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第五章 群雄
第百二十一話 帰って来たポルトガル船長
しおりを挟む件の船が港に接岸するやいなや船長が飛び降りるような勢いで船から出て、そのまま真っ直ぐに張さんのもとに向かった。
多分入港する際に、張さんを見つけてすぐに会いたくなったのだろう……ってあいつ張さんの手を握って何やらまくし立てているぞ。
その張さんはというと、上手に船長をいなしている。
張さんは船長を連れて俺のところまでやってきた。
「こんにちはカプテンさん」
俺は船長の名前を知らない。
多分、前回も聞いていなかったはずだ、カプテンとしか言っていなかったと思われる。
なにせ1年以上 会っていなかったはずだしな。
会ったのは一昨年の冬だったと思う。
俺らが志摩侵攻する直前だったはずだから、それくらいは経っている。
しかし、1年以上も会っていないのに何の用かな。
貿易には向かない船で来ているので、商売の話じゃないことは容易に想像がつくが……
相変わらず、ここでも張さんが通訳の役を買って出てくれる。
ここでの立ち話もなんなので、いつもなら寺に連れて行くところ最近かなりきつく言われていたので連れて行きづらく、やむを得ず藤林様のお屋敷を借りることにしてそこに船長を連れて行った。
藤林様の屋敷で、船長と改めて話を聞いた。
早い話が、船長は我々が使っている船を譲って欲しいとのことだ。
現在、俺たちが主力で使っている船は船体が漆加工してあり、波の抵抗を受けにくい形でとにかく船足が早いと偉く気に入っているようだ。
その船足の利点を使って本国やゴア、それに上海などの各地を繋ぐ連絡船として働いていたのと言うのだが、ゴアの総督に船を認められ、どうしても船を追加で調達して来いとの命を受けたようだ。
さすがにキャラックやキャラベルなどの船と交換するわけにはいかないので、できれば金銭取引で船を譲って欲しいと言ってきた。
3本マストのキャラックは正直魅力あるが、どうしても欲しいというレベルじゃない。
かと言って金銭でと言われても、相場がわからないので、できれば避けたいところだ。
さてさて、どうしたものかね。
俺は、かつてえぐい取引をしてくれた中国商人の教えを受け継ぐ張さんに相談してみた。
「どうしましょうかね。
現状、俺たちはそれほどお金にも困っていませんしね。
かと言って、先方はかなり条件を絞ってきているようですし。
それに、俺には相場そのものを知らないから取引する気もないんですよ」
「では、断りますか」
「それでもいいですけどね、せっかく遠いところから来ているのに断っても納得してくれるかどうかね」
張さんがすぐに船長と交渉を始めた。
交渉をはじめると見る見るうちに船長の顔色が悪くなっていく。
このまま怒って帰ってもらってもいいんだけれど………あ、思い出した。
今上海に居る例の中国商人の存在を。
もし船長が中国商人の存在を知って話を聞いたらちょっとまずくないかな。
彼には新造船を作ってあげているしね。
「張さん張さん、ちょっと」
俺は張さんに今賢島で中国商人向けに1艘の新造船を造っていることを話し、もし彼の存在がポルトガル側に知れたら不味くないかと聞いてみた。
張さん自身も新造船の建造は知っているし、どうかな~とは思ったが彼と同じ条件での取引をするわけにも行かない
だって彼は賢島の住人に準ずる人だからね。
結局、ポルトガル船長の提示した金額は中国商人の5倍にマカオでの取引への便宜とその許可、それにマカオまでの海図の提供という条件を出した。
さすがにこの条件は船長の権限を遥かに超えるものだし、取引そのものが流れるかと思ったのだが、船長は取引の保留と、条件の固定を提示してきた。
ゴアに連絡を取り確認したいとのことだ。
こちらにしても、どちらでもいい取引なのだから船長の申し出を了承した。
新造船を新たに作るわけにはいかないので、こちらの2番艦を譲ることで条件さえ合えばすぐに譲ることを取り決めた。
幸い張さんは語学の達人で、ポルトガル語についても読み書きできるということなので簡単に先の条件を箇条書きにしてもらい、俺と船長のサインの入った紙を2枚用意してそのうち1枚を船長に渡した。
こんなの持ち帰ったら船長は怒られそうだと思っていたのだが、船長は殊のほか喜んでいた。
もっと吹っかければよかったかなと一瞬感じたが張さんはしてやったりの顔なので妥当な条件なのだろう。
