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第五章 群雄
第百十八話 滝川様との会合
しおりを挟む賢島まで伝令が乗ってきた船で俺らは大湊まで帰ってきた。
賢島から大湊までは船ではさほど時間はかからない。
出航などで時間は取られるものの、いざ帆走となるとあっという間に着く距離だ。
慣れた船乗りたちが操船する船では本当にすぐに着いた。
大湊で俺は九鬼様一行を見送った。
正直、武井夕庵には会ってみたかったのだが、俺が公式に会えるはずはないくらいの高官だ。
初期の織田信長配下の武将ではかなり上位に位置しており、文官に限れば林に次ぐ第2位くらいの実力者であったと記憶している。
まだこの時代には武官文官といった仕事にはっきりとは分かれていないので、信長配下の序列はわかりにくいが、それでも家老待遇にはあったはずだ。
そんな高官が非公式とは言えわざわざ訪ねてきたことは大きな意味があるのだろう。
この時代では、少年で前世も入れてもひよこ扱いの経験しかない俺ではこういった外交などはわからない。
ここは素直に竹中様にお任せだ。
俺はここからゆっくりと三蔵村に帰ればいいかなと思っていたのだが、どうもそうはいかないらしい。
九鬼様を見送った俺らを港で監視していた三蔵村の衆がすぐに俺らを捕まえた。
「玄奘様からの伝言です。
とにかく直ぐに帰れ。
だそうですので、船を用意しておりますからこちらで」 と言われ、有無を言わさずに俺らを自分たちの船に押し込んでいった。
流石にちょっとムッとしたような表情を見せた藤林様であったが、流石にそこは大人の対応で済ませたようだ。
迎えに来ていた村人も、寺の方からかなりきつく連れて来いと言われていたようである。
正月の対応を恨んでいたようであった。
俺は隠れていれば良かったのだが、玄奘様を始め寺の衆や家老職にある人たちにはゆっくりとした時間はなかったのは事実だ。
家老職にある人たちは、完全に政治活動の一環であって純然たる自分らの仕事だから誰を恨むわけにも行かず唯唯粛々と対応をしていた。
しかし、もてなす学僧や付近の豪族たちの相手をしていた玄奘様などは、俺がここにいるのが原因だと思っていたようであった。
正しくその通りなのだが、来年からは『空は正月には出入り禁止』なって玄奘様から直々に言われていたのである。
ちょっと酷くないですかね。
だいたい寺が檀家を締め出すのはありかとは思ったのだ。
しかしよくよく考えると、あの時は急な来客がとにかく多く、その対応に当たっていた寺の衆は休みなく動いていたのだから恨まれてもある意味止むを得ないとは思った。
なにせ俺はあの時に調子こいて忙しく働いている学僧の横で、のんびり雑煮などをこたつに入りながら食べていたのだから。
そういえば横を通り抜ける時の学僧たちは俺のことを睨みながら通りすぎていったような気もする。
そこに来て隣国からの客人が俺を名指しで訪ねてきたのなら、さっさと俺に対応しろという感情が沸くのは自明の理だな。
俺が無理を言って付き合ってもらった藤林様はある意味俺のとばっちりを受けた格好だ。
申し訳ない。
しかし、相手があの滝川様だ。
忍者の出だとも言われているあの滝川一益だ。
この人も戦国の時代に数いるチートの一人だ。
絶対に俺だけで対応などできない。
俺は藤林様もいることだし覚悟を決め合うことにしたが、正直会いたくないな。
いずれは会わないといけないだろうとは思っていたが、今日じゃないだろう。
少なくとも信長が美濃を抑えてからだろうと思っていたので何も準備はしていない。
滝川様からは何を言われることやら。
大湊から三蔵村までは賢島から大湊よりも距離はある。
でも慣れた海域でベテランの域にある船乗りたちが操船している船ではほとんどあっという間についてしまう。
心の準備も整わずに三蔵村の港に船は入った。
