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第五章 群雄
第百五話 散歩と言う名の視察
しおりを挟む上人様たちとの楽しい団らん?の時間を終えて、俺の周りから人がいなくなった。
皆忙しいのだ。
そこで俺はふと思った。
さて何をしよう………やばいワーカーホリックか、仕事がないと落ち着かない仕事人間ではなかったはずなのだが、いつの間にか不治の病に犯されたか……確かに当面の仕事は一段落はしたよな。
伊勢全域(長島を除く)を支配下に置くことができ、俺がこの世界に来てから一番心配していた長島の一向一揆の惨劇を少しでも抑えるための方策の準備がこれで整う。
上人様にもお願いを出して、少なくとも暴れたい人間以外の人たちの救済はできるようになったし、これから徐々に不幸な身上の流民たちなどを受け入れる。
これからは、これで色々と忙しくなるのだが、当面直ぐに何かをしなければならないわけじゃない。
そう、今の俺には近々に片付けなければならない仕事は見当たらない。
探せばあるはずなのだが探す気力もない、かと言って昼寝するわけにもいかないし眠たくもない。
俺は唯唯外を眺めていた。
そこでひと仕事を終えたのか張さんが葵たちを連れて俺のそばまでやってきた。
「空さん、どうしましたか。
何やら黄昏ていたようですけれど」
「あ、張さん。
別に黄昏ていたわけじゃありませんよ。
ただ、何をしようか考えていただけですよ」
「あら、そうでしたか。
私にはそうは見えませんでしたが。
でも、それなら空さんは今すぐに何かをしなければならない訳じゃないんですよね」
「え~、そうですよ。
緊急性の高い仕事はありませんよ。
探せば山ほど仕事はあるのでしょうが、正直探したくはなかったのですよ」
「それならちょうど良かった。
私もですよ、仕事が落ち着いたので、これから一緒に散歩でもしませんか」
「散歩ですか」
「はい、空さんは正月以来本当に忙しくあちこちと出歩いていたから、この村をゆっくり見て回ったことがないのでは」
「そういえばそうですね。
何度か村には戻ってきたような気がしますが、正直何かしらの用件があってそれを片付けたらまたどこかに出かけていたような気がします。
そうですか、正月以来になりますか……梅雨も過ぎてしまったので、半年以上村を放置していたわけか」
「大丈夫ですよ。
空さんは既に村長じゃありませんから。
村のことは村長がしっかり面倒を見てくれていたようですから、村長の頑張りでこの村もあれからかなり賑やかになってきておりますから、村長の頑張りを確かめてみませんか」
「それもそうですね。
では、直ぐに出かけますか」
「はい、直ぐに出れますよ」
横で大人しく俺と張さんの会話を聞いていた葵と幸はすぐさま「「私たちも一緒に散歩する」」と言って履物を置いているところまで走っていった。
そういえば半年以上この村を放置していたわけか。
たった半年間で色々とあったな。
出来すぎだろ。半年前にはこの村しかなかったのに今では伊勢志摩60数万石の大領地と大和の松永勢との同盟、本当に激動の時間を過ごした。
季節は既に夏を過ぎ秋に入っている。
さすがに南伊勢は最初に救済を行っただけあり、この年もかろうじて収穫はあったそうだ。
問題は北伊勢だ。
田植えができた村はどうにかなりそうだが、それすらできなかった村も多数存在した。
とにかくこの冬も救済ありきでの計画を立てなければならないと心のメモ帳に記した。
連れ立って寺を出て門前に出来ている村を眺めながら歩いていた。
この辺は炭焼きから始まって焼き物、それに紙の生産まで行っている。
また、紙を使っての甲冑作りも俺が数を指定していなかったのでそのまま続いていた。
どのみち甲冑の数が足りていないので、そのまま生産をお願いしてその場を後にした。
俺がいなくなっても俺の指示を愚直に守り、甲冑は数がまとまったら浜から船で賢島に送っているそうだ。
それに紙の方は俺が始めた伝票の使用分でほぼすべてを消費しているとか、本来ならばこの紙も十分に魅力ある商材になりうるのに売る分までには至っていない。
紙で作る甲冑のために生産が間に合わないためだ。
このあたりではすっかり伝票を使ってのやりとりに慣れてきているようだ。
しかし、まだ棚卸や帳面を締める作業していないので全体の儲けや在庫を把握しきれていない。
しばらく歩いていると少し開けた場所に出た。
このあたりの木を切り倒して畑を作っていたのだ。
