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第三章 伊勢の戦国大名
第百話 松永さん家の外交
しおりを挟む応援で来ている俺らの戦いは終わった。
まだ昼前である。
「お~~~い。
大砲をきれいにしておいてくださいよ。
それと、この場所には我々がここに持ち込んだものを塵一つも残さないように片付けてくださいね。
他国の者たちに、我々の武力を知られたくはありませんから。
どうせこのあと周りの国々がこのあたりを調査にきますから、調査されても困らないようにきちんと片付けてから帰りましょう。」
すでに周りの国々の忍びたちはこのあたりまで来ているだろうから国崩しを使ったということくらいはバレてるだろうけど、正確な数まではわからないだろう。
俺にできることはできる限り、他国に俺らの戦力を悟られないようにしておきたい。
また、国崩しを使ったのが松永勢と思われる分にはいいのだが、我々三蔵の衆の持ち物とは悟られたくない。
情報の漏洩が最低でも雑賀党の応援くらいの勘違いで抑えたい。
とにかく後でこのあたりを調査されても大した情報がもれないようにきれいにしてから帰りたい。
我々の持ち込んだゴミなどを残すのは言語道断だ。
と言っても現代社会と違って大してゴミは出ないのだが、それでも確認はする。
俺は片付けを始めている兵たちの周りを見て回っていると、俺たちの警護に当たってくれている雑賀党の兵士の一人が俺のところまで来た。
「空さん、松永勢から伝令がこちらに向かってきてます。
どうしますか。」
「どうするも何もないよ。
松永さんの所からの人なら会わないわけにはいかないでしょ。
作業の邪魔にならないように端であうよ。
それにしても陣幕一つあれば少しは格好が付くのにな。
しょうがないか。」
峠道をふたりの甲冑姿の兵士が登ってきている。
母衣衆とでも言うのだろう、とにかく目立つ格好なのだ。
後ろに旗など立ててきているので松永さんの兵士とわかる。
それでも念の為に雑賀党のふたりが火縄に火をつけた状態で俺のそばに控えてくれる。
これって、とっても安心ができるんだよな~~~。
本当に雑賀の皆さんには頭が上がらないよ。
ふたりの兵士は急いで向かってきているのだろう。
息を切らしながら向かってきているのが見えた。
「誰か、あのふたりに飲み水を用意してあげて。
かなり息を切らしているようだからね。」
俺が伝令に兵士のための飲み水を頼んでいると、横に居る孫市さんが兵士に向かって誰何をしていた。
戦国の世の習わしなのだろう。
俺にはわからないのでそのまま任せていた。
「空殿。
松永勢の伝令です。
弾正様からの伝言を預かっているそうなのです。」
「孫一さん。
ありがとう。
わかった直ぐにここにお通ししてください。」
言ってて何なのだが格好がつかないよ。
帰ったら絶対にロケの小道具を揃えるぞと心に誓った。
ロケじゃなかった。
陣を張るための道具類だ。
「松永弾正が配下…」
伝令の自己紹介が始まって。
「して、松永殿からの伝言とは何か。」
横で孫一さんが凛々しく話を進めてくれる。
「はい、我殿からの伝言ですが、ここに同盟者である空殿が来ているので、大変御足労様ですが我殿の御座す陣まで御足労を願えないかとお願いに参りました。」
すると副使にあたる別の兵士が今答えている兵士を肘で突き小声で
「殿のお言葉をきちんとお伝えしないとまずくないか。」
「え~、だってあのまま言うのか……しょうがない殿のご命令だしな。」
何やらあの食えないおっさん……違った戦国チートの弾正様はかなり乱暴な言い回しを彼らに伝えさせようとしているのだろう。
俺は伝令に声をかけた。
「構いませんから、松永様の言われる通りを教えてください。」
「はい、では大変失礼になりますが殿のお言葉をお伝えします。
『空よ。
