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第三章 伊勢の戦国大名
第八十話 紙で作る具足
しおりを挟む直ぐに俺は藤林様にお願いをして、竹中半兵衛に会えるよう準備をしてもらった。
この時代のせいではない、現代でも見ず知らずの人に会いたくとも簡単には会えない。
会いたくとも、手順は踏まないと会えるはずがないのは、時代に関係なくいつの世でも一緒である。
しかし、これが非常に大変なのだ。
いくら竹中半兵衛が現在自身の領地で蟄居しているとは言え、いや、蟄居しているからこそ会うのが難しくなっているのかもしれない。
俺が今まで会った戦国のチート武将は先にあった松永弾正を始め本多正信、それに滝川一益の3人だけだが、いずれも偶然の結果であって、望んで会ったのは一人もいない。
誰か紹介者が居れば、その人に紹介状を書いてもらい、それを持って会いに行けるのだが、その紹介者にあてがないのだ。
俺のいる伊勢からは竹中半兵衛のいる美濃までは、途中に尾張などの国があるので、ほとんどこの付近の人とは交流がないのだ。
竹中半兵衛も稲葉山城を一時期占拠していたとしても維持しきれずに野に下った評価くらいしかされていないこともあってか、現代のように多くの人が彼を知っている訳ではない。
となると正攻法ではやはり義父である安藤守就を当たるしかない。
彼は西美濃三人衆の一人としてこのあたりまで名が知れている武将で、彼の娘が竹中半兵衛に嫁いでいた。
その関係もあってか稲葉山城の占拠の折には一緒になって行動をしていた。
流石に、土地の有力者であったので斎藤龍興も城を取り戻した後も無下にはできずにそのままの領地を有している力を持っていた。
蛇足だが、竹中半兵衛は小領しか有していない国人のような武将で、その当時にはほとんど力を持っていないので、斎藤龍興も遠慮なく彼を蟄居ちっきょさせることができた。
追放や処刑ができなかったのは安藤守就の影響のおかげであろう。
現在は非常に不安定な状況下での生活を余儀なくされているので、政治に少しでも関わるような面会には神経質にもなろうというのが、俺の知っている歴史からの情報だ。
藤林様も俺と同様の考えであったようで、まずは義父である安藤守就の説得から入るようだ。
ただこれはかなり難しい感触なので、期待はしないで欲しいと言われた。
次に何かあれば今度はいくら有力者の義理の息子でもかばえないとのことで、安藤守就もかなり神経質になっている。
時間はそれほどあるわけじゃないのだが、無理をする必要はないので、それでもいいから無理せずに出来る範囲でお願いをしておいた。
この分なら当分会えそうにないな。
俺もこればかりに関わっているわけには行かず、色々と溜まった仕事を始めた。
三蔵村そのものの運営はふたりの村長に任せることができているので、俺は新たな産業の構想や、志摩の富国強兵に取り組んでいく。
近々の課題としては賢島の産業の件だ。
現在は賢島整備による仕事はそれこそ腐るほどあるが、これはいわば公共工事であって産業ではない。
将来的には、水運のハブ港として整備をしていくが、現状ではすぐには取りかかれない。
賢島で干物が作れれば良いのだが、地引で漁をするための浜が近くにはないので、やるのならば船を出しての漁となる。
当面は海女あま漁を盛んにして貝類を中心にしていくこととした。
海に入れればここから船で堺には運べそうだ。
アワビなどは干して乾物にしてしまえばそれこそどこでも取引ができる。
他にはどうしようかと考えていると、賢島にいる九鬼様の配下の人が俺を訪ねてきた。
「殿、九鬼様から書状を預かってきております。」
と言って一通の手紙を差し出してきた。
「ありがとう。
直ぐに内容を確認するから待っててね。」 と言って書状の中身を確認していく。
どうでもいいけど、このくずし字はどうにかならないものかな。
俺には読めないのもあるくらいだから。
現在三蔵村での教育で教えている字は小学校で習うような誰でも読める字だ。
なので、現在の三蔵村標準は誰でも読めるのだが、昔から教育されていた大人の人が出す手紙にはあの古文書のような字で書かれている。
あ~~、もう降参。
俺は手紙を持って寺に向かった。
玄奘様が常にいてくれるので非常に助かる。
手紙を読むくらいならば寺にいる修行僧でも読めそうなのだが、ちょっと頼むのが恥ずかしい。