話し合いが終わる頃に船長から船に積んでいた1樽のラム酒と1瓶のブランディーを手土産に頂いたので、こちらとしてもお返しにと干物を行李で1個分を渡して返した。
港では水の補給と食料の積み込みが始まっていた。
こっちもしっかりお金を取っているので、こちらとしては時間は取られたがそれほど悪い取引ではなかった。
ま~あの条件では、もう一度船長がこちらに来るかどうかわからないのだが、これも一期一会だ。
あれ、これって千利休の言葉だったけ。
まだ、この時代では無い考えかな。
それに使い方も微妙な気がする。
ま~、今まで色々と身の回りが騒がしかったのだが、これで本当に落ち着く。
俺は船長を見送ったその足で造船所に向かい、新造船の研究状況を確認しに行った。
こちらの研究は始まったばかりでとりあえず今は模型作りをしている。
俺は今回のポルトガル船長の訪問で一つ大事なことに気がついた。
現状で世界の海を支配しているスペインと並ぶ大国のポルトガルでは、何より船の性能で速さを求めていることを理解したのだ。
ならば、彼らに対してアドバンテージを得るには船の大型化はもちろん速さにおいても妥協してはダメだということだ。
我々の船の船足が早いのは、たまたま俺がこの世界に移転する前の世界で使われている最も一般的なヨットの形をモデルとしたためで、ヨットを作った造船会社の長年培ったノウハウの一部を無断拝借したようなものだ。
マストの数を増やし大型化を目指すにはこのままでは使えない。
こちらでも工夫する必要がある。
我々の船は先に言ったように船体の流線型がたまたまあの大きさの船では抵抗が少なくなる形であったのだろう。
また、塗料として漆を使うことで水の抵抗も少なくなったために船足がこの時代のどの船にもかなわないくらいの速さを持つことができたのだ。
何を言いたいのかって、だからこれから造る2本マストの船はあれよりも船体の大きさが大きくなるので、あのまま大きくすればいいわけじゃないはずだ。
塗料についてはほかの代替手段が思いつかないし、使用量だけの問題なので漆でもいいだろう。
我々がこれから工夫していくのは船体の形だ。
当然形を作るための船体構造も工夫する必要はあるのだろうが、まずは形を決めていきたい。
ではどうすればいいかについては俺にアイデアがあった。
模型を作って検討することを始めていたので、その模型を使って調べればいい。
俺は記憶の中にある造船会社の水槽実験の様子を思い浮かべていた。
とにかく実験用の水槽を三和土で作ることから始めた。
出来た水槽に水を張って、模型の船を浮かべ復元性の確認やら前に進めた時のできる波の様子やそれにかかる力などを手の感覚で確認していった。
でもこれって傍から見たら絶対に模型の船で遊んでいるようにしか見えないよね。
ま~実際楽しかったのだからほかから文句が出ようとも甘んじて受ける覚悟はある。
そうこうしているうちに林の方の川原に作ってもらっていた水車小屋ができたとの連絡を受けた。
ここで一旦模型船遊びを止め、おっと違った。
模型を使った実験を一旦中断して、水車小屋の確認に行った。
できたばかりの水車小屋は、かなりしっかりとした作りであった。
早速中に入り色々と確認した後に、動力である水車に水を通して水車を回した。
申し分ない出来で、早速色々と動力を使用して遊びだした、もとい、動作実験を行った。
この水車を作ってもらった一番の目的は石臼を回し、セルロースナノファイバーをこの時代でも作ることである。
セルロースナノファイバーの製造には時間がかかるが水車は1日中回っているのでほっておいても大丈夫なのだ。
ムフフフ、ここから始まる技術革新の予感
くだらないことを考えるのを止めて、早速実験に取り掛かった。
少し前までは浜の造船所の水槽で遊んでいたのだが、今度は水車小屋にこもって実験三昧、他の人から俺を見たら本当に道楽者だと言われてもしょうがない生活を始めてしまった。
俺は、こんな生活をしたかったのだ。
声を大にして叫びたいのをかろうじて我慢しながら、本当に楽しい時間を過ごしていた。
夢は覚めるものである。
楽しいひと時は本当に短い。
今度は、小牧山城の滝川様に出していた手紙のお返事が来たようなので、俺の時間は終わった。
趣味の時間から仕事の時間に切り替えなければならない。
は~~~~~、連休が終わって仕事に行く心境だが、これもみんなの幸せのためと思い我慢して寺に向かった。
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