名もなき民の戦国時代

のらしろ

文字の大きさ
116 / 319
第五章 群雄

第百五話 散歩と言う名の視察

しおりを挟む


 上人様たちとの楽しい団らん?の時間を終えて、俺の周りから人がいなくなった。
 皆忙しいのだ。
 そこで俺はふと思った。
 さて何をしよう………やばいワーカーホリックか、仕事がないと落ち着かない仕事人間ではなかったはずなのだが、いつの間にか不治の病に犯されたか……確かに当面の仕事は一段落はしたよな。

 伊勢全域(長島を除く)を支配下に置くことができ、俺がこの世界に来てから一番心配していた長島の一向一揆の惨劇を少しでも抑えるための方策の準備がこれで整う。

 上人様にもお願いを出して、少なくとも暴れたい人間以外の人たちの救済はできるようになったし、これから徐々に不幸な身上の流民たちなどを受け入れる。
 これからは、これで色々と忙しくなるのだが、当面直ぐに何かをしなければならないわけじゃない。

 そう、今の俺には近々に片付けなければならない仕事は見当たらない。
 探せばあるはずなのだが探す気力もない、かと言って昼寝するわけにもいかないし眠たくもない。
 俺は唯唯外を眺めていた。
 そこでひと仕事を終えたのか張さんが葵たちを連れて俺のそばまでやってきた。

「空さん、どうしましたか。
 何やら黄昏ていたようですけれど」

「あ、張さん。
 別に黄昏ていたわけじゃありませんよ。
 ただ、何をしようか考えていただけですよ」

「あら、そうでしたか。
 私にはそうは見えませんでしたが。
 でも、それなら空さんは今すぐに何かをしなければならない訳じゃないんですよね」

「え~、そうですよ。
 緊急性の高い仕事はありませんよ。
 探せば山ほど仕事はあるのでしょうが、正直探したくはなかったのですよ」

「それならちょうど良かった。
 私もですよ、仕事が落ち着いたので、これから一緒に散歩でもしませんか」

「散歩ですか」

「はい、空さんは正月以来本当に忙しくあちこちと出歩いていたから、この村をゆっくり見て回ったことがないのでは」

「そういえばそうですね。
 何度か村には戻ってきたような気がしますが、正直何かしらの用件があってそれを片付けたらまたどこかに出かけていたような気がします。
 そうですか、正月以来になりますか……梅雨も過ぎてしまったので、半年以上村を放置していたわけか」

「大丈夫ですよ。
 空さんは既に村長じゃありませんから。
 村のことは村長がしっかり面倒を見てくれていたようですから、村長の頑張りでこの村もあれからかなり賑やかになってきておりますから、村長の頑張りを確かめてみませんか」

「それもそうですね。
 では、直ぐに出かけますか」
「はい、直ぐに出れますよ」

 横で大人しく俺と張さんの会話を聞いていた葵と幸はすぐさま「「私たちも一緒に散歩する」」と言って履物を置いているところまで走っていった。

 そういえば半年以上この村を放置していたわけか。
 たった半年間で色々とあったな。
 出来すぎだろ。半年前にはこの村しかなかったのに今では伊勢志摩60数万石の大領地と大和の松永勢との同盟、本当に激動の時間を過ごした。

 季節は既に夏を過ぎ秋に入っている。
 さすがに南伊勢は最初に救済を行っただけあり、この年もかろうじて収穫はあったそうだ。

 問題は北伊勢だ。
 田植えができた村はどうにかなりそうだが、それすらできなかった村も多数存在した。
 とにかくこの冬も救済ありきでの計画を立てなければならないと心のメモ帳に記した。

 連れ立って寺を出て門前に出来ている村を眺めながら歩いていた。
 この辺は炭焼きから始まって焼き物、それに紙の生産まで行っている。
 また、紙を使っての甲冑作りも俺が数を指定していなかったのでそのまま続いていた。

 どのみち甲冑の数が足りていないので、そのまま生産をお願いしてその場を後にした。
 俺がいなくなっても俺の指示を愚直に守り、甲冑は数がまとまったら浜から船で賢島に送っているそうだ。

 それに紙の方は俺が始めた伝票の使用分でほぼすべてを消費しているとか、本来ならばこの紙も十分に魅力ある商材になりうるのに売る分までには至っていない。
 紙で作る甲冑のために生産が間に合わないためだ。