直ぐに玄奘様とお会いできたので、早速手紙を前に相談を始めた。
まず玄奘様に手紙を読んでもらった。
内容についてはなんのことはない。
領民の再軍備のための具足の相談だった。
九鬼様の服属している領民たちは基本海賊業なので、今までの戦では具足など付けなかったのだが、伊勢の攻略では陸戦が主体となるために大量の具足が入用になった。
次の合戦までに300くらいの足軽用の具足が必要だとか言ってきている。
300はかなりの量だ。
堺との取引があるので、金を積めばどうにかなるだろうがかなりの大金となる。
現在、我々は自給自足の生活が出来ていない。
商いで稼いだ金を使って食料を得ているので、そこまでの余裕がないのが現状だ。
俺はしばらく考えて、ひとつの決断をした。
具足も作る。
要は、次の戦いでは矢をよけられ槍が通らなければいいんだから何も金属で具足を作ることはないのだ。
木では作るには時間がかかり過ぎるのでこれもNGだ。
しかし俺にはアイデアがあるのだ。
今まで船を作る過程で漆うるしや膠にかわを使ってきたのだから、軽くて槍よけできるくらいの強度のあるものならば簡単に作れそうだ。
玄奘様に聞いたところ三椏(みつまた)ならばそこらじゅうに生えているのも確認が取れたので、早速与作さんに頼んで工場用の建物や、必要な機材の制作にかかってもらった。
何を作るかって……材料を見たら一目瞭然だが和紙を作るのだ。
正確には和紙のような紙状のものを作り型に貼り合わせて膠で固めていく方法で具足を作ることにしたのだ。
紙で具足が出来るかという質問には俺がお答えしよう。
俺は大学で紙について4年間研究していたのだ。
紙というよりもセルロースナノファイバーという物質の研究だったが、このセルロースというのが紙の材料となる植物の繊維なのだ。
セルロースナノファイバーが驚くことに固めると鉄の数倍の強度を誇るのだが重さは非常に軽いという夢のような存在だ。
尤も色々と欠点も多くあり、まだ実用化には至っていないのだが、その研究の渦中でセルロースの性質について学んだ。
要は紙の元になるものを細かくしていけばしていくほど強くなるので、細かくした繊維で紙を作り、これを膠で固めていけば非常に硬いものができる。
あとは漆で化粧でもしておけばそれなりに見栄えも出るのでバッチリだ。
俺は与作さんと相談して、焼き物用の釜のそばに具足用の施設を作ってもらった。
建家は例のコンクリートもどきのものだから直ぐにできるので、紙漉き用の簀子すのこやらを手先の器用な村人たちにお願いをして用意してもらい、型となる胴殻は焼き物で作ってもらった。
施設のできるまでにはしばらく時間がかかるので、俺は書状を持ってきてくれた九鬼様の配下と一緒に一旦賢島に向かった。
賢島では島の整備のため陣頭指揮にあたっている九鬼様を捕まえ、兵の具足について相談を始めた。
買うにしろ作るにしろどう考えてもすぐには用意できない量だ。
最低でもいつまでに準備しなければいけないかの確認をしなければならない。
九鬼様も、いつ伊勢に進行すればよいかが全く見えておらず、具足の準備にどれくらいの時間をゆるせば良いかもわからない状態だった。
俺の伊勢侵攻の見通しだけれど、伊勢の各地で一揆が起こるような状況になるまでは現状待機だ。
早ければ今年の夏あたりから増税で苦しんだ村から順次一揆が起こると睨んでいる。
なので侵攻も早ければ夏以降あるだろうと九鬼様には説明をしておいた。
足軽の具足は侵攻までに間に合えば良く、とりあえず期限を今年の夏にしておいた。
そこまで期限を貰えれば、三蔵村で作ることができそうなので、足軽用の具足は三蔵村で作ることにした。
今の調子で行けば1つ目は今月中にもできそうなことから、一度できた具足の評価をみんなで行ってから量産を始めることで九鬼勢力との合意が取れた。
俺は、早速村に戻り、具足について九鬼様との取り決めを与作さん達関係者に伝え、制作に入れるように準備を急いでもらった。
最近では俺の無茶な要求にも慣れてきているのか2週間もかからずに施設は用意できた。
子供たちに三椏をたくさん集めてもらい、手隙の村人総出で準備を始めた。
まずは和紙の紙漉きから始めるぞ。
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