船から降りるとそこには玄奘様が直々に出迎えてくれていた。
なんと玄奘様の隣には見覚えのある人がいる。
そう以前お会いした滝川様だ。
いきなりはないだろうと文句も言いたいところだが、やっとの思いで文句を飲み込んだ。
「え、玄奘様に滝川様ですよね。
なぜ」
すると玄奘様は澄ました顔しながら答えてくれた。
「使いに出した船が港に入るようなら寺に連絡するように頼んでいたのだ。
それにしても早かったな。
あっちは楽しかったかな」
「え、え、楽しいわけじゃ。
あ、それよりも、お久しぶりです。
滝川様ですよね」
「お~、久しいな。
以前、清洲城下でちらっと見かけた以来かな」
うん、あの時に声かけられたもんな。
面倒になりそうだったから隠れていたのに見つかったし、本当に侮れない人だな。
「ええ、あの時以来ですね。
留守にしており申し訳ありませんでした。
今回は、私に会いにわざわざ出向いていただき大変恐縮しております。
立ち話もなんですので、玄奘様がお許しになればですが寺でお話をお伺いしたいのですが」
「そうですな、寺から港まで出向いてもらいましたが、ここはご覧のとおりお客人をもてなすような場所はありませんので、滝川様はまた拙僧と寺までご一緒に願えますかな。
空はさっさと付いてくるようにな」
やっぱり怒っていらっしゃるような。
失敗したな、事前に準備してお願いをしていたらもう少し違ったであろうに、原因だけ作って俺だけ楽していたからな。
でも、滝川様の訪問で2回目のはずだ。
仏の顔も三度までというように後一回の猶予はあるはずなのに、玄奘様は怒りっぽい人のようだな。
そういえば以前に本多様にも殴りかかっていたような、うん、後できちんと謝っておこう。
寺に入り、奥まった部屋で改めて挨拶を交わし早速本題に入る。
子供の俺に合わせたのか、腹芸などせずにいきなり今回の訪問の趣旨を語ってくれた。
「我殿、織田弾正様は三蔵の衆と九鬼家を非常に警戒なさっておられる。
空たちは我が方を攻める意図はあるのか。
どうなのだ」
本当にわかりやすく滝川様は話してくれた。
ここのところ急に商いの規模を大きくしており、頻繁に堺とも取引があり、馬借や廻船なども商っている我々について危機感を持って注視していたようであった。
そんな我々が昨年あたりから雑賀党とも好よしみを通じ、志摩を追われた九鬼様を助けあっという間に伊勢志摩を配下に収めた。
そんな三蔵の衆の実態を調べていたようであった。
元々この辺の調略などに当たっていた滝川様は直ぐに俺の存在に気づき、調べていたようではあったのだが、この度信長様の命令で直接乗り込んで意図を探りに来たようであった。
「意図は何かと聞かれても……、信じてもらえないかもしれませんが、何も無いのです。
なんと言いますか、我々が九鬼様を助けたのは偶然で、そのあとも北畠の嫌がらせを防いでいた結果なのですよ」
「流石に信じられるか。
そもそも、今の九鬼家は既に大大名となっているのだぞ。
その九鬼家が三蔵の衆に操られているようでは、その三蔵の衆とは何か。
一体何をしたいのかと言うのが全く見えてこない。
これを脅威と言わずになんという。
キサマらは一体何をしたいのだ。
我が織田勢としては伊勢の地を攻略する意図はないが、我々と敵対するようなら全力で当たる用意もある」
「ないですよ、滝川様。
我々には、どんな戦だろうと戦などしたくはないのです。
ましてや事を構えていない尾張まで戦を仕掛ける意図など全くございません。
信じていただけないですかね」
「では、なぜ大和の松永との同盟なのだ。
久秀のやつは天下を望んでおるのか。
そのための同盟なのか」
「その同盟の件は我々も知っております。
知ってはおりますが、これは九鬼家の外交問題で私には隠れた意図まではわかりかねます。
どうせ、我々三蔵の衆と弾正様とのやり取りがあることも知っておられるのでしょうから申しますが、私どもと弾正様との間では、この紀伊半島だけでも戦をなくす方向で協力していこうと話がついております。
