名もなき民の戦国時代

のらしろ

文字の大きさ
153 / 319
第五章 群雄

第百二十二話 熱田訪問

しおりを挟む


 俺は寺の一室に入っていった。
 こういった集まりはやはり寺を使うしかない。
 藤林様のお屋敷を使わせていただくことも考えたことはあったが、どうしても藤林様のお屋敷では張さんや珊さんなどの人が参加しづらくなる。
 寺だと俺が最後となってしまったが、藤林様とその配下の忍びの人が一人、張さんに珊さん、当禅寺の主である?玄奘様に寺で子供たちに勉強を見ていた葵と幸もいる。
 なんだか久しぶりに昔に戻ったようなメンバーだ。

「殿、滝川様より返事をいただきました」

 俺が部屋に入ると早速藤林様が声をかけてきた。
 最近藤林様は俺のことを殿と呼ぶようになってしまった。
 藤林様が大名家の家老職についたこともあり意識してそう呼ぶのだ。
 絶対に半兵衛さんたちの影響を受けてしまったようだ。
 困ったものだ。

 イヤイヤ脱線してしまった。
 すぐに本題に戻ろう。

「すみません。
 この村の子供たちが書く字は読めるのですが、あの崩された字は読むのに苦労しますので内容だけでも教えてください」

「は、では私から『空殿、そちの話は大筋で歓迎できるもののため、丹羽殿に紹介することはできよう。
 しかし、そちたちをいきなり小牧山城に登城させるわけには行かない。
 故に熱田にある商家で清須屋を訪ねてくれ。
 俺の方から話は付けておく。
 できる限り早い訪問を期待している』とのことです。
 いかがなさいますか」

「こちらからの申し出ですから行かない訳にはいきませんよね。
 明日にでも訪ねることにしましょう」

「船で行きますか」

「どうしましょうかね。
 こちらからの提案が船での商いですから、やはり船で行きますか。
 藤林様はどうお考えですか」

「織田領内の街は比較的よそ者に対しても歓迎されることが多いと聞きます。
 半兵衛様が武井様を送って船で熱田まで行っておりますから、同じ船なら何ら問題はないと考えます。
 何より船ですと、何かあればすぐに逃げ帰ることができますし。
 私は賛成です」

「張さんや珊さんはどうですか」

「私は何もないですね。
 陸路ですと1日仕事ですから、船の方が楽でいいとは思いますけど」

「俺は別に」

「それでは船で行くことで。
 いま港に船ありましたっけ」

「残念ながらすべて出払っています。
 賢島には3艘ばかり待機させていたはずですが。
 あ、大湊に2艘ありましたね」

「藤林様、済みませんが明日までに大湊の船を一艘出させてもらえますか」

「分かりましたすぐに使いを出しましょう」

「となると訪問する人選ですね。
 今回ばかりは藤林様は少々まずいと思いますね」

「そうですね。
 九鬼家の外交なら私でも問題はないのでしょうが、一応別の三蔵の衆のお使いですから、しかし殿の護衛は欲しいですからうちから数人は付けますよ」

「構いませんがあまり大人数になるとちょっとね。
 商売の話ですから張さんは付いてきて欲しいのですが大丈夫ですか」

「え~私は付いていくつもりでしたから大丈夫ですよ。
 それに護衛として珊さんも付いてきてくれるそうです」

「俺は今回行きますよ」

「あ~~~、私も行きたい」

「葵だけずるい。
 私も絶対についていくからね」

 幸と葵がついていくと騒ぎ出した。
 この話し合いに参加していた時に覚悟はしていたからいいけどね。

「わかった、では今回の参加者は俺と張さん、珊さん、それに葵と幸、あと護衛の皆さんということでいいかな」

 簡単に訪問メンバーも決まって後は商売の内容だ。
 基本熱田と堺を1日で結ぶ船便を7日くらい毎に出すくらいか。
 こちらから積極的に何かを作ることはしない。
 第一こちらからは売りたくともこれ以上商品を用意できない。
 かと言って、堺から仕入れて売る商社のような商売もそれができそうな人材は今のところ張さんしかいないのが現状だ。
 今の張さんの仕事は本当に多岐にわたりこれ以上仕事を詰め込むのも躊躇われるしね。

 船便だけならなれた航路でもあるし、うちの船は少人数でも操船できるからベテランを少し乗せて、あとは新人の訓練がてらに使えそうだしね。
 だいたいこんな内容で話をしてくることで了承された。

 翌朝、港には既に船が1艘待機していた。
 本当に仕事の早い皆さんだこと。
 船には今回護衛として同行してくれる忍びの皆さんも既に乗っている。
 いつも俺のそばで控えている百地少年もしっかり付いてくる。
 彼は俺の護衛というより、俺の秘書?違うか……伝令役かな。
 でもいつも本当に俺のことを助けてくれるので今回もついてくるのは大歓迎だ。

