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第五章 群雄
第百四話 久しぶりの団欒
しおりを挟む3日もかけて会議をしたのだから、参加者全員が日常の仕事を溜めてしまった。
そのせいか会議終了後、ほぼ全員が逃げるように寺からそれぞれの仕事場に帰っていった。
今寺に残されたのは、この人たちも忙しいはずの九鬼様、藤林様、それに孫一さんであった。
当然、寺の主人である上人様や玄奘様、それに二度と離れないぞオーラ全開の葵と幸、彼女たちの暴走を危惧してか張さんと珊さんもそばにいてくれた。
「やっと空と話ができるな」 と上人様が俺に話しかけてきた。
「そうですよ、私たちに仕事を吹っかけておいて、自分はどこかに行って音沙汰も無いなんてひどすぎませんか。
張さんもそう思いますよね。
上人様、空を叱ってください」
おいおい、俺は仕事に行っていたのだぞ。
それに今までは仲間全員に暇などないくらいに綱渡りのようなことをしてきたのだ。
葵たちが不満を持つのは理解できるが、それを上人様にぶつけるのはどうかと思うぞ。
「そうだな、空よ。
お前は、もう少し彼女たちの気持ちを考えて行動するべきだと思うぞ。
尤も、お前がどれくらい忙しかったかは、ワシは知らんから言えることだけれどもな」
「そうですよ、そうですよ。
玄奘様も言ってやってください。
そうでなくとも、私たちを直ぐに無視するんだから」
葵だけでなく幸まで調子に乗って来たようだ。
「葵と幸や。
それくらいにしてやらんか。
お前たちも、空がどれほど忙しかったかくらいはわかっているだろう」
「「は~~い」」
「して、空よ。
このあとは如何様に考えているのか」
「まずは私の周りから戦を無くします。
そのための準備は今回の騒動で整いました」
「ほ~~。
どういうことかワシにもわかるように説明してもらえるか」
「はい、既に孫一さんには話を聞いてもらっておりますが……」
「え~、俺に話してくれたっけか。
俺は知らんぞ」
「え~、大和の弾正殿との会見の時に話した内容ですよ」
「あ~あれか……俺に大名になれってやつか」
「それですよ。
既に、秘密裏に同盟を結ばせてもらっております松永弾正様との話で、この先について相談させてもらいました。
ここ、紀伊半島から我々の仲間以外の勢力を追い出して、紀伊半島内での戦を無くします。
私はそれを目指しております」
「戦をなくすとな。
随分大それた希望だな。
して、そのための方策はあるのかな」
「はい、既に先の騒動で、ここ伊勢と志摩の2国は我々の勢力下にあります。
大和のほぼ全てを親しくさせていただいております弾正様が抑えております。
これだけでも戦の原因になる場所は少なくなっております。
残りは紀伊の国と伊賀の国の2国だけになりますので、2国を押さえれば他からの侵入がない限りここでの戦は無くなります。
次の目標はこの2国ですが、直ぐに掛かれるわけじゃありませんし、志摩の国作りが始まったばかりで伊勢までも抑えてしまったので、まずは国作りからです。
なので、これからは当分国作りに協力して商いを広げていきます」
「フム、そういう腹積もりか。
相分かった」
「それよりも上人様にお聞きしたいことがあります」
「何じゃな」
「長島の動向です。
私だけじゃなく本多様も気にしておりましたが、長島が三河のように一揆に走らないかと心配されておりました。
以前に上人様も仰っておられましたように跳ねっ返りたちが大人しくして下さるかどうかです。
願証寺の中は大丈夫なのでしょうか」
俺の質問を受け上人様は途端に難しい顔をなされた。
横に居る玄奘様に至ってはあからさまに顔を背けた。
これはかなりまずい状況かも知れない。
しばしの沈黙のあとで徐に上人様が答えてくれた。
「正直なところ、時間の問題だな。
三河も一揆の後でかなり国内が荒れており、かなりの人数が長島に流れてきておる。
流民ならば食わせれば落ち着くのだが、僧ともなるとそうもいかん。
日に日に馬鹿どもの数が増えてきておる。
もう、ワシだけの力じゃ抑えきれまい。
どうしたものかの……」