まさかとは思うが、このまま会わずに帰ろうとはしていないよな。
すぐそばまで来ているのにこのまま俺に会わないで帰ろうとはしていないよな。
戦も空たちのおかげですぐに片付くから、とりあえずこちらに顔を出せよ。
御礼もしたいしな。』 といっておられました。」
何がお礼だ。
これでは不良からの呼び出し文句と変わらないよ。
でも怖いから行くしかないし。
「それであなたたちが私を松永様のところまで案内してくださると。」
「はい、こちらでの御用が済み次第お連れします。」
は~~~~。
できれば会わずに帰ろうとしていたのに俺の考えを見透かされた。
こうなってはしょうがない。
「孫一さん。
ご一緒してくれますか。
一度きちんと松永様をご紹介したいので。」
「私は今回はあなた方の警護役ですので、空さんが行かれるのならばご一緒します。」
「ありがとうございます。
では、行きますか。」
俺は、砲兵のまとめ役をしている人に声をかけた。
「松永様からお呼び出しが入ったのでこれから行ってきます。
皆さんは、片付けが済み次第、私を待たずに安濃津に戻ってください。
安濃津に帰ったら九鬼様にこの件も含めて報告をお願いします。」
すると、孫一さんの方でも自身の配下に対して俺の警護役にふたりを残して残りのメンバーに命令を出していた。
「いいかお前ら。
空さんの砲兵を警護して安濃津まできちんとお送りしろ。
ひとりも山賊やほかの勢力などに襲わせるなよ。
安濃津についたらその場で俺からの連絡を待て。
わかったか。」
それぞれに要件が済んだので伝令について松永様がいる陣に向かって伝令の案内で歩きだした。
峠を降りるとすぐに松永勢が陣を構えている場所に着いた。
きちんと陣幕を張り巡らしてあり、入り口の前には屈強な兵士が二人、陣に出入りする人間を見張っていた。
戦の最中ということもあり陣にはひっきりなしに母衣衆っていうのかそういう感じの人が出入りしていた。
陣の入り口付近で伝令が警護役の一人に俺らの到着を伝えるとすぐに陣の中から声がかかった。
俺らは警護役の人に促されるように中に入った。
陣の奥中央にでんと座っている松永様は俺らを見つけると大声で近くに来るように命じてきた。
言い方は非常に丁寧だったが、その迫力というか有無を言わせないように俺らを近くにこさせた。
近づくと俺らだけに聞こえるような小声で話し始めた。
「空よ、よく来たな。
今回は非常に助かったよ。
あの国崩しのおかげで無用な被害がでなくて助かった。
なにせ敵の篭る寺は攻め口がひとつしかなくかなり堅牢であったのだが、空の砲撃でなかに楽に入ることができたのだ。
感謝している。
してとなりの御仁は雑賀孫一殿とお見受けしたが。」
「はい、いつも我々に協力してくれている雑賀党の党首である孫一氏です。
今回は良い機会でしたのでご紹介できればと無理を言って付いてきてもらっております。」
「空殿ひきいる三蔵の衆と合力している雑賀党党首、雑賀孫一です。
以後お見知りおきを。」
「孫一殿とは初顔合わせだな。
以後よしなによろしくお願い申す。
して、空よ。
空は何を目指しておるのか。
いつまで、ごっこ遊びをしているんだ。
もういい加減、きちんと世に出てはいかがか。」
「何を言っておられるのか、わかりません。
しかも、ごっこ遊びとは心外な。
何も目指してはおりませんよ。
強いてあげるのならば、私と私の親しい人たちが戦(いくさ)の恐怖を味わうことなく安寧(あんねい)に暮らせるようにしたいだけです。
行きがかり上、九鬼様をお助けすることになりましたら北畠勢との抗争に巻き込まれましたが、それも松永様のご助力でもうじき片付きます。
さすれば、彼の地を九鬼様にお任せして私はのんびりと商いなどしながら暮らしていきます。」
「ワハハハハ。
できないことを申すでない。
空よ。
そちは賢い。
賢いが、時々素っ頓狂(すっとんきょ)なことを申すことがあるな。