 船はすぐに港を出た。
 ここから熱田までは内海をまっすぐ行くだけだから難しいことはないし、距離も大したこともない。
 2~3時間あれば付いてしまう距離だ。

 昼前には熱田についた。
 熱田の港はそれなりに活気はあったが堺のように入港するのに待たされたり接岸できなかったりのことはなかった。

 すぐに港に接岸させてもらい、俺ら一行は清須屋を探した。
 目的の清須屋は港の正面に大店を構えていた。
 織田家の政商だけはある。
 俺は早速、店の中に入り、滝川様の手紙を店の人に見せた。
 店の手代は手紙を持っておくに入り、すぐに店主を連れてきた。

「空殿ですね。
 滝川様よりお聞きしております。
 お待ちしておりました。
 それにしてもお早いおつきで。
 私どもは早くともあと3~4日は後だろうと思っておりましたから、お迎えする準備が出来ておりません。
 何かと不都合もでましょうがお許し下さい」 と言って現れたのがこの清須屋の主人である千秋季信だ。

 彼はこの地の有力国人であり熱田神宮の宮司でもある千秋季忠の一族に属し、割と早くから織田勢に与していた商人だ。
 彼はすぐに俺らを奥に案内し、滝川様に使いも出してくれた。

「滝川様にはすぐに連絡をつけますのでしばらくはここでおくつろぎ下さい。
 時間がかかるようでしたらお知らせしますので名所の熱田神宮でもお参拝されるのをおすすめします。
 もし参拝されるのでしたら私どもがご案内もします」

「どうしますかね。
 どんなに早くとも今日中にどうこうなるわけにはいかないでしょう」

「私、有名な熱田神宮に行ってみたい」 といつものように遠慮のない幸が言ってきた。

「そうですね。
 いい機会だから、参拝しませんか空さん」

「張さんまでが言われるのならお願いしますか。
 ご主人。
 ではご主人のお言葉に甘えることにします」 と言って奥で一服のお茶を飲んだあとにみんなして熱田神宮に出かけた。

 主人が直々に案内してくれたものだから、絶対にはいれないような場所まで案内してくれた。

 俺はこの時初めて見たよ、三種の神器である草薙の剣を。
 といっても綺麗な布に覆われた状態のものだったが。
 でも資料映像で見た皇室の神事で使われていたものとは違っていたような。
 そもそもなんでここに草薙の剣があるのだ。

 三種の神器ならまだ京都にあるはずなのに。
 わからん……わからないがとにかく感動したのを覚えている。
 まず普通の人なら絶対に見られないのを待ち時間無しで見られるんだから。

 熱田神宮のご利益かどうかわからないが、驚いたことに神宮参拝を済ませて清須屋に戻ってきたら、なんと店の中に滝川様が待っておられた。
 仕事の早い人たちって素敵。

「お~~~、空よ。
 よく来たな。
 それにしても随分早かったな。
 俺の返事を書いてまだ2日くらいしか経っていないぞ。
 俺の見立てでもあと2日はかかると踏んでいたのだがな」

「商売は早さが命です、滝川様。
 相手の予測を上回ってこそ、大きな利益を挙げられると考えておりますから、とにかく素早く行動するようにしております」

「そういう考えか。
 ま~いいか。
 でだ、空の提案だが、あれか。
 あの船がここと堺を行き来するというのか」

「はい、あの船か、あの船と同じ形の別の船が、そうですね月に4回くらいは堺との間を往復させたいですね。
 尤も需要があればの話ですけど」

「どういうことだ」

「私たちは運ぶことを仕事とします。
 別に堺から何かを仕入れてここで商いをしようとは考えておりません。
 ですからいらないと言われれば何もしませんが」

「滝川様。
 ぜひこの話を進めて頂けませんか。
 月に4回ならば、私どもだけでも堺まで出張って商売したく存じます」

「私には決められぬことゆえ、丹羽様に相談している。
 そこでだ、空よ。
 明日になるが、俺と一緒に清須まで来てくれ。
 清須の寺で、密かに丹羽殿とお会いする手はずを整えてある」

「それは誠ですか。
 私のような子供店長……もとい……子供にも丹羽殿はお会いして下さるというのですか。
 私には異存はありません。
 明日

「では、手前どもが空様達をおもてなしいたしましょう。
 今宵はこちらでお泊りください。
 滝川様もよろしいでしょうか」

「うむ、既に殿と丹羽様には話がついておる。
 俺は明日、空たちをきちんとお連れしろとも指示を受けておるから、今から空と行動を同じにするぞ」

「では早速。
 皆様方には今しばらくここでお待ちください」 と言って店主は手代を連れて部屋から出ていった。

 その後は宴会となり俺らは接待を受けることになった。
 酒と女の出る接待だが……一体子供の俺にどうしろというのだ、この時代の人間たちは。
 第一俺は張さんや葵それに幸のいるそばで、女性の接待を受ける勇気など持ち合わせていないぞ。

