名もなき民の戦国時代

のらしろ

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第三章 伊勢の戦国大名

第百一話 松永弾正の真意

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「空よ。
 どういうことだ」

 やべ~~~。
 地雷を踏んだか??
 出てしまった言葉は取り消せないし、いい加減なことも言えない。
 ここまで言ってしまったら……え~~い、ままよ。

「松永様。
 少しものが見える目を持った者なら、より市中の声を聞く耳を持った者ならば、誰でも感じていることです。
 松永様は、先代様(三好長慶)ご存命の時にはまごう事なき忠臣のお働きをなさっていたと聞き及んでおります。
 先代様の御子息にも、それはそれは甲斐甲斐しくお仕えなさっていたとも聞いております。
 しかし、おふたりが相次いでお亡くなりになっております今においては、主家である三好様のご一族の方とのお付き合いが極端に減ってきているのは堺の商人には常識となっております。
 それも、極端に断絶に近い形までお付き合いが減ったのが先の将軍様の交代に関する事件の時からと、これも京にいる者で周りが見える者ならば誰でも知っていることです。
 私は直接先代様を存じてはおりませんが、先代様ご存命の折にはあれほどのことは起こり得なかったことでしょう。
 これも先代様を知っておる商人ならば共通して感じていることでございます。
 松永様も事件の関与というより首謀者のように言われることもおありですが、お気持ちの中には事件には反対であったのでしょう。
 そもそも、事件の折には京にはおらずに、松永様の御子息を人質のようにされたのでは京にいる松永勢の兵も出さなければならなかったのはわかりますが、そのあとから完全に主家との関係が途切れたようになっているように見えます。
 これは、私だけが言っていることではなく堺や京の商人の内でもののよく見える大店のそれもごく一部の方が感じていることなのです。
 これが、ここ大和周辺から見た状態で、次に主家のある四国周辺から見えたのは、これは少々松永様には危ない風景かもしれませんが、松永様は既に知っておられるのでしょう。
 四国にいる三好様の勢力内には大和で確実に力をつけてきている松永様を異常に警戒しておられる方が少なからずおります。
 先代様ご存命の折には先代様のご寵愛を一身に受け出世したのに先代様の期待を裏切り一族の人間を暗殺してさらなる出世をしていったと誰にもはばかることなく言いふらしておられる方が多くおります。
 そこに来ての先の京での事件です。
 主家の決めた将軍の処遇に従わずに軍を出さないばかりか、事件後に勝手に将軍を決めてしまったとかなりご立腹だと聞き及んでおります。
 今では四国の三好勢は海を挟んで敵でも見るような雰囲気であるそうです。
 誰でもこのような状況では忠義などよりも生き残ることに全力で当たりましょう。」

 俺が知っている歴史上の知識を加えて、現状松永勢と四国の三好勢との確執について話して聞かせた。
 怖い顔をしていた松永様の目はさらに力が込められ、今ではひと睨みで人でも殺せそうなほどだ。
 実に気まずい沈黙のあとで、松永様が俺に聞いてきた。

「よく周りを見ているなと、褒めてやりたいが、お前のように見ている人間など多くはあるまい。
 堺の商人にしたって使用人の連中や小さな商いしかやらん連中には絶対に見えない風景だ。
 京とて同じだ。
 それでもなぜ京や堺の商人でない空がなぜ知っている。」

 怖え~~~~よ~~~。
 これは完全に失敗したかな。
 こういうのを何といったかな。
 地雷を踏んだという表現ではすまないよな。
 どうせごまかしなど効かないこの時代のチートが相手だ。

「幸いに私には非常に優秀な忍びの頭がそばにおりますので、こういった重要な話が聞こえてきます。
 私だって最初から松永様のことを探っていたわけではなかったのです。
 堺の大店の方たちと交流が持てるようになってくると、とにかくこういった話は彼らと共有していかないと商いの世界でも生き残れません。
 特に子供の私に率いられている三蔵村となれば侮られないように必死で噂などを集めますよ。
 その上で、みんなで噂の真意を考えます
 四国相手での商いでも考えていたこともあり聞いた話が発端でしたが、どうしてもわからないことがありさらに藤林様に調べてもらったのが先の話です。
 しかし、それでもどうしても分からなかったのが松永様の真意なのです。
 私にはこういった政に関する経験が非常に少なく、噂を集めることはできても、その噂の根底に隠れているものまでは見えません。
 こういうのをなんというのかわかりませんが『獅子の尾を踏む』とでも表現するのでしょうか。
 ですが、私たちの今後について非常に大切なことだと理解しておりますから、松永様を怒らせれば命に関わるのを覚悟してでもお聞きしたいのです。」

「うむ。
 して空が知りたいというのは何だ。
 俺が主家と戦でもするのかということか。」

「はい、松永様がこのあと主家である三好勢から離れていくのかということです。
 それと、これは私の好奇心から来るのですが、京都で三好勢が起こした事件の後で、松永様が苦労して別な方を将軍として立てられた理由がわかりません。
 主家の起こした事件でありますが、あの場合には松永様の態度は絶対に火中の栗を拾うようなもので、天下に野心がなければあそこはじっとしているのが定石かと思います。
 なぜ苦労してまで新たな将軍をお立てになり、軍まで入れて京をお守りになられたのかわかりません。」

 ここまではっきりと俺の疑問を正直にぶつけてきた。
 仮にここで激怒しても俺らをこのまま殺すような人ではないが最悪は考えておかなければならないな。

 しかし、俺が腹の中にある気持ちを正直に吐き出すのを感じたのか、先程まで威圧で人まで殺せそうだった松永様の表情が変わった。
 いつもの表情に戻ったようだ。
 いや、何やら嬉しそうにまで見えてくる。
 松永様があの時を思い出すように俺に語ってくれた。

「そういうことか……空の考えは読めてきた。
 俺が独立するならば、主家が攻めて来る前にはっきり態度を決めておけというのだな。
 確かに今は四国にある主家との関係は非常に不味くなってきている。
 俺も、あの事件を起こすような今の主家のやり方にはついていけない。
 歴史上、将軍の殺害などあの時が初めてではないが、何もあの時に殺害する必要など全くなかった。
 自分たちの勢いが先代様の頃から比べ弱くなってきたからといって、それは将軍の責任ではないからな。
 それを駄々っ子のように訳も分からずに自分たちの思っているようにならないからといって、帝のおわす京で暴れまわり、将軍を殺すとは正気の沙汰ではない。
 空の見立て通りに、あの時に俺の気持ちは決まった。
 こちらからあえて独立を宣言するつもりはないが、俺は既に独立をしているつもりだ。
 仮に、今奴らが攻めてきても返り討ちにするだけの準備は出来ている。
 というか、その準備のために空に協力をお願いしたのがこれだ。
 ここを落としたことで、大和における興福寺の勢力を抑えることができた。
 筒井の連中さえ落とせば興福寺などは日和見ひよりみとなる。
 こちらが力を落とさない限り、歯向かうことはない。
 逆に、ここがあるうちに義継勢(三好家現当主)が攻めてこられると正直どうなるか俺にもわからない。
 かなり難しいことになっただろうが、もう安心だ。
 それに空たちとの協力関係もあるし、そこにおられる雑賀の力も借りれよう。
 空よ、安心せい。
 今度の件のお礼も兼ねてきちんと九鬼勢力との同盟を結ぶ。
 ここがあるうちには主家との関係もあり勝手に他の大名家との同盟を結ぶのが難しかったが、ここを落とした以上、今となっては同盟を結ぶことで義継勢に対する牽制ともなる。
 あ~~それと、今画策しているが幕府の討伐命令に対する恩賞だが、伊勢志摩両国の守護に九鬼を就任させる。
 こちらはどうとでもなるが、もう一つなのだが、志摩の方は朝廷から正式に志摩守の役職を承り、伊勢についてだがこちらは色々とあってな。
 守は無理だったが、代わりに介を頂くことになっている。
 どちらにしてもここいらが落ち着いてからだがな。
 お~忘れるとこだったが、空の好奇心だが、こちらも正直に答えておこう。
 アレな、俺は帝を守るのならば将軍などなくなっても構わないとも思っていたのだが、二条家から泣きつかれてな。
 応仁の時のように京の街を燃やさないでくれと。
 俺が守るといっても将軍がいないと落ち着かないようでな。
 なので、ほかの藤原の者にも声をかけてもらい、今の将軍を連れてきたという訳だ。
 先にも言ったが、俺も天下には野心はない。
 先代様がおられればわからなかったが、今の俺にはこのあたりの領民の暮らしを守る以外に俺の希望はないさ。」

 俺の今まで抱えていた疑問も本人に直接聞けたのでスッキリしたし、何よりも今後の外交方針の確認が出来たのが大きい。
 あとは紀伊の国と伊賀の国を片付ければ俺の描いた紀伊半島の平和が訪れる。

 ま~今回で俺がここに来た当時の目標であった長島の悲劇を少しでも緩和出来る下地ができた。
 長島の暴発は上人様も何度もこぼしておられたが回避は難しそうだ。
 回避するには願証寺の住職を今の蓮淳から上人様に替え、跳ねっ返りどもを全員追い出さないと無理だ。

 そしてそれは出来ない相談なのだから、次善の策として跳ねっ返り以外の人たちを伊勢に引き取るしかないが、その準備も整ったわけだ。
 俺の知っている一揆まで数年しかなかったわけだがここに来て運が回ったのか一挙にことが動き、先の松永様の話ではないが戦国の有力大名に名乗りを上げたわけだ。
 これが却ってわざわいにならなければいいが、とにかく次のステップとして紀伊半島から戦を無くし、領民の平和と商いを通しての豊かさの追求に頑張ろう。

 そうなると人手の心配はある。
 いつもついてまわることだが、この時代では転職アプリなどないし、ハローワークもない。
 口入れ屋ってこの時代からあったっけ?
 そもそも、口入れ屋に政を任せられる人材って斡旋できるのか。

 竹中様が一族を挙げて加わってくれ、前よりはましにはなっているが、伊勢で加わった連中の資質に期待が持てないのはわかっている。
 唯一の救いは最初から俺と一緒にいた子供たちが仕事ができるようになってきていることだ。
 特に経理処理などは葵や幸にかなり難しいところまで任せられそうだ。
 今のように子供の頃からきちんと教育をしていき人材を作っていくしかないか。
 今のうちにきちんと内部を固めておくことにしよう。

 長島の一揆までまだ時間がありそうなのだから。
 その辺も信長の美濃攻略や将軍擁立にかかってきそうなのだが、そろそろ本格的に織田勢との外交も視野に入れて行動を始めようと心に誓った。
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