 このあたりではすっかり伝票を使ってのやりとりに慣れてきているようだ。
 しかし、まだ棚卸や帳面を締める作業していないので全体の儲けや在庫を把握しきれていない。

 しばらく歩いていると少し開けた場所に出た。
 このあたりの木を切り倒して畑を作っていたのだ。
 種芋の方は昨年準備できていたので、今年から芋を作付してもらっていた。
 子供たちに指導してもらいながら大人たちが芋の収穫にあたっていた。

 微笑ましいと言っていいのだろうか。
 確かに芋の生産については寺にいた子供たちの方が先輩だし、収穫の経験も昨年しているから教えることもできるのだろう。
 でも、この見た目はちょっと笑える。

 今年は昨年以上に種芋を準備して少なくとも志摩では全面的に生産していきたい。
 あの地は米の生産には向かない土地だ。
 あ~そうそう、俺はひとつ思い出したことがあったので声をかけた。

「お~~い。
 さつまいもの方は、今年はつるの方も取っておいて欲しい。
 茹でれば食べられそうなのだから。
 じゃがいもの方はいらないよ。
 去年と同じでいいからね」

 子供たちが一斉に返事を返してくれた。

「「「わかりました」」」

「空さん。
 今年は弦も食べるのですか」

 張さんが俺に聞いてきた。

「今年の冬も食料が厳しい村がたくさん出ます。
 少しでも多くの食料を確保したいので。
 なので、今年はさつまいもについては芋を食べるよりも弦を食べるほうが多いかもしれませんね」

「どうしてですか」

「来年賢島を中心にあの辺りにもっと芋を生産させたいので、去年以上に種芋を確保したいですから」

「そうですね。
 あのあたりは米よりも芋の方が向いているかもしれませんね。
 しばらくは戦も無くなるのでしょ。
 ならば食料の生産はいろいろな場所で試していけそうですね」

「そうですね。
 少なくとも今年はこれ以上の戦はないと思いますよ。
 来年も大丈夫だとは思いたいですが、こればかりはね~」

 俺は畑での芋の収穫が思っていたよりも良かったので、伊勢が落ち着いたこの時期に、ここらあたりを重点的に整備していこうと思いながら今度は浜に向かった。

 浜は門前の村よりもはるかに喧騒に溢れていた。
 ほとんど罵声ばせいが飛び交うように干物の取引?が行われていた。

「あれ、な~に?」

 俺は葵に聞いてみた。

「あれですか。
 まだ干物の取り合いが無くなっていないのですよ。
 正直に告白しますが、浜では伝票を使っていません」

 やはりというか、なんというか迷ってしまったが、原因は干物の生産が圧倒的に足りていないところに販売先を増やしてしまった俺の責任が全てであろう。
 付近一帯を勢力下に置いた今ならばやりようがある。

 生産の追いつかいない原因は単に漁獲量の不足だ。
 この浜の漁獲量だけに頼っているから足りていない。
 当分はほかからの買い取りも検討しよう。

「桑名周辺の村からも魚を買おう」

「え、だって以前に断られたのではなかったっけ。
 唯一協力してくれたとなり村は今では一緒になってしまったから、他からの買取先はありませんよ」

 張さんがすかさず答えてくれた。

「大丈夫ですよ。
 それこそ、お侍さんに頼みますから」

「「「あ~~」」」

「まだ正式になってはいませんが桑名は藤林様の領地となりますから藤林様に魚を買い上げてもらえばいいだけですよ。
 ほかの漁村も同じで、魚の量はある程度確保出来るかとおもいますよ。
 そうなると、あとは魚をさばいたり干したりの作業ですが、こちらはどうにかなりそうですか」

「多分大丈夫だろう。
 このあたりもあれから相変わらずに長島からの流民を受け入れているから人手の方はなんとかなるだろう。
 それに作業そのものはさほど難しいものじゃないので初めての人でも誰かを横につければすぐにでも作業はできる。
 魚さえあればどうとでもなろう」

「すぐには難しいですが、準備が出来次第魚を手配しますからよろしくお願いします」

 村を見て回った限り、まだまだやることが満載な状況に少しめまいがしそうだった。
 すると、横で張さんがニコニコしながら俺に言ってきた。

「あらあら、私たちは楽しいお散歩をしていたはずなのですけれどもね~。
 誰かさんは直ぐに仕事にしてしまいますよね」

「そうだそうだ、これって、なんだっけ?
 この間玄奘様に教わった言葉で仕事での散歩、いや散歩しながらの仕事って……そうだ、視察っていうやつだ」

「空さん、仕事禁止」

 張さんの言葉を受けて葵と幸が騒ぎ出した。
 そうだな、これでは本当にワーカーホリックだ。
 でも張さんに散歩に連れ出してもらって本当に良かった。

 十分に気分転換にもなったし、課題もたくさん見つかった。
 まずは足元を固めるために龍造さんや与作さんとよく話し合ってこの三蔵村を落ち着かせよう。
 何よりここがお金を生み出す拠点なのだからね。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

