名もなき民の戦国時代

のらしろ

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第五章 群雄

第百十七話 永禄9年 二度目の正月

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 永禄9年 元日、俺たちは無事正月を迎えることができた、俺たちはだが。
 昨年の永禄8年師走も押し迫った時期に俺たちは三蔵村にいて、村をあげて正月を迎える準備をしていた。

 三蔵寺を始め各自の家々の大掃除をしてもらい、手の器用な者たちには竹やぶから竹を取ってこさせ、立派な門松までも作ってもらった。
 三蔵村の各家々の玄関先にいまでは企業の正面玄関にでも飾るような門松を飾ってもらったら、一挙に正月が近いことを感じられるようになった。

 はっきり言って俺だけのこだわりに村を巻き込んだ形だ。
 子供たちはよくわからないなりにも喜んでいたが、大人たちは何の呪いかと訝しがっていた。
 しかし今まで俺に付いて、わからないなりにも協力してくれた三蔵村の人たちは、また俺がおかしなことを始めているが『空さんがすることだから』と文句も言わずに協力してくれた。

 俺としては子供たちには正月に凧揚げや羽根付きを楽しんでもらいたかったのだが、さすがにそれらの準備にまでは時間が足りないので素直に諦めた。

 それらが一段落した頃に村をあげての餅つき大会を行った。
 正月には雑煮を食べたいし、何よりも鏡餅を飾りたいためだ。
 昨年は年が明けてからの餅つきとなり鏡餅を飾ることができなかった反省もある。
 今年は各家々に鏡餅を飾ってもらいたかったし、何よりもこの寺に飾りたかった。

 ……寺に鏡餅を飾ってもいいのか?
 確か氏神様やら年神様をお迎えするものなのか?お寺さんに神様を祭ってもいいのかとは思ったが、日本の正月にはやっぱり必要でしょうということでひときわ大きな鏡餅をひとつ作って本堂に飾ってもらった。
 その後は村人総出で作った餅を食べて準備を終えた。

 翌元旦に、村人たちを境内に集め、初詣をこの寺にて行った。
 住職にあたる上人様は本証寺の方での行事等で忙しく元旦には、この寺にはいなかったが、その代わりに副住職の玄奘様から説法を聞いてありがたい気持ちになり新年の挨拶をみんなで行った。

 ここで子供たちにはお年玉といきたいところではあったが、そこまでの余裕はまだないので、この後、餅をふんだんに入れた雑煮の炊き出しを振舞って解散とした。

 昨年の正月にも村人全員を集めたが、今回は全員とは行かなかった。
 観音寺の店にいる人たちや、八風峠にいる人たちも村人の扱いだったはずなのだが、さすがにそうも言っていられなくなってきている。
 それでも昨年以上の人が集まっており、皆の顔のは希望に満ちた笑顔であふれている。
 
 ここでの生活は昨年の一年で皆見違えるように豊かになってきていることを実感しているようであった。
 何より飢えと寒さの恐怖は少なくともこの村にはない。
 昨年新たに仲間になった人たちはこの新年最初の集まりに驚いていた。
 といってもここで皆を集めて新年を迎えるのは2回目で有るのだが、毎年続けていきたいと思えるような幸せにあふれている。
 この幸せを少なくとも我々が治めている伊勢志摩の住人全てに味わってもらいたいとは思っている。
 そのためにも今年も頑張ろうという気持ちもあるが、現実にはまだ飢えや寒さで亡くなる人が後を絶たないのは、ここ伊勢も例外ではない。

 ま~、少しづつ豊かにしていけばいいかと思い、この集まりを終えた。
 午後からは、少なくとも三賀日は、身内と呼べるごくごく親しい者たちとゆっくりとして正月を過ごそうと考えていたのだが、午後になって急に寺が騒がしくなってきた。
 九鬼様が家老職の全員を引き連れて寺まで新年の挨拶にやってきた。

 ちょっと待て、大名がいちいち平民に挨拶に来るなよと文句を言ったが、新年を迎えるにあたりきちんと殿に挨拶をしたいと自発的に集まったそうなのだ。

 九鬼様達は現在大湊の地に新たな城下町を整備しているので、大湊にある寺に仮陣をおいて新年を迎えたそうだ。
 一応付近の地侍たちの挨拶もその陣で受け、仮陣であることから宴会などせずに解散としたのだ。
 地侍たちを帰して、残った家老衆が俺に挨拶に行きたいという話になって、船を出してここまで来たとのことだった。

 何も知らない人じゃなく、というより色々とお世話になった人たちなので、寺の奥で餅やご馳走を出して歓待をした。

 翌日になると、どこから聞いたのかこのあたりの地侍たちや関や長野の豪族衆がわずかな配下を連れて寺に新年の挨拶にやってきた。
 当然のことであるが俺が出るわけにも行かずに玄奘様が対応にあたっていた。
 寺に宿泊している九鬼様を始め家老衆も総出で彼らの挨拶をこの寺で受けていた。

 寺の境内は、このあたりの地侍やら関や長野などの地方豪族の配下の者たちで賑わってきたので、村人たちと無用なトラブルが出ないように学僧やこの村に屋敷を構えている藤林様のご家来衆が彼らの整理に当たっていた。