 こういった接待を受けるたびに、彼女たちの機嫌が悪くなるので勘弁して欲しいのだが……とにかく俺は大人しく明日の来るのを待った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

幼馴染達と一緒に異世界召喚、だけど僕だけ別な場所に飛ばされた先は異世界の不思議な無人島だった。

アノマロカリス
ファンタジー
よくある話の異世界召喚… スマホのネット小説や漫画が好きな少年、洲河 愽(すが だん)。 いつもの様に幼馴染達と学校帰りの公園でくっちゃべっていると地面に突然魔法陣が現れて… 気付くと愽は1人だけ見渡す限り草原の中に突っ立っていた。 愽は幼馴染達を探す為に周囲を捜索してみたが、一緒に飛ばされていた筈の幼馴染達は居なかった。 生きていればいつかは幼馴染達とまた会える! 愽は希望を持って、この不思議な無人島でサバイバル生活を始めるのだった。 「幼馴染達と一緒に異世界召喚、だけど僕の授かったスキルは役に立つものなのかな?」 「幼馴染達と一緒に異世界召喚、だけど僕は幼馴染達よりも強いジョブを手に入れて無双する!」 「幼馴染達と一緒に異世界召喚、だけど僕は魔王から力を授かり人類に対して牙を剥く‼︎」 幼馴染達と一緒に異世界召喚の第四弾。 愽は幼馴染達と離れた場所でサバイバル生活を送るというパラレルストーリー。 はたして愽は、無事に幼馴染達と再会を果たせるのだろうか?

マンションのオーナーは十六歳の不思議な青年 〜マンションの特別室は何故か女性で埋まってしまう〜

美鈴
ファンタジー
ホットランキング上位ありがとうございます😊  ストーカーの被害に遭うアイドル歌羽根天音。彼女は警察に真っ先に相談する事にしたのだが…結果を言えば解決には至っていない。途方にくれる天音。久しぶりに会った親友の美樹子に「──なんかあった?」と、聞かれてその件を伝える事に…。すると彼女から「なんでもっと早く言ってくれなかったの!?」と、そんな言葉とともに彼女は誰かに電話を掛け始め… ※カクヨム様にも投稿しています ※イラストはAIイラストを使用しています

日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-

ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。 1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。 わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。 だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。 これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。 希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。 ※アルファポリス限定投稿

蒼穹の裏方

Flight_kj
SF
日本海軍のエンジンを中心とする航空技術開発のやり直し 未来の知識を有する主人公が、海軍機の開発のメッカ、空技廠でエンジンを中心として、武装や防弾にも口出しして航空機の開発をやり直す。性能の良いエンジンができれば、必然的に航空機も優れた機体となる。加えて、日本が遅れていた電子機器も知識を生かして開発を加速してゆく。それらを利用して如何に海軍は戦ってゆくのか?未来の知識を基にして、どのような戦いが可能になるのか?航空機に関連する開発を中心とした物語。カクヨムにも投稿しています。

現代錬金術のすゝめ 〜ソロキャンプに行ったら賢者の石を拾った〜

涼月 風
ファンタジー
御門賢一郎は過去にトラウマを抱える高校一年生。 ゴールデンウィークにソロキャンプに行き、そこで綺麗な石を拾った。 しかし、その直後雷に打たれて意識を失う。 奇跡的に助かった彼は以前の彼とは違っていた。 そんな彼が成長する為に異世界に行ったり又、現代で錬金術をしながら生活する物語。

もし石田三成が島津義弘の意見に耳を傾けていたら

俣彦
歴史・時代
慶長5年9月14日。 赤坂に到着した徳川家康を狙うべく夜襲を提案する宇喜多秀家と島津義弘。 史実では、これを退けた石田三成でありましたが……。 もしここで彼らの意見に耳を傾けていたら……。

帰って来た勇者、現代の世界を引っ掻きまわす

黄昏人
ファンタジー
ハヤトは15歳、中学3年生の時に異世界に召喚され、7年の苦労の後、22歳にて魔族と魔王を滅ぼして日本に帰還した。帰還の際には、莫大な財宝を持たされ、さらに身につけた魔法を始めとする能力も保持できたが、マナの濃度の低い地球における能力は限定的なものであった。しかし、それでも圧倒的な体力と戦闘能力、限定的とは言え魔法能力は現代日本を、いや世界を大きく動かすのであった。 4年前に書いたものをリライトして載せてみます。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

処理中です...