名もなき民の戦国時代

のらしろ

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第三章 伊勢の戦国大名

第七十七話 弾正との同盟

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 説明を全て終えると松永弾正は急に大声で笑いだした。

「ワハハハハ、空よ。
 本当にお前は面白いことを考えるな。
 確かに、そこまでされては幕府も朝廷も横槍は入れにくいだろう。
 よし分かった。
 京の流言にはワシも協力をしよう。
 で、その場合の見返りはなんだ。
 ワシになんの得がある?」

 本当にここまではっきりと言ってくれると助かる。
 多分俺に合わせて交渉をしてくれているのだろう。
 それだけでも我々に友好的だ。
 なので、俺は正直に伝えた。

「何もありません。
 しかし、私どもが伊勢を完全に抑えることができたら、伊勢と堺、それを結ぶ大和で、商品の流れに大変革を起こします。
 これを私は物流革命と呼んでおりますが、そうなると、実に多品種な商品が大量に各地を流れますので、ここ大和でも庶民が豊かになることと思います。
 ご政道に背くことなく、このあたりを豊かで安全な地にしたいと考えております。」

 俺の話を聞いて、どこまで理解出来たかわからないが、弾正はしばらく黙り込んでいた。
 しばらくの間の後に話しだした。

「殿、三好殿のことだが身罷(みまから)れてそろそろ1年が経とうとしている。
 喪に服(もにふく)するのもいいが、ゆっくり1年もの時間を無駄になんかできないご時世なのに三好の家中はまとまりが全くない。
 あれはダメだな。
 ワシは殿長慶様にしか仕えたつもりはないし、仕えたいとも思わない。
 三好とは敵対するつもりはないが、今後は従うつもりもない。
 ワシは自立する。
 そこでもう一度問う。
 空よ、ワシに仕える気はないか。」

「弾正様、先程もお答えしましたが、私は唯の庶民、それも子供です。
 とても侍になんかなれません。
 それに私の希望?夢?といいますか、私の目指していることは私の知人友人が安心して暮らせる環境を持つことです。
 そんな世界を作ろうなんて野心はこれっぽっちもありません。
 今の酷い時代にどうにか抗(あらが)うことくらいしかできません。
 今、仲間と協力してやっていることも、伊勢志摩には多くの守りたい人たちがおります。
 彼らを守っていけるだけの力を持つための戦いなのです。
 それも、九鬼様にすがるようにして実現していきます。
 なので、せっかくのお誘いですが、引き受けるわけにはいきません。
 しかし、せっかく出来ましたご縁もありますし、私たちにできる限りの協力はしていきたいとも思っております。
 大した力もありませんから、弾正様にとっては塵芥(ちりあくた)のようなものかもしれませんが、私の良心の許す限り、そう言った形での協力はしていきます。」

「ワシは……もう良い。
 空の気持ちは分かった。
 分かったが納得がいかぬのも確かだ。
 何が庶民で子供だ。
 本当に子供ならそういった受け答えはせぬし、庶民なら大名の誘いをおいそれとは断らん。
 がしかし、空の申すことも理解は出来た。
 今後は商いを通してこの地に繁栄をもたらすと申すのだな。
 新たな政の、いや、この地の新たな産品の相談にも応じるということで良いのだな。」

「名君であります弾正様の政に対して意見などあるはずもありませんが、民を豊かにするための産品についてなら、新たな商いの形についてならいくらでも協力はさせて頂きます。」

「よし分かった。
 でどうするね。」

「はい、九鬼様とは好を通じた形にして頂けたらと思います。
 今の段階での同盟などいらぬ誤解も生みましょう。」

「伊勢攻めにはワシの軍勢はいらぬと申すのか。」

「はい、ここからだと、峠越えでの戦となりましょう。
 北畠はともかく弾正様の軍勢に少なからずの被害が生じます。
 今弾正様のお力に少しの緩みが生じましたら、三好の他の勢力に付け入られるかもしれません。
 それは決して私どもにとっても得策ではありませんし、そもそも、北畠との戦は力押しをするつもりもありません。
 由緒あるお侍様にとっては忌み嫌いみきらうかもしれませんが謀略を以って北畠を伊勢の地から追い出します。
 完全に滅ぼすことができたらこれほど簡単なことはないのですが、多分逃げ出しますからその時には多少ご迷惑がかかるかと思います。」

「逃げ出すと言ったら京に来るわな。
 そうなると京の都は多少煩くなりそうなのはわかるが……
 空のところには多数の忍びがおるだろう。
 暗殺は考えてないのか。」

「それこそ卑怯と罵られるような謀略を掛けますが、暗殺は致しません。
 成功の可能性がそれほど高くなく、それでいて成功しても伊勢の攻略にとってひとつもいいことが考えられませんから。
 一番の理由が、暗殺するほど北畠具教を憎んでいないこともあります。」

「大体わかった。
 それにしても、空はまだ子供だな。
 考えが甘い。
 甘すぎる。
 そんな考えでこれから仲間を守っていけるのか。
 でも、その考え方は嫌いではないぞ。
 しかし、これから大変な戦いを強いられるが、どれくらいの時間を見ている。」