そちは理解していないな。
いや、もしかしたら理解をすることを拒んでいるな。
いいか、よく聞け。
今、そちの支配下となる領地がいかほどになるかだ。
伊勢と志摩の2国を合わせると優に50万石は超える。
そればかりではなく安濃津などの良港も有し、そちの力は使いようによっては100万石にも届こうとするくらいにはなるのだぞ。
今この日の本で、そち以上の勢力を誇る人がどれほどおるか考えたことがあるのか。
今のそちはこの日の本で10指には入る巨大勢力になったとも言えるのだぞ。
仲間の安寧を望むのならば、天下でも狙うか。」
「ちょ、ちょっと待ってください。
なんですかその表現は。
天下なんてとんでもない。
政(まつりごと)は九鬼様たちに任せたいのですよ。
でもいいです。
松永様はごまかせませんから、私の希望だけでも聞いてください。」
「やっと本心を見せるか。
で、その希望とはなんぞや」
「はい、伊勢が我々の勢力下に落ちましたから、今度は雑賀孫一さんにお願いして雑賀崎周辺を始め、今ほとんど空白地帯となっている紀伊半島の南側を治めてもらいます。
そうですね、紀伊の国全てを押さえてもらいます。
さすれば地続きで我々とも繋がり経済的に強く結びつくことができます。
なによりも、九鬼様の治める東側と孫一様の治める西側それに同盟関係にある松永様が中央をしっかり治めて頂けますと、この戦乱が続く時代に、ここ紀伊半島だけは一足早く安全地帯となります。
私はそれを目指したいのです。」
「天下は考えないと。
まあ良いか。
ふむ、空の考え通りになれば確かにこの辺は一挙に戦は無くなるな。
元々商いの盛んな地域も多く、安定すれば物の取引も盛んになろうというのもわかる。
半島全体が豊かになろうというのか。
確かに良い案だな。
さすれば、……伊賀はなんと考える。」
「何度も言いますけど俺はガキですよ。
ガキに天下をとらす国などどこの世界にありますか。
まあいいか、でご質問にありました伊賀の地は我々で押さえたいと考えております。
松永様が強く望まなければの話ですが。」
「ガキ云々はもうどうでも良いわ。
で、伊賀の件だが、あの地は以前幕府軍を出して平定を望んだが失敗した歴史のある難しい場所だぞ。
我は無理をしてまで望まない。
それよりも、そちたちで押さえてくれるのならばそのほうがありがたい。
なんなら協力くらいはするがな。」
「ありがとうございます。
伊勢の政が落ち着いたら伊賀の件は考えていきます。
その時にはご相談に伺います。」
「うむ、また、紀伊の国の件は確かに有象無象の国人衆の治める地になっているのだから、きちんとなるのならこちらとしても申し分ない。
歓迎するぞ。
しかし、そうなるとそちの持つ領地は本当に莫大になるな。
却って、ほかの戦国大名から狙われないか少しばかり心配になってくるな。
な~、いっそのこと天下を狙ったほうが良くはないかな。」
「なんなら、天下は松永様が狙ってください。
さすれば、こちらとしても安泰ですから。
私は御用商人として左うちわの生活を望みますよ。」
「我には無理だな。
主家がお許しにならない。」
「松永様の忠誠はすでに主家にはないのでは。」
ここまで言うと急に松永様の顔がこわばり眼光が鋭くなってきた。
やべ……失敗したかな。
でも、このあとのこともあるのでこのあたりできちんと確認だけはしておかないとまずい。
俺も正直に答えたのだからこのくらいは答えてもらいたいのだ。
顔が怖いけど、はっきりさせないと今後の他国との同盟関係を結ぶのに困る事になる。
丁度良い機会なのだからこの部分はここではっきりさせる。
これは真の意味での外交だな。
俺はやれば出来る子なのだ。
怖い顔に負けないように頑張るぞ。
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