九鬼様とも同じ考えを共有させていただいていると思っております。
今回の同盟は、その考えに従って半島内の戦を無くすのが目的だと思っております。
そこにいる藤林様は偶然からお怪我をしていたのを、助けた縁で三蔵の衆に加わってもらい色々と協力してもらっておりましたが、昨年九鬼様のご家老職も拝命したように、私どもと九鬼家は強力に結びついております。
なので、先ほどの考えは間違っていないと考えております。
ですので、信じてもらうしかないのです。
私どもも、九鬼家も尾張を始め織田勢とは戦を望んではいません」
「そうか、そこまで聞ければ俺の訪問も無駄ではなかったな。
今ちょうど大湊に、我が方から武井様が九鬼志摩守を訪ねている。
名目は官職就任のお祝いと新年の挨拶だが、目的は同盟の打診だ。
俺は、空のことを気に入っておりできれば戦いたくはない。
そこでお願いだが、せめて不戦同盟だけでも結べないか。
不戦同盟は先の空の考えにも沿っているだろう」
「な、なぜ私に同盟の件でお願いが出るのですか。
塩や干物の商いに関してならわかりますが、同盟などの御政道に関しては……」
「だから、お前たちは不気味なんだよな。
一体全体、本体はどこにあるのだ。
俺も商売だから色々と調べたが、伊勢志摩の主はお前空だよな。
はっきり証拠までは掴んではいないが、というより、空の周りには忍びが入れないからよくわからないのだが、志摩の民たちは空のことを殿と崇めているそうだな。
あそこも九鬼家の領地のはずだが、この勢力の主はお前なのだろう。
そこで改めてお願い申す。
せめて不戦同盟だけでも結びたい。
それも我殿が美濃を攻略するまででもいい。
年内、遅くとも来年には美濃を攻略できるのだ。
我が殿は自身の栄耀栄華のために美濃を欲しているのではない。
義父の遺言に従って美濃を制し、京の混乱を収めこの日の本に再び平安をもたらしたいのだ。
ここで不戦がなれば本当に美濃の平定は年内にも可能なのだ。
いい加減に戦ばかりの時代を終わらせたいのだ。
そのお考えは我ら配下一同も同じだ。
そのためには俺はどんなことだってする。
不躾な願いとはわかっているが、俺はいくらでも頭を下げられる。
俺の頭で良かったらいくらでも下げるので、どうか不戦の同盟を結んでくれないか。
九鬼家が無理でも三蔵の衆とだけでも結べないか」
オイオイ滝川様だってある程度の位持ちだよな。
そんな方がいきなり土下座するばかりの頼み込みなどこの時代では考えられない。
流石にこれは辞めさせないとまずいよな。
「滝川様、どうか頭をお上げください。
わかりました。
同盟についてはここで軽々しく言えませんが、三蔵の衆の頭として今年は少なくとも尾張には戦を仕掛けないことをお約束します。
また、お付き合いのある雑賀党の傭兵斡旋でも尾張攻撃には向かわせないこともお約束します。
九鬼様には、私の方から同盟について前向きに考えて欲しいとも口添えを出しますので、これでご勘弁ください」
「それは誠か、ありがたい。
それにしても、あの情報は誠であったな。
直接空に話を持っていくのが、とにかく早いという話しがな。
ここに来た甲斐はあった」
「え、なんのことですか。
その話は」
「松永の辺りで言われている話だぞ。
三蔵の衆の頭に話を持ってくのが一番とな」
オイオイ、弾正様。
そちらのセキュリティー管理はどうなっているんでしょうかね。
どうせ知っていて流しているのでしょうけど。
あまりそう言った情報は流さないで欲しいかな。
これ以上厄介事を持ち込まれたくはないのですが、あのクソジジイ絶対に知っていてやっているんだよな。
厄介事が俺に集まるように。どうしてくれよう。
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