「加賀の国を乗っ取った?だのと景気のいい話を吹聴しておる輩も一人二人じゃないですしね」
「それが問題を余計に難しくしておる。
なんでも彼の地では、今度は内部でもめておるそうじゃな。
既にあちこちでいさかいも発生しており、まさに地獄の再現のようになっているとか聞き及んでもおるしな」
「かなり困った状況ですね。
しかし、私たちにとっては他人事ではありません。
長島が荒れれば当然ここ伊勢も影響を受けますし、尾張の織田勢が黙ってはおりますまい。
さすれば大量の流民がこちらに流れてくることでしょう。
伊勢の国作りの途中での大量の流民は害にこそなれ益には絶対になりません」
「分かっておるから困ってもおるのじゃよ。
寺の中じゃ、今では穏健派と一揆派の二つに分かれている状況だからな。
それにご住職様も気持ちは加賀のように国ごと取りたいようじゃし……保って5年、いや3年くらいしかもたんかもしれないな。
今は京の本願寺からの意向もあってご住職様は静観を決めているが、肝心の本願寺内部でも加賀の件で意見が割れているから、いつどうなるかわかったものじゃない」
「ここに九鬼様もいるので皆様に相談があります。
長島の件ですが我々の統治から外して考えませんか」
「殿、どういうことなんでしょうか」
「長島は伊勢の国に入りますが、島そのものが願証寺の領地だと考えてもいいでしょう。
なので我々があえて自分たちの領有を主張せずに一切関わらない。
その上で、現在長島に集まりつつある流民たちをここ伊勢で引き取り食わせていく方針で臨みませんか。
先程も上人様が仰っておられたように、食えなくなって流民になった人たちは食わせれば暴発しないと。
なれば伊勢の人達とあまり変わりがないじゃないですか。
とにかく長島が暴発してもあまり大きな力にならないように出来るだけ穏健な人たちを我々の方で引き取れば一揆の発生した時にも彼らを助けることができます」
「殿、ちょっと待ってください。
伊勢の彼らを引き入れれば、この伊勢で一揆を起こされませんか」
「だから引き入れるのは流民と穏健派の僧だけですよ。
それならば上人様のお力で抑えることが出来るでしょう」
「なに、もしそれが可能ならばワシなど必要とはされんよ。
玄奘一人でも楽勝だろう」
「人数的にどれくらいになるかわかりませんが廃棄されているとなり村跡を使ってそこに流民を引き取り、村を作らせましょう。
このあたりを藤林様の領地として藤林様に管理してもらい、また、ここ三蔵寺が彼らを導いてもらえれば願証寺からの影響も排除出来るでしょう。
上人様、手配を頼めますでしょうか」
「空よ、むしろその申し出はワシにとって非常にありがたいものじゃな。
相分かった。
直ぐに手配しよう」
「それと、九鬼様と孫一さんにもお願いなのですがいいでしょうか」
「俺にか、お願いって、あの大名になれってやつか」
「はい、でもすぐには行きません。
それに、今まで色々と協力していただいている雑賀の衆の皆さんに報いてやれていませんから、それもあってお願いがあります」
「殿、そのお願いとはなんでしょうか」
「孫一さんには正式に私たちの仲間になって欲しい。
その上で、まず孫一さんには藤林様と同列の家老として形だけでも九鬼様に仕えてもらえないでしょうか。
その上でこの辺に領地を渡して、今いる雑賀の衆全員を侍として孫一さんが抱えてもらうというのです」
「ほとんど今と変わらないように思えるが。
強いて上げるのなら、この辺りに領地を貰え、そこに留まるというのじゃな」
「はい、そうです。
それと形だけとは言え九鬼様に臣従するということになります」
「何、それも構わんよ。
今とそれほど変わらんしな」
「殿がそうおっしゃるのであれば、其れがしには異存はありません。
このあと行う論功行賞の場にて一気に話を進めましょう。
話は変わりますが、最も基本的な質問ですが、本拠はここに置くつもりなのでしょうか」
「三蔵の衆としての本拠地はここ三蔵寺だと思っております。
しかし、伊勢志摩60数万石の本拠地は別に置きたいと思っております」
「あの~~、空さん。
ひとつ報告があるのですが」
ここまで静かに話を聞いていた張さんがここになって話に入ってきた。
「張さん?