 この寺で気ままにゆっくりするつもりが、寺の奥でひっそりと彼らの去るのを待つ生活になった。
 これはちょっと楽しくないぞ。
 来年は城も完成することだし、城にて彼らを迎えてもらうようにお願いをしよう。

 ま~そんなこんなではあったが、俺らは無難に正月を越えられたといえよう。
 尤も割を食った形になったのは学僧を始め寺の人達と、同じように今まで忙しかったことから正月くらいゆっくりとしようとしていた九鬼様たちだろう。
 しかし、正月の一連の行事等は大事な政治活動の一環なので彼らには我慢してもらうしかない。
 九鬼水軍の人たちと雑賀衆、それに志摩の村長たちとの集まりは賢島にて小正月に行うことを決めていたので、彼らも一緒にそこでやればよかったと後悔していたようではあった。

 とにかく、三蔵村での正月を終え、小正月になって賢島の城内での挨拶も受けて一連の正月行事を終えた。
 今は集まった人達に酒などを振るまい、宴会を行っている。
 そもそも、なぜ俺が彼らの挨拶を受けなければならないのか甚だ疑問ではあったが、彼らの強い希望もあり今年は我慢してこの会には参加したのだ。

 ヤレヤレやっと終わったと一息を入れていると、港の方から伝令が走ってきたのが見えた。
 大湊からの船で届いた伝令であった。

 早速、宴会の会場を離れ、別室で伝令を迎え、内容を聞いた。

 なんでも大湊にお隣の尾張から林通勝様の密使として武井夕庵様が九鬼様に挨拶にみえたのことだった。
 此度、伊勢の地の平定により幕府と朝廷より、官職を承ったお祝いと正月の挨拶を兼ねての訪問だそうだ。
 まだ、正式にやり取りの無い間柄ゆえ密使問形になって申し訳ないと詫びていたと聞いた。

 さすがに近隣の国との外交なので、会わない選択はありえない。
 俺はこの地でもう少しゆっくりとしているので九鬼様よろしくという気持ちで九鬼様を見たら。「なぜ一緒に会わないのか」と聞かれた。

 イヤイヤ、流石にそれは無いでしょ。
 伊勢志摩の大名は九鬼様なのだから九鬼様が会わないという選択肢はない。
 逆に三蔵の衆の代表であるとは言え政に関わっていないことになっている俺が会うという選択肢もないでしょと行ったら、伝令がさらに続けてきた。

「殿にも伝言があります。
 三蔵村にやはり尾張から滝川様という方が空殿を名指しで訪ねてきました。
 こちらの方は殿との面識もお有りのようで、寺で待つからと寺に宿泊してもらっております。
 玄奘様から、色々とめんどくさいのでさっさと帰ってきてくれぬかと合わせて伝言を受けております。」

 ちょっと待てよ。
 何か、尾張の織田信長はいよいよ伊勢の地にも進出するつもりなのか。
 そもそも、まだ織田勢は美濃を攻略しきれていないはずだよな。
 そんな状態で伊勢までちょっかいをかける余裕があるのか。

 そういえば色々と忙しく最近周りの様子の確認を怠っていたので、ある意味手遅れになっていなければいいのだが、ちょっと不安になりながら俺は藤林様に最近の織田勢について聞いてみた。

 藤林様も手遅れになるようならさっさと俺の耳に情報を上げてくるだろうから、そこまで逼迫した状況ではないと判断しているようだ。
 それでも最近の様子をまとめて俺に教えてくれた。

 最近の織田勢の動きとして特筆されるのは昨年11月に羽島の地に斎藤勢の攻撃を受けながらも、ひとつの砦をこさえたくらいだと言っていた。

 羽島の地に砦を作ったくらいしか報告するようなことはないと教えてくれた。
 羽島って、あの羽島だよな、岐阜羽島のある羽島だよな。
 地元の有力政治家が無理やり新幹線ルートをねじ曲げて駅を作ったという羽島だよな。

 これといって重要なところでもあるまいし、なぜ今になって我々に接触をしてきたのかがわからない。
 これが墨俣ならもう少し別の意味があるのだが、豊臣秀吉現在は羽柴藤吉郎だか羽柴秀吉だかの名前の武将が砦を作るのならもう少し意味もありそうなのだが、この時期に強力に我々に接触してくる意味がわからない。
 竹中様に聞いてみたら、「羽島に砦作りを成功させましたか……いよいよ斎藤勢は苦しくなりますな。」だって。

 そんなに意味のある地なのだろうか。
 おれは藤林様に、砦に関してもう少し詳細な報告を求めたが、今現在は詳しくは知らないとかですぐに調べますと約束してくれた。

 どちらにしても織田勢とはそろそろきちんと向き合う必要が出てきたな。
 もしかしたら、伊勢攻略の意思はなく、斎藤攻略に背後から邪魔するなというだけかもしれない。

 今回は外交に関しては挨拶で正式な交流を求めてきているのはわかっている。
 竹中様もいることだしいらぬ言質は取られることはないだろう。
 問題は滝川様の方だな。
 こちらに関しては申し訳ないが藤林様も俺と一緒にいてもらおう。
 あ~そうだ、孫一さんにも同席をお願いしよう。
 いまでは九鬼家の家老ではあるが、三蔵の衆とも付き合いのある人だし、元々織田信長も雑賀衆を警戒してそうだしな。
 
 俺等は宴会を中座してすぐに大湊に戻っていった。
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