種芋の方は昨年準備できていたので、今年から芋を作付してもらっていた。
子供たちに指導してもらいながら大人たちが芋の収穫にあたっていた。
微笑ましいと言っていいのだろうか。
確かに芋の生産については寺にいた子供たちの方が先輩だし、収穫の経験も昨年しているから教えることもできるのだろう。
でも、この見た目はちょっと笑える。
今年は昨年以上に種芋を準備して少なくとも志摩では全面的に生産していきたい。
あの地は米の生産には向かない土地だ。
あ~そうそう、俺はひとつ思い出したことがあったので声をかけた。
「お~~い。
さつまいもの方は、今年は弦の方も取っておいて欲しい。
茹でれば食べられそうなのだから。
じゃがいもの方はいらないよ。
去年と同じでいいからね」
子供たちが一斉に返事を返してくれた。
「「「わかりました」」」
「空さん。
今年は弦も食べるのですか」
張さんが俺に聞いてきた。
「今年の冬も食料が厳しい村がたくさん出ます。
少しでも多くの食料を確保したいので。
なので、今年はさつまいもについては芋を食べるよりも弦を食べるほうが多いかもしれませんね」
「どうしてですか」
「来年賢島を中心にあの辺りにもっと芋を生産させたいので、去年以上に種芋を確保したいですから」
「そうですね。
あのあたりは米よりも芋の方が向いているかもしれませんね。
しばらくは戦も無くなるのでしょ。
ならば食料の生産はいろいろな場所で試していけそうですね」
「そうですね。
少なくとも今年はこれ以上の戦はないと思いますよ。
来年も大丈夫だとは思いたいですが、こればかりはね~」
俺は畑での芋の収穫が思っていたよりも良かったので、伊勢が落ち着いたこの時期に、ここらあたりを重点的に整備していこうと思いながら今度は浜に向かった。
浜は門前の村よりもはるかに喧騒に溢れていた。
ほとんど罵声が飛び交うように干物の取引?が行われていた。
「あれ、な~に?」
俺は葵に聞いてみた。
「あれですか。
まだ干物の取り合いが無くなっていないのですよ。
正直に告白しますが、浜では伝票を使っていません」
やはりというか、なんというか迷ってしまったが、原因は干物の生産が圧倒的に足りていないところに販売先を増やしてしまった俺の責任が全てであろう。
付近一帯を勢力下に置いた今ならばやりようがある。
生産の追いつかいない原因は単に漁獲量の不足だ。
この浜の漁獲量だけに頼っているから足りていない。
当分はほかからの買い取りも検討しよう。
「桑名周辺の村からも魚を買おう」
「え、だって以前に断られたのではなかったっけ。
唯一協力してくれたとなり村は今では一緒になってしまったから、他からの買取先はありませんよ」
張さんがすかさず答えてくれた。
「大丈夫ですよ。
それこそ、お侍さんに頼みますから」
「「「あ~~」」」
「まだ正式になってはいませんが桑名は藤林様の領地となりますから藤林様に魚を買い上げてもらえばいいだけですよ。
ほかの漁村も同じで、魚の量はある程度確保出来るかとおもいますよ。
そうなると、あとは魚をさばいたり干したりの作業ですが、こちらはどうにかなりそうですか」
「多分大丈夫だろう。
このあたりもあれから相変わらずに長島からの流民を受け入れているから人手の方はなんとかなるだろう。
それに作業そのものはさほど難しいものじゃないので初めての人でも誰かを横につければすぐにでも作業はできる。
魚さえあればどうとでもなろう」
「すぐには難しいですが、準備が出来次第魚を手配しますからよろしくお願いします」
村を見て回った限り、まだまだやることが満載な状況に少しめまいがしそうだった。
すると、横で張さんがニコニコしながら俺に言ってきた。
「あらあら、私たちは楽しいお散歩をしていたはずなのですけれどもね~。
誰かさんは直ぐに仕事にしてしまいますよね」
「そうだそうだ、これって、なんだっけ?
この間玄奘様に教わった言葉で仕事での散歩、いや散歩しながらの仕事って……そうだ、視察っていうやつだ」
「空さん、仕事禁止」
張さんの言葉を受けて葵と幸が騒ぎ出した。
そうだな、これでは本当にワーカーホリックだ。
でも張さんに散歩に連れ出してもらって本当に良かった。
十分に気分転換にもなったし、課題もたくさん見つかった。
まずは足元を固めるために龍造さんや与作さんとよく話し合ってこの三蔵村を落ち着かせよう。
何よりここがお金を生み出す拠点なのだからね。
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