幼馴染達と一緒に異世界召喚、だけど僕だけ別な場所に飛ばされた先は異世界の不思議な無人島だった。

アノマロカリス
ファンタジー
よくある話の異世界召喚… スマホのネット小説や漫画が好きな少年、洲河 愽(すが だん)。 いつもの様に幼馴染達と学校帰りの公園でくっちゃべっていると地面に突然魔法陣が現れて… 気付くと愽は1人だけ見渡す限り草原の中に突っ立っていた。 愽は幼馴染達を探す為に周囲を捜索してみたが、一緒に飛ばされていた筈の幼馴染達は居なかった。 生きていればいつかは幼馴染達とまた会える! 愽は希望を持って、この不思議な無人島でサバイバル生活を始めるのだった。 「幼馴染達と一緒に異世界召喚、だけど僕の授かったスキルは役に立つものなのかな?」 「幼馴染達と一緒に異世界召喚、だけど僕は幼馴染達よりも強いジョブを手に入れて無双する!」 「幼馴染達と一緒に異世界召喚、だけど僕は魔王から力を授かり人類に対して牙を剥く‼︎」 幼馴染達と一緒に異世界召喚の第四弾。 愽は幼馴染達と離れた場所でサバイバル生活を送るというパラレルストーリー。 はたして愽は、無事に幼馴染達と再会を果たせるのだろうか?

マンションのオーナーは十六歳の不思議な青年 〜マンションの特別室は何故か女性で埋まってしまう〜

美鈴
ファンタジー
ホットランキング上位ありがとうございます😊  ストーカーの被害に遭うアイドル歌羽根天音。彼女は警察に真っ先に相談する事にしたのだが…結果を言えば解決には至っていない。途方にくれる天音。久しぶりに会った親友の美樹子に「──なんかあった?」と、聞かれてその件を伝える事に…。すると彼女から「なんでもっと早く言ってくれなかったの!?」と、そんな言葉とともに彼女は誰かに電話を掛け始め… ※カクヨム様にも投稿しています ※イラストはAIイラストを使用しています

日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-

ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。 1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。 わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。 だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。 これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。 希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。 ※アルファポリス限定投稿

蒼穹の裏方

Flight_kj
SF
日本海軍のエンジンを中心とする航空技術開発のやり直し 未来の知識を有する主人公が、海軍機の開発のメッカ、空技廠でエンジンを中心として、武装や防弾にも口出しして航空機の開発をやり直す。性能の良いエンジンができれば、必然的に航空機も優れた機体となる。加えて、日本が遅れていた電子機器も知識を生かして開発を加速してゆく。それらを利用して如何に海軍は戦ってゆくのか?未来の知識を基にして、どのような戦いが可能になるのか?航空機に関連する開発を中心とした物語。カクヨムにも投稿しています。

現代錬金術のすゝめ 〜ソロキャンプに行ったら賢者の石を拾った〜

涼月 風
ファンタジー
御門賢一郎は過去にトラウマを抱える高校一年生。 ゴールデンウィークにソロキャンプに行き、そこで綺麗な石を拾った。 しかし、その直後雷に打たれて意識を失う。 奇跡的に助かった彼は以前の彼とは違っていた。 そんな彼が成長する為に異世界に行ったり又、現代で錬金術をしながら生活する物語。

もし石田三成が島津義弘の意見に耳を傾けていたら

俣彦
歴史・時代
慶長5年9月14日。 赤坂に到着した徳川家康を狙うべく夜襲を提案する宇喜多秀家と島津義弘。 史実では、これを退けた石田三成でありましたが……。 もしここで彼らの意見に耳を傾けていたら……。

帰って来た勇者、現代の世界を引っ掻きまわす

黄昏人
ファンタジー
ハヤトは15歳、中学3年生の時に異世界に召喚され、7年の苦労の後、22歳にて魔族と魔王を滅ぼして日本に帰還した。帰還の際には、莫大な財宝を持たされ、さらに身につけた魔法を始めとする能力も保持できたが、マナの濃度の低い地球における能力は限定的なものであった。しかし、それでも圧倒的な体力と戦闘能力、限定的とは言え魔法能力は現代日本を、いや世界を大きく動かすのであった。 4年前に書いたものをリライトして載せてみます。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

処理中です...