「はい、神戸家も含めて伊勢の攻略に2年を見ております。
 でないと願証寺の暴発は止められそうにありません。
 神戸家は家臣が腐ってきておりますから大義があれば攻めることはできそうなのですが大義がありません。
 なので、北畠との同盟でもさせる方向で謀略をかけていきます。
 同盟したのならば一気に攻め滅ぼすようにしていきたいのです。
 まだ、案は浮かんではおりませんが…」

「よし、わかった。
 でワシが九鬼の要請を受けて朝廷や幕府に対して北畠の非道を問い質せばいいのだな。
 それも、要請を受けたので、面倒だがとりあえず問うてみたようにすればいいのか。
 それなら、その時にでも神戸にも手紙で北畠の非道が九鬼より上がっていることを知らせて、神戸からも幕府に訴えるように嫌々ながら協力をしてくれと頼めば完璧か。」

「はい、そこまでしていただけたら私たちには言うことがありません。
 1回でいいのです。
 きちんとした格好で確実に幕府と朝廷に北畠の非道を九鬼様が訴えでたことが伝われば、それに、神戸がその事実を知りながら無視をしてもらえれば、こちら側はいくらでも騒げます。
 それなら一緒に九鬼を攻めようという機運を高めることもできるでしょう。
 弾正様、お願いできますか。」

「なれば空よ。
 ワシと空との関係をより一層強化したのだが、同盟ならば結べるな。」

「え、でも今九鬼様との同盟は弾正様にとって百害あって一利なしですよ。」

「九鬼とじゃない。
 空とじゃ、三蔵の衆との同盟じゃ。
 いわば秘密同盟じゃ。」

「それならば、私に拒否などできません。 
 しかし、婚姻での同盟は勘弁してください。
 あ、そ~だ。
 なれば、私どもの商家をご城下にお許しくださりませんか。
 干物と塩、それに焼き物を扱います。
 それなれば定期的に私どもの仲間が行き来しますので情報のやり取りには困りません。
 あ、でもこれでは一方的か……
 なれば、私どもの拠点である賢島か三蔵村のどちらかに弾正様の息のかかった商家をおいてください。
 どうせ忍びの者たちですよね。
 これならば一方的にはならないと思いますがいかがでしょうか。」

「伊賀の忍びの巣にワシの忍びを入れろと申すのか。
 忍びかどうかは置いておいて、その申し出を受けよう。
 ワシは直ぐにでも動けるがどうじゃな。」

「私どもはすぐには難しそうです。
 まだ賢島の整備が終わっていないので、人手が足りません。
 こちらが落ち着いてからになりますが、行商なら頻繁に送ることができますので、しばらくは行商にその役目を負わせます。
 行商も一旦観音寺を経由してからになりますので、情報の伝達には時間が多少多めにかかりますが、背後関係はわかりにくくなる利点がありますので。
 もしお急ぎならば、私たちとの取引がある堺の紀伊乃屋さんにでも伝えていただけましたら、ここと三蔵村との間には定期的に船でやりとりがありますから、早いかもしれません。」

「よし分かった。
 ワシの方は準備が出来次第賢島と三蔵村とに拠点を出させる。
 今後はそこの本多に一切の差配を任せるとしよう。
 もともとその方らは知り合いだったようだから頻繁に行き来があっても問題はなかろう。」

「は、殿の命令を承りました。
 今後は空との対応をお任せ下さい。」

「よろしくお願いします。」

 すると、藤林様が難しい顔をして俺に言ってきた。

「忍びの対応を決めておかなければ同士討ちもありうるかと。」

 それもそうか、どちらも分からなければ同士討ちもあるな。
 どうするか………
 符丁ふちょう(合言葉)でも決めておくか。

「合言葉、符丁を決めておきましょう。
 その打ち合わせも本多様としておきます。」

「うむ、それでいいな。
 ま~何かあれば空がここに来い。
 俺が直にあって話し合おう。
 そのほうが早く済む。」

「わかりました。
 私も頻繁にここに通うことにします。」

「書面でも取り交わすか。」

「いりませんよ。
 第一書面が敵にでも渡ったらそれこそややこしいことになりますから。
 弾正様さえよければこの場での口約束だけで十分です。」

 ひょんなことから戦国時代のチート武将の一人である松永弾正との同盟がなった。
 もともとは、玄奘様のつながりで本多正信様との関係から人の縁が続き、ついには戦国時代の主役のひとりである松永弾正との同盟にまでつながっていった。
 人の縁の不思議を感じるが、同時にややこしいことに巻き込まれそうな気もしてきた。

 俺はもうひとりじゃない。
 俺には守るべき人たちがたくさんいる。
 が同時に一緒になって戦ってくれる人たちもたくさんいるのだ。
 そう、仲間がたくさんいるのだ。
 恐れずに俺の進むべき道を正直に進むだけだ。

 俺は新たな覚悟を決め同盟に参加した。
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