なんでしょうか」
「はい、今街作りを進めている賢島の件ですが、あそこはそろそろ限界になってきております。
水の手配に無理があり今以上の人は住めないと思います。
なにせ小さな島ですから」
「お~~そうだ。
殿、城の方はほぼ完成はしてきているのですが、今張さんのおっしゃったとおり街は大きくは作れそうにありません。
60万石の本拠地としては無理があります。
あそこは元々九鬼水軍の本拠の移転地として整備しておりましたが、大大名の本拠地としてはふさわしくはないかと思います」
「桑名だとここから近いでしょうが長島に近すぎますし……安濃津か……お~~そうだ。
大湊に伊勢の本拠地を置きましょう。
あそこは伊勢神宮の海の玄関口だし、良港もありますしね。
我々にはちょうど良いかもしれませんね」
「しかし、ここからだとちょっと距離はありませんか」
「大丈夫ですよ。
ここにも港もありますし、船ではあっという間の距離でしかないですから。
あ~そうだ。 桑名に我々の商業の拠点も置くことだし、桑名に藤林様のお屋敷も作ってもらいそこに藤林様の拠点も置いてもらおう。
で、神戸の居城であった澤城には孫一さんに居てもらおう。
そうすればこの辺は安心できるしね。
それでいいかな」
「某は殿の決定に従います。
で、家老の竹中様は如何様にしましょうか」
「竹中様にも一族を挙げて助けてもらっているしね。
松ケ島城に入ってもらおうよ。
どうせ本人は我々と一緒にいるほうが長いだろうけど、まだ領地があったほうが一族の方には安心感があるしね。
将来的には領地には代官をおいて侍全員を銭で雇いたいね。
そのほうが絶対にいいはずだからね」
「俺たち傭兵稼業の連中は銭雇の方が当たり前だが、古くから侍をしている連中には馴染みもないだろうからいいんじゃないかな」
「某たち水軍連中もどちらでも構いませんが竹中様たちはそのほうがいいでしょう」
「それにあとから臣従してきた連中に舐められないように彼らから領地を取り上げ銭雇にしていき、家老の3人には1万石程度の領地を持ってもらうということで話をまとめよう。
この件はあとで竹中様を交えて相談して決めてかないとね」
「空よ、話を戻すが、流民の件はすぐにでも構わないな」
「はい、大丈夫ですよ。
伊勢の領民と一緒に扱いますから。
どうせこのあたりは今年の農作物には期待が持てませんから、船を使って食料をかき集めてきますよ。
それに芋も始めてみたいので、この秋辺りから試してみます。
それに蕎麦ならば今からでも間に合いますのでこれも試してみますよ」
「それならばワシもゆっくりとはしておられんな。
玄奘よ、ワシは願証寺に一度もどるからここを頼むぞ」
「はい、わかりました。
学寮も増やしておきますから、学僧も大丈夫ですのでそちらもよろしくお願いします」
戦らしい戦はしていなかったが、動乱を収めようとするならば戦の準備をしていた時よりも忙しくなるのは当たり前で覚悟はしていた。
覚悟はしていたがそれでもまだ当分ゆっくりとはできそうにないので気分が落ち込みそうだ。
唯一の救いは今までバラバラであった張さんたちと今度は一緒にいられそうだということだった。
葵と幸もそれがわかったのかとても嬉しそうなのが救いといえば救いかな。
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