に就いている訳じゃないでしょうが、みんなが仕事に就いたのならばすごい価値をここだけで生みますからね。
 神戸家がここを知ったのならば絶対にここを支配してこようとするでしょうね。
 寺についたら村長の二人を呼んで現状の確認をしましょう。」

「そうですね、茂助さんとの約束もありますし、現状の確認だけは急ぎましょう。」

 俺らはそのまま三蔵寺の中に入っていった。
 寺で玄奘様を呼んで今後の対応について話したあと、二つの村の村長である与作さんと龍造さんを寺まで呼んできてもらった。

 ふたりが寺に着くと、早速本堂で打ち合わせに入った。
 相変わらず、そこらじゅうで戦があり、長島の願証寺を頼ってくる被災者たちが後を絶たずにやってくるそうだ。
 願証寺だけでは全員の庇護ひごができずに、一向宗でない人たちを皆こちらに回してくると玄奘様は申し訳無さそうに話してくれた。

 やってくる人たちがガチガチの一向宗徒じゃないのはこちらも望むところなので文句はないが、やってくる人たちの多さにはいささか不満はある。
 それにしてもそんなに多くの人達を受け入れても混乱を出さない三蔵村の処理能力というか懐の深さというか、本当にすごいと感じた。

 まだ、着いたばかりな者が多く、誰も仕事にはついていないので、仕事についての相談になった。
 ここに来た被災者はその経歴も出身地もばらばらで集団単位での移動はなかったそうだ。
 なので、まず、彼らの経歴を調べてもらい、その多くを浜で引き取ってもらうようにお願いした。

 とにかく干物の増産は喫緊(きっきん)の課題だ。
 今の浜の漁業は地引網が主流でこの漁業形態は経験者の数が少なくともできるのが魅力だ。
 網さえ引ければ素人でもできる漁業なのだ。
 もっとも網を入れる場所やタイミング等はベテランの漁師が必要なのだが、それ以上に網を引く人足が必要になる。

 今の商い組みからの要求は、とにかく干物の増産だ。
 人が増えるのならば幸いに漁業に回して干物の増産にかかってもらうことにした。
 しかし、来た人全員を浜に回すのではなく、戦の経験のある足軽や地侍出身者が居れば藤林様のところに付け兵力の増強にも回していきたい。

 なので、俺は藤林様に足軽や侍に取立てられそうな人たちはそのまま取立てて取手山砦に連れて行ってもらうことで話をつけた。
 最後に藤林様が俺に「この中に忍びがいたら厄介ですね。」 と聞いてきた。

 確かに神戸家なんかは忍びを入れて様子を探ってきても不思議はない。
 それに今は余裕がないが隣の信長も伊勢には既に張力の調略の手を入れているのだから、信長の可能性も捨てきれない。
 『防諜』の必要性がありそうだ。

 俺は藤林様の協力を仰ぎ、後からここに流れ着いてきた全員の面接を行うことにした。
 その面接で、仕事の割り振りまで済ませてしまえば一石二鳥だ。
 玄奘様も協力してくれることになったので、寺に全員を呼んで面接をすることにした。

 幸いにこの寺の門前には藤林様の家があり、そこに彼の部下が数人詰めているので、彼らに忍びをあぶりだしてもらうことにした。

 流れ着いた被災者たちは、どうにか住むところが決まり落ち着いてきたところだったので、タイミング的にはちょうど良かったのかもしれない。
 彼らには仕事の割り振りについて決めていきたいので、一度寺に集まってもらい村長たちとの面接をしてもらうと理解してもらった。

 総勢で200名を少し超えていたが、今回はその半数が屈強な男たちだった。
 今までが女子供が多く、戦は当たり前だが、生産に関わる作業の面でもいささか苦しかったのが、少しは解消できそうだった。

 家族連れはそんなに多くはなかったのだが、家族連れには浜に一軒家を渡して浜での生活をしてもらうことにした。
 子供たちは今いる子供達と一緒にして寺で面倒を見てもらうことにして、女性については林と浜で分け、それぞれについてお菊さんや幸代さんに面倒をお願いした。

 残った男たちだが、その多くが農奴のような生活をしていたそうなので、そのまま農業にでも就けられればいいのだが、あいにくここではまだ農業には力を入れてはいない。

 なので最初の方針通りに浜で地引網漁の手伝いをしてもらうことにした。
 男たちの中で20人ばかりが足軽の経験があり、彼らはそのまま藤林様にあずけて様子を見ることにした。

 で肝心の忍びの件だが、今回は埋伏(まいふく)された忍びは見つけられなかったとのことだった。
 まだいないとは言い切れないので十分に注意は必要だが、とりあえずは安心した。

 そんなこんなで振り分けも終わり、明日からでも干物の増産は可能となったので、俺は泣き落とすかのように龍造さんに干物の増産をお願いした。

 どんどん三蔵の衆の仲間は増えてきているが、手足になって働いてくれる人は増えても、頭になって仕事を差配さはい出来る人は一向に増えていないのが問題だ。

 既に三蔵の衆の仕事は多岐にわたり俺の頭ではとっくに限界に来ている。
 投げられる仕事はどんどん人に投げているのだが、それにも限界があり、玄奘様に協力を頂き、村人の教育を全面的に寺に任せることにした。
 とにかく村人全員が読み書きはできるようになるまではしてもらう。

 あとは一生懸命勉強していてくれる子供たちが大人になるまで待てれば少しは落ち着くのだが、周りの時流が急激になってきており、この先の見通しが持てない。
 最悪多少使えるレベルにある子供たちに仕事の差配を任せることになるかも知れない。

 既に丹波少年は一人前の仕事をこなしてきているし、俺の見た目も子供なので、今までいる村人には違和感は持たれないのがこの村では幸いだ。
 とにかく、ルーチン作業にまで仕事が落とし込めれば俺の手から離れる。
 現に村人の受け入れ作業の一部では俺は関与していない。
 新たに始める作業が多すぎるだけなのだが、これは伊勢の侵攻が終わるまでは変わらないだろう。

 今までは、今いる人たちでできることをして生き抜いてきたが、これからは人材の発掘に力を注いで、身分や出身、性別にかかわらずに人材を探していくことにした。
 商いに出ている人たちには人材に関して噂うわさ話を拾ってきてもらうようにしたし、玄奘様や上人様には人材の紹介もお願いした。

 藤林様には忙しい中で申し訳なかったのだが、彼の配下を使っての人材の発掘までお願いをした。
 俺の個人的には後の豊臣秀長のように性格が穏健で非常に優秀な人材を農民あたりから見つけられることを期待してなのだが、秀長は既に秀吉の配下として信長に仕えているはずだし、引き抜きもまず無理だ。

 ここまで考えていたらとても大切な何かがあることに気がついた。
 なんだったのだろう……なにかとても重要なそれも人材に関することでとても重要な人がいることに気がついたのだが、誰だかが思い出せない。
 …………
 あ~~~~~~~そうだ。
 竹中半兵衛がいた。

 彼は去年の永禄7年に稲葉山城を乗っ取って八月には隠居しているはずだ。
 信長の配下にいる秀吉についたのが永禄10年くらいだったのだから、まだ隠居のはずだ。

 一度彼を訪ねてあわよくば仲間に引き入れよう。
 そうと決まれば藤林様に――彼過労死しないよな~~。

 ブラックな職場なのは諦めてもらうとして、早急に会う必要があるので段取りをお